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1話 失われた未来
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6月30日。
人気(ひとけ)のない営業時間外の地下のライブハウス。
明かりのないステージへ1人の青年がヨロヨロと足がもつれながら歩みを進めた。
「俺の音楽は人を不幸にする。いや、俺自身が誰かを不幸にするんだ。」
そうつぶやくと彼の自前だろう赤いテレキャスターを地面に叩きつけた。何度も何度も。気が晴れるまで叩き続けた。
いいや、この気持ちが晴れることなどないだろう。
そばにあるアンプの上にはネットニュースの記事をうつしたままの右下が少しヒビの入ったスマートフォンが置いてあった。
画面にうつるネットニュースの記事の見出しには
「○○市交差点事故。死傷者4名、内1人死亡が確認。」とある。
ギターを叩き壊し、息を切らした青年は再びスマートフォンに手を伸ばす。
スクロールをすると、被害者の名前があった。
「東雲 朱桃(しののめ すもも)」
青年の、唯一信頼出来る最愛の彼女の名前だった。
・
・
・
7月1日。
「…くん!ハジメくん!」
誰かに呼ばれた、辛いことにすももじゃない誰かの声だ。
目を覚まし、最初に視界に入ったのはここのライブハウスのバイトの神野美香(かみのみか)だった。
心配そうにこちらを見ている彼女を他所に、俺は当たりを見渡した。どうやら俺はライブハウスで壊れたギターを抱きかかえて眠っていたようだ。
(そうか、昨日俺はあの後…)
思い出そうとした途端、吐き気に覆われた。
「…もも…すももはっ…」
すももは死んだ。その事実が俺の頭の中でグルグルと回り、次第に頭が真っ白になっていった。
「ハジメくん大丈夫?!落ち着いて!えっとえっと…とりあえず、そう!お風呂入ろう!昨日のままだもんね!きっと寝汗もやばいし!」
「神野、お前が慌ててどうするんだよ、おい、卯月!頭打ったか?こんな硬いところ寝転んで風邪でもひいたらどうするんだよ、ったく、まぁいい…立てるか?」
慌てふためく美香に後ろから女性が軽く一喝をいれる。ハスキーな声をした筋肉質な女性でライブハウスのスタッフの芦屋和音(あしやかずね)が、俺の方に腕を伸ばした。
手をとるとグイと引っ張られ、俺は力を入れずとも立つことができた。
華奢な神野美香と並ぶと彼女の筋肉質な体はより逞しく(たくましく)目立つ。
黙り込む俺に和音は言葉を続けた。
「えっとだな…お前は卯月肇(うづきはじめ)、年は17で…あぁでも高校生は通ってない!『Resonance』っつー配信アプリで人気のギタリストなんだよ!覚えてるか?」
どうやら意気消沈として黙り込む俺を見て記憶喪失か何かと勘違いしているようだ。
無理もない、俺は今頭が真っ白で立つのもやっと。声がデカい和音の声が半強制的に聞こえるくらい、精神的に参っている。
記憶喪失になれるものならなりたい。そうすればきっと彼女のことも…いいや、こんなのは言い訳だ。
「ありがとうございます。俺は大丈夫なんで。外の空気吸ってきます。」
俺はそう言うと壊れたギターを残し、手ぶらでライブハウスを出た。
俺には行くあてなんてない。
すももと俺はネットで知り合ったカップルだ。
対面して会ったことすらない、今どきを知らない大人や冷めた人間から見たらネットだけの関係、遊びみたいなカップルだった。
そんな彼女が死んだ。葬式なんて行けるはずがない。
俺はこれから、彼女のいない人生をどう過ごせばいいのだろうか。世界がモノクロに感じる。
空を見上げると雲ひとつ無い晴天すら、俺を包み込む悪魔に見えた。
人気(ひとけ)のない営業時間外の地下のライブハウス。
明かりのないステージへ1人の青年がヨロヨロと足がもつれながら歩みを進めた。
「俺の音楽は人を不幸にする。いや、俺自身が誰かを不幸にするんだ。」
そうつぶやくと彼の自前だろう赤いテレキャスターを地面に叩きつけた。何度も何度も。気が晴れるまで叩き続けた。
いいや、この気持ちが晴れることなどないだろう。
そばにあるアンプの上にはネットニュースの記事をうつしたままの右下が少しヒビの入ったスマートフォンが置いてあった。
画面にうつるネットニュースの記事の見出しには
「○○市交差点事故。死傷者4名、内1人死亡が確認。」とある。
ギターを叩き壊し、息を切らした青年は再びスマートフォンに手を伸ばす。
スクロールをすると、被害者の名前があった。
「東雲 朱桃(しののめ すもも)」
青年の、唯一信頼出来る最愛の彼女の名前だった。
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7月1日。
「…くん!ハジメくん!」
誰かに呼ばれた、辛いことにすももじゃない誰かの声だ。
目を覚まし、最初に視界に入ったのはここのライブハウスのバイトの神野美香(かみのみか)だった。
心配そうにこちらを見ている彼女を他所に、俺は当たりを見渡した。どうやら俺はライブハウスで壊れたギターを抱きかかえて眠っていたようだ。
(そうか、昨日俺はあの後…)
思い出そうとした途端、吐き気に覆われた。
「…もも…すももはっ…」
すももは死んだ。その事実が俺の頭の中でグルグルと回り、次第に頭が真っ白になっていった。
「ハジメくん大丈夫?!落ち着いて!えっとえっと…とりあえず、そう!お風呂入ろう!昨日のままだもんね!きっと寝汗もやばいし!」
「神野、お前が慌ててどうするんだよ、おい、卯月!頭打ったか?こんな硬いところ寝転んで風邪でもひいたらどうするんだよ、ったく、まぁいい…立てるか?」
慌てふためく美香に後ろから女性が軽く一喝をいれる。ハスキーな声をした筋肉質な女性でライブハウスのスタッフの芦屋和音(あしやかずね)が、俺の方に腕を伸ばした。
手をとるとグイと引っ張られ、俺は力を入れずとも立つことができた。
華奢な神野美香と並ぶと彼女の筋肉質な体はより逞しく(たくましく)目立つ。
黙り込む俺に和音は言葉を続けた。
「えっとだな…お前は卯月肇(うづきはじめ)、年は17で…あぁでも高校生は通ってない!『Resonance』っつー配信アプリで人気のギタリストなんだよ!覚えてるか?」
どうやら意気消沈として黙り込む俺を見て記憶喪失か何かと勘違いしているようだ。
無理もない、俺は今頭が真っ白で立つのもやっと。声がデカい和音の声が半強制的に聞こえるくらい、精神的に参っている。
記憶喪失になれるものならなりたい。そうすればきっと彼女のことも…いいや、こんなのは言い訳だ。
「ありがとうございます。俺は大丈夫なんで。外の空気吸ってきます。」
俺はそう言うと壊れたギターを残し、手ぶらでライブハウスを出た。
俺には行くあてなんてない。
すももと俺はネットで知り合ったカップルだ。
対面して会ったことすらない、今どきを知らない大人や冷めた人間から見たらネットだけの関係、遊びみたいなカップルだった。
そんな彼女が死んだ。葬式なんて行けるはずがない。
俺はこれから、彼女のいない人生をどう過ごせばいいのだろうか。世界がモノクロに感じる。
空を見上げると雲ひとつ無い晴天すら、俺を包み込む悪魔に見えた。
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