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第2話 入学式は静粛に!
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九重夢歌さん・18歳。
このお話の主人公。
小さい頃伝記で読んだナイチンゲールに憧れて。
自分も看護師になりたいと思って。
そんで、看護学校受験して、受かったという。
ありがちと言えばありがちな、看護師志望の娘さん。
職業体験は全部病院系にしたし、病院の看護師体験も機会があれば、全部参加してきた、筋金入り。
決して優等生じゃなかったけど、一生懸命試験勉強して、ここ『栗白山看護専門学校』に入学を認められた(補欠だったけど、結果オーライ)。
で、今日は晴れて、入学式に参列しているわけで。
「入学おめでとうございます」
受付で、胸に花を付けてもらって。
もう、気分はウキウキ。
1学年40名の、小さな規模の学校だったので、同じ高校の子はいなかったから、ちょっと……かなり不安だった夢歌さんだったけど。
入学式の説明が始まる頃には、初対面のクラスメートたちと、気がつけばワイワイおしゃべり。
「私、寮生なの。って言っても、アパートの借り上げだから、規則とかなくって、楽だよ~ご飯はでないけどね」
「へえ、私も寮にすればよかったなあ。自宅から通えるから、生活費もったいないって言われて……」
「そうだよね。S看なんか、1年生は全員入寮させられるって聞いたよ。その代わり激安だって」
「でもご飯も出るって聞いたよ」
「でも、家庭がある人、困るって言ってたよ」
「家庭?」
寮生だといっていた、真山奈央さんが、ちらっと、視線を送った方向には。
わーわーきゃーきゃーしている女の子達とは別に、静かに机の上に配られていた要綱なんかに目を通している人たちがいた。
固まってるわけじゃなくて、バラバラに。
それぞれ自分の席に座っている。
ただ、共通の特徴があったりする。
「社会人入学の人達だよ」
「社会人?」
「社会人入試ってのがあるでしょ? ここはわりと昔から社会人入試があるくらい社会人の受け入れがいいから、一般入試でも結構受けるんだって。だから、多いときは三分の一くらいは、社会人経験者だって噂だよ。子持ちの人も結構いるんだって」
「ふーん」
たしかに、まだ何となくスーツが浮いてしまってる感じの自分達と違って、落ち着いてるな、なんて夢歌さんが思っていると。
「皆さん、席についてください。これから入学式の会場にご案内します。その前に、簡単に式の進行を説明します」
先生らしき人と数名の(たぶん)上級生が教室に入ってきて、入学式の流れや、入退場の仕方を説明してくれた。
新入生代表のあいさつは、なんと真山奈央さんがするんだって。
その後、入場する順番に並んで、会場となるホールに移動する。
「ね、君、夢歌ちゃんっていうの? かわいい名前だね」
後ろから声をかけてきたのは、ちょっと軽そうな男の子。
見渡してみると、男子学生は8人くらいいる、その中でも一番チャラい感じ。
「僕、佐々木歩っていうんだ」
な、ナンパ!?
あまり、男の子と仲良くしたことのない夢歌さん、緊張しちゃって上手く返事ができない。
ひきつった笑みを浮かべながら、黙って前に向き直り、列についていく。
「あ、待ってよ、夢歌ちゃん!」
ホールの入口について、足を止めると、また佐々木クンが話しかけてくる。
佐々木クンだけじゃない。
みんな、ざわざわお喋りはじめちゃってる。
「ドキドキするね」
「うち、家族みんな来てんの」
「うちはお母さんだけ」
前後で話しているうちに、その前と後ろまで加わって、結構な声量になってきた。
突然。
「静かにしてください!」
甲高い声ではない。
低い、けれど響く声で、喝を入れられ、一同、シンと静まりかえる。
「あなた達は、それでも看護師を目指す学生ですか?」
先生……じゃない?
夢歌さん、どこかで見たような覚えがあって、懸命に記憶を探る。
あ、受付の人だ。
受付で胸に花を付けてくれた人。
夢歌さん達とそう年は違わないと思うから、先輩だ。
『おめでとう』と笑顔で言ってくれた人。
「あなた方は看護師と言う職業人を目指すのでしょう? 社会に出て働くために学ぶなら、今から公私の区別を付けてください。今、中にいるのは、あなた達のお祝いをするために駆けつけてくれたお客様やご家族の皆様、今日のために時間をかけて準備を重ねた先生方や先輩達です。入学式の主役にふさわしく、きちんとした姿や態度で臨むのが礼儀です」
シーンとしたまま、身じろぎしない新入生たち。
不意に、その先輩はつり上げていた眦をゆるめた。
「って、私達も注意されたのよ。嬉しい気持ちはよく分かるんだけどね?」
夢歌さんや、周りの新入生の緊張が緩む。
「ま、入学式は静粛に。最初が肝心だからね」
先輩がほほ笑むと同時に、ホールの入口が開かれる。
「新入生の入場です」
アナウンスとともに、静々と入場が始まった。
(怖かったけど、優しいかも……お母さんみたい……なんて失礼だな)
叱られちゃったけど、拍手で迎えてくれた沢山の人たちの笑顔に囲まれ、厳かに式が始まって、ホッとした。
(職業人……公私の区別……礼儀……か)
夢歌さん、校長先生の式辞を聞きながら、初めてスーツに手を通した時に感じた、大人の仲間入り、みたいなこそばゆさを感じたりして。
(そうだよね、看護師になるんだもんね。きちんとしなくちゃね)
……そのために越えなければならない試練が海千山千あることに。
