クリスマスプレゼント

るい

文字の大きさ
上 下
1 / 1

メリークリスマス

しおりを挟む
ある町に、雪が降った。
人々は厚手の上着を羽織り、白い地面に足跡をつけながら帰路に着く。
片手にはケーキ、もう片手には綺麗な紙に梱包された大きな箱を持って。

食卓を囲む子供たちは、テーブルのご馳走を目の前にして、ワクワクした気持ちを抑えきれずにいた。

そう。今日はクリスマス。


「お父さんが帰ってきたわよ」

「お父さん、おかえりー!」

「ただいま、ケーキを買ってきたぞ」

「わーい!ケーキだー!」

「あなた、あれはちゃんとあった?」

「もちろん、眠りにつくまで隠しとかなきゃな」


なんとも暖かい家庭である。
丸焼きにされたチキンに、デザートには贅沢なチョコレートケーキ、高そうなお酒が並んだテーブルを囲み、食事を始める。
そして、朝目が覚めたらプレゼントがあるのだろう。
あの大きな箱には、一体何が入っているんだろう。

この家窓から、中を覗く男の子は目をキラキラ輝かせて見ていた。

この男の子の名前はタフィ。
タフィは好きでよその家を覗き見しているわけではない。夢を見ているのだ。
タフィの家は貧しかった。チキンやケーキを食べることはできず、プレゼントなんて夢のまた夢…。

タフィにとってのクリスマスは、いつもの日常と何ら変わらない日であった。
ただ、クリスマス用に色付いた町を見渡すと、自分の心も晴れるように綺麗に色付けされ、少しだけいつもの貧しい日常から逃げ出せる。それだけの日だった。

タフィは知らない人の家を覗くのをやめ、帰路に着いた。


「ただいま。」

「おかえりタフィ。遅かったじゃない。今日はクリスマスよ、早く席に着いてちょうだい」


タフィのお母さんは、所々欠けているシミだらけのテーブルに、小さなトーストを置いた。
タフィはその小さなトーストを見つめている。

「今日はクリスマスだから、特別よ」

お母さんはスプーンでハチミツをすくい上げ、小さなトーストの上に乗っけた。
これには思わず、タフィもニヤついた。タフィはハチミツが大好きである。
さらに、細かく切り刻んだチョコレートの破片を1振り。
お供には暖かいただのミルク。

「さあさあ、召し上がれ」

「ありがとうお母さん。いただきます」


これが、タフィたちにとってのクリスマスケーキである。
もちろん、タフィの分だけである。


「おいしいよ、お母さん」

「よかったわ。喜んでくれて」


お母さんは優しい笑顔で微笑んだ。
タフィは小さなトーストをちぎり、お母さんに差し出した。

「はい、お母さんも食べて」

「あら、タフィは優しいのね。でもいいのよ、お母さんの分もあるから、それはタフィが食べなさい」


お母さんはタフィの頭を撫で、そっと抱きしめた。


「ただいま~」

「あ、お父さんだ!」

タフィは走って家のドアの前に行き、お父さんをお出迎えした。


「ただいま、タフィ」

「おかえり、お父さん」


タフィはお父さんの腕を引っ張って、居間へ連れていった。

「おお。今日はごちそうだな」

「うん、これとっても美味しいよ!」

「そうかそうか!よかったなぁ」

「お父さんも食べなよ、これあげるからさ」

タフィは先程ちぎったトーストをお父さんに差し出した。

「ああ、ありがとう。お父さんはいいから、それはタフィが食べなさい。ありがとう」

「そっか~」


タフィは小さな破片をもそもそと食べた。


「そうだタフィにプレゼントがあるぞ」

「え!なになに!?」


お父さんはそういうと、後ろから小包をひとつ出し、タフィに渡した。


「あけてごらん」


タフィは丁寧に包装を剥がし、中のものを見た。


「チョコレートだ!!」

中身は、甘い甘い板チョコレートだった。
チョコレートはタフィの大好物だ。


「ありがとう!お父さん!」

「おう。お父さんからのプレゼントだ。よく味わって食べるんだぞ」


チョコレートなんていつぶりだろうか。
早速包装を開け、一欠片口に放り込んだ。
甘い甘いミルクチョコレートの味が、口いっぱいに広がる。

幸せそうなタフィを、お母さんとお父さんは微笑ましく見つめていた。

タフィは残りのチョコレートを3等分に割った。


「はい、お父さんの」

「え?いいのかい?」

「これは、お母さんの」

「あら、いいの?」

「もちろん、3人で食べた方がおいしいもんね」

「ありがとうタフィ。」

「タフィは本当に優しい子ね。ありがとう」


お父さんとお母さんは涙をこらえ、タフィを抱きしめた。
3人は、小さなチョコレートを一緒に食べて、ニコニコ笑っていた。




その日の夜、タフィは不思議な夢を見た。
たくさんのプレゼントを持ったサンタクロースが、トナカイの引くそりに乗ってタフィの家にやってきた。
サンタクロースは窓から入ってくるなり、タフィに向かってこう話した。


