ゆうたくんは、わからない。

るい

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わからない。

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「先生~!ゆうたくんがまた悪口いった~!」

「こら!ゆうたくん!悪口はいっちゃだめって何回も言ってるでしょ!悪口を言われたあいなちゃんがどんな気持ちがわかる?!」

「わからない。」



ゆうたくんは、小学1年生の男の子。
一見みんなと変わらない普通の男の子。みんなと遊んで、みんなと勉強して、みんなと給食を食べる。普通の男の子。
でも、ゆうたくんには ’’気持ち’’ がわからない



「先生!ゆうたくんに叩かれた~!」

「こら!また叩いたの?人は叩いちゃダメって言ったでしょ!」

「うん。」

「叩かれたら痛い思いをするの、ゆうたくんも痛いことされたら嫌でしょ?」

「う~ん、わからない。」





他の日、ゆうたくんはお友達の教科書に落書きをしちゃった。

「先生~!ゆうたくんに落書きされた~!」

「ゆうたくん!勝手に落書きしちゃダメでしょ!こんなに汚しちゃって…どうするのこれ!」

「う~ん、」

「人の物に落書きしちゃダメなの。自分のものを汚されたらゆうたくんも嫌でしょ?」

「う~ん、わからない。」





また他の日、ゆうたくんはアリの大群を指で一つ一つ潰して、殺した。

「ゆうたくん、アリさんをいじめないで!」

「どうして?」

「アリさんも生きてるの、家族がいるのよ。ゆうたくんもお母さんとお父さんが死んじゃったら嫌でしょ?」

「う~ん、わからない。」




またまた他の日、ゆうたくんはお友達の手を鉛筆で刺しちゃった。

「先生~!痛いよ~!」

「ゆうたくん!何してるの!」

お友達の手から血がたくさん出ていた。
ゆうたくんはそれをじっと見つめていた。

「痛いよ~!」

お友達は大泣き、ゆうたくんはだんまり。

「ゆうたくん、どうしてこんなことをするの?こんなに痛がってるのよ。こんなことしちゃダメでしょ?」

「う~ん、そうかなぁ…」

先生は、ゆうたくんの頬をぶった。

「ゆうたくん、これが痛いってこと、わかる!?」

先生は泣きながらゆうたくんに訴えた。

「う~ん、わからない。」





ゆうたくんは家に帰って、お母さんとお話した。

「お母さん、痛いって何?嫌って何?」

お母さんはゆうたくんの方を向いてこう言いました。

「わからないわ。」





次の日、ゆうたくんは学校のみんなで飼っているニワトリを殺した。

「ゆうたくん…なんてことをするの…」

「え?」

先生はまた、ゆうたくんをぶった。でも、今度は語りかけることも無く、ゆうたくんをぶっただけだった。

死んじゃったニワトリを、クラスのみんなで埋めた。
みんなは泣いていた。男の子も、女の子も、先生も泣いていた。ただ1人、ゆうたくんを除いて。





ゆうたくんのお母さんは先生に呼び出された。
2人でなにか話しをするみたい。


「お母さん、ゆうたくんは人の気持ちが分からないようです。この前はお友達をえんぴつで刺しました。その前は学校のニワトリを殺しました。一体どうなっているんですか?」

「そんなこと、私にはわからないわよ。」






それから、ゆうたくんが学校に行くと、ゆうたくんの上履きが無くなっていた。ゆうたくんは気にしなかった。

「おはよう。」

ゆうたくんが教室に入ると、誰も返事をしなかった。

「ねえねえ、あのさ…」

ゆうたくんが話しかけても、お友達はみんな返事をしませんでした。

「遊ぼうよ」

ゆうたくんが誘っても、誰も来ませんでした。


ゆうたくんは家に帰って、一人で遊びました。
宿題をやろうと教科書を開くと、そこにはいっぱい落書きがされてました。




ゆうたくんは、考えました。
なんだか頭の中が、モヤモヤでいっぱいになりました。
今日一日のことを思い返し、上履きを隠すのも、無視をするのも、仲間外れにするのもやめて欲しいと思いました。

「これが、’’嫌’’ってこと?」


ゆうたくんは自分のした事を思い返してみました。

叩いちゃったお友達も、アリさんも、落書きしちゃったお友達も、みんな嫌だったのかな…?


ゆうたくんは先生に叩かれた時のことを思い出した。
頬がじーんと熱くなり、ヒリヒリしたことを思い出した。


ゆうたくんはお母さんが居なくなったことを考えた。
すると、なんだか胸が苦しくなり、ゆうたくんは泣けてきました。


落書きは、自分が実際にされたから、嫌だとわかりました。



ゆうたくんは決めました。

「明日、みんなに謝ろう」



ゆうたくんは次の日、学校へ行くと朝の会でみんなに謝りました。
みんなは笑顔で許してくれました。先生も、泣きながら許してくれました。

ゆうたくんはニワトリのお墓に行き、ごめんなさいといい、泣きました。




それからゆうたくんは、心を入れ替えました。

喧嘩をしているお友達がいれば、人は叩いちゃダメだと説得し、喧嘩を止めました。


虫をいじめてる子がいれば、命の大切さを語りかけ、やめさせました。


こうしてゆうたくんは、立派な大人になっていくのでした…。


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