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メリークリスマス
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ある町に、雪が降った。
人々は厚手の上着を羽織り、白い地面に足跡をつけながら帰路に着く。
片手にはケーキ、もう片手には綺麗な紙に梱包された大きな箱を持って。
食卓を囲む子供たちは、テーブルのご馳走を目の前にして、ワクワクした気持ちを抑えきれずにいた。
そう。今日はクリスマス。
「お父さんが帰ってきたわよ」
「お父さん、おかえりー!」
「ただいま、ケーキを買ってきたぞ」
「わーい!ケーキだー!」
「あなた、あれはちゃんとあった?」
「もちろん、眠りにつくまで隠しとかなきゃな」
なんとも暖かい家庭である。
丸焼きにされたチキンに、デザートには贅沢なチョコレートケーキ、高そうなお酒が並んだテーブルを囲み、食事を始める。
そして、朝目が覚めたらプレゼントがあるのだろう。
あの大きな箱には、一体何が入っているんだろう。
この家窓から、中を覗く男の子は目をキラキラ輝かせて見ていた。
この男の子の名前はタフィ。
タフィは好きでよその家を覗き見しているわけではない。夢を見ているのだ。
タフィの家は貧しかった。チキンやケーキを食べることはできず、プレゼントなんて夢のまた夢…。
タフィにとってのクリスマスは、いつもの日常と何ら変わらない日であった。
ただ、クリスマス用に色付いた町を見渡すと、自分の心も晴れるように綺麗に色付けされ、少しだけいつもの貧しい日常から逃げ出せる。それだけの日だった。
タフィは知らない人の家を覗くのをやめ、帰路に着いた。
「ただいま。」
「おかえりタフィ。遅かったじゃない。今日はクリスマスよ、早く席に着いてちょうだい」
タフィのお母さんは、所々欠けているシミだらけのテーブルに、小さなトーストを置いた。
タフィはその小さなトーストを見つめている。
「今日はクリスマスだから、特別よ」
お母さんはスプーンでハチミツをすくい上げ、小さなトーストの上に乗っけた。
これには思わず、タフィもニヤついた。タフィはハチミツが大好きである。
さらに、細かく切り刻んだチョコレートの破片を1振り。
お供には暖かいただのミルク。
「さあさあ、召し上がれ」
「ありがとうお母さん。いただきます」
これが、タフィたちにとってのクリスマスケーキである。
もちろん、タフィの分だけである。
「おいしいよ、お母さん」
「よかったわ。喜んでくれて」
お母さんは優しい笑顔で微笑んだ。
タフィは小さなトーストをちぎり、お母さんに差し出した。
「はい、お母さんも食べて」
「あら、タフィは優しいのね。でもいいのよ、お母さんの分もあるから、それはタフィが食べなさい」
お母さんはタフィの頭を撫で、そっと抱きしめた。
「ただいま~」
「あ、お父さんだ!」
タフィは走って家のドアの前に行き、お父さんをお出迎えした。
「ただいま、タフィ」
「おかえり、お父さん」
タフィはお父さんの腕を引っ張って、居間へ連れていった。
「おお。今日はごちそうだな」
「うん、これとっても美味しいよ!」
「そうかそうか!よかったなぁ」
「お父さんも食べなよ、これあげるからさ」
タフィは先程ちぎったトーストをお父さんに差し出した。
「ああ、ありがとう。お父さんはいいから、それはタフィが食べなさい。ありがとう」
「そっか~」
タフィは小さな破片をもそもそと食べた。
「そうだタフィにプレゼントがあるぞ」
「え!なになに!?」
お父さんはそういうと、後ろから小包をひとつ出し、タフィに渡した。
「あけてごらん」
タフィは丁寧に包装を剥がし、中のものを見た。
「チョコレートだ!!」
中身は、甘い甘い板チョコレートだった。
チョコレートはタフィの大好物だ。
「ありがとう!お父さん!」
「おう。お父さんからのプレゼントだ。よく味わって食べるんだぞ」
チョコレートなんていつぶりだろうか。
早速包装を開け、一欠片口に放り込んだ。
甘い甘いミルクチョコレートの味が、口いっぱいに広がる。
幸せそうなタフィを、お母さんとお父さんは微笑ましく見つめていた。
タフィは残りのチョコレートを3等分に割った。
「はい、お父さんの」
「え?いいのかい?」
「これは、お母さんの」
「あら、いいの?」
「もちろん、3人で食べた方がおいしいもんね」
「ありがとうタフィ。」
「タフィは本当に優しい子ね。ありがとう」
お父さんとお母さんは涙をこらえ、タフィを抱きしめた。
3人は、小さなチョコレートを一緒に食べて、ニコニコ笑っていた。
その日の夜、タフィは不思議な夢を見た。
たくさんのプレゼントを持ったサンタクロースが、トナカイの引くそりに乗ってタフィの家にやってきた。
