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初めての友達
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「いってきます」
次の日、朝早くから昨日の犬を探しに出かけた。
「いい加減お前も1人前になれ。餌もとってこれない狼など必要ない。
明日、お前が取ってきた獲物がお前の飯になる。覚悟してとってこい」
朝方、父にそう言われた。
父は立派な狼だ。体も大きく、1人で家族みんなの餌を捕ってくることができる。今我が家を支えているのは、父と次男の弟の2人だ。俺はと言うと、狩りが大の苦手だ。他の生き物を殺すことが出来ない。狼のくせに弱虫なのだ。
だが、俺ももうそんな子供のままでは居られない。うちには小さい弟と妹がいる。最近また弟ができた。6人兄弟だ。俺も獲物を捕らえて家を支えたいのだが、そう上手くいかない。はっきりいってご飯を食べるだけのお荷物だった。群れの仲間たちも俺を情けない奴だと言っているのは知っていた。
朝から夕方まで探し回った。だが、どこにも見当たらない。このままでは今日は何も食べることが出来ない。
かと言って手ぶらで帰るわけにもいかない。何か言い訳を考えながら歩いていたその時、またあの高い声が聞こえてきた。
声の方へと走ると、居た。昨日と同じ、5人の犬が。
俺は衝動的に獲物の元へと走っていった。だがあいつらも馬鹿ではなかった。俺の姿が見えるなり一目散に走って逃げて行った。あいつを除いて。
あいつは、泥だらけになりながら丸まっていた。今日は小さな口から血も出ていた。
「また助けてくれたんだ」
よぼよぼになりながら立ち上がろうとするあいつを、俺はただ黙って見ていた。
こいつを殺して持ち帰らなければならないのに、俺は動けなかった。
「なぜやり返さない」
「え?」
「あんなやつらにやられっぱなしで悔しくないのか」
小さな犬は苦笑いしながら、ようやく立ち上がった。
「僕みたいな役に立たないやつは、こうなっても仕方ないんだよ。みんなの力になれないから、いじめられるしかないんだ」
俺はこいつを殺す気にはなれなかった。
なぜだか分からないが、俺はこいつを殺せない気がした。
「お兄さんは、どうして僕を助けてくれるの?」
「お前なんか助けてなどいない」
「嘘だ。昨日もみんなを追い払ってくれたもん、今日だって!」
「黙れ。おれはお前達を食う気で近づいただけだ。だがもういい、食う気が失せた。」
「嘘だね、お兄さんは優しいもん。僕にはわかるよ」
生意気なチビだ。こいつに一体何がわかる。
だが何かおかしい。こいつと話しているとなにか違和感があった。
「それより、なぜいじめられているのだ」
「僕、目が見えないんだ。」
俺は言葉を失った。違和感の正体はこれだ。こいつと話している時、目が合わない。こいつは俺の目じゃなく、微妙に違う方を見ているのだ。
「僕は目が見えないからみんなと同じことが出来ない。みんなの役に立てないんだ。だからいじめられる。お前なんか役立たずだって。」
「もういい。それ以上言うな。」
心が苦しくなった。こんな小さいやつが俺なんかより不憫な生活を送っているなんて。
「お前、家族は?家はどこなんだ」
「お母さんとお父さんがいるよ、家はここを真っ直ぐ行ったところ!桃の木のいい匂いがしたら、家はすぐそこだよ」
「連れてってやる」
そう言って、小さな犬を咥え、背中に乗せてやった。
「いいの!?ありがとうお兄さん!」
「しっかり掴まってろ」
そう言うと、広い大地をひたすら走った。
「お兄さんの背中、大きくて暖かい。」
「お前、名前は?」
「僕はペコ!ねえねえ、お兄さんはひとりが好きなの?」
「ああ。一匹狼だからな」
「寂しくないの?」
「ちっとも。」
「お兄さん名前は?」
「タル」
「タル!いい名前だね!」
しばらくすると、大きな桃の木が見えてきた。
「あ!桃の匂い!もう着いたんだ!」
「ああ、見えてきたぞ、ここからはもう帰れるな?」
「え?タルは行かないの?」
「ああ、俺は忙しいんだ。」
「うちでご飯食べてきなよ!」
「また今度な。じゃあな。」
「タル!」
「何だ?」
「また明日も会える?」
「さあな。」
そう言うと、俺は来た道を走って戻って行った。
不思議だ。なぜかとても嬉しい気持ちになっている。こんな気持ちになったのは初めてだ。俺とまともに話してくれたのはあのチビが初めてだった。俺を優しいと言ってくれたのも。
「また明日も会える?」
ふっ。明日もあの場所に行ってみるか。
この時俺は大事なことを忘れていた。
