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第11話 難関! はじめての実習(病院編) その3
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病院実習1日目の午後は、院内探索ツアー(勝手に命名)から始まる。
午前のように看護師などのスタッフに案内してもらうのではなく、グループで院内案内図を手に自分達でポイントとなる部署の場所を確認して歩くのだ。
と言っても、どこでも行っていいわけではなく、基本的には部署を外側から眺めるだけで、中に入れるわけではない。部署の入り口には大抵「○○課」とか「○○センター」とか書いてあるので、それで場所を確認する。
……はずなんだけど。
迷いつつ(要所要所で教員もラウンドしているので、困っている時は訊くことが出来る。教員が見つからなかったらスタッフさんに訊いてもいいことになってるけど……ちょっと恥ずかしい)探し当てた部署の周りで見えないなりにもちょっとどんな感じなんだろう? と覗き込んでいると、中からスタッフさんが出てきて。
「せっかくだからちょっとだけ見ていく?」
と半ば強引に引っ張り込まれてしまい。
今日は比較的空いている日なのか、廊下の待合スペースにも患者さんがあまりいなくて(外来は午前中だけなので、午後は予定の検査や処置が中心なんだって)。
だから、患者さんの対応とかじゃなくて、設備を見せてもらうのがほとんどだったんだけど、でも、面白い!
音を立ててぐるぐる回っている機械(血液とかの検体を検査するために成分を分ける遠心分離機って言うんだって)とか、血液(赤くなかったけど、輸血って書いてあった)の袋を乗せて振動する台とか(中身が固まらないようにしてるんだって)、大きな音のするドームみたいな検査の機械(確かMRIって言ってた。スイッチ入れたら金物がバチンってくっついちゃった)とか。
後で先輩に聴いたけど、混んでいるときは患者さんの迷惑になるし、プライバシーにも関わるから見学なしになっているけど、スタッフさん達の中には1年生が見学にやって来るのをとても楽しみにしている方が多くて、普段の実習で受け持ち患者さんについて検査などに行った時も、時間が許せば色々な説明をしてくれるんだって。
その先輩は、あまったチョコレート味のバリウム(X線の検査に使う飲み物)を味見してもらったって(味はイマイチだったみたい)。
とはいえ。
メインはそれぞれのグループに割り当てられた部署へのインタビュー。
夢歌さんのグループは、透析室……って、なんだろう?
まあ、ちゃんと事前学習はしてきましたけど。
人間の体には腎臓という臓器があって、血液中に含まれる不要な(有害な)物質を濾過して、きれいな血液にする働きがあるんだけど。
ようは、挽いたコーヒー豆をお湯に浸したあと、コーヒー滓が混じったままのコーヒー液をフィルターで濾して、サラサラしたコーヒーだけにする、みたいな感じ。
で、濾した不要な物質は尿として体の外に出すことで健康を維持してるんだけど。
この腎臓のが、何らかの原因できちんと働かない場合、血液の中の不要な物質や水分が体の中に残り、それがどんどん溜まっていったり、逆に出してはいけない物質を排出してしまったり……大変なことになる。
それを機械で代用するのが、透析、正確には血液透析って言うんだって。
そこまでは何とか調べた夢歌さんグループ。
でも、機械で代用するって、イメージがつかない。
実際に透析室に到着し。
対応してくれたのは、臨床工学技士さん。
CEさんって呼ばれたりもする、医療機器のスペシャリストなんだって。
でも、実は機械だけじゃなくて、それを使う患者さんの体調にまで気を配る、医療スタッフの一員。
初めの挨拶の時には、主任看護師さんもいたのに、説明はしてくれないんだ? 透析室の看護師の役割とか訊きたかったのに。ちょっと残念な気がした。
お昼過ぎのこの時間、ほとんどの患者さんは透析を終えていて(外来の方が多いんだって)、なので空いている透析用のベッドを間近で見せてもらった。
病室のベッドとそんなに違わないけど、病室みたいに横じゃなくて、上を向いたまま観られるテレビモニターが各ベッドに設置されていて。
横には大きな画面のついた、色んなダイヤルやスイッチやチューブのついた機械が置いてあった。夢歌さんの目線くらいの高さの、小さめの冷蔵庫くらいの大きさ。そこに2リットルのペットボトルを細くしたような不思議な筒が付いていた。
「ここから血液が機械に送り込まれて、このダイアライザーで濾過されて、また患者さんの体に戻されます。つまりこの機械が腎臓の代わりになるんですね」
ニコニコ笑顔の優しそうな臨床工学技士さんは、夢歌さんのお父さんと同じくらいに見えるおじさん。ペットボトルサイズのカプセルを指して説明してくれる。
