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ハロウィン列車
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ここは、こわ~いおばけが住む、おばけの世界。
死んじゃった魂が形を変えて、おばけの世界にやってきます。
頭から足の先まで包帯だらけのミイラや、
目が3つもある、3つ目の黒猫や、
体が透けて見える、透明人間。
色んなおばけが集まって、暮らしています。
チリンチリン、チリンチリン。
「ほ~ら、出発するぞ~!」
車掌の帽子をかぶったガイコツ男が、元気よく叫びます。
「みんな乗ったか~?忘れ物はないか~?」
おばけの駅では、色んなおばけたちがワイワイガヤガヤ騒いでいました。
今日は、年に一度のハロウィンの日です。
おばけの世界のルールでは、ハロウィンになると現世に遊びに行くことが許されます。
おばけたちの目的は、もちろん現世のみんなを驚かせること。
この日のために、おばけたちは驚かせる練習を毎日していました。
一部のおばけを除いては…。
「いたずら隊はこっち~!会い隊はこっち~!帰り隊はこっちの列車に乗ってくださ~い!」
車掌のガイコツ男は、グラグラの腕を外し、
細い指を矢印代わりにして、みんなを案内します。
3種類の列車には、それぞれ意味があります。
いたずら隊列車は、現世でいたずらしたいおばけが乗る列車。
会い隊列車は、現世で会いたい人がいるおばけが乗る列車。
帰り隊列車は、おばけの世界にさよならをして、もう一度現世で生まれたいおばけが乗る列車。
おばけたちは自分のやりたいことにあった列車に乗り込みます。
「急いで急いで~!すぐに出発するよ~!」
ガイコツ男はとっても忙しそう。
「え~っと…僕の列車は…」
ここにも、ハロウィンを楽しもうとするおばけがいました。
白いボロ布を被って、片手に切符をもった小さなおばけ。
ボロ布の隅っこに、小さな文字で「カール」と名前が書いてあります。
カールの姿はまるで、子供のおばけに見えます。
「あ、あった!この列車に乗れば、またみんなに会えるのかなぁ…」
カールが乗る列車は、会い隊列車。
カールには、会いたい人がいるのです。
カールは元々、元気な男の子に飼われていた犬でした。
男の子の家族はみんな優しくて、お父さんも、お母さんも、カールをとても愛してくれました。
ある雨の日、カールは男の子と朝の散歩に出かけていました。
雨で前がよく見えなかったので、カールは男の子の前を歩いていました。
「雨が強くなってきたから、早めに帰ろう。」
男の子はカールにそう言って、早めに散歩を終えて帰ろうとしました。
帰り道、さらに雨が強くなり、男の子はカールを抱きかかえて走り出しました。
雨のせいで前が見えず、男の子は横断歩道の赤信号に気が付きませんでした。
「危ない!!」
男の子が赤信号を渡った時、横から自動車が走ってきました。
カールは男の子の腕をするりと抜け、4本の足で男の子を突き飛ばしました。
男の子は助かったけれど、カールは自動車に轢かれて死んでしまいました。
「男の子、元気かなぁ。ぼくのこと、忘れてないかなぁ。」
カールはどうしても男の子に会いたくて、おばけの姿になって会いに行くことにしました。
「それでは、現世に向かって出発しま~す!」
ガイコツ男はハンドルを握り、現世へ向かって列車を動かしました。
おばけたちは、列車の中でウキウキそわそわしながら、到着を待ちました。
「まずは、いたずら隊列車の到着で~す!」
いたずら隊列車が到着すると、いたずら好きそうなおばけ達がゾロゾロと降りてきました。
「へへへ、今年もいっぱい脅かしてやるぞ~」
「それでそれで、お菓子をいっぱい貰うんだよね」
「仮装してる子供たちと一緒に遊ぶのも楽しいよね!」
「おれは子供たちを泣かせるのがだ~いすきなんだ!」
いたずら隊列車のおばけたちは、みんなワクワクが抑えられないようで、イキイキとしています。おばけなのにね。
「それでは皆さん、いってらっしゃ~い!」
