冬が来た。

るいのいろ

文字の大きさ
上 下
1 / 1

冬が来た

しおりを挟む
暑い暑い夏がようやく過ぎ、寒い寒い冬がやってきた。
立っているだけで滝のように流れる汗も、いつまでもうるさい蝉の声も、もうどこにもいない。

テリーはこの街に住む10歳の男の子。
まだ小さいのに親をなくし、住む家を失った。
テリーは1人になってから、とても貧しい生活をしていた。
まだ子供だからと働かせて貰えず、使えるお金が無い。
一日中街を徘徊して、街中のゴミ箱を漁る毎日を送っていた。
不憫な生活だが、子供ながらに知恵を絞り、何とか生き延びていた。しかし、季節や天候にはどうしても勝てない。
テリーはこの厳しい寒さの冬をどう乗り越えようか考えていた。

暖かいお店の中で過ごそうとすれば、お店の人に白い目で見られ追い出された。
豚小屋で過ごそうとすれば、暖かいが獣の匂いが服に染み付いて取れない。
少しでも暖かい空気が欲しいと、人の家の庭に入り込んでみると、バットを持って追いかけ回された。

テリーの居場所はどこにもなかった。
街の人々は、道の隅で丸まる薄汚れたテリーを見ることもなかった。

だが、そんなテリーに優しい声をかける珍しい人もいた。


まずテリーに声をかけたのは、街1番のお金持ちのおじさん。

「こんな小さな子が、かわいそうに。」

お金持ちのおじさんは、テリーを見るとそう言った。
おじさんは、テリーに向かって何度も暖かい言葉をかけ、自分の家に来ることを提案した。
テリーはそれがとても嬉しく、喜んで頷いた。

お金持ちのおじさんの家は、とんでもなく大きかった。
テリーがやってくると、綺麗なドレスに身を包んだ奥さんと共に、3人の子供たちが出迎えてくれた。

みんな、初めは優しく接してくれた。
テリーは温かいご飯と暖かい家を手に入れて、しかもお金持ちの家。辛かった日々を忘れるほど、とても幸せだった。

だが、テリーの幸せは長くなかった。
テリーが来てからしばらくすると、家事のお手伝いを始めた。
お金持ちの家族はすごく厳しかった。
少しでもホコリを見つけると、テリーを容赦なくぶった。
食事の味付けが気に食わないと、テリーになげつけて新しい食事を用意させた。
出会った時は優しかったおじさんも、テリーの仕事ぶりを見て幻滅したようだった。

ある時、テリーは3人の子供たちに呼び出された。
子供たちとテリーは歳が近いが、あまり話したことがなかった。
テリーは遊んでもらえるのかと思い、少しワクワクしていた。
だが3人の子供たちは、テリーがやってくると壁際に立たせて動かないように言った。
テリーは不思議に思ったが、言われるがままに立っていた。
すると、目の横に鋭いナイフが止まった。

「惜しいなぁ」

3人の子供たちは、数歩離れた先からテリーにナイフを当てるゲームをしていた。
もう一本、もう一本と子供たちは投げ続ける。

テリーは子供たちの狂気を感じ、その場を逃げ出した。
そうしてお金持ちの家での生活に耐えられなくなり、みんなが眠っている頃にこっそりと抜け出した。


次にテリーに声をかけたのは、犬をたくさん連れた太ったおばさん。
おばさんはテリーを連れて帰ると、たくさんの犬たちにテリーを紹介した。
犬たちはテリーに近づいて匂いを嗅ぎ、ヨダレを垂らしていた。
おばさんはテリーにたくさんの食事を与えた。
大きなお皿に山盛りのご馳走を乗せ、毎食与えてくれた。
痩せて細くなったいたテリーには多すぎたが、それでもおばさんは無理やり食べさせた。

そしてある日、テリーが寝ている時にそれは起こった。

テリーが自分のベッドで寝ていると、犬たちの荒い息遣いと太ったおばさんの足音で目を覚ました。
テリーが起き上がると、すでにヨダレを垂らした犬たちにかこまれていた。

「さあさあ、お前たち、久しぶりのご馳走の時間だよ」


太ったおばさんが犬たちにそう言うと、犬たちは一斉に雄叫びを上げて、テリーに向かって飛びかかった。

テリーは慌てて走り出し、部屋の窓から外へ身を投げた。

「お前たち!絶対に逃がすなよ!何のためにたくさん食べさせたと思ってるんだい!」

おばさんの雄叫びも、外まで響いていた。
テリーは1回も振り返らずに、ひたすら走り続けた。
しかし、いつまで走ろうとも、どこまで逃げても、犬たちの荒い息遣いが聞こえてくる。

体力がそこを尽き、もう走ることが出来なくなったテリーは、傍にあった川に身を投げ、気を失った。
そうしてそのまま、ずっとずっと遠くまで流された。


テリーが目を覚ますと、始めに見知らぬ天井が目に付いた。

「目が覚めたかい?」

声のする方を見ると、とっても年老いたおばあちゃんが、テリーをにっこり見つめていた。

「誰?」

「驚かせて済まないね。あんたが川から流れてきたから、慌てて連れてきたのさ」

おばあちゃんはテリーを助けてくれたのだ。
ここは、テリーの住む街からかなり離れた田舎町。
おばあちゃんはこの家で1人で住んでいるらしい。
テリーはおばあちゃんに色々な事を聞かれ、全て答えた。

「そうかい…。あんた、まだそんなに小さいのに…」

おばあちゃんはテリーの話を聞くと、涙をうかべた。

「よかったら、うちの子になりなさい」

おばあちゃんは、テリーを暖かく迎えた。


そうして、おばあちゃんとテリーは一緒に暮らし始めた。
おばあちゃんはとても優しく、いつまでもいつまでもテリーを可愛がってくれた。
人間のような暮らしができなかったお金持ちの家とも、犬の食用に育てられた家とも違い、おばあちゃんはいつまでも優しく、それはずっと変わらなかった。

テリーはついに居場所をみつけ、ようやく幸せな暮らしを手に入れました。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

人違いで同級生の女子にカンチョーしちゃった男の子の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...