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セミの1週間
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人が賑わう大きな公園。
そこで、ひとつの命が生まれた。
ミーンミーンミンミンミン
とっても大きなミンミンゼミ。
この公園の、どのセミよりも体が大きい。
一番大きな木のてっぺんに止まり、公園を見渡しながら一番大きな声で鳴いています。
そのセミは、いつもそこで鳴いていました。
月曜日、セミは元気に鳴いています。
「ミーンミンミン。今日も暑くていい天気だなぁ」
セミは大きな声で、自由に鳴いています。
「セミだセミだ!あっちにもいる!」
小さな子供たちが、セミ取りをしています。
「あーあ、可哀想に。捕まったら虫かごに入れられて、自由なんてないぞ。」
セミを沢山捕まえた子供たちは、嬉しそうに帰っていきました。
捕まったセミたちは、ジジジッと静かに鳴いています。
「さようなら。ミーンミンミン」
それでもセミは、元気に鳴いています。
火曜日、今日も元気に鳴いています。
「ミーンミンミン。今日は風が吹いて気持ちいいなぁ。」
公園には、優しい穏やかな風が流れます。
「ジジジッ…」
「ん?どうしたんだ?」
セミが止まっている木の下の方で、1匹のセミが力尽きました。
「おやおや、今日で最後の日なのか。可哀想に。」
やがて力尽きたセミは、最後の声をだし終えると、静かに木から落ちていきました。
「頑張ったな。ミーンミンミン」
それでもセミは、元気に鳴いています。
水曜日、やっぱり元気に鳴いています。
「ミーンミンミン。今日は人が多いなぁ。」
公園は、たくさんの人で賑わっています。
「こんにちは。あなたとっても大きな声なのね。素敵だわ」
セミの隣に、1匹のかわいいセミが止まりました。
「おい、ここは俺の特等席だ。あっちへ行ってくれ」
「まあまあ、少しくらいいいじゃない。お話しましょう」
セミにお友達が出来ました。
セミは、元気に鳴いています。
木曜日、今日も元気に鳴いています。
「ミーンミンミン。ミーンミンミン。」
「ほんとに大きな声ね。うっとりしちゃうわ。」
「当たり前さ。この公園で一番大きいのはこの俺だからな」
「ところで、あなた何日目?」
「4日目さ。でも、まだまだ元気だぜ」
「私と一緒ね!もしよかったら、残りの3日間、あなたと過ごしてもいいかしら?」
「…ふんっ。勝手にしてくれ」
セミは、少し恥ずかしそうに、それでも元気に鳴いています。
金曜日、セミはまだまだ元気に鳴いています。
「ミーンミンミン。おや?また来たな」
「あれはなあに?」
「セミ取りをする子供たちだ。見つかったら、すぐに捕まってしまうから気をつけろ。まあ、これだけ高いところに入れば安全だがな」
「子供って無邪気で可愛いわよね。」
「そんなはずない。あいつらは俺たちの仲間を捕まえてるんだ。悪い奴らに決まってる」
「そうかしら…」
セミは、元気に鳴いています。
土曜日、セミは元気に鳴いています。
「ミーンミンミン。ミーンミンミンミン。」
しかし、もう1匹のセミは元気がありません。
「おい、どうしたんだ?」
「…私、あなたに嘘をついていたわ。」
「嘘?」
「私ね、今日で最期なの。」
もう1匹のセミは、悲しそう声で鳴いています。
「そうか。」
大きなセミは冷たく一言言い放ち、気にせず元気に鳴きました。
「…やっぱり大きな声ね。あなたと一緒にいれて楽しかったわ。ありがとう」
もう1匹のセミは、だんだんと元気が無くなっていきます。
やがて、声を出すことも出来なくなり、そっと目を閉じました。
まるで眠っているかのように、大人しく、優しい顔でした。