ガイコツ男が合図をすると、いたずら隊列車のおばけたちは、一斉に街へ走っていきました。
街の方からは、すぐに悲鳴と泣き声と、それと笑い声も聞こえてきました。
「トリックオアトリートー!お菓子をくれても、いたずらするぞ~!」
おばけたちは街を飛び回ったり、街中の扉を叩いて回ったり、仮装してる子供たちにいたずらしたりして、ハロウィンの夜を楽しんでいるようでした。
「続いては、帰り隊の到着で~す!」
帰り隊のおばけたちは、ゆっくりと落ち着いた様子で列車を降りてきます。
ガイコツ男の後ろに並んで、かぼちゃで出来た大きな門の前まで歩きました。
「この門をくぐれば、新しい魂に生まれ変わって、また現世で暮らせますよ~!」
ガイコツ男の案内を聞いて、帰り隊のおばけたちは嬉しそうにうなずいていました。
そして、ゆっくりと門をくぐると、新しい魂となって街のどこかえと消えて行きました。
「みなさん、お幸せに~!ハッピーハロウィ~ン!」
カールの乗る会い隊列車からも、街が見えてきました。
「ぼくの街が見えてきたぞ。懐かしいなぁ。」
「まもなく到着しま~す!みなさん、座ってお待ちくださ~い!」
ガイコツ男のアナウンスが、静かな列車に響きます。
「さあさあ!会い隊列車の到着で~す!」
カールが列車を降りると、街からは先に着いたいたずら隊の声と、街の人達の笑い声が聞こえてきました。
「会い隊列車のみなさんは、ここから自由に会いたい人に会いに行けま~す!」
ガイコツ男は楽しげに案内をします。
会い隊列車のおばけたちからは、わくわくと緊張が伝わってきます。
「ただし!夜が明ける前には必ず帰ってきてください!もし約束を破ってしまうと、さまよう魂となって、現世にもおばけの世界にも戻って来られなくなってしまいま~す!」
ガイコツ男は説明を終えると、列車に乗り込み、おばけ達に手を振って帰っていきました。
カールは早速街へ、自分の家へ向かいました。
「懐かしい。何もかも懐かしい。ぼくの好きな街だ。」
カールは久しぶりに見る街の光景に感動していました。
好きだった噴水広場。よく遊んだ公園。街の香り。
男の子との思い出がふつふつとよみがえってきます。
カールは街を眺めながら、男の子の家へと向かいます。
「あ、あった!ぼくのおうちだ!」
カールと男の子の家は、昔と変わらずそこにありました。
カールが走り出そうとした時、いたずら隊のおばけたちが男の子の家へとやってきました。
「次はこの家にしよう!どんな顔するかな~?」
「はやくはやく!お菓子もらおうよ!」
「よ~し、じゃあ扉を叩くぞ!」
いたずら隊のおばけたちは、男の子の家の扉を強く叩きました。
「トリックオアトリート!お菓子をよこせ~!」
いたずら隊のおばけたちは、乱暴に扉を叩きます。
「わ~ん!こわいよ~!」
家の中から、男の子の懐かしい声が聞こえました。
「あ!あの子の声だ!」
カールは嬉しくなりました。
しかし男の子は、あんまり楽しくなさそうでした。
「わっはっは!よく泣いてるな!」
「早くお菓子よこせ~!」
いたずら隊のおばけたちは、泣いてる男の子に構わずいたずらし続けます。
「え~ん!え~ん!これあげるから、あっち行け~!」
どうやら男の子は、おばけが苦手な様子。
いたずら隊のおばけたちは、楽しそうに笑いながら、男の子からお菓子を取り上げました。
そうして満足すると、また別の子供の元へいたずらをしに行きました。
「すごく泣いてたけど、大丈夫かなぁ…?」
カールは男の子が心配になりました。
他のおばけが居なくなったのをみて、カールは男の子の家に近づきました。
扉の前で一息ついて、緊張しながらチャイムを鳴らしました。
ピンポ~ン。
「うわぁ~ん!!」
チャイムが鳴ると、再び男の子の泣き声が聞こえてきました。
「え!どうしたんだろう!」
カールはびっくりして、すこし後ずさりしました。
少し待っていると、家の扉が開きました。
「おばけなんて、あっちへ行け!これあげるからもう来ないで!」
少し空いた扉の隙間から、男の子はカールに向かってお菓子を投げつけました。
カールはびっくりして、お菓子を落としてしまいました。
