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私の子…

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とある町に、少し変わったおばあさんがいました。
小学生の使う通学路に家があるそのおばあさんは、小学生たちに気味悪がられていました。

なぜなら、おばあさんは小学生たちの下校時間になると、家の窓から顔を覗かせ、ズルりと見開いた目をギョロつかせて小学生たちを眺めるのです。

1人1人しっかりと上から下まで舐めるように見つめ、まるで何かを探しているような目付きでした。

そして不気味な点がもう1つ。
おばあさんは歳に合わないフリルをヒラヒラとさせた白いワンピースを着ていました。
白いワンピースといっても、ずっと洗っていないのか、全体が少し黄ばんだような色をしています。

おばあさんの存在は町中に知れ渡り、そのうち、そのおばあさんは小学生たちに’’ヒラヒラばあさん’’呼ばれるようになっていました。

小学生たちはヒラヒラばあさんをからかいました。
ヒラヒラばあさんはそんな小学生たちにも何も言わず、ただ黙って見つめるだけでした。

この街の小学生に、みこちゃんという小学2年生の女の子がいました。
みこちゃんはおっとりとしたマイペースな子です。
ヒラヒラばあさんの家は、みこちゃんの通学路にありました。
みこちゃんは、ヒラヒラばあさんのことが苦手でした。
目玉がとび出そうなくらいギョロっとした目が、怖かったのです。
みこちゃんは、ヒラヒラばあさんの家の前を通る時は必ず友達と一緒に通ることにしていました。



しかしある時、みこちゃんは帰りの支度が遅れてしまい、友達に置いていかれてしまいました。
友達は先に帰っちゃったので、仕方なく一人で帰るみこちゃん。
学校から家まではおよそ15分。ちょうど中間あたりにヒラヒラばあさんの家があります。

「はぁ…やだなぁ…」

帰り道、みこちゃんの頭はヒラヒラばあさんのことでいっぱいでした。
1歩、また1歩とヒラヒラばあさんの家に近づくみこちゃん。

「今日はいませんように…」

みこちゃんはヒラヒラばあさんがいないことを願って歩き続けました。

ついにヒラヒラばあさんの家の前までやってきました。
みこちゃんは目を瞑りながら前を通りました。
しかし、ヒラヒラばあさんが気になってしまい、目を開けてしまいました。
みこちゃんが目を開けて、ヒラヒラばあさんの家の窓を見ると、そこにはヒラヒラばあさんが立っていました。
みこちゃんはヒラヒラばあさんと目が合ってしまい、慌てて目を逸らしました。
すると、ヒラヒラばあさんはゆっくりと口角を上げ、笑いました。
そして一言、こう言ったのです

「私の子…」


みこちゃんはヒラヒラばあさんの声をはっきりと聞き、怖くなって走って家に帰りました。
家に着くと、お母さんがお出迎えをしてくれて、ほっとしました。
その日の夜、みこちゃんはヒラヒラばあさんのことをお母さんとお父さんに話しました。
2人はみこちゃんの話を真剣に聞かず、みこちゃんの気のせいだろうと笑いました。
なんでも、ヒラヒラばあさんはお母さんとお父さんが子供の時からこの町にいるらしく、2人ともヒラヒラばあさんが話しているところを見たことがないというのです。

「じゃあ、私の勘違いかなぁ…」

みこちゃんはそう思うことにして、今日のことは忘れました。


次の日、委員会の用事があったみこちゃんは、また友達に置いていかれてしまいました。

「はぁ…今日も1人かぁ…」

みこちゃんの頭に昨日の出来事がよぎります。

「今日は大丈夫かなぁ…」

みこちゃんは恐る恐るヒラヒラばあさんの家へと近づきます。

ヒラヒラばあさんの家の前に来ると、みこちゃんはぐっと目を瞑り、早歩きで通りました。

するとまた、耳元でヒラヒラばあさんの声が聞こえました。
昨日よりもはっきりと、そして昨日よりも大きな声でこう言いました。

「私の子…返して」

みこちゃんは訳が分からなくなって、走って帰りました。
その事をお父さんとお母さんに話すと、今度は真剣な顔をして聞いてくれました。

「みこちゃん、これからは必ず友達と帰るようにしなさい」

お父さんは、みこちゃんにそう言いました。



また次の日、みこちゃんは家が近い友達と待ち合わせをして、一緒に帰りました。
みこちゃんと友達はヒラヒラばあさんの家の前まで来ると、またぐっと目を瞑り、早歩きで通りました。
ヒラヒラばあさんの視線を感じながら、スタスタと通り過ぎました。
すると、みこちゃんの腕を後ろから誰かが掴み引っ張りました。
引っ張る手は強く、みこちゃんはバランスを崩して転んでしまいました。

目を開けると、しわしわな腕がみこちゃんの腕を掴んでいました。
そして顔を見ると、長い白髪の隙間からギョロっとした目を覗かせているおばあさんがいました。
みこちゃんの腕を掴んだのは、ヒラヒラばあさんでした。

