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第四章 凍てつく瞳

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 俊の行方を探しているはずの二年男子三人組が、気が付けば、うっかりコントを繰り広げてしまっていた、その頃。
 
 美術室に待機場所を変えたはずの、美術部員の面々は、カンフー映画顔負けのアクションを見せられた心持ちで、やや呆けていた。
「で、色々聞きたいことはあるんですけど、とりあえず高天先輩の居所、教えてもらっていいですか?」

 ニコニコニコ。

 声変わりしはじめたものの、まだまだ『可愛い』声の、みてくれも小柄で愛嬌のある少年に、笑顔でそう問われ、ビニール紐でぐるぐる巻きにされた男は、答えに詰まった。
「ほら、せっかく起こしてあげたんだから、答えて下さいよ。……それとも、また寝ます?」

 ニコニコニコニコ。

 少年の笑顔に反比例して、男はどんどん青ざめていく。
「仕方がないなあ。じゃあ他の人を起こして聞きましょうか……」
 少年が視線を移した先には、意識を失ったまま、同じように縛られた男達が六人、転がされていた。
 美術室に乱入してきた男たちは、気が付いたら巽一人の手でのされていた。その隙に谷津マリカは姿を消してしまったが、安全確保が第一と諦めることにする。

「その間、またお休みしていただいて……」
「し、知らない! どこにいるかは聞いてない!」
 先ほど、一発でノックダウンされた記憶が甦り、男は慌てて、そう答えた。
 正直、意識を失っているやつらがうらやましくなる。ニコニコ笑顔のかわいらしい少年と、その背後に感じる深い闇のギャップに、背筋が凍る。恐怖で引きちぎれそうな精神の痛みに加え、動くとビニール紐が食い込んで手足が単純に痛い。じっとしていると痛くない、絶妙な拘束加減が逆に手慣れた感じを受けて、ますます怖い。

「聞いてない、って言うことは、やっぱり仲間なんですね」
 うっかり口を滑らしてしまったことに気が付き、男は苦虫を噛み潰したように、顔を歪めた。
「では、質問を変えます。高天先輩を連れていった相手に、連絡は取れますか?」
 男は目を泳がせ、やがて観念したように、答えた。
「女を捕まえて、悲鳴の一つも上げさせればいいって……それをスマホで聞かせるだけでいいからって……」
「……あわよくば、彼女らをモノにしようと?」
「ああ……い、いや! 違う! そこまでは! ……好きにしろとは言われたけど、そんな気は! ないです!」

 少年の顔から笑顔が消えて、どんどん冷たくなっていくのを見て、男は慌てふためいて支離滅裂になり、墓穴を掘っていく。否定するために首を振った反動でビニール紐が食い込み、痛みとともに指先が冷たくなっていくのを感じる。

「……まあ、いいでしょう。じゃあ連絡先は、分かるんですね」
 男は頷き、それから慌てて付け加える。
「携番だけは。ただ、会話はしないキマリになってんだ……なってます。名前も名乗らない。お互い知らない方が、後腐れがないからって。メールも記録が残るから使うなって」
 強制されたわけでもないのに、気が付いたら丁寧語になって、必死で言い訳する。
「……間に入った人がいるんですね?」
「はい……」
 それっきり、男は口をつぐむ。

「話したくないみたいですね。困ったなあ」
 少年……巽は、足音も立てず、美術室の出入口に近付き、バン! と一気に戸を開けた。

 突然戸が開いて面食らった様子の男が、そこに立っていた。
 ハッと気が付き、身を翻すが、一瞬早く、巽が取り押さえる。
「見覚えがありますね。確か三年生の……志摩しまさんでしたっけ。相棒は須賀野すがやさんでしたね」
「な、何で……」
「そんなの当たり前じゃないですか! 危険人物は即調査して、弱味握っておかないと」
 さらっと、あまり当たり前でない上、恐ろしい言葉を言ってのけて、巽は志摩の腕を軽く叩いた、ように見えた。
「えっ?」
 途端、志摩の両手がダランと下がった。

「皆さん大勢で来るから、紐を大量に使っちゃったんですよ。一応、神経圧迫しないように丁寧に巻いてあげるなんて気も使ってみたんですよ。でも紐が勿体無いから、志摩さんは、これでね」
「な、何したんだ!?」
「えっと、簡単に言えば、一時的に肩から下の運動神経を麻痺させたっていうことかな? あ、大丈夫。用が済んだら戻しますんで。でも、僕しか戻せないんで、逃げたりしないで下さいね。下手に動くと、脱臼しちゃうかもしれませんし。腕って結構重いんですよ」
「ひっ……!」
「もし逃げたいんなら、足の方もやっちゃいますけど」
「に、逃げない! 逃げたりしないから、治してくれよう……」

 涙声で懇願する志摩に、巽はニッコリと頷いた。
「じゃあ、高天先輩の居場所を教えて下さい」
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