「ちょ、ちょっと待って!ぼくだよ!カールだよ!」
「うそだうそだ!カールはおばけなんかじゃない!お化けなんてみんな嫌いだ!早くあっちへいけ!」
カールはいくら声をかけても、男の子には届きません。
男の子はカールの言うことを信じてくれませんでした。
「はぁ…」
カールは落ち込んでしまい、近くのベンチで座っていました。
男の子に貰ったお菓子を、じっと眺めていました。
「また、お話したかったな…。」
カールはなんだか、涙が出てきてしまいました。
すると、さっきのいたずら隊のおばけ達が、また男の子の家にやってくるのが見えました。
「ねえねえ、もう1回ここの家行こうよ!」
「そうだな!いい泣きっぷりで最高だったよな!」
「またお菓子奪っちゃうぞ~!」
いたずら隊のおばけたちは、また男の子の家へ行こうと企んでいるようでした。
そして、ドンドンドン!と、また扉を強く叩き始めました。
「トリックオアトリート!また来てやったぞー!」
おばけたちが扉を叩くと、また男の子の泣き声が聞こえてきました。
「早く扉をあけろ~!お菓子をよこせ~!」
「もういやだよ~!え~ん!」
男の子は、ゆっくりと扉を開けて出てきました。
「よく泣いて面白いぞ~!」
「わっはっは!もっともっと泣け~!」
おばけたちは大盛り上がり。
男の子が泣いていてもとっても楽しそう。
「や、やめろよ!」
見ていたカールはいてもたってもいられず、
いたずら隊のおばけ達に叫んでいました。
「なんだよ?ちっさいおばけだな!」
「楽しいところなんだから、邪魔するなよ~!」
「そうだそうだ~!」
いたずら隊のおばけたちは、カールに向かって言いました。
「その子はおばけが苦手なんだよ!怖がってるからやめてあげてよ!」
カールは勇気を振り絞って、おばけたちに言いました。
おばけたちはカールを見つめます。
男の子も、カールを見つめていました。
「ちぇっ。なんだよ。冷めちまったな。」
「邪魔しちゃってさ。ふんっ。」
いたずらおばけたちは、不満げに去っていきました。
「はぁ、よかった~。」
カールは一安心。男の子を守ることが出来ました。
「おばけのみなさ~ん!そろそろ帰る時間ですよ~!元の場所に集まってくださ~い!遅れたら置いていっちゃいますよ~!」
ガイコツ男のアナウンスが、街にひびきます。
「はっ!もうこんな時間!急いで帰らなくちゃ!」
カールは男の子に貰ったお菓子をもって、急いで帰ります。
「ま、まって!」
すると、男の子がカールを呼び止めました。
「助けてくれて、ありがとう…。
もしかしてきみ、ほんとにカールなの?」
男の子はじっとカールを見つめています。
「…うん。ぼくだよ。カールだよ。」
カールも震えた声で答えます。
「カール!カールだよ!帰ってきたんだよ!」
カールは男の子の元へ走り、強く抱きしめました。
「カールだ!カールが帰ってきたんだー!」
男の子はまた泣いて、カールを強く抱きしめ返しました。
カールもまた、泣きました。
「会いに来てくれたんだね、カール。ぼくの大好きなカール!」
男の子はわんわん泣いて、カールもわんわん泣きました。
「おばけのみなさ~ん!出発の時間ですよ~!まだの街にいるおばけは早く戻ってきてくださ~い!」
ガイコツ男のアナウンスが、再び流れます。
「ぼく、もう帰らなくちゃ…」
カールが寂しげに呟きます。
男の子は、カールの目を見つめ、頭を撫でてくれました。
「カール。来年、また来てくれる?また、一緒に遊べる?」
「…もちろん!」
カールは大きくうなづいて、また男の子に抱きつきました。
「会えてよかった!ぼく、来年もまた来るからね!絶対絶対、会いに来るから!」
カールは男の子に別れを告げ、また来年来ることを約束しました。
男の子はカールが見えなくなるまで、ずっと大きく手を振り続けていました。
列車に戻ると、嬉しそうな顔をしたおばけたちが沢山いました。
お菓子を沢山持ってるおばけや、思い出の品をぎゅっと握ってるおばけ。
みんなそれぞれの思い出を握りしめて、
会い隊列車はおばけの世界へと帰っていきました。