セミは、落ちていくもう1匹のセミを見ず、いつもよりも大きな声で泣きました。
日曜日、セミは1人になりました。
「ミーンミン。ミーン。」
朝から声があまり出ません。
「ミーン。ミンミン。ミーン。」
大きな声で響いていたセミの声も、子供たちの声によってかき消されるようになってしまいました。
「俺も、ここまでか…。」
セミは、1週間の出来事を振り返り、少し微笑みました。
「…楽しかったなぁ。」
賑わう公園に溢れる音、小さな子供たちの声、セミたちの鳴き声、色んなことを思い出しました。
そして、もう1匹のセミとの思い出。
「悔いはない。あとは…」
セミは、もう1匹のセミが止まっていた場所を優しくさすり、そして今までよりも大きな声で鳴きました。
「わぁ!あそこに大きなセミが止まってるよ!」
「すっごい大きい声だねー!!」
公園にいる人々の視線が、セミに集まりました。
他のセミたちも、その美しい声に思わず見とれてしまい、自分は鳴くのを忘れてしまう程でした。
セミの声は、だんだんと小さくなり、やがて何も言わなくなりました。
「ママ、あのセミ、死んじゃったのかな?」
「そうね。でも、かっこよかったわね」
「うん!すっごい大きな声だった!」
「きっと、残ったセミたちに、あとは任せたぞって言ったんだと思うよ。」
「確かに!さっきよりもセミたちの声大きくなったもんね!」
「ええ。きっと、みんな一生懸命に生きようと思えたんだわ」
「すごいねぇ~」
公園のセミたちは、あの大きな声で鳴くセミに負けないように、みんなで大きな声で鳴き続けました。
夏の終わりに近づき、最後の1匹になっても、元気に鳴いていました。
まるで、そのセミを弔うかのように…。
そして、次の夏。
またこの公園に新しい命が生まれました。
大きな体の、大きな声で鳴く、たくましいセミ。
そう、あのセミの子供が、誕生したのでした。
父と母の願い通り、大きく育った我が子を、2人して空から眺めているのでした。
そこで、ひとつの命が生まれた。
ミーンミーンミンミンミン
とっても大きなミンミンゼミ。
この公園の、どのセミよりも体が大きい。
一番大きな木のてっぺんに止まり、公園を見渡しながら一番大きな声で鳴いています。
そのセミは、いつもそこで鳴いていました。
月曜日、セミは元気に鳴いています。
「ミーンミンミン。今日も暑くていい天気だなぁ」
セミは大きな声で、自由に鳴いています。
「セミだセミだ!あっちにもいる!」
小さな子供たちが、セミ取りをしています。
「あーあ、可哀想に。捕まったら虫かごに入れられて、自由なんてないぞ。」
セミを沢山捕まえた子供たちは、嬉しそうに帰っていきました。
捕まったセミたちは、ジジジッと静かに鳴いています。
「さようなら。ミーンミンミン」
それでもセミは、元気に鳴いています。
火曜日、今日も元気に鳴いています。
「ミーンミンミン。今日は風が吹いて気持ちいいなぁ。」
公園には、優しい穏やかな風が流れます。
「ジジジッ…」
「ん?どうしたんだ?」
セミが止まっている木の下の方で、1匹のセミが力尽きました。
「おやおや、今日で最後の日なのか。可哀想に。」
やがて力尽きたセミは、最後の声をだし終えると、静かに木から落ちていきました。
「頑張ったな。ミーンミンミン」
それでもセミは、元気に鳴いています。
水曜日、やっぱり元気に鳴いています。
「ミーンミンミン。今日は人が多いなぁ。」
公園は、たくさんの人で賑わっています。
「こんにちは。あなたとっても大きな声なのね。素敵だわ」
セミの隣に、1匹のかわいいセミが止まりました。
「おい、ここは俺の特等席だ。あっちへ行ってくれ」
「まあまあ、少しくらいいいじゃない。お話しましょう」
セミにお友達が出来ました。
セミは、元気に鳴いています。