「きゃーーー!!」

みこちゃんは思わず叫びました。友達は怖くなってしまい、地面に尻もちをついて腰を抜かしました。

ヒラヒラばあさんは、歯をぎりぎりと鳴らし、なにやら怒っている様子でした。


「いや!離してよ!」

みこちゃんは腕を振り切ろうと暴れるが、ヒラヒラばあさんの力はとても強かったのです。
暴れるみこちゃんを見下ろし、ピクリとも動きません。
みこちゃんは力負けし、暴れるのをやめました。
するとヒラヒラばあさんは、みこちゃんの背負っているリュックに手を伸ばし、リュックにぶらさがっている小さなぬいぐるみを引きちぎりました。

そしてしわしわな顔でにっこりと笑い、みこちゃんのぬいぐるみを持ったまま家の中へと戻っていきました。

「そ、それは私のよ!返してよ!」

みこちゃんは叫びますが、ヒラヒラばあさんは何も聞こえていないように家の中に入ってしまいました。

その日、みこちゃんと友達は泣きながら帰ったのです。



次の日、みこちゃんはぬいぐるみを取り返すために、友達について来て欲しいと頼みました。
リュックにつけていたあのぬいぐるみは、みこちゃんのおばあちゃんが作ってくれた大切なものだったのです。
どうしても諦めがつかなかったみこちゃんは、ぬいぐるみを取り返す決心をしました。
優しい友達はついて行くことを決め、2人はヒラヒラばあさんの家に向かいました。

ヒラヒラばあさんの家に着くと、家には誰もいませんでした。
どうやって中へ入ろうかと考えている時、玄関の扉が少しだけ開いていることに気がつきました。
玄関の扉をゆっくり開け、2人は家の中へ入りました。

狭い廊下をゆっくりと歩き、部屋を一つ一つ確認しながらぬいぐるみを探しました。

「あ!みこちゃんあったよ!」

リビングにいた友達から、名前を呼ぶ声がしました。
早速リビングに向かうと、ぬいぐるみを片手に持った友達が嬉しそうにしていました。

ぬいぐるみを見つけた2人は、すぐに逃げようと玄関へ向かいました。

「あれ?玄関の扉開けっ放しだっけ?」

2人が玄関に行くと、閉めたはずの扉が空いていました。
しかし、2人が入った後、部屋に誰か入ってきた音はしませんでした。

「きっと風のせいだよ!ほら、早く逃げよう!」

2人が家を出ようしたその時、バタン!という音とともに扉が勢いよく閉められました。

2人は小さな悲鳴をあげ、息を飲みました。
そして、ゆっくりと後ろを振り返りました。

そこには、ヒラヒラばあさんが怒った表情で立っていました。

「私の子…私の子!」

ヒラヒラばあさんはみこちゃんが持っているぬいぐるみを見つめ、叫びました。


「きゃーーーー!!」

2人は大きな悲鳴をあげ、急いで家から出ました。
ヒラヒラばあさんに捕まらないように、必死に走りました。


「返せ!!返せーー!!」

後ろからヒラヒラばあさんが追ってくる声がします。
2人は涙を堪えながら走り続けました。


「私の子!!返せ!!返せ!!」

ヒラヒラばあさんはどこもでも追いかけてきます。
2人は走り続けていると、前の方にみこちゃんのお母さんが歩いていました。
お母さんを見つけた2人は、安心からか大泣きして抱きつきました。

「お母さん!助けて!」

「2人ともそんな慌ててどうしたの!?」

「ヒラヒラばあさんが追いかけて来たの!」

「え!?」


お母さんがみこちゃんたちの後ろを見ると、鬼のような形相をしたおばあさんが、腕をぶんぶんと振り回しながらこちらへ走ってきます。
ヒラヒラばあさんは、だんだんみこちゃんたちに近づいてきした。
お母さんはすぐに状況を理解し、カバンから適当なぬいぐるみを取りだし、ヒラヒラばあさんに向けて投げました。

ぬいぐるみが目の前に来たヒラヒラばあさんは、それを見ると足を止め、片手手持ち上げて満足したように帰りました。


「ふぅ…2人が無事でよかったわ…」

お母さんは安堵のため息をつき、2人を抱きしめました。

「お、お母さん、どうやって追い払ったの?」

「お母さんのぬいぐるみをあげるかわりに、帰ってもらったのよ」

「お母さんのぬいぐるみ?大事なやつだったのに?」

「いいのよ。私はぬいぐるみよりも、2人が無事ならそれでいいもの」

3人はぎゅっと抱きしめ合い、家に帰りました。



次の日から、ヒラヒラばあさんはぬいぐるみを吊るすようになりました。
自慢の長い白髪にまきつけて、頭からぶら下げていました。


「私の子。私の子。」


ヒラヒラばあさんは、1人でそうつぶやき、今日も子供たちをジロジロ見つめるのでした…。
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