「また来年、来るからね。」
カールは列車の中から手を振って、おばけの世界へと帰っていきました。
死んじゃった魂が形を変えて、おばけの世界にやってきます。
頭から足の先まで包帯だらけのミイラや、
目が3つもある、3つ目の黒猫や、
体が透けて見える、透明人間。
色んなおばけが集まって、暮らしています。
チリンチリン、チリンチリン。
「ほ~ら、出発するぞ~!」
車掌の帽子をかぶったガイコツ男が、元気よく叫びます。
「みんな乗ったか~?忘れ物はないか~?」
おばけの駅では、色んなおばけたちがワイワイガヤガヤ騒いでいました。
今日は、年に一度のハロウィンの日です。
おばけの世界のルールでは、ハロウィンになると現世に遊びに行くことが許されます。
おばけたちの目的は、もちろん現世のみんなを驚かせること。
この日のために、おばけたちは驚かせる練習を毎日していました。
一部のおばけを除いては…。
「いたずら隊はこっち~!会い隊はこっち~!帰り隊はこっちの列車に乗ってくださ~い!」
車掌のガイコツ男は、グラグラの腕を外し、
細い指を矢印代わりにして、みんなを案内します。
3種類の列車には、それぞれ意味があります。
いたずら隊列車は、現世でいたずらしたいおばけが乗る列車。
会い隊列車は、現世で会いたい人がいるおばけが乗る列車。
帰り隊列車は、おばけの世界にさよならをして、もう一度現世で生まれたいおばけが乗る列車。
おばけたちは自分のやりたいことにあった列車に乗り込みます。
「急いで急いで~!すぐに出発するよ~!」
ガイコツ男はとっても忙しそう。
「え~っと…僕の列車は…」
ここにも、ハロウィンを楽しもうとするおばけがいました。
白いボロ布を被って、片手に切符をもった小さなおばけ。
ボロ布の隅っこに、小さな文字で「カール」と名前が書いてあります。
カールの姿はまるで、子供のおばけに見えます。
「あ、あった!この列車に乗れば、またみんなに会えるのかなぁ…」
カールが乗る列車は、会い隊列車。
カールには、会いたい人がいるのです。
カールは元々、元気な男の子に飼われていた犬でした。
男の子の家族はみんな優しくて、お父さんも、お母さんも、カールをとても愛してくれました。
ある雨の日、カールは男の子と朝の散歩に出かけていました。
雨で前がよく見えなかったので、カールは男の子の前を歩いていました。
「雨が強くなってきたから、早めに帰ろう。」
男の子はカールにそう言って、早めに散歩を終えて帰ろうとしました。
帰り道、さらに雨が強くなり、男の子はカールを抱きかかえて走り出しました。
雨のせいで前が見えず、男の子は横断歩道の赤信号に気が付きませんでした。
「危ない!!」
男の子が赤信号を渡った時、横から自動車が走ってきました。
カールは男の子の腕をするりと抜け、4本の足で男の子を突き飛ばしました。
男の子は助かったけれど、カールは自動車に轢かれて死んでしまいました。
「男の子、元気かなぁ。ぼくのこと、忘れてないかなぁ。」
カールはどうしても男の子に会いたくて、おばけの姿になって会いに行くことにしました。
「それでは、現世に向かって出発しま~す!」
ガイコツ男はハンドルを握り、現世へ向かって列車を動かしました。
おばけたちは、列車の中でウキウキそわそわしながら、到着を待ちました。
「まずは、いたずら隊列車の到着で~す!」
いたずら隊列車が到着すると、いたずら好きそうなおばけ達がゾロゾロと降りてきました。
「へへへ、今年もいっぱい脅かしてやるぞ~」
「それでそれで、お菓子をいっぱい貰うんだよね」
「仮装してる子供たちと一緒に遊ぶのも楽しいよね!」
「おれは子供たちを泣かせるのがだ~いすきなんだ!」
いたずら隊列車のおばけたちは、みんなワクワクが抑えられないようで、イキイキとしています。おばけなのにね。
「それでは皆さん、いってらっしゃ~い!」
ガイコツ男が合図をすると、いたずら隊列車のおばけたちは、一斉に街へ走っていきました。
街の方からは、すぐに悲鳴と泣き声と、それと笑い声も聞こえてきました。
「トリックオアトリートー!お菓子をくれても、いたずらするぞ~!」
