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僕と、ニャン太。

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「ニャン太!ほら、とってこーい!」
(待て待てー!逃がさないぞー)

「いい子だぞ、ニャン太。それ、もういっかい!」
(まてまてー!)

「ニャン太!すごいぞー!」
(これ楽しいねー!)




ニャン太と僕は、小さな頃から一緒に暮らしていた。

僕が生まれた日、家の前にガリガリに痩せ細った子猫が倒れていたらしい。
その子猫をお父さんが病院に連れて行って、家族として迎え入れた。

ニャン太という名前は、お父さんがつけた。



僕とニャン太が家に来てから、お父さんとお母さんは大忙しだったらしい。

ニャン太はすくすく育ち、僕にちょっかいをかける。
僕は大泣きして、2人とも目が離せなかったと言っていた。



ニャン太と僕が大きくなると、二人で仲良く遊んでいたらしい。
僕は泣き虫だったから、ニャン太が遊び相手をして、よくあやしてくれていた。



僕が歩くようになると、ニャン太は心配そうに僕を見ながら僕の周りをウロウロしていた。

「ニャン太が居れば安心だな」

お父さんはそう言って笑っていた。



僕が幼稚園に行くようになると、ニャン太は毎日毎日お見送りをしてくれた。

「ニャン太、いってきまーす!」

「にゃ~ん」

幼稚園から帰ると、ニャン太はお出迎えしてくれる。

「ニャン太、ただいまー!」
「にゃーにゃー!」

「一緒に遊ぼう!」

僕はニャン太と毎日遊んだ。





僕が小学生になると、友達が沢山できた。
僕はニャン太よりも、友達と遊ぶようになった。

ニャン太はいつも暇そうにゴロゴロしていた。





「ニャン太にエサあげといて!」

「えー、後でね~」

「はぁ…全くもう」

僕がもう少し大きくなると、ニャン太と遊ばなくなった。

ニャン太はじっと外を見つめ、たまにチラッと僕を見る。いつもいつも退屈そうにしていた。



僕が中学生になると、勉強に部活に忙しくなった。
ニャン太との時間はもっと無くなった。

「いってきまーす」

僕が学校に行く前にそう言うと、ニャン太は駆け寄ってきて僕の前に腰を下ろした。
ニャン太は大きくなった僕をじっと見つめ、いい子に座っていた。

僕はニャン太をチラッと見るだけで、家を出た。




よく考えると、ニャン太はいつもお見送りをしてくれていたかもしれない。
健気なやつ…。


さらに大きくなると、僕は家にいる時間が短くなった。

友達と遊びに行ったり、遅くまで部活したり、勉強をしに行ったり、ほとんど家にいなかった。


僕の帰りが遅いと、ニャン太は玄関に座ってドアをじっと見つめてるらしい。
多分、僕が帰るのを待っているんだと思う。

お母さんが、

「ニャン太、もうこっちおいで。一緒にゴロゴロしよう」

と言っても、ニャン太は頑なに動こうとしない。
何時間も何時間も僕の帰りを待っているらしい。




僕はそんなこと、全く知らなかった。



ある日から、ニャン太は眠ることが多くなった。
いつ見ても目を閉じて眠っている。

「あんた、たまにはニャン太と遊びなさいよ」

お母さんは僕にそう言った。

「また今度ね」

僕はそう返して、友達と遊びに行った。




その日から、ニャン太はお出迎えをしてくれなかった。






ニャン太はあまり餌を食べなくなった。
一日に動いてるところを見なくなった。
大好きな外を見ることも無く、いつもぐっすり眠っていた。


「ニャン太ももうすぐ17年になるわね…」

「ああ、そうだな…。もうその時までゆっくりさせてあげよう」

夜中、お母さんとお父さんが話しているのを聞いた。

その時僕は気づいた。ニャン太が餌を食べない理由も、動かない理由も、寝てばっかりの理由も。

ニャン太は寿命が来たのだ。
ニャン太はもうとっくにおじいちゃんだった。





次の日、僕は寝ているニャン太にそっと近づき、頭を撫でた。
ニャン太は寝たままだっが、口元がニコッと笑ったように見えた。

それから、ニャン太が目を覚ますことはなかった。







「ただいまー!ニャン太!遊ぼう!」
「おかえり!遊ぶ遊ぶ!待ってたよ!」

「よーし!公園まで競争だ!」
「待て待てー!」







「ニャン太、行くぞー!」
「頑張ってキャッチするぞー!」

「それ!とってこーい!」
「まてまてー!ボール!ボール!」

「ニャン太はボールが大好きだな~。それ、もう1回!」
「ボールたのしー!もっともっと遊ぼう!」






「ニャン太、そこは寒いだろう?こっちにおいで。一緒寝よう」
「ぬくぬく暖かい。ありがとう」


「ニャン太、これからもずっと一緒にいようね」
「うん、もちろんだよ」



「ニャン太、僕の家族になってくれて、ありがとう」


「こちらこそ、僕を家族にしてくれて、ありがとう」









ニャン太は旅立つ直前、昔の僕と遊んでる夢を見て幸せそうに旅立った。
ニャン太の幸せな時間は、あの時から止まっていたようだ。



ニャン太は遊んでくれない僕をどう思っていたのだろうか。
構ってくれなくて寂しかっただろうか。
ニャン太を見もしない僕をどう思って見ていたのだろうか。

ニャン太が元気なうちに遊んでおけばよかった。




「幸せそうに眠ってるわね」

「ああ。そうだな。ニャン太、元気でやるんだぞ」

お母さんとお父さんはニャン太を埋葬してあげた。


僕はそれを見つめていた。






次の日、ニャン太が夢に出てきた。

昔の小さな僕と遊んでいた。
夢の中のニャン太は幸せそうに小さな僕を見つめ、走り回っていた。

僕は2人を見つめ、立っていた。
ニャン太は僕を見ることなく、小さな僕と幸せそうに遊んでいた。





ニャン太はきっと、僕のことが嫌いだっただろう。






僕はニャン太のお墓を前に跪き、大声で泣いた。





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