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高校生編
5.頭上からのダンク
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「これから試合を始める。各チームは所定の位置へ着いてくれ。」
グレン・グリーンはそう言うと、チーム分けされた通りの場所へ向かう。
「じゃあよろしくなハリス。」
剛のチームだけ一人チームメイトが多い。名前はハリスだ。
ハリスは身長は結構低い方だった。剛よりちょっと高いくらいだろう。180は超えてなかった。ポジションは剛と同じガードしかやった事がないらしい。
「うん、よろしく。」
そして試合を始めるホイッスルを部長のグレンがかけた。各コートに並んだチームで一斉に始めるらしい。それぞれのコートの審判は選手の能力を見分ける役割を同時にこなすのだろうか。
今回のメンバーはポイントガードが剛(2)シューティングガードがダリア(7)、スモールフォワードがクリス(15)で、パワーフォワードがザイオン(1)のセンターがアレクサンダー(8)となった。
対戦相手は全員身長が高くて、フィジカルも強そうだ。
圧倒的に背の低い選手が二人もいる剛のチームはかなり不利になるのか?と思われた。
ジャンプボールで相手センターがボールティップに成功して相手のガード(4)に渡った。試合時間は4分。
各自所定の相手へのディフェンスに着いたところから相手のオフェンスが始まった。早速センター(12)が剛へとスクリーンをかけた。
そしてスクリーンでスイッチされたあと、左コーナに待機していたフォワード(0)がボールを受け取りに来た。ハンドオフかと思われたがボールは渡されず、そのフォワードはそのまま中へ切り込む。そこでまたスイッチが行われる大分ミスマッチが出来てしまった。
そのあと、切り込んだ相手の0番が右コーナーから左コーナへ走るもう一人のガード(13)のためにスクリーンをかけてボールを持っている4番の選手が13番にパスしてコーナースリーを打った。
しかし決まらない、ゴール下にいたもう一人のフォワード(10)はザイオンにボックスアウトをして、ミスマッチとなった剛と12番でのリバウンド勝負だが当然12番が勝って、そのままスタンディングダンクをかまされた。
「すまん、ボックスアウトされて身動きが取れんかった。」
ザイオンが剛にそう声を掛けると、剛はザイオンを励ました。
「ドンマイ、大丈夫。次頑張ろう。」
今度は剛達のオフェンスになった。
剛の圧倒的な1on1スキルは惜しみもなく発揮され、相手はそれに翻弄されていた。クロスオーバーやビハインドバックをしてからの、プルバックやスクリーンからのプルアップシュートがほぼ決まっている。
だがしかし、オフェンスは剛に全て託されたわけではない。いいように味方も動いてくれて、最終的に32-11と大勝利した。全員得点をしている。オフェンスがうまく機能出来たと言うことだろう。
***
また別のチームと試合になった、全部のチームをそれぞれ戦わせて新入部員達のポテンシャルかスタミナを知りたいのだろうか。剛はさっき思った事とは違う可能性を考えたが、考えたところで意味はないと思いそれをやめた。
もう幾つかのチームでは疲れてヘナヘナな選手が多くいてもう試合にならない戦いも休憩中に見えた。まずはスタミナのあるない選手の見分けなのか?それとも。
剛はこのミニゲームをさせる意味が分からなかった。チームメイトを見ると見事な事にみんな疲れてはいない。みんな凄いと思っていた。
もちろんその剛も疲れてはいない。
試合は一つのクォーターのみで、剛達はもう10試合くらいはした。これまでの試合で1番ハイスコアなのはザイオンだ。
オフェンスになると彼は止まらなかった。ディフェンスでもブロックショットをよく見る。だが1番目立っているのは速攻でのダンクや、結構要求したアリウープだ。
アリウープの精度はまだそんなに高くない。結構ミスをしたりしていた。だが身体能力が高いのは確かだとわかる。
平均得点が18点くらいだろうか。4分しかない試合でそれほど得点を出来るのは凄い。まぁ彼がパスを要求したりしてみんな彼に回しているからオフェンスがザイオン中心になっていた。
今回の試合の中で1on1を剛はいまだに最初の一試合目でしかしてない。
思った以上にザイオンが強引にバスケットへボールをねじ込むため、剛はこれはとても楽だ、自分が動くまでもないと思ったからだ。
しかしこの試合が終わった後ザイオンは剛に声をかけた。
「なぁ、なんで今回はあんまり1対1をしないんだ?」
剛は目を見開いた。気づかれてないと思ったのをザイオンは見ていた。ザイオンは続けて言う。
「俺はお前の1対1のスキルをとても評価している。何しろ朝お前にコテンパにされたからな。俺がボールを要求してるからと言って遠慮はするな。自分で行けると思ったら自分で行け。俺はあくまで相手を引き付けているためにボール要求とかしている。」
そして最後に頬をかきながらこう言った。
