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Aくん
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僕のクラスには、Aくんという男の子が居た。
Aくんは物静かな子で、あまり喋らない。
Aくんは、夏休みが終わった頃に転校してきた。
最初はクラスのみんなで話しかけてたけど、Aくんは喋らなかった。
だから、みんな話しかけなくなった。
Aくんは、クラスに馴染めなくて、いつも机に座って一人でいた。
ある時、Aくんが忘れ物をした。
Aくんは教室の前で立たされて、先生に注意された。
先生が、忘れ物をした理由を聞いても、Aくんは答えなかった。
黙って下を向いて、何も言わなかった。
「Aくんってさ、口ないんじゃないの?それか、日本語がわからない外国人なんじゃないの?」
クラスのお調子者の男の子が、Aくんをからかった。
クラスのみんなで笑って、先生も笑ってた。
Aくんは顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにしてた。
先生はとうとう呆れだして、Aくんを席に座らせた。
Aくんは授業中、ずっと涙目で下を向いていた。
「なあ、お前、なんで喋らねーの?」
休み時間、お調子者の男の子がAくんに聞いた。
Aくんは答えなかった。
「おい、聞いてんのかよ。」
お調子者の男の子が、Aくんの肩を押した。
すると、Aくんは椅子と後ろへ一緒に倒れてしまった。
ガタン!ガタン!
大きな音が教室に響いた。
みんなの視線が、Aくんの方へ向いた。
「いて...」
Aくんは倒れた拍子に頭を打ったらしく、痛そうに頭を抑えてた。
「おいみんな!聞いたかよ!Aが喋った!」
お調子者の男の子は、Aくんの声を聞けたことを喜んだ。
クラスのみんなも、痛がってるAくんを心配することも無く、Aくんが喋ったことにびっくりしていた。
クラス中が、歓声に包まれた。
Aくんは黙って座り直して、またじっと下を向いていた。
その日から、クラスの男の子たちはAくんにちょっかいをかけるようになった。
「おいA!もっかい喋ってくれよ!」
Aくんが喋ったという噂は隣のクラスまで広がり、わざわざ見に来る人たちもいた。
お調子者の男の子達は、わざとAくんをたたいたり、驚かせたりして、Aくんの様子を見てみんなで笑っていた。
それでも、Aくんは何も言わなかった。
気づけばAくんは、毎日からかわれるようになった。
授業中、Aくんの椅子を引っ張って転ばせたり、
掃除中、Aくんにむかって雑巾を投げたり、
上履きや教科書を隠しては、困っているAくんをみて、
クラスのみんなで笑っていた。
給食の時間、男の子たちが鼻から牛乳を飲んでふざけ合っていた。
「わはは!なあ、Aもこれやってみろよ!」
静かに食べていたAくんの体が、一瞬跳ねた。
「え...」
「みんな!Aをおさえつけろ!」
お調子者の男の子がそう言うと、クラスの男の子たちでAくんの腕や足を抑えて、動けないように押さえつけた。
Aくんは、珍しく暴れていた。
「よーし、ちゃんと飲めよー」
ストローの先が、Aくんの鼻の中へ入っていく。
「うえぇ...」
Aくんから小さいうめき声が聞こえて、みんな喜んだ。みんなで笑った。
苦しそうに咳き込むAくんを見て、みんな笑った。
Aくんは、初めて声を出して泣いていた。
冬休みに入り、クラスのみんなはそれぞれ休みを楽しんだ。
年が明け、また学校が始まると、クラスにAくんの席がなかった。
「先生ー、Aは?」
クラスの男の子が聞いた。
「Aは転校した。家庭の事情だそうだ。」
先生がそう言ったっきり、Aくんの話は終わった。
