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はやとくんが5人?

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あるところに、小さな男の子のはやとくんが居ました。
はやとくんはのんびり屋さんで、いつもぼーっとしています。
しかし本当は、はやとくんは頭の中で、5人のはやとくんと会話しているのです。




ある日、はやとくんが散歩をしている時のことです。

「あ、目の前に財布が落ちているぞ。どうしようかな…?」

はやとくんは目の前の財布について、5人のはやとくんに相談しました。




「交番に届けたらいいんじゃないかな?」

「そうそう、交番に届けるべきだよ」

「いや、そのお金でお菓子を好きなだけ買うといいよ」

「いやいや、欲しかったゲームを買おう。そのゲームでみんなで遊ぼう」

「いやいやいや、無視が1番だよ。触らぬ神に祟りなしってね」





5人のはやとくんの意見は、全くまとまりません。
すると、はやとくんは落ちている財布を拾って、こう言いました。

「これは、カンタくんにプレゼントしよう!」



はやとくんはカンタくんの家に行って、インターホンを押しました。

「カンタくん、これあげる!」

「え?財布?」

はやとくんは、カンタくんに財布を押付け、走り去りました。

「こんないい財布貰っていいのかなぁ…。ええー!10万円も入ってる!?ママー!」







はやとくんが散歩を続けていると、大荷物を抱え、信号をゆっくりと渡っているおばあさんがいました。
おばあさんは半分ほど渡りましたが、信号はもう時期赤になりそうです。このままでは、おばあさんが危険です。


「おばあさんの荷物を持ってあげよう!」

「そうだそうだ!このままだとおばあさんが車に引かれちゃうかもしれないよ!」

「いや、ほっとけばいいさ。僕はあんな大きな荷物持てないもん」

「いやいや、荷物なんか置いて、おばあさんだけを運べばいいのさ」

「いやいやいや、おばあさんも荷物も信号を渡りきったところまで放り投げてしまえばいいのさ」




5人のはやとくんの意見は、またしてもまとまりません。

「よし!決めた!」

はやとくんはそう言うと、おばあさんの元まで走っていきました。
はやとくんはおばあさんの手を引っ張り、おばあさんが渡ってきた横断歩道まで連れていきました。


「おばあさん、信号渡るのはやめなよ!他の道にしな!」


はやとくんはそう言って、走り去りました。

「困ったわねぇ…もう少しだったのに…」








「いいことをすると気分がいいな~」

どうやらはやとくんは、思いやりを持って行動していたようです。
散歩を続けていると、お買い物終わりのお母さんに会いました。お母さんはお買い物袋を両手に抱え、重そうです。

「あ、はやと!ちょっとこれ持ってくれない?」

「うん!いいよ!」

はやとくんはお買い物袋を1つ、持ってあげました。

「お、重い~」

お買い物袋は予想よりも重く、はやとくんはすぐに疲れてしまいました。


「そんなもの置いていって、早く帰ってゲームをしようよ!」

「だめだよ、お母さんのお手伝いはちゃんとしなきゃ」

「お母さんのが力持ちなんだから、お母さんが持てばいいよ」

「今ここで全部食べちゃうってのはどう?」

「今日は疲れたから、ここに置いといてまた明日取りにこればいいよ」


5人のはやとくんはそれぞれ好き勝手に話します。
やはり、はやとくんの意見はまとまりません。

「そうだ!いいこと思いついた!」


はやとくんはそう言うと、お買い物袋を地面に置きました。

「どうしたの?疲れちゃった?」

「大丈夫大丈夫、お母さんは先行ってて!」

すると、はやとくんは袋の中から一つ一つ出し、地面に置きました。

「これで軽くなるぞ」

はやとくんの歩いてきた後には、お母さんが買い物で買った品物がずらりと並んでいます。
しばらくすると、先に歩いていたお母さんが見えてきました。

「おかあさーん!」

「やっと来たわねはやと。…あれ?」

お母さんははやとくんの買い物袋を見て、悲鳴をあげました。

「はやと!品物はどうしたの!?」

「ん?あっち!」

はやとくんは自分が歩いてきた道を指さしました。
お母さんは顔を青ざめ、急いで来た道をもどりました。


「お母さん、どうしてあんなに焦ってるんだろう?」



「きっと買い忘れだよ」

「そうさそうさ。おっちょこちょいだな~」

「僕は先に帰ろうよ」

「帰っておやつにしよう!」

「それいいね!ゲームもしよう!」


5人のはやとくんの意見がようやくまとまりました。
はやとくんは持っていた買い物袋を置いて、走って帰ってしまいました。



「全く…はやとったら…」

お母さんはパンパンのお買い物袋を両手にかかえ、とぼとぼ歩きました。


「今日は思わぬ所で時間を食ってしまったわい…」

ようやく横断歩道を渡れたおばあさんもとぼとぼと歩いています。


「はやとくん、これどこで拾ったんだろう…」

財布を貰ったカンタくんも、交番に向かってとぼとぼ歩いていました。





その頃はやとくんは…。


「ゲームは楽しいな~!」


床にゴロゴロ寝転び、ゲームをピコピコと楽しんでいましたとさ。
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みんなの感想(1件)

せりもも
2021.10.05 せりもも

白いはやと君たちと、黒いはやと君たち。白が勝つのに、味方を変えると黒っぽく見える。エスプリの効いた素敵なお話だと思いました。

るいのいろ
2021.10.05 るいのいろ

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
お褒めの言葉とても嬉しいです!

解除

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