狼のタルとエサのペコ

るいのいろ

文字の大きさ
上 下
7 / 16

気づいたよ

しおりを挟む
気づけばもう夜になっていた。
朝から夜までペコを探し歩いたが、見つからなかった。タルはヘトヘトになっていた。

「もうペコとは会えないか…」

タルが静かに呟いた時、遠くから聞き覚えのある声が聞こえた。

「タルーーーーーーーーー!!!」

(ペコだ!!)

タルは辺りを見渡した。暗くてよく見えないが、なにか小さいものがこちらに向かって走ってきていた。

「タルーーーーーー!!」

さっきよりも大きく、そして嬉しそうなペコの声が聞こえた。

「ペコ!!!」

タルもペコの元へ走っていった。
そして2人は体当たり気味に抱き合った。

「タル!探したよ!」

「それはこっちのセリフだばかやろう!」

「あれ?タル泣いてるの?」

「泣いてなんかいるものか!」

タルは無意識に涙を流していた。涙の理由はタルにも分からなかったが。

「タル、僕ね、タルに会いたくて探してたんだよ!」

「そ、そうなのか?こんな夜にか?」

「うん!お父さんとタルの話してたの!そしたらね!タルに会いたくなっちゃって」

「お父さんと?」

タルは背筋がヒヤッとした。

「お父さんに話したのか…」

「うん!」

きっと認めてもらえなかっただろう。俺みたいな狼とつるんでいるなんて知られたら、怒られるだけじゃ済まない。ペコは今どんな気持ちなのだろう。タルの頭に色な思いが駆け巡った。

「お父さんがね、タルを大事にしなさいって言ってたの!」

「え?認めてくれたのか?怒られなかったのか?」

「うん!僕も最初は不安だったけど、お父さんは嬉しそうにしてた!」

「そ、そうか…」

タルは拍子抜けしてしまった。いや、安心したのかもしれない。その場に座り、深く息を吐いた。

「僕ね、昨日いっぱいいっぱい考えたの。狼は苦手だけど、タルは友達だって。すっごく複雑な気持ちになったの」

タルは体が固まった。ペコから何も言われてもいい覚悟は出来ていたが、やはり緊張してしまうのだ。

「でもね、僕やっぱりタルのことが好きだし、ずっと友達でいたい!タルは狼でも優しい狼だもん!」

「ペコ…」

「タルが狼って気づかなかったのは匂いのせいだよ。タルはすっごく優しい匂いがする。近くにいるととても落ち着くんだ。僕、タルと一緒にいたい。」

「ペコ、俺なんかと友達でいてくれるのか?」

「もちろん!タルは僕の大事な友達だ!…あれ?タル?」

タルは泣いていた。今度は無意識なんかじゃない。ペコの言葉を聞いて泣いてしまった。

「タル!?どうして泣いてるの!?僕なんか嫌なこと言っちゃった!?」

ペコはタルのただならぬ様子に慌てふためいていた。

「ペコ…ごめんな…」

「え?なにが?」

「いや…なんでもない。ありがとうな、ペコ。」

タルはペコを強く、強く抱きしめた。

「タル、苦しいよ~」

ペコはタルに埋もれながら、じっとしていた。
そうして2人は無事和解し、お互いを大事にすると心に誓った。
そして帰り道。

「ペコ、明日も会えるか?」

「うん!もちろんだよ!タルから聞いてくるなんて珍しいね~」

「ふふ、まあな。」

「いつもの場所で待ってるね!」

「ああ、必ず行く、約束だ」

「やったー!」

ペコは無邪気にピョンピョンはねて喜んだ。
タルはそれを微笑ましく見ていた。

「じゃあ、また明日な」

「またね!タル!」

そうして2人は別れた。

その日、ペコの家から賑やかな声が外まで聞こえていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

裏切りの代償

志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。 家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。 連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。 しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。 他サイトでも掲載しています。 R15を保険で追加しました。 表紙は写真AC様よりダウンロードしました。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

どうぞご勝手になさってくださいまし

志波 連
恋愛
政略結婚とはいえ12歳の時から婚約関係にあるローレンティア王国皇太子アマデウスと、ルルーシア・メリディアン侯爵令嬢の仲はいたって上手くいっていた。 辛い教育にもよく耐え、あまり学園にも通学できないルルーシアだったが、幼馴染で親友の侯爵令嬢アリア・ロックスの励まされながら、なんとか最終学年を迎えた。 やっと皇太子妃教育にも目途が立ち、学園に通えるようになったある日、婚約者であるアマデウス皇太子とフロレンシア伯爵家の次女であるサマンサが恋仲であるという噂を耳にする。 アリアに付き添ってもらい、学園の裏庭に向かったルルーシアは二人が仲よくベンチに腰掛け、肩を寄せ合って一冊の本を仲よく見ている姿を目撃する。 風が運んできた「じゃあ今夜、いつものところで」という二人の会話にショックを受けたルルーシアは、早退して父親に訴えた。 しかし元々が政略結婚であるため、婚約の取り消しはできないという言葉に絶望する。 ルルーシアの邸を訪れた皇太子はサマンサを側妃として迎えると告げた。 ショックを受けたルルーシアだったが、家のために耐えることを決意し、皇太子妃となることを受け入れる。 ルルーシアだけを愛しているが、友人であるサマンサを助けたいアマデウスと、アマデウスに愛されていないと思い込んでいるルルーシアは盛大にすれ違っていく。 果たして不器用な二人に幸せな未来は訪れるのだろうか…… 他サイトでも公開しています。 R15は保険です。 表紙は写真ACより転載しています。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

処理中です...