1ヶ月も経てば、誰も、Aくんの話をしなくなった。
しばらくして、クラスで変なことが起こるようになった。
「わあ!」
お調子者の男の子が、授業中にいきなり大きな声を出した。
みんなが見てみると、男の子はいすごと後ろに倒れて、頭を打っていた。
「いてて...おい、なにするんだよ!」
男の子は後ろを見ると、誰もいない。
男の子も、クラスのみんなも、驚いた。
男の子は1番後ろの席で、後ろには誰もいない。誰も男の子のいすを引っ張ってはいないから。
次の日、教科書や上履きが無くなっている生徒がたくさんいた。
クラスのみんなで探したけど、どこにも無かった。
誰がこんなことをしたのか話し合いもしたけれど、犯人は出てこなかった。
掃除の時間には、男の子達が喧嘩をしていた。
「こいつが雑巾を投げてきたんだ!」
「違う!こいつが投げてきたんだ!」
どうやら2人とも、真面目に掃除をしていたところ、雑巾を投げられたみたい。
すごく汚い雑巾だったから、服が汚れちゃって、
すぐに洗ったけど綺麗にはならなかった。
給食の時間は、怖かった。
給食で出てきた牛乳を飲んだクラスのみんなが、揃ってお腹が痛いと言った。
一口だけ飲んだ子も、沢山飲んだ子も、一気飲みした子も、みんな同じように痛がってた。泣き出す子もいた。
ごめんなさいって、謝ってる子もいた。
クラスのみんな、病院に運ばれた。
僕だけは助かった。
僕は知ってる。
これは、Aくんの仕業だって。
「それ、何書いてるの?」
僕は、1度だけAくんに話しかけたことがある。
Aくんが転校してきてすぐの頃、Aくんがお絵描きをしていた。
Aくんの席から見える、空を描いてた。
あんまり綺麗な絵だったから、思わず話しかけた。
Aくんは喋らなかったけれど、嬉しそうな顔をしていた。
学校が終わると、Aくんが校門に立っていた。
いつもは早く帰るAくんが、誰かを待っているようだった。
「どうしたの?」
気になって、思わず話しかけた。
するとAくんは、1枚の紙を僕に差し出し、帰ってしまった。
折りたたまれた紙を開くと、さっき見た美しい空の絵が描かれていた。
Aくんと友達になれた気がした。
けれど、それからAくんと話すことは無かった。
Aくんは確かにいじめられていた。
僕は、助けることが出来なかった。
でもごめんね。Aくん。
Aくんがいじめられていなきゃ、僕がいじめられる。
だから、ごめんね。
Aくん。
Aくんは物静かな子で、あまり喋らない。
Aくんは、夏休みが終わった頃に転校してきた。
最初はクラスのみんなで話しかけてたけど、Aくんは喋らなかった。
だから、みんな話しかけなくなった。
Aくんは、クラスに馴染めなくて、いつも机に座って一人でいた。
ある時、Aくんが忘れ物をした。
Aくんは教室の前で立たされて、先生に注意された。
先生が、忘れ物をした理由を聞いても、Aくんは答えなかった。
黙って下を向いて、何も言わなかった。
「Aくんってさ、口ないんじゃないの?それか、日本語がわからない外国人なんじゃないの?」
クラスのお調子者の男の子が、Aくんをからかった。
クラスのみんなで笑って、先生も笑ってた。
Aくんは顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにしてた。
先生はとうとう呆れだして、Aくんを席に座らせた。
Aくんは授業中、ずっと涙目で下を向いていた。
「なあ、お前、なんで喋らねーの?」
休み時間、お調子者の男の子がAくんに聞いた。
Aくんは答えなかった。
「おい、聞いてんのかよ。」
お調子者の男の子が、Aくんの肩を押した。
すると、Aくんは椅子と後ろへ一緒に倒れてしまった。
ガタン!ガタン!