「本当は、一日中、何十時間もかけてする濾過を、人工透析では大体週3回、1回4、5時間くらいで時短で行います。そのため腎臓でゆっくり行うよりも、体の負担が大きいです。なので、透析中や透析後は患者さんの体調の変化に注意しなければなりません。また、血液を1度体の外に出して戻すわけですから、感染も防ぐなければいけませんし、万が一感染が起きていたとしたら、早く発見する必要があります」
そのために、臨床工学技士さんや看護師さんが透析専用の血管(シャントって言うんだって)や体調の変化の有無を観察しているんだって。
「週3回、たとえ4時間とはいえ、寝ているだけとはいえ、患者さんにとっては半日、もしかしたら1日、何にも出来なくて、大変です」
「4、5時間かかる割には、もう患者さん、ほとんどのいないんですが、今日は少なかったんですか?」
同じグループの渡部さんが質問する。
「いえ、今日も満員でした。透析室は、他の外来より早くて、朝7時30分から開けています。同じ4時間でも、お昼過ぎまでかかるのと、お昼前に終わるのとでは、1日の過ごし方が変わります。せめて気分だけでも半日で終わるように、職員が早く出勤して対応しています」
確かに。テレビを観ながら横になっているだけ、なんて思うけど、それが2日に1回、しかももしかしたら一生に近い時間、ずっと続くなんて考えたら……気が遠くなる。
せめて、午後は自由になるだけで、全然違うと思う。
透析室の隣は医療機器の管理をするME室で、人工呼吸器とか輸液ポンプとか、モニター心電図とか、学校の実習室で見たことはあるけど、何だか怖くて触ったこともない機械が、沢山並んでいた。ここにある以外にも病棟や外来に置いてあって、臨床工学技士さん達が、毎日故障などないかチェックしてるんだって。
「機械は便利ですが、使うのは人間です。いざという時に使えないことにならないよう、きちんと整備して、正しく使えているか、結局は人間が確認しないといけないんですよね。だから、僕は機械を信用してません。どこか異常はないか気にしながら、使用中も患者さんの様子と見比べています」
冗談みたいに言っていたけど、機械相手の臨床工学技士さんの目の前には、機械だけじゃなくて、ちゃんと患者さんがいるんだな、って夢歌さん、感じた。
看護師や医師だけでなく、色んな職種の人が、患者さんのために仕事をしてるんだ。
透析室には看護師さんもいるのに、なんでって思ったけど。
もしかしたら、そのことを皆に知ってほしかったのかな?
後日談。
月末に行われた実習のまとめのプレゼンテーションで、どのグループも、看護師以外の色んな職種の話を聴かせてくれた。色んな職種(多職種)が連携して、チームで1人の患者さんに関わることが、とっても大事なんだって、改めて感じた夢歌さんでした。
午前のように看護師などのスタッフに案内してもらうのではなく、グループで院内案内図を手に自分達でポイントとなる部署の場所を確認して歩くのだ。
と言っても、どこでも行っていいわけではなく、基本的には部署を外側から眺めるだけで、中に入れるわけではない。部署の入り口には大抵「○○課」とか「○○センター」とか書いてあるので、それで場所を確認する。
……はずなんだけど。
迷いつつ(要所要所で教員もラウンドしているので、困っている時は訊くことが出来る。教員が見つからなかったらスタッフさんに訊いてもいいことになってるけど……ちょっと恥ずかしい)探し当てた部署の周りで見えないなりにもちょっとどんな感じなんだろう? と覗き込んでいると、中からスタッフさんが出てきて。
「せっかくだからちょっとだけ見ていく?」
と半ば強引に引っ張り込まれてしまい。
今日は比較的空いている日なのか、廊下の待合スペースにも患者さんがあまりいなくて(外来は午前中だけなので、午後は予定の検査や処置が中心なんだって)。
だから、患者さんの対応とかじゃなくて、設備を見せてもらうのがほとんどだったんだけど、でも、面白い!
音を立ててぐるぐる回っている機械(血液とかの検体を検査するために成分を分ける遠心分離機って言うんだって)とか、血液(赤くなかったけど、輸血って書いてあった)の袋を乗せて振動する台とか(中身が固まらないようにしてるんだって)、大きな音のするドームみたいな検査の機械(確かMRIって言ってた。スイッチ入れたら金物がバチンってくっついちゃった)とか。
後で先輩に聴いたけど、混んでいるときは患者さんの迷惑になるし、プライバシーにも関わるから見学なしになっているけど、スタッフさん達の中には1年生が見学にやって来るのをとても楽しみにしている方が多くて、普段の実習で受け持ち患者さんについて検査などに行った時も、時間が許せば色々な説明をしてくれるんだって。
その先輩は、あまったチョコレート味のバリウム(X線の検査に使う飲み物)を味見してもらったって(味はイマイチだったみたい)。
とはいえ。
メインはそれぞれのグループに割り当てられた部署へのインタビュー。
夢歌さんのグループは、透析室……って、なんだろう?
