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らんしゅすてるべんしょん

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高校生編

11.対チノヒルズ高校 【4】

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 ブーッ。

 休憩が終わるブザーが鳴った。

 第四クォーターが始まった。

 スパルタンバークのスローイン。アレン先輩がボールを持つ。そこでプレイのコールがされる。

 そこからやはり勝負はなかなかつかず、ただ両チームのオフェンスが目立っていた。ディフェンスをサボっていた訳ではない。

 どちらもオフェンスが遥かにディフェンスを上回っていただけなのだ。

 だがその中でディフェンスのハイライトもいくつかあった。

 電子得点盤に書かれたタイムが8分40秒の時、トップにいた相手スモールフォワードがビックマンのデイにスクリーンをかけてもらい、ゴール下へ切り込んでレイアップをしようとした。しかしオリニクはスイッチでディフェンスをしていたため、ゴール下へ向かう相手選手を捉えた。

 そのため彼はもうレイアップの動作に入ってからもう既にボールを保持してゼロステップを除く1歩目を踏んでしまっている。今の体勢ではユーローステップで躱せないため彼はティアドロップを選択した。

 見事彼の思った通りオリニクはブロックに遅れたが…それをザイオンが見逃さなかった。

 結構高いループで放たれたボールだったがザイオンの跳躍力では余裕とそのボールに触れることができた。そしてモンスター級のブロックを見せつけた。

 ザイオンによって叩かれたボールは「パチコーンッ」と豪快な音を立ててアウトオブバウンズとなった。

 さすが、と剛はザイオンとハイタッチをした。

 7分27秒、チノヒルズのプレイの一環でパスを回していた。しかし、そこで相手のプレイを先読みしてグレン部長がパスカットをした。ルーズボールとなったがそこへ剛がダイブしてなんとかセーブ、速攻に走るザイオンが見えたがここからだとパスが届かない。

 近くにいたグレン部長がボールを要求していた為、パスをした。

 ザイオンの速攻を追いかけるディフェンスがいた為無闇に部長はパスをしなかった。そのまま一直線にドライブして十分に相手ディフェンダーを引き寄せたところで空中へボールを投げた。

 そのボールは相手のバスケリングの近くへ飛んで行き、それを空中で掴んだザイオンがそのままバスケットへ叩き込んだ。

 アリウープパス、基本の身体能力が高いアメリカでのみよく見られるアリウープパスからのダンク。その破壊力はすごい、味方のポテンシャルを引き出すのに十分にプレイだ。

 十分なものだったが…

 「またかっ?!」

 ラメロ君は仕返しとばかりに、第1クォーターの時と同じように、高校の球団のエンブレムとなるロゴがある位置からスリーを打った。

 フォームがすごくきれいだ。かなり遠いショットでコントロール以前も必要だがそれ以前に届くパワーが必要だ。普通だとパワーをフルで絞り出すためにフォームは崩れるものだが、彼はまるでフリースローを打つかの様に、フォームを一切崩さずにスリーを決めた。

 観客から歓声が上がる。試合を熱くするためのお膳立てはどうやらこれでされた様だ。

 これからが本当の試合とでも言わんばかりの様な雰囲気に包まれた。
***

 残り2分半。点差は92-93とスパルタンバークが一点ビハインドだ。

 スパルタンバークのスローイン。ボールを持つのはもちろんうちのエース、グレン部長。

 グレン部長はハーフコートを超えると、そこで味方に全員コーナーもしくはショートコーナーで待機しろと指示した。

 グレン部長と相手スモールフォワードの1on1、ディフェンダーはシュートを打たれても直ぐにチェックをしに行ける距離、そしてドライブされても抜かれない様に近づき過ぎない距離でディフェンスしていた。

 グレン部長が目線をゴールへ向けた。そしてボールを持っている両腕も上へと振り上げた。相手は少し遅れてチェックしようとした。しかし、それはフェイクだった。

 飛ばされてしまった最初にグレン部長についていたディフェンダーはもうどうする事も出来ない。

 グレン部長はそのままペイントエリアへとドライブする、だが当然相手のヘルプディフェンダーが来る。ガリナリ・ブルックスのいとこ、ディ・ブルックスがヘルプに来た。

 部長はそこで、右にでも左にでもステップを出す訳でもなく、そのまままっすぐ突っ込んだ。

 そしてノーチャージエリアへと侵入すると両手でボールを保持して、両足でしっかりと膝を曲げて踏み込んだ。

 グレン部長が飛ぶ、それとほぼ同時にデイも飛ぶ。一対一のパワー勝負だ。

 部長は相手を抑え込んでダンクとする、デイはそれを阻止しようと両手を上げてブロックに飛んだ。振りかざされる腕とボール、それを阻止しようと真っ直ぐに伸ばされた両腕。

 両方とも相手の行動を潰そうとしていた、そしてそれを制したのは。

 ピピーッ、審判が笛を吹く。

 「バスケットカウント!アンドワン、スパルタンバーク・デイ!」

 「「「しゃあああ」」」

 と味方、それに観客が一斉に歓声をあげた。これでフリースローを決めれれば、95-93と2点リード、だがリードしたからといって油断してはならない。スリーポイントを決められれば一気に逆転されるため、最後まで油断はできない。

 「ふぅ…」

 グレン部長は息を吸った。そして目線をしっかりとゴールリングへ向けて、両膝を曲げた。そしてボールを掴んだ両腕を下から上に振り上げる、振り上げられた腕は真っ直ぐと上へ伸び、そして最高点に到達する前に右手首でしっかりとスナップをした。