「君は、お父さんからもらったチョコレートをみんなに分けてあげていたね。本当に優しい心を持ったいい子だね。」


どうやらサンタクロースは、タフィたちを見ていたようだ。


「私はサンタクロースだ。本当に優しい心を持った子の前へ現れる、サンタクロース。私が君の所へ来たということは、プレゼントを持ってきたのさ。」


サンタクロースはそういうと、地面を指さした。


「明日の朝、ここを掘ってごらん。ここにプレゼントを隠したよ。きっと、喜んでくれるだろう。」


サンタクロースはそれだけ言い残し、乗ってきたソリに座り、トナカイによって暗い夜の街に消えていった。

サンタクロースが居なくなると、タフィは急に意識を失うように眠りについた。



翌朝、タフィはサンタクロースが指を指した地面を掘った。
お父さんとお母さんに昨晩のことを説明したが、2人とも半信半疑だった。
でも、タフィの必死な様子を見て、付き合ってくれた。


「タフィ、本当にプレゼントがあると思うのかい?」

「うん、サンタクロースがそう言ったんだ。絶対あるさ!」


タフィは手をとめずに掘り続ける。
すると、スコップの先に何か固いものが当たった。
タフィはスコップを置き、手で慎重に掘り進める。


すると、煌びやかに輝く金の塊が土の中から顔を出した。


「こ、こ、これって…」

「金だ…」


タフィはさらに掘り進めると、山ほどの金塊が土の中に眠っていた。


「すごいよ!!これほどの金がこんなところに…!」

「なんてことだ…全く気が付かなかったよ…」

お父さんとお母さんは金塊を持ち上げ、そのまま地面にへたり着いて腰を抜かしてしまった。


「お父さん、お母さん、これ全部売ろう!そしたら僕達お金持ちだよ!!」



さっそく3人は、山ほどの金塊を袋に包み、それを全て売り払った。
すると3人の手元には、これまた抱えきれないほどのお金が返ってきた。


「こ、これは夢か…?」

お父さんは大量の札束を目の前にし、未だに信じられない様子だった。
それはお母さんも一緒だった。


「これで僕達幸せに暮らせるね!」

元気なのは、タフィだけである。



それから3人は、とても裕福に暮らした。
新しい立派な家を建て、犬や猫など新しい家族を迎えて、幸せに暮らした。
これでもう貧しい生活とはおさらばだ。



「ハッハッハ。よかったね、少年。メリークリスマス!!」


あの時のサンタクロースは、今もどこかの街の上を自由に飛んでいる。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

私の弟は、みんなの人気者

るい
絵本
お母さん、お父さん、おじいちゃん、おばあちゃん、みんなに可愛がられていた一人っ子のまひるちゃん。 ある日、まひるちゃんの家に、弟が産まれました。 すると、お母さんたちは弟の世話で手一杯。 おじいちゃんたちは、まひるちゃんよりも新しい赤ちゃんを可愛がりました。 まひるちゃんは、お母さんたちやおじいちゃんたちを取られて、さらに泣いてばかりの弟のことが嫌いになりました。

お風呂の妖怪

るい
絵本
お風呂に入るのってめんどくさい。 それって、お風呂に住む妖怪のせいかも。

僕が蓋を開ける時

るい
絵本
ある日、パパから貰った大きな箱。 「大きくなったら、開けなさい」 パパは僕にそう言った。 中には何が入っているんだろう。 5歳になった僕は、その箱を開けてみた。

絵本 メリーさん

るい
絵本
夜遅くまで遊んでいるこの元には、メリーさんがやってくる。 有名なホラー話「メリーさん」を絵本にしてみました。

ノック ノック

るい
絵本
夜中にノックが聞こえても、絶対に出ちゃいけないよ。 それはお母さんでも、お父さんでもない。 ましてや、夜中に友達は来ない。 それは、こわいこわーい妖怪かもしれないよ。

【怖い絵本】ママじゃない

るい
絵本
【怖い絵本】 大好きなママ。 いつもいつも優しくて、とっても暖かい。 一緒に遊んでくれるし、寝る時はいつも一緒。 でも、ママじゃない人が来ると、ママは隠れちゃう。

未来からの手紙

るい
絵本
天気のいい朝、わかばちゃんのお母さんが部屋の掃除をしていると、押し入れの奥から古い手紙が出てきました。 文字からして、どうやらわかばちゃんが書いたもののようです。 しかし、わかばちゃんは手紙どころか、文字もまだまだ書けません。 お母さんは不思議に思いながらも、その手紙をわかばちゃんにあげました。 わかばちゃんはその手紙を何度も読み、あることに気がつきました…。

僕とケンが、入れ替わっちゃった

るい
絵本
5年生の男の子のしょうたくんは、夏休み明けの学校が嫌でした。 なぜなら、また勉強をしなくちゃいけないから。 せっかくの夏休みが、終わってしまうから。 毎日毎日遊べたのに、もう遊べなくなっちゃうから。 夏休み最終日、しょうたくんは星に願いました。 どうか、ペットのケンのように、勉強も宿題もせず、毎日のんびり暮らしたいです。 次の日の朝、目を覚ましたしょうたくんは、ペットのケンになっていました。

処理中です...