サンタクロースは窓から入ってくるなり、タフィに向かってこう話した。
「君は、お父さんからもらったチョコレートをみんなに分けてあげていたね。本当に優しい心を持ったいい子だね。」
どうやらサンタクロースは、タフィたちを見ていたようだ。
「私はサンタクロースだ。本当に優しい心を持った子の前へ現れる、サンタクロース。私が君の所へ来たということは、プレゼントを持ってきたのさ。」
サンタクロースはそういうと、地面を指さした。
「明日の朝、ここを掘ってごらん。ここにプレゼントを隠したよ。きっと、喜んでくれるだろう。」
サンタクロースはそれだけ言い残し、乗ってきたソリに座り、トナカイによって暗い夜の街に消えていった。
サンタクロースが居なくなると、タフィは急に意識を失うように眠りについた。
翌朝、タフィはサンタクロースが指を指した地面を掘った。
お父さんとお母さんに昨晩のことを説明したが、2人とも半信半疑だった。
でも、タフィの必死な様子を見て、付き合ってくれた。
「タフィ、本当にプレゼントがあると思うのかい?」
「うん、サンタクロースがそう言ったんだ。絶対あるさ!」
タフィは手をとめずに掘り続ける。
すると、スコップの先に何か固いものが当たった。
タフィはスコップを置き、手で慎重に掘り進める。
すると、煌びやかに輝く金の塊が土の中から顔を出した。
「こ、こ、これって…」
「金だ…」
タフィはさらに掘り進めると、山ほどの金塊が土の中に眠っていた。
「すごいよ!!これほどの金がこんなところに…!」
「なんてことだ…全く気が付かなかったよ…」
お父さんとお母さんは金塊を持ち上げ、そのまま地面にへたり着いて腰を抜かしてしまった。
「お父さん、お母さん、これ全部売ろう!そしたら僕達お金持ちだよ!!」
さっそく3人は、山ほどの金塊を袋に包み、それを全て売り払った。
すると3人の手元には、これまた抱えきれないほどのお金が返ってきた。
「こ、これは夢か…?」
お父さんは大量の札束を目の前にし、未だに信じられない様子だった。
それはお母さんも一緒だった。
「これで僕達幸せに暮らせるね!」
元気なのは、タフィだけである。
それから3人は、とても裕福に暮らした。
新しい立派な家を建て、犬や猫など新しい家族を迎えて、幸せに暮らした。
これでもう貧しい生活とはおさらばだ。
「ハッハッハ。よかったね、少年。メリークリスマス!!」
あの時のサンタクロースは、今もどこかの街の上を自由に飛んでいる。
人々は厚手の上着を羽織り、白い地面に足跡をつけながら帰路に着く。
片手にはケーキ、もう片手には綺麗な紙に梱包された大きな箱を持って。
食卓を囲む子供たちは、テーブルのご馳走を目の前にして、ワクワクした気持ちを抑えきれずにいた。
そう。今日はクリスマス。
「お父さんが帰ってきたわよ」
「お父さん、おかえりー!」
「ただいま、ケーキを買ってきたぞ」
「わーい!ケーキだー!」
「あなた、あれはちゃんとあった?」
「もちろん、眠りにつくまで隠しとかなきゃな」
なんとも暖かい家庭である。
丸焼きにされたチキンに、デザートには贅沢なチョコレートケーキ、高そうなお酒が並んだテーブルを囲み、食事を始める。
そして、朝目が覚めたらプレゼントがあるのだろう。
あの大きな箱には、一体何が入っているんだろう。
この家窓から、中を覗く男の子は目をキラキラ輝かせて見ていた。
この男の子の名前はタフィ。
タフィは好きでよその家を覗き見しているわけではない。夢を見ているのだ。
タフィの家は貧しかった。チキンやケーキを食べることはできず、プレゼントなんて夢のまた夢…。
タフィにとってのクリスマスは、いつもの日常と何ら変わらない日であった。
ただ、クリスマス用に色付いた町を見渡すと、自分の心も晴れるように綺麗に色付けされ、少しだけいつもの貧しい日常から逃げ出せる。それだけの日だった。
タフィは知らない人の家を覗くのをやめ、帰路に着いた。
「ただいま。」
「おかえりタフィ。遅かったじゃない。今日はクリスマスよ、早く席に着いてちょうだい」
タフィのお母さんは、所々欠けているシミだらけのテーブルに、小さなトーストを置いた。
タフィはその小さなトーストを見つめている。
「今日はクリスマスだから、特別よ」
お母さんはスプーンでハチミツをすくい上げ、小さなトーストの上に乗っけた。
これには思わず、タフィもニヤついた。タフィはハチミツが大好きである。
さらに、細かく切り刻んだチョコレートの破片を1振り。
お供には暖かいただのミルク。
「さあさあ、召し上がれ」
「ありがとうお母さん。いただきます」
これが、タフィたちにとってのクリスマスケーキである。
もちろん、タフィの分だけである。
「おいしいよ、お母さん」