木曜日、今日も元気に鳴いています。
「ミーンミンミン。ミーンミンミン。」
「ほんとに大きな声ね。うっとりしちゃうわ。」
「当たり前さ。この公園で一番大きいのはこの俺だからな」
「ところで、あなた何日目?」
「4日目さ。でも、まだまだ元気だぜ」
「私と一緒ね!もしよかったら、残りの3日間、あなたと過ごしてもいいかしら?」
「…ふんっ。勝手にしてくれ」
セミは、少し恥ずかしそうに、それでも元気に鳴いています。
金曜日、セミはまだまだ元気に鳴いています。
「ミーンミンミン。おや?また来たな」
「あれはなあに?」
「セミ取りをする子供たちだ。見つかったら、すぐに捕まってしまうから気をつけろ。まあ、これだけ高いところに入れば安全だがな」
「子供って無邪気で可愛いわよね。」
「そんなはずない。あいつらは俺たちの仲間を捕まえてるんだ。悪い奴らに決まってる」
「そうかしら…」
セミは、元気に鳴いています。
土曜日、セミは元気に鳴いています。
「ミーンミンミン。ミーンミンミンミン。」
しかし、もう1匹のセミは元気がありません。
「おい、どうしたんだ?」
「…私、あなたに嘘をついていたわ。」
「嘘?」
「私ね、今日で最期なの。」
もう1匹のセミは、悲しそう声で鳴いています。
「そうか。」
大きなセミは冷たく一言言い放ち、気にせず元気に鳴きました。
「…やっぱり大きな声ね。あなたと一緒にいれて楽しかったわ。ありがとう」
もう1匹のセミは、だんだんと元気が無くなっていきます。
やがて、声を出すことも出来なくなり、そっと目を閉じました。
まるで眠っているかのように、大人しく、優しい顔でした。
セミは、落ちていくもう1匹のセミを見ず、いつもよりも大きな声で泣きました。
日曜日、セミは1人になりました。
「ミーンミン。ミーン。」
朝から声があまり出ません。
「ミーン。ミンミン。ミーン。」
大きな声で響いていたセミの声も、子供たちの声によってかき消されるようになってしまいました。
「俺も、ここまでか…。」
セミは、1週間の出来事を振り返り、少し微笑みました。
「…楽しかったなぁ。」
賑わう公園に溢れる音、小さな子供たちの声、セミたちの鳴き声、色んなことを思い出しました。
そして、もう1匹のセミとの思い出。
「悔いはない。あとは…」
セミは、もう1匹のセミが止まっていた場所を優しくさすり、そして今までよりも大きな声で鳴きました。
「わぁ!あそこに大きなセミが止まってるよ!」
「すっごい大きい声だねー!!」
公園にいる人々の視線が、セミに集まりました。
他のセミたちも、その美しい声に思わず見とれてしまい、自分は鳴くのを忘れてしまう程でした。
セミの声は、だんだんと小さくなり、やがて何も言わなくなりました。
「ママ、あのセミ、死んじゃったのかな?」
「そうね。でも、かっこよかったわね」
「うん!すっごい大きな声だった!」
「きっと、残ったセミたちに、あとは任せたぞって言ったんだと思うよ。」
「確かに!さっきよりもセミたちの声大きくなったもんね!」
「ええ。きっと、みんな一生懸命に生きようと思えたんだわ」
「すごいねぇ~」
公園のセミたちは、あの大きな声で鳴くセミに負けないように、みんなで大きな声で鳴き続けました。
夏の終わりに近づき、最後の1匹になっても、元気に鳴いていました。
まるで、そのセミを弔うかのように…。
そして、次の夏。
またこの公園に新しい命が生まれました。
大きな体の、大きな声で鳴く、たくましいセミ。
そう、あのセミの子供が、誕生したのでした。
父と母の願い通り、大きく育った我が子を、2人して空から眺めているのでした。
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