 手から放たれたボールは半円というループを描き、バックボードにもリングにも当たりも擦りもせず、綺麗にネットだけを揺らした。

 95-93、スパルタンバーク・デイのリード。だがもちろんこれで終わった訳ではない、相手が諦めていないのだから。

 「タイムアウト!」

 相手監督がタイムアウトを取った。

 試合は一度中断される。

***

 タイムアウトが終わり試合が再開される。残り時間2分と少しになった。

 ラメロ君のドライブ、右へクロスオーバー、そして左へビハインド・ザ・バック、そっから左足での連続レッグスルーで相手を翻弄していた。そこにビックマンのピックが来て、ラメロ君からして左にスクリーンをかけた。

 「スクリーンッ、スイッチはしない!!自分で守りきれ!」


 グレン部長は後ろから指示を出した、そしてアレン先輩はスライドスルーではなくファイトオーバーをしてしまった。だがビックマンのデイはガタイがとてもよく彼を通させなかったためファイトオーバーをしたアレン先輩はまんまとスクリーンにかかった。2対1でガリナリ先輩が守る。

 もしかしたらラメロ君がプルアップジャンパーかもしれない、レイアップかもしれない。そうと見せかけてチェックもしくはブロックに飛んだ時にパスをするかもしれない。色んな可能性があった。

 ガリナリ先輩は無闇に近づけない。

 するとラメロ君はそのままプルアップジャンパーをした。放たれたボールはバックボードを使ってバンッという音を立てて、リングに当たりネットを揺らした。

 95-95とまたスコアはタイになった。

 そこから両チームのディフェンスが硬く、どちらも特点はしていない。試合はそのまま最終場面へともつれ込んだ。

 ピッ。審判が試合の開始を伝える。チノヒルズのスローイン。時間は残り24.8秒。俗に言うクラッチタイムだ。

 ハーフコートラインより前でラメロ・ボールはボールを受け取る。彼のハーフコートショットの正確さは先ほどから何度も証明されている。そのため彼のマークマンのアレン先輩は彼がボールを受け取ると同時に身体をかなり近づけた。

 チノヒルズの攻撃陣は全員スリーポイントをフリーで打たせたら結構な確率で入る。そのため他の人のマークを外す事は出来なかった。

 全員外へ広がっているため、スリーポイントライン内にはかなりのスペーシングが出来ている。

 ラメロ君はまず右へドライブした、そして数歩進めると左へクロスオーバー、アレン先輩は一瞬体勢を崩すが必死に喰らいつく。だがラメロ君はそこを見逃さなく、右へシャムゴットをして、それによりアレン先輩は転けた。

 アンクルブレイクと呼ばれるものだ。ラメロボールはそのままペイントエリアに侵入するとグレン部長が彼の前に立ちはだかる。ラメロ君が近づくとグレン部長はチャージングを取ろうとするが笛が吹かれない。

 そんなグレン部長をユーローステップで交わしてフリーになったラメロ君はグレン部長がチャージングを取ろうとした事によりゴールリングからかなり遠い位置で既に二歩目を踏んでしまった。

 これ以上踏むとトラベリングになるため彼は右手でフローターをしようとしたが…

 バコンッ。そんな音が鳴り響いた。音の方をよく見ると、ザイオンがいつの間にか、ブロックショットに飛んでそれを成功させていた。

 弾かれたボールはチノヒルズ側のゴールへと転がって行く。1番近かった相手選手がルーズボールを取りに行こうとしたが、そこにガリナリ先輩が飛び込んだ。

 ダイブしてボールを掴んだガリナリ先輩は前を見ると剛が既に走り出してボールを要求していたのでパスをする。

 剛はボールを受け取ると、一歩、また一歩とドリブルをつきながらボールを前へ前へと押し出し、その時チラッとショットクロックを表している表を見ると残り3秒と書かれていた。

 スリーポイントラインへ到着した剛は急に動きを止めて、両手でしっかりボールを保持。そしてシュートをしようとしたが先にディフェンスに戻っていた相手選手がシュートを阻止しようとする。剛はクイッとボールを上げてシュートをするフェイクをする。

 相手はまんまと引っかかり、後ろへ消えた。

 残り1秒と少し、剛はすぐに腕を最高点まで上げて、手首のスナップでボールを投げ出した。剛は個人的にリリースは微妙だと思った。入ると思える様なリリースはしてない。だがそれでももう見守るしかなかった。

 そして試合終了のブザーが鳴り、ボールはゆっくりと落ちて行く。

 リングの手前に当たったボールは跳ね上がり、リングの後ろ側へと飛ばされる。そしてまたそこで跳ね返されたボールはリングの前の方の内側に当たり、バスケットの中に落ちた。


 「「「「ううおおおおおおおお!!!!!!」」」

 体育館が歓声に包まれる。

 喜び、誰かと抱き合うもの。叫びながら体育館を走り回るもの、頭を抱えてしゃがみ込むものなど沢山いるが何よりも。

 剛へと駆け寄り、彼へと雄叫びをあげて担ぎあげようとしていた。

 「ちょっと、やめてください!僕は担がれるのが苦手なんです!わっ?!やめて!」

 そんな様子を見ていたエレナはクスッと笑った。

 「私達の夢、あなたに託したわよ。剛。」

 あのラストショットを見たエレナはより一層、剛への期待をしたのであった。
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