「よかったわ。喜んでくれて」
お母さんは優しい笑顔で微笑んだ。
タフィは小さなトーストをちぎり、お母さんに差し出した。
「はい、お母さんも食べて」
「あら、タフィは優しいのね。でもいいのよ、お母さんの分もあるから、それはタフィが食べなさい」
お母さんはタフィの頭を撫で、そっと抱きしめた。
「ただいま~」
「あ、お父さんだ!」
タフィは走って家のドアの前に行き、お父さんをお出迎えした。
「ただいま、タフィ」
「おかえり、お父さん」
タフィはお父さんの腕を引っ張って、居間へ連れていった。
「おお。今日はごちそうだな」
「うん、これとっても美味しいよ!」
「そうかそうか!よかったなぁ」
「お父さんも食べなよ、これあげるからさ」
タフィは先程ちぎったトーストをお父さんに差し出した。
「ああ、ありがとう。お父さんはいいから、それはタフィが食べなさい。ありがとう」
「そっか~」
タフィは小さな破片をもそもそと食べた。
「そうだタフィにプレゼントがあるぞ」
「え!なになに!?」
お父さんはそういうと、後ろから小包をひとつ出し、タフィに渡した。
「あけてごらん」
タフィは丁寧に包装を剥がし、中のものを見た。
「チョコレートだ!!」
中身は、甘い甘い板チョコレートだった。
チョコレートはタフィの大好物だ。
「ありがとう!お父さん!」
「おう。お父さんからのプレゼントだ。よく味わって食べるんだぞ」
チョコレートなんていつぶりだろうか。
早速包装を開け、一欠片口に放り込んだ。
甘い甘いミルクチョコレートの味が、口いっぱいに広がる。
幸せそうなタフィを、お母さんとお父さんは微笑ましく見つめていた。
タフィは残りのチョコレートを3等分に割った。
「はい、お父さんの」
「え?いいのかい?」
「これは、お母さんの」
「あら、いいの?」
「もちろん、3人で食べた方がおいしいもんね」
「ありがとうタフィ。」
「タフィは本当に優しい子ね。ありがとう」
お父さんとお母さんは涙をこらえ、タフィを抱きしめた。
3人は、小さなチョコレートを一緒に食べて、ニコニコ笑っていた。
その日の夜、タフィは不思議な夢を見た。
たくさんのプレゼントを持ったサンタクロースが、トナカイの引くそりに乗ってタフィの家にやってきた。
サンタクロースは窓から入ってくるなり、タフィに向かってこう話した。
「君は、お父さんからもらったチョコレートをみんなに分けてあげていたね。本当に優しい心を持ったいい子だね。」
どうやらサンタクロースは、タフィたちを見ていたようだ。
「私はサンタクロースだ。本当に優しい心を持った子の前へ現れる、サンタクロース。私が君の所へ来たということは、プレゼントを持ってきたのさ。」
サンタクロースはそういうと、地面を指さした。
「明日の朝、ここを掘ってごらん。ここにプレゼントを隠したよ。きっと、喜んでくれるだろう。」
サンタクロースはそれだけ言い残し、乗ってきたソリに座り、トナカイによって暗い夜の街に消えていった。
サンタクロースが居なくなると、タフィは急に意識を失うように眠りについた。
翌朝、タフィはサンタクロースが指を指した地面を掘った。
お父さんとお母さんに昨晩のことを説明したが、2人とも半信半疑だった。
でも、タフィの必死な様子を見て、付き合ってくれた。
「タフィ、本当にプレゼントがあると思うのかい?」
「うん、サンタクロースがそう言ったんだ。絶対あるさ!」
タフィは手をとめずに掘り続ける。
すると、スコップの先に何か固いものが当たった。
タフィはスコップを置き、手で慎重に掘り進める。
すると、煌びやかに輝く金の塊が土の中から顔を出した。
「こ、こ、これって…」
「金だ…」
タフィはさらに掘り進めると、山ほどの金塊が土の中に眠っていた。
「すごいよ!!これほどの金がこんなところに…!」
「なんてことだ…全く気が付かなかったよ…」
お父さんとお母さんは金塊を持ち上げ、そのまま地面にへたり着いて腰を抜かしてしまった。
「お父さん、お母さん、これ全部売ろう!そしたら僕達お金持ちだよ!!」
さっそく3人は、山ほどの金塊を袋に包み、それを全て売り払った。
すると3人の手元には、これまた抱えきれないほどのお金が返ってきた。
「こ、これは夢か…?」
お父さんは大量の札束を目の前にし、未だに信じられない様子だった。
それはお母さんも一緒だった。
「これで僕達幸せに暮らせるね!」
元気なのは、タフィだけである。
それから3人は、とても裕福に暮らした。
新しい立派な家を建て、犬や猫など新しい家族を迎えて、幸せに暮らした。
これでもう貧しい生活とはおさらばだ。
「ハッハッハ。よかったね、少年。メリークリスマス!!」
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