もちろん、その日は何も食べずに眠りにつくことになった…。
次の日、朝早くから昨日の犬を探しに出かけた。
「いい加減お前も1人前になれ。餌もとってこれない狼など必要ない。
明日、お前が取ってきた獲物がお前の飯になる。覚悟してとってこい」
朝方、父にそう言われた。
父は立派な狼だ。体も大きく、1人で家族みんなの餌を捕ってくることができる。今我が家を支えているのは、父と次男の弟の2人だ。俺はと言うと、狩りが大の苦手だ。他の生き物を殺すことが出来ない。狼のくせに弱虫なのだ。
だが、俺ももうそんな子供のままでは居られない。うちには小さい弟と妹がいる。最近また弟ができた。6人兄弟だ。俺も獲物を捕らえて家を支えたいのだが、そう上手くいかない。はっきりいってご飯を食べるだけのお荷物だった。群れの仲間たちも俺を情けない奴だと言っているのは知っていた。
朝から夕方まで探し回った。だが、どこにも見当たらない。このままでは今日は何も食べることが出来ない。
かと言って手ぶらで帰るわけにもいかない。何か言い訳を考えながら歩いていたその時、またあの高い声が聞こえてきた。
声の方へと走ると、居た。昨日と同じ、5人の犬が。
俺は衝動的に獲物の元へと走っていった。だがあいつらも馬鹿ではなかった。俺の姿が見えるなり一目散に走って逃げて行った。あいつを除いて。
あいつは、泥だらけになりながら丸まっていた。今日は小さな口から血も出ていた。
「また助けてくれたんだ」
よぼよぼになりながら立ち上がろうとするあいつを、俺はただ黙って見ていた。
こいつを殺して持ち帰らなければならないのに、俺は動けなかった。
「なぜやり返さない」
「え?」
「あんなやつらにやられっぱなしで悔しくないのか」
小さな犬は苦笑いしながら、ようやく立ち上がった。
「僕みたいな役に立たないやつは、こうなっても仕方ないんだよ。みんなの力になれないから、いじめられるしかないんだ」
俺はこいつを殺す気にはなれなかった。
なぜだか分からないが、俺はこいつを殺せない気がした。
「お兄さんは、どうして僕を助けてくれるの?」
「お前なんか助けてなどいない」
「嘘だ。昨日もみんなを追い払ってくれたもん、今日だって!」
「黙れ。おれはお前達を食う気で近づいただけだ。だがもういい、食う気が失せた。」
「嘘だね、お兄さんは優しいもん。僕にはわかるよ」
生意気なチビだ。こいつに一体何がわかる。
だが何かおかしい。こいつと話しているとなにか違和感があった。
「それより、なぜいじめられているのだ」
「僕、目が見えないんだ。」
俺は言葉を失った。違和感の正体はこれだ。こいつと話している時、目が合わない。こいつは俺の目じゃなく、微妙に違う方を見ているのだ。
「僕は目が見えないからみんなと同じことが出来ない。みんなの役に立てないんだ。だからいじめられる。お前なんか役立たずだって。」
「もういい。それ以上言うな。」
心が苦しくなった。こんな小さいやつが俺なんかより不憫な生活を送っているなんて。
「お前、家族は?家はどこなんだ」
「お母さんとお父さんがいるよ、家はここを真っ直ぐ行ったところ!桃の木のいい匂いがしたら、家はすぐそこだよ」
「連れてってやる」
そう言って、小さな犬を咥え、背中に乗せてやった。
「いいの!?ありがとうお兄さん!」
「しっかり掴まってろ」
そう言うと、広い大地をひたすら走った。
「お兄さんの背中、大きくて暖かい。」
「お前、名前は?」
「僕はペコ!ねえねえ、お兄さんはひとりが好きなの?」
「ああ。一匹狼だからな」
「寂しくないの?」
「ちっとも。」
「お兄さん名前は?」
「タル」
「タル!いい名前だね!」
しばらくすると、大きな桃の木が見えてきた。
「あ!桃の匂い!もう着いたんだ!」
「ああ、見えてきたぞ、ここからはもう帰れるな?」
「え?タルは行かないの?」
「ああ、俺は忙しいんだ。」
「うちでご飯食べてきなよ!」
「また今度な。じゃあな。」
「タル!」
「何だ?」
「また明日も会える?」
「さあな。」
そう言うと、俺は来た道を走って戻って行った。
不思議だ。なぜかとても嬉しい気持ちになっている。こんな気持ちになったのは初めてだ。俺とまともに話してくれたのはあのチビが初めてだった。俺を優しいと言ってくれたのも。
「また明日も会える?」
ふっ。明日もあの場所に行ってみるか。
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もちろん、その日は何も食べずに眠りにつくことになった…。
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