大きな音が教室に響いた。
みんなの視線が、Aくんの方へ向いた。
「いて...」
Aくんは倒れた拍子に頭を打ったらしく、痛そうに頭を抑えてた。
「おいみんな!聞いたかよ!Aが喋った!」
お調子者の男の子は、Aくんの声を聞けたことを喜んだ。
クラスのみんなも、痛がってるAくんを心配することも無く、Aくんが喋ったことにびっくりしていた。
クラス中が、歓声に包まれた。
Aくんは黙って座り直して、またじっと下を向いていた。
その日から、クラスの男の子たちはAくんにちょっかいをかけるようになった。
「おいA!もっかい喋ってくれよ!」
Aくんが喋ったという噂は隣のクラスまで広がり、わざわざ見に来る人たちもいた。
お調子者の男の子達は、わざとAくんをたたいたり、驚かせたりして、Aくんの様子を見てみんなで笑っていた。
それでも、Aくんは何も言わなかった。
気づけばAくんは、毎日からかわれるようになった。
授業中、Aくんの椅子を引っ張って転ばせたり、
掃除中、Aくんにむかって雑巾を投げたり、
上履きや教科書を隠しては、困っているAくんをみて、
クラスのみんなで笑っていた。
給食の時間、男の子たちが鼻から牛乳を飲んでふざけ合っていた。
「わはは!なあ、Aもこれやってみろよ!」
静かに食べていたAくんの体が、一瞬跳ねた。
「え...」
「みんな!Aをおさえつけろ!」
お調子者の男の子がそう言うと、クラスの男の子たちでAくんの腕や足を抑えて、動けないように押さえつけた。
Aくんは、珍しく暴れていた。
「よーし、ちゃんと飲めよー」
ストローの先が、Aくんの鼻の中へ入っていく。
「うえぇ...」
Aくんから小さいうめき声が聞こえて、みんな喜んだ。みんなで笑った。
苦しそうに咳き込むAくんを見て、みんな笑った。
Aくんは、初めて声を出して泣いていた。
冬休みに入り、クラスのみんなはそれぞれ休みを楽しんだ。
年が明け、また学校が始まると、クラスにAくんの席がなかった。
「先生ー、Aは?」
クラスの男の子が聞いた。
「Aは転校した。家庭の事情だそうだ。」
先生がそう言ったっきり、Aくんの話は終わった。
1ヶ月も経てば、誰も、Aくんの話をしなくなった。
しばらくして、クラスで変なことが起こるようになった。
「わあ!」
お調子者の男の子が、授業中にいきなり大きな声を出した。
みんなが見てみると、男の子はいすごと後ろに倒れて、頭を打っていた。
「いてて...おい、なにするんだよ!」
男の子は後ろを見ると、誰もいない。
男の子も、クラスのみんなも、驚いた。
男の子は1番後ろの席で、後ろには誰もいない。誰も男の子のいすを引っ張ってはいないから。
次の日、教科書や上履きが無くなっている生徒がたくさんいた。
クラスのみんなで探したけど、どこにも無かった。
誰がこんなことをしたのか話し合いもしたけれど、犯人は出てこなかった。
掃除の時間には、男の子達が喧嘩をしていた。
「こいつが雑巾を投げてきたんだ!」
「違う!こいつが投げてきたんだ!」
どうやら2人とも、真面目に掃除をしていたところ、雑巾を投げられたみたい。
すごく汚い雑巾だったから、服が汚れちゃって、
すぐに洗ったけど綺麗にはならなかった。
給食の時間は、怖かった。
給食で出てきた牛乳を飲んだクラスのみんなが、揃ってお腹が痛いと言った。
一口だけ飲んだ子も、沢山飲んだ子も、一気飲みした子も、みんな同じように痛がってた。泣き出す子もいた。
ごめんなさいって、謝ってる子もいた。
クラスのみんな、病院に運ばれた。
僕だけは助かった。
僕は知ってる。
これは、Aくんの仕業だって。
「それ、何書いてるの?」
僕は、1度だけAくんに話しかけたことがある。
Aくんが転校してきてすぐの頃、Aくんがお絵描きをしていた。
Aくんの席から見える、空を描いてた。
あんまり綺麗な絵だったから、思わず話しかけた。
Aくんは喋らなかったけれど、嬉しそうな顔をしていた。
学校が終わると、Aくんが校門に立っていた。
いつもは早く帰るAくんが、誰かを待っているようだった。
「どうしたの?」
気になって、思わず話しかけた。
するとAくんは、1枚の紙を僕に差し出し、帰ってしまった。
折りたたまれた紙を開くと、さっき見た美しい空の絵が描かれていた。
Aくんと友達になれた気がした。
けれど、それからAくんと話すことは無かった。
Aくんは確かにいじめられていた。
僕は、助けることが出来なかった。
でもごめんね。Aくん。
Aくんがいじめられていなきゃ、僕がいじめられる。
だから、ごめんね。
Aくん。
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