まあ、ちゃんと事前学習はしてきましたけど。
人間の体には腎臓という臓器があって、血液中に含まれる不要な(有害な)物質を濾過して、きれいな血液にする働きがあるんだけど。
ようは、挽いたコーヒー豆をお湯に浸したあと、コーヒー滓が混じったままのコーヒー液をフィルターで濾して、サラサラしたコーヒーだけにする、みたいな感じ。
で、濾した不要な物質は尿として体の外に出すことで健康を維持してるんだけど。
この腎臓のが、何らかの原因できちんと働かない場合、血液の中の不要な物質や水分が体の中に残り、それがどんどん溜まっていったり、逆に出してはいけない物質を排出してしまったり……大変なことになる。
それを機械で代用するのが、透析、正確には血液透析って言うんだって。
そこまでは何とか調べた夢歌さんグループ。
でも、機械で代用するって、イメージがつかない。
実際に透析室に到着し。
対応してくれたのは、臨床工学技士さん。
CEさんって呼ばれたりもする、医療機器のスペシャリストなんだって。
でも、実は機械だけじゃなくて、それを使う患者さんの体調にまで気を配る、医療スタッフの一員。
初めの挨拶の時には、主任看護師さんもいたのに、説明はしてくれないんだ? 透析室の看護師の役割とか訊きたかったのに。ちょっと残念な気がした。
お昼過ぎのこの時間、ほとんどの患者さんは透析を終えていて(外来の方が多いんだって)、なので空いている透析用のベッドを間近で見せてもらった。
病室のベッドとそんなに違わないけど、病室みたいに横じゃなくて、上を向いたまま観られるテレビモニターが各ベッドに設置されていて。
横には大きな画面のついた、色んなダイヤルやスイッチやチューブのついた機械が置いてあった。夢歌さんの目線くらいの高さの、小さめの冷蔵庫くらいの大きさ。そこに2リットルのペットボトルを細くしたような不思議な筒が付いていた。
「ここから血液が機械に送り込まれて、このダイアライザーで濾過されて、また患者さんの体に戻されます。つまりこの機械が腎臓の代わりになるんですね」
ニコニコ笑顔の優しそうな臨床工学技士さんは、夢歌さんのお父さんと同じくらいに見えるおじさん。ペットボトルサイズのカプセルを指して説明してくれる。
「本当は、一日中、何十時間もかけてする濾過を、人工透析では大体週3回、1回4、5時間くらいで時短で行います。そのため腎臓でゆっくり行うよりも、体の負担が大きいです。なので、透析中や透析後は患者さんの体調の変化に注意しなければなりません。また、血液を1度体の外に出して戻すわけですから、感染も防ぐなければいけませんし、万が一感染が起きていたとしたら、早く発見する必要があります」
そのために、臨床工学技士さんや看護師さんが透析専用の血管(シャントって言うんだって)や体調の変化の有無を観察しているんだって。
「週3回、たとえ4時間とはいえ、寝ているだけとはいえ、患者さんにとっては半日、もしかしたら1日、何にも出来なくて、大変です」
「4、5時間かかる割には、もう患者さん、ほとんどのいないんですが、今日は少なかったんですか?」
同じグループの渡部さんが質問する。
「いえ、今日も満員でした。透析室は、他の外来より早くて、朝7時30分から開けています。同じ4時間でも、お昼過ぎまでかかるのと、お昼前に終わるのとでは、1日の過ごし方が変わります。せめて気分だけでも半日で終わるように、職員が早く出勤して対応しています」
確かに。テレビを観ながら横になっているだけ、なんて思うけど、それが2日に1回、しかももしかしたら一生に近い時間、ずっと続くなんて考えたら……気が遠くなる。
せめて、午後は自由になるだけで、全然違うと思う。
透析室の隣は医療機器の管理をするME室で、人工呼吸器とか輸液ポンプとか、モニター心電図とか、学校の実習室で見たことはあるけど、何だか怖くて触ったこともない機械が、沢山並んでいた。ここにある以外にも病棟や外来に置いてあって、臨床工学技士さん達が、毎日故障などないかチェックしてるんだって。
「機械は便利ですが、使うのは人間です。いざという時に使えないことにならないよう、きちんと整備して、正しく使えているか、結局は人間が確認しないといけないんですよね。だから、僕は機械を信用してません。どこか異常はないか気にしながら、使用中も患者さんの様子と見比べています」
冗談みたいに言っていたけど、機械相手の臨床工学技士さんの目の前には、機械だけじゃなくて、ちゃんと患者さんがいるんだな、って夢歌さん、感じた。
看護師や医師だけでなく、色んな職種の人が、患者さんのために仕事をしてるんだ。
透析室には看護師さんもいるのに、なんでって思ったけど。
もしかしたら、そのことを皆に知ってほしかったのかな?
後日談。
月末に行われた実習のまとめのプレゼンテーションで、どのグループも、看護師以外の色んな職種の話を聴かせてくれた。色んな職種(多職種)が連携して、チームで1人の患者さんに関わることが、とっても大事なんだって、改めて感じた夢歌さんでした。
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