おばけたちは街を飛び回ったり、街中の扉を叩いて回ったり、仮装してる子供たちにいたずらしたりして、ハロウィンの夜を楽しんでいるようでした。
「続いては、帰り隊の到着で~す!」
帰り隊のおばけたちは、ゆっくりと落ち着いた様子で列車を降りてきます。
ガイコツ男の後ろに並んで、かぼちゃで出来た大きな門の前まで歩きました。
「この門をくぐれば、新しい魂に生まれ変わって、また現世で暮らせますよ~!」
ガイコツ男の案内を聞いて、帰り隊のおばけたちは嬉しそうにうなずいていました。
そして、ゆっくりと門をくぐると、新しい魂となって街のどこかえと消えて行きました。
「みなさん、お幸せに~!ハッピーハロウィ~ン!」
カールの乗る会い隊列車からも、街が見えてきました。
「ぼくの街が見えてきたぞ。懐かしいなぁ。」
「まもなく到着しま~す!みなさん、座ってお待ちくださ~い!」
ガイコツ男のアナウンスが、静かな列車に響きます。
「さあさあ!会い隊列車の到着で~す!」
カールが列車を降りると、街からは先に着いたいたずら隊の声と、街の人達の笑い声が聞こえてきました。
「会い隊列車のみなさんは、ここから自由に会いたい人に会いに行けま~す!」
ガイコツ男は楽しげに案内をします。
会い隊列車のおばけたちからは、わくわくと緊張が伝わってきます。
「ただし!夜が明ける前には必ず帰ってきてください!もし約束を破ってしまうと、さまよう魂となって、現世にもおばけの世界にも戻って来られなくなってしまいま~す!」
ガイコツ男は説明を終えると、列車に乗り込み、おばけ達に手を振って帰っていきました。
カールは早速街へ、自分の家へ向かいました。
「懐かしい。何もかも懐かしい。ぼくの好きな街だ。」
カールは久しぶりに見る街の光景に感動していました。
好きだった噴水広場。よく遊んだ公園。街の香り。
男の子との思い出がふつふつとよみがえってきます。
カールは街を眺めながら、男の子の家へと向かいます。
「あ、あった!ぼくのおうちだ!」
カールと男の子の家は、昔と変わらずそこにありました。
カールが走り出そうとした時、いたずら隊のおばけたちが男の子の家へとやってきました。
「次はこの家にしよう!どんな顔するかな~?」
「はやくはやく!お菓子もらおうよ!」
「よ~し、じゃあ扉を叩くぞ!」
いたずら隊のおばけたちは、男の子の家の扉を強く叩きました。
「トリックオアトリート!お菓子をよこせ~!」
いたずら隊のおばけたちは、乱暴に扉を叩きます。
「わ~ん!こわいよ~!」
家の中から、男の子の懐かしい声が聞こえました。
「あ!あの子の声だ!」
カールは嬉しくなりました。
しかし男の子は、あんまり楽しくなさそうでした。
「わっはっは!よく泣いてるな!」
「早くお菓子よこせ~!」
いたずら隊のおばけたちは、泣いてる男の子に構わずいたずらし続けます。
「え~ん!え~ん!これあげるから、あっち行け~!」
どうやら男の子は、おばけが苦手な様子。
いたずら隊のおばけたちは、楽しそうに笑いながら、男の子からお菓子を取り上げました。
そうして満足すると、また別の子供の元へいたずらをしに行きました。
「すごく泣いてたけど、大丈夫かなぁ…?」
カールは男の子が心配になりました。
他のおばけが居なくなったのをみて、カールは男の子の家に近づきました。
扉の前で一息ついて、緊張しながらチャイムを鳴らしました。
ピンポ~ン。
「うわぁ~ん!!」
チャイムが鳴ると、再び男の子の泣き声が聞こえてきました。
「え!どうしたんだろう!」
カールはびっくりして、すこし後ずさりしました。
少し待っていると、家の扉が開きました。
「おばけなんて、あっちへ行け!これあげるからもう来ないで!」
少し空いた扉の隙間から、男の子はカールに向かってお菓子を投げつけました。
カールはびっくりして、お菓子を落としてしまいました。
「ちょ、ちょっと待って!ぼくだよ!カールだよ!」
「うそだうそだ!カールはおばけなんかじゃない!お化けなんてみんな嫌いだ!早くあっちへいけ!」
カールはいくら声をかけても、男の子には届きません。
