ごめんなさいが言えなくて

るい

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ごめんなさいが言えなくて

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ゆうくんは、ごめんなさいが言えない。
ごめんなさいって言葉が、なんだか苦手。
素直になれなくて、意地を張っちゃって、それに恥ずかしくって。

お母さんに怒られた時、ごめんなさいを言わない。
だから、余計に怒られちゃう。

「ゆうくん、ごめんなさいは?」

お母さんはいつも聞く。
でも、ゆうくんはそっぽを向いて逃げ出す。


学校でも、ごめんなさいが言えない。

「ゆうくん、人にぶつかったらごめんなさいでしょ?」

先生がそう言っても、ゆうくんは知らんぷり。

「僕、悪くないもん」

ゆうくんは意地を張って、絶対に謝りません。

「ゆうくんひどい!ちゃんと謝らないと、大人になれないんだよ!」

みんながゆうくんを責めると、ゆうくんは余計に意地を張って、謝りません。



ある日、ゆうくんがお部屋で遊んでいると、テーブルに置いてあったお母さんの腕時計に目が行きました。
ゆうくんはお母さんの真似をして、腕時計をつけて遊びました。
しばらく眺めて楽しんだ後、腕時計を外して床に置きっぱなしにしてしまいました。
ゆうくんは腕時計の事など忘れて、部屋で走り回っていました。

夢中で走っていると、足元でパキッと音がしました。

「まずい…」

そう思って足元を見ると、ガラスが粉々になった腕時計がありました。

「た、大変だ~…」

その時、お母さんが部屋に入ってきました。
お母さんに怒られる、ゆうくんはそう思いました。
でも、お母さんはゆうくんに踏まれた腕時計を見て、固まってしまいました。

「お母さん…腕時計…」

「ゆうくん、どうして壊れてるの?」

「その…遊んでて…」

「お母さんの腕時計、勝手に着けたの?それで、壊しちゃったの?」

お母さんはいつもみたいに怒るわけでもなく、ただ静かに聞き続けました。

(あれ?お母さん、もしかして怒ってないのかな?)

ゆうくんはそう思いました。

「お母さんがちゃんと片付けないからでしょ!僕悪くないもん!」

ゆうくんはそう言いました。
すると、お母さんは怒ることも無く、笑う訳もなく、ただ悲しそうな顔でゆうくんを見つめました。
ゆうくんはお母さんが悲しそうな顔をした事に、少し驚きました。
そうしてお母さんは何も言わず、壊れた腕時計を持って出て言ってしまいました。

ゆうくんは、そんなお母さんをただ見ていました。


数日間、お母さんは笑いませんでした。
ゆうくんが笑わせようとおかしなことをしても、お父さんがお母さんの好きなお菓子を沢山買ってきても、お皿洗いをお手伝いしても、お母さんは笑わいませんでした。

ずっとずっと、悲しい顔をしていました。


ゆうくんはだんだん寂しくなって、申し訳なくなって、お母さんのそばに近寄りました。
いつもなら笑顔で隣に座っているお母さんが、今は笑っていない。
ゆうくんはお母さんの隣に座ると、こう言いました。

「お母さん、ごめんなさい。」

ゆうくんは、お母さんに謝りました。
お母さんは、驚きながら

「いいよ。」

と許しました。
すると、お母さんにやっと笑顔が戻って、ゆうくんは思わず抱きつきました。

「ごめんなさい。お母さんの腕時計を壊しちゃって、ごめんなさい。」

ゆうくんからたくさんのごめんなさいがこぼれました。
お母さんにとってよっぽど大切な腕時計だった事が、
ゆうくんには伝わっていました。

でも、ずっと言えなかったごめんなさいができるか、不安だっただけでした。


「ゆうくん、もういいのよ。ちゃんと謝ってくれたから、許すわ」

お母さんはそう言い、またいつものお母さんに戻りました。


このことがきっかけで、ゆうくんはごめんなさいが言えるようになりました。

お母さんにも、お父さんにも、たくさんごめんなさいを言えるようになりました。
先生にも、学校のお友達にも、ごめんなさいを言えるようになりました。

ゆうくんがごめんなさいを言えるようになると、みんなのニコニコが増えた気がしました。
みんな、嫌な気持ちをしなくなりました。

こうしてゆうくんは、またひとつ成長したのでした。
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