まだ、夢歌さんは、全く気付いていないのでした。
このお話の主人公。
小さい頃伝記で読んだナイチンゲールに憧れて。
自分も看護師になりたいと思って。
そんで、看護学校受験して、受かったという。
ありがちと言えばありがちな、看護師志望の娘さん。
職業体験は全部病院系にしたし、病院の看護師体験も機会があれば、全部参加してきた、筋金入り。
決して優等生じゃなかったけど、一生懸命試験勉強して、ここ『栗白山看護専門学校』に入学を認められた(補欠だったけど、結果オーライ)。
で、今日は晴れて、入学式に参列しているわけで。
「入学おめでとうございます」
受付で、胸に花を付けてもらって。
もう、気分はウキウキ。
1学年40名の、小さな規模の学校だったので、同じ高校の子はいなかったから、ちょっと……かなり不安だった夢歌さんだったけど。
入学式の説明が始まる頃には、初対面のクラスメートたちと、気がつけばワイワイおしゃべり。
「私、寮生なの。って言っても、アパートの借り上げだから、規則とかなくって、楽だよ~ご飯はでないけどね」
「へえ、私も寮にすればよかったなあ。自宅から通えるから、生活費もったいないって言われて……」
「そうだよね。S看なんか、1年生は全員入寮させられるって聞いたよ。その代わり激安だって」
「でもご飯も出るって聞いたよ」
「でも、家庭がある人、困るって言ってたよ」
「家庭?」
寮生だといっていた、真山奈央さんが、ちらっと、視線を送った方向には。
わーわーきゃーきゃーしている女の子達とは別に、静かに机の上に配られていた要綱なんかに目を通している人たちがいた。
固まってるわけじゃなくて、バラバラに。
それぞれ自分の席に座っている。
ただ、共通の特徴があったりする。
「社会人入学の人達だよ」
「社会人?」
「社会人入試ってのがあるでしょ? ここはわりと昔から社会人入試があるくらい社会人の受け入れがいいから、一般入試でも結構受けるんだって。だから、多いときは三分の一くらいは、社会人経験者だって噂だよ。子持ちの人も結構いるんだって」
「ふーん」
たしかに、まだ何となくスーツが浮いてしまってる感じの自分達と違って、落ち着いてるな、なんて夢歌さんが思っていると。
「皆さん、席についてください。これから入学式の会場にご案内します。その前に、簡単に式の進行を説明します」
先生らしき人と数名の(たぶん)上級生が教室に入ってきて、入学式の流れや、入退場の仕方を説明してくれた。
新入生代表のあいさつは、なんと真山奈央さんがするんだって。
その後、入場する順番に並んで、会場となるホールに移動する。
「ね、君、夢歌ちゃんっていうの? かわいい名前だね」
後ろから声をかけてきたのは、ちょっと軽そうな男の子。
見渡してみると、男子学生は8人くらいいる、その中でも一番チャラい感じ。
「僕、佐々木歩っていうんだ」
な、ナンパ!?
あまり、男の子と仲良くしたことのない夢歌さん、緊張しちゃって上手く返事ができない。
ひきつった笑みを浮かべながら、黙って前に向き直り、列についていく。
「あ、待ってよ、夢歌ちゃん!」
ホールの入口について、足を止めると、また佐々木クンが話しかけてくる。
佐々木クンだけじゃない。
みんな、ざわざわお喋りはじめちゃってる。
「ドキドキするね」
「うち、家族みんな来てんの」
「うちはお母さんだけ」
前後で話しているうちに、その前と後ろまで加わって、結構な声量になってきた。
突然。
「静かにしてください!」
甲高い声ではない。
低い、けれど響く声で、喝を入れられ、一同、シンと静まりかえる。
「あなた達は、それでも看護師を目指す学生ですか?」
先生……じゃない?
夢歌さん、どこかで見たような覚えがあって、懸命に記憶を探る。
あ、受付の人だ。
受付で胸に花を付けてくれた人。
夢歌さん達とそう年は違わないと思うから、先輩だ。
『おめでとう』と笑顔で言ってくれた人。
「あなた方は看護師と言う職業人を目指すのでしょう? 社会に出て働くために学ぶなら、今から公私の区別を付けてください。今、中にいるのは、あなた達のお祝いをするために駆けつけてくれたお客様やご家族の皆様、今日のために時間をかけて準備を重ねた先生方や先輩達です。入学式の主役にふさわしく、きちんとした姿や態度で臨むのが礼儀です」
シーンとしたまま、身じろぎしない新入生たち。
不意に、その先輩はつり上げていた眦をゆるめた。
「って、私達も注意されたのよ。嬉しい気持ちはよく分かるんだけどね?」
夢歌さんや、周りの新入生の緊張が緩む。
「ま、入学式は静粛に。最初が肝心だからね」
先輩がほほ笑むと同時に、ホールの入口が開かれる。
「新入生の入場です」
アナウンスとともに、静々と入場が始まった。
(怖かったけど、優しいかも……お母さんみたい……なんて失礼だな)
叱られちゃったけど、拍手で迎えてくれた沢山の人たちの笑顔に囲まれ、厳かに式が始まって、ホッとした。
(職業人……公私の区別……礼儀……か)
夢歌さん、校長先生の式辞を聞きながら、初めてスーツに手を通した時に感じた、大人の仲間入り、みたいなこそばゆさを感じたりして。
(そうだよね、看護師になるんだもんね。きちんとしなくちゃね)
……そのために越えなければならない試練が海千山千あることに。
まだ、夢歌さんは、全く気付いていないのでした。
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