狼のタルとエサのペコ

るい

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心変わり

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「バルク…」

「おい、何とか言ってくれよ。バルク」

「俺はもう、お前たちとは違う。ただ何となく毎日を過ごしてるお前たちとは。俺は生きてる上で大切なものを知り、自分の欲しかったものを手に入れた。俺はお前たちとは別の生き方を選ぶ。今までありがとう」

「おいおい、何言ってんだバルク。あんたには俺たちがいないとダメだ。今まで誰があんたに着いてきたと思う?それは俺たちだろ。今更俺たちを見捨てるって言うのか?」

「そうだ。すまない、みんな」

「ふざけるなよ。だいたいお前の大事なものっていうのは何なんだ?もしかしてタルか?それともこのちび犬か?」

「…そうだ。」

バルクが静かに頷くと、取り巻きたちは驚き顔を見合せた。そして、全員で笑い飛ばした。

「バルク、笑わせるなよ。俺たちよりもそいつらの方が大切だって言うのか?冗談じゃない、目を覚ませ」

「…お前たちに俺の何がわかる。お前たちは俺を見ちゃいない。俺に着いてくることで優位に立てる、それだけが目的なのだろう。ずっと気づいていたさ、お前たちとは友達なんかじゃないってことを」

「…お前、変わっちまったな。最近どうも様子が変だと思っていた。まさかそれがこいつらのせいだとはな…わかった。俺らはお前から手を退こう。だが…」

そう言うと取り巻きたちは、ペコもペコのお父さんを囲んだ。

「何する気だ!」

「こいつらは俺たちの獲物だ。お前の友達だろうと知ったことか。俺たちが先に見つけたんだからな、俺たちのもんだ」

「やめろ!手を出すな!」

タルが叫んだ。だが取り巻きの一人がタルにタックルし倒した。

「タル!」

バルクが叫ぶと、取り巻きたちはニヤつき、バルクにも向かっていった。

「覚悟しろよバルク。俺たちを敵に回すとどうなるか」

「ふっ、俺がいないと何も出来ないガキのくせに」

「なんだと?」

取り巻きたちがバルクに襲いかかった。
だがバルクはさすがの身のこなしでするりと避けた。
いくら攻撃来てもバルクには当たらなかった。

「くそ…」

「ぬるいな、お前達」

「ちっ!くそ!」

取り巻きはくるりと振り返り、ペコとお父さんを見た。
そして、今度は2人に向かって襲いかかった。

「ペコ!避けろ!!」

タルが叫ぶも、もう遅かった。

「うっ!!」

ペコは体を押され、吹き飛んだ。

「はっ…!お父さん!!」

ペコのお父さんから血の匂いがした。

「はっ…お前ら…」

ペコのお父さんは腹を噛みつかれ、血が流れていた。

「へへっ…どうだ…」

「ペコ…逃げなさい…」

お父さんはか細い声で言った。
バルクとタルは唖然としてお父さんを見ていた。

「お父さん…お父さん…!!」

ペコは涙目になりながら立ち上がった。

「タル!ちび犬を連れて逃げろ!…お前達…覚悟は出来てるな…」

「バルク!何する気だ!」

「いいから行け!早く!…お前はお前の守るものを守れ。」


バルクを見ると、鋭い目で取り巻きを睨んでいた。あれは狩りをする時の狼の目だった。

「わかった、また後で会おう」

「ああ。この犬は任せろ。後で必ず連れていく」

タルは立ち上がり、ペコを咥えて家から出ていった。

「まて!!逃がすな!!」

取り巻きの1人が叫んだ。取り巻き達がタル達を追おうとすると、バルクが道を塞いだ。

「お前ら、もう許さんからな。ここで決着をつけてやる」

「いい度胸だなバルク…1人で俺たちに勝てるとでも思っているのか?」

バルクはまた睨みをきかせ、複数の狼相手に飛びかかった。



「タル!お父さんが!助けに行かなきゃ!」

「……」

「ねえ!タルってば!!」

「お前のお父さんはあいつが必ず連れてきてくれる。あいつを信じてやってくれ」

タルはそういい、走り続けた。
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