「それに、お前は俺に出来ないムーブが出来る。俺はお前のその器用さによって生み出されるドライブからのフィニッシュやシュートが好きだ。俺はお前と一緒にもっと戦いたいから、一緒に主力メンバーに入ってプレイがしたい。俺にボールを回してその分みんなに評価されなくてベンチに引っこまれたりすんなよ。」
彼がそんな真っ直ぐな瞳でコッチを見た。
剛はフッと笑った。
「ああ、次からは遠慮しない。」
剛は靴紐を結び直して試合に出た。
***
「お前とバスケをしても楽しくない。」
ある少年がそれまで友達だった“もの”に言われた言葉だ。
その少年は同じ中学バスケの部員も、最初はみんな彼のドリブルやシュートセレクトなどの能力の高さに彼から何かを習えると仲良くしていた。
しかし練習しても上手くならず、いつしかそれは嫉妬という感情に変わり、彼が活躍する度、その感情は強くなった。
そして遂に試合中にみんなが意図的に彼にパスをしなくなり、そのせいで試合が負けた。
彼はみんなを責めたが、その時言われた言葉がこれだ。
そしてそれから部活内の雰囲気は悪くなっていき、監督までも剛が孤立していたので、全員へ責任を押し付けるより個人に責任を押し付ければいいと思い彼にプレイスタイルを変えろとまで要求した。
剛からすると今までの努力を否定された気分だ。それで彼は日本で誰ともバスケをしなくなった。
アメリカに来たら、誰かが認めてくれるかもしれないと思って来たが、トラウマがあり彼はすぐに自分から目立つのを無意識にしていたかもしれない。
たった今ここで、心の枷を彼は外してもらったのだ。
***
「次の相手は****か。」
差別用語を吐かれた剛だが、聞いているかどうか怪しむほど無反応だった。
相手は最初にチームを組むのを剛がアジア人だからと言うことを理由に断った2人組だ。
「口の利き方に気を付けろよ」
ザイオンは相手を睨んだ。
クリスも相手を睨んでこう言った。
「彼に負けるのが怖いから、口で勝負しようとしてるのかな?」
そう言うと相手が青筋を浮かべた。
「ああ?!テメェらあいつと仲良くやってて気持ち悪りぃんだよ。纏めてぶっ飛ばすぞ?」
ピピーッと笛が吹かれた。グレン・グリーン先輩だ。
「君たち辞めないかね、先程の言葉は気に入らないな。人種差別をするようならこちらも手は打たせてもらう。」
部が悪いと思ったのか、二人は引き下がった。
「そこのちっこいの!泣かしてやるよ。」
なんであいつらはこれほど自分を目の敵にするのか剛は理解が出来ないという顔をしていた。
***
試合開始のホイッスルがなる。多分これが最終戦だろう。他のチームとはもう既に戦っている。まだ戦ってないチームは彼らしかいない。
審判がボールを投げた。最高点に到達した時センターの2人が飛び上がる。
そしてジャンプボールを制したのは、アレクサンダーだった。
アレクサンダーが味方がいる方にボールをティップする。そして後ろに立っていたザイオンがそれを受け取った。そして剛にボールを渡す。
剛はボールを持つと一呼吸をしてドリブルを始めた。まずはハーフコートを超えて敵ゴール陣地に進入。そしてプレイをコールする。
まず剛が右ウィングへ行く、そしてトップに立つダリアにアレクサンダーがスクリーンを掛ける。
相手はスイッチせずに追いかけた。
ダリアはそのままゴール下へ切り込むがまだディフェンダーは引き剥がせていない。
そこで左コーナーで待機していたクリスが右コーナーへと走っていくのをダリアがスクリーンする。
だがクリスのディフェンダーは辛うじてついてきている。そこで右コーナーにいたザイオンが左コーナーへと走って行き、走り出す前にクリスがザイオンにスクリーンをかけて左コーナーへ精一杯走る。それを待ち構えている様にダリアがスクリーンをしてディフェンダーはもうどうすればいいのか分からない状態になっていた。
そこで今度はダリアが急にトップへ走り出した。剛はそこでトップにいたアレクサンダーにボールを渡し、アレクサンダーがダリアへとハンドオフをした。
するとそこで急に剛が右コーナーへ走り出して、いつの間にかザイオンがスクリーンをかけていた。
剛はそのままザイオンがいた右コーナーでボールを貰うがディフェンダーがついてきていた。
顔をよく見ると人種差別をしていた2人組の1人だ。剛はシュートを打つフリをしてポンプフェイクしたらまんまとそれに引っかかり、剛はゴールへドライブインした。するとアレクサンダーのディフェンダーがヘルプに来た。
身長は200より凄い高いくらいだろうか。彼も剛を馬鹿にしていた人の1人だった。
いつもならレイアップのフリをしてもし相手が飛んだらその近くにいる人へパスするが、その時はそう思わなかった。
目の前に大きな壁があるのが見えた。普通になら避ける。普通なら飛んで勝負しようとしない。だが、その時彼はいける自信がした。
自分が目指している世界はこれより理不尽な存在がいる。トラッシュトークは当たり前だが、何よりみんな一試合一試合を大切にして本気で戦っている。
彼はその世界に憧れていた。このままで行けるