おーい、ねこよ。

るい

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おーい、ねこよ

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のどかな自然に囲まれた人の少ない町に、赤い屋根の大きなおうちがたっていました。

赤い屋根のおうちには、真っ白な髪をしたおじいさんが住んでいました。

おじいさんは数年前から1人で暮らしており、家族も、親しい友人も居ませんでした。
大きなおうちの中で、コーヒーを飲んだり、歌を歌ったり、いつも1人でゆったりと暮らしていました。


ある天気のいい朝、おじいさんが庭のベンチに座って、いつものコーヒーと手作りロールパンを食べていると、1匹のねこがよたよたとやって来ました。
ねこはまだ小さく、こねこのようでした。
おじいさんは久しぶりのお客さんに嬉しくなって、話しかけました。

「お前さん、どこから来たんだい?」

こねこは小さな声で、ニャーと返事をしました。

どうやらお腹がすいているようで、元気がありません。

こねこはおじいさんの手作りロールパンを見つめ、もう一度なきました。

「なんだ、このパンの匂いにつられて来たのかい。今朝焼いたばかりだよ。ほら、お食べなさい。」

おじいさんはまだ温かい手作りロールパンを、こねこが食べやすいように小さくちぎって置いてあげました。

こねこは小さなロールパンに飛びつき、ガツガツムシャムシャ。必死にほおばっていました。

「はっはっは。誰も取らないから、落ち着いて食べなさい。」

ガツガツ。ハムハム。ムシャムシャ。
こねこはおじいさんの言葉が聞こえていないようでした。

「ミルクも飲むかい?」

おじいさんが微笑みながら聞くと、こねこはまた小さく、ニャーとなきました。


手作りロールパンとミルクを一気に平らげたこねこは、大きく膨らんだお腹を空に向けて、そのまま寝てしまいました。

「よほどお腹がすいていたんだな。まだ産まれたばかりのようだし、お母さんとはぐれてしまったのかな?」

おじいさんは、満腹で幸せそうにねむるこねこの頭を優しく撫でながら、寝かしつけるように1人でぶつぶつおしゃべりしていました。

ゆったりした時間を過ごしていると、いつの間にかおじいさんもねむってしまっていました。
目が覚めた時には、こねこはもう居なくなっていました。

「また、会えるかな」

おじいさんは少し寂しそうに呟きました。



しばらくたって、よく晴れた天気のいい日に、またこねこはやってきました。

「ニャー。」

こねこは玄関の前にちょこんと座って、おじいさんを呼ぶようになきました。

「おやおや、また来てくれたのかい。嬉しいねぇ。」

いつも1人で過ごしているおじいさんは、こねこが遊びに来てくれてとても嬉しそうでした。

こねこはやっぱりお腹がすいているようで、今日もおじいさんに食べ物を貰いに来ていました。


「お前さんの好きなロールパンだよ。今朝も焼いたんだ。たくさんあるから、ゆっくりお食べ。」

おじいさんは、こねこがいつ来てもいいように、毎日ロールパンを焼いていたのです。
こねこはまた、温かくていい匂いのするロールパンに飛びつきました。

ホカホカのロールパンをあっという間に平らげだこねこは、前と同じように、お腹を空に向けて寝てしまいました。


「可愛い子だなぁ。しかし、いつもどこから来るのだろうか。首輪は、していないなぁ。」

おじいさんは、こねこがどこから来るのか不思議に思っていました。
このこねこがお母さんねこと一緒にいるところを見たことは無いし、そもそもこの辺りには凶暴な野生の動物が沢山いるので、ねこはあまり見かけません。

「そうだ、この子が起きたら、あとを着いていってみよう。」

どうしても気になったおじいさんは、家の中に隠れ、こねこが起きるのをこっそりと待ち続けました。


ぐっすり眠ったこねこは、小さな手を前に伸ばして背伸びをし、どこかでテクテク歩き始めました。

「よ~し、バレないように…慎重に…」

おじいさんはこねこと少し離れて、だけれど見失わないように距離を保って着いていきました。


こねこはずんずん歩き続け、川を超え、森の中を進み、さらに奥の山の中へ入っていきました。


「はあ、はあ、あのこねこ、どこまで行くんだ?」

おじいさんは続く険しい道のりにもう息が上がって、こねことの距離は開き始めました。


こねこは山道を慣れたように歩き、小さな洞窟の前までやって来ました。
狭い洞窟の中には、腐りかけた少しの木の実と、木の葉で出来たベットがありました。
こねこはベットの上で丸まり、毛繕いを始めました。


「お前さん、まさかここで…」

おじいさんがこねこに追いつき、声をかけました。

するとこねこは、ハッと飛び起き目を丸くさせました。

「すまん、すまん。びっくりさせちゃったかね。
お前さん、ここで暮らしているのかい?」

こねこは小さく、「ニャン」となきました。

「お母さんやお父さんは、いるのかい?」

次はなきませんでした。


おじいさんは深く考えたあと、こう言いました。

「もしお前さんが良かったら、うちに来ないかい?美味しいパンとミルクを沢山用意するよ。わたしのベッドも、半分使っていいから。」

こねこは「ニャン!」と元気に返事をしました。

こうして、おじいさんとこねこの生活が始まりました。




「おーい、ねこよ。ご飯にしようか。」


何日か経って、こねこもすっかり大きなお家での暮らしに慣れました。
毎朝ロールパンが焼けるのを、オーブンの前で待ちます。
おじいさんのベッドも、今ではこねこのベッドです。
おじいさんが「おーい、」と呼ぶと、こねこはピョンピョン跳ねながら駆け寄ります。
おじいさんはこねこのことを、とても大切にしました。





ある雨の日です。
その日は、外で遊べなくて退屈していたこねこに、おじいさんが絵本を読んであげていました。
こねこは絵本の内容が分かっていなくても、なんだかワクワクしていました。

昼過ぎまでゆったり過ごしていると、おうちのベルがなりました。

「おや?珍しいな。お客さんだよ。」

おじいさんは、膝の上でウトウトしていたこねこをそっとおろし、玄関のドアを開けました。

「どちら様で?」

おじいさんが扉を開けても、ベルを鳴らしたモノの姿がありません。


「おかしいな?雨でも当たったのかな?」

「ニャーオ。」

足元で太い声が聞こえました。
おじいさんが目を下ろすと、そこにはびしょ濡れで泥だらけの汚いねこが居ました。


ねこは堂々とした姿で座っており、おじいさんの足の隙間から家を覗きました。


「ニャオ!」

汚いねこと、さっきまでうとうとしていたこねこの目が合いました。
こねこはそのねこに駆け寄り、頭をすりすり寄せました。

「一体、何が何だか…」

おじいさんには何が起こっているのか分かりません。
こねこは、まるで母親に甘えるように擦り寄っていました。


「もしかして、このねこが、お前のお母さんかい?」

「ニャンニャン!」


こねこはお母さんと再会できて、とても喜んでいるようでした。
お母さんねこは、ずっと探していた宝物を見つけたようでした。

「そうか…。迎えに来てくれたのか。良かったね。」

おじいさんは、優しい笑顔で少し寂しげに呟きました。


しかしお母さんねこは、甘えるこねこを引き剥がし、おじいさんの目をじっと見つめ、深くお辞儀をしました。
そしてまた雨の中へ走っていきました。

「また迎えに来る。」

おじいさんには、そう言っているように思えました。


その日の夜、こねこが夜空に向かってないているのを見ました。



しばらく経ち、よく晴れた朝がやって来ました。

おじいさんたちがいつものようにロールパンを焼いていると、お母さんねこが、おうちの前にやって来ました。

「ニャンニャン!」

こねこはロールパンそっちのけで、お母さんねこに駆け寄りました。

「いらっしゃい。お迎えに来たのかい?」

おじいさんは優しい笑顔で話しかけました。

「ニャオ。」

お母さんねこは野太い声で答えます。


「そうかい。このこを、よろしく頼むよ。」

おじいさんはこねこを優しく抱っこして、そっと抱きしめました。
こねこはおじいさんの匂いに包まれて、ほっとした顔をしていました。


「これ、後で食べるといい。とっても美味しいんだよ。」

焼きたてのロールパンを袋に包み、お母さんねこに渡しました。

お母さんねこは深く頭を下げ、お礼を言っているようでした。
そしてこねこにそっとキスをして、こねこを連れて去りました。



「おーい、ねこよ。」

お母さんねことこねこの後ろ姿に向かって、おじいさんが叫びました。
こねこ達は歩みをとめ、振り返りました。


「また、会えるかい?」


こねこはおじいさんの元へ走り出しました。
そして、おじいさんの足に頭を擦り付け、小さく

「ニャンッ」

と、なきました。





こねこが去って、おじいさんはまた1人になりました。
ある晴れた日、おじいさんはいつものようにロールパンを焼いていました。
いつもの形のロールパンと、小さなねこの形をしたパン、その隣には大きなねこのパン。


「おーい、ねこよ。」


おじいさんは焼きたてのパンを見つめながら、小さく呟きました。


「また、一緒に食べたいなぁ。」






「ニャンッ」

赤い屋根の上からこねこの声が聞こえた気がしました。
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