男の子はカールの言うことを信じてくれませんでした。
「はぁ…」
カールは落ち込んでしまい、近くのベンチで座っていました。
男の子に貰ったお菓子を、じっと眺めていました。
「また、お話したかったな…。」
カールはなんだか、涙が出てきてしまいました。
すると、さっきのいたずら隊のおばけ達が、また男の子の家にやってくるのが見えました。
「ねえねえ、もう1回ここの家行こうよ!」
「そうだな!いい泣きっぷりで最高だったよな!」
「またお菓子奪っちゃうぞ~!」
いたずら隊のおばけたちは、また男の子の家へ行こうと企んでいるようでした。
そして、ドンドンドン!と、また扉を強く叩き始めました。
「トリックオアトリート!また来てやったぞー!」
おばけたちが扉を叩くと、また男の子の泣き声が聞こえてきました。
「早く扉をあけろ~!お菓子をよこせ~!」
「もういやだよ~!え~ん!」
男の子は、ゆっくりと扉を開けて出てきました。
「よく泣いて面白いぞ~!」
「わっはっは!もっともっと泣け~!」
おばけたちは大盛り上がり。
男の子が泣いていてもとっても楽しそう。
「や、やめろよ!」
見ていたカールはいてもたってもいられず、
いたずら隊のおばけ達に叫んでいました。
「なんだよ?ちっさいおばけだな!」
「楽しいところなんだから、邪魔するなよ~!」
「そうだそうだ~!」
いたずら隊のおばけたちは、カールに向かって言いました。
「その子はおばけが苦手なんだよ!怖がってるからやめてあげてよ!」
カールは勇気を振り絞って、おばけたちに言いました。
おばけたちはカールを見つめます。
男の子も、カールを見つめていました。
「ちぇっ。なんだよ。冷めちまったな。」
「邪魔しちゃってさ。ふんっ。」
いたずらおばけたちは、不満げに去っていきました。
「はぁ、よかった~。」
カールは一安心。男の子を守ることが出来ました。
「おばけのみなさ~ん!そろそろ帰る時間ですよ~!元の場所に集まってくださ~い!遅れたら置いていっちゃいますよ~!」
ガイコツ男のアナウンスが、街にひびきます。
「はっ!もうこんな時間!急いで帰らなくちゃ!」
カールは男の子に貰ったお菓子をもって、急いで帰ります。
「ま、まって!」
すると、男の子がカールを呼び止めました。
「助けてくれて、ありがとう…。
もしかしてきみ、ほんとにカールなの?」
男の子はじっとカールを見つめています。
「…うん。ぼくだよ。カールだよ。」
カールも震えた声で答えます。
「カール!カールだよ!帰ってきたんだよ!」
カールは男の子の元へ走り、強く抱きしめました。
「カールだ!カールが帰ってきたんだー!」
男の子はまた泣いて、カールを強く抱きしめ返しました。
カールもまた、泣きました。
「会いに来てくれたんだね、カール。ぼくの大好きなカール!」
男の子はわんわん泣いて、カールもわんわん泣きました。
「おばけのみなさ~ん!出発の時間ですよ~!まだの街にいるおばけは早く戻ってきてくださ~い!」
ガイコツ男のアナウンスが、再び流れます。
「ぼく、もう帰らなくちゃ…」
カールが寂しげに呟きます。
男の子は、カールの目を見つめ、頭を撫でてくれました。
「カール。来年、また来てくれる?また、一緒に遊べる?」
「…もちろん!」
カールは大きくうなづいて、また男の子に抱きつきました。
「会えてよかった!ぼく、来年もまた来るからね!絶対絶対、会いに来るから!」
カールは男の子に別れを告げ、また来年来ることを約束しました。
男の子はカールが見えなくなるまで、ずっと大きく手を振り続けていました。
列車に戻ると、嬉しそうな顔をしたおばけたちが沢山いました。
お菓子を沢山持ってるおばけや、思い出の品をぎゅっと握ってるおばけ。
みんなそれぞれの思い出を握りしめて、
会い隊列車はおばけの世界へと帰っていきました。
「また来年、来るからね。」
カールは列車の中から手を振って、おばけの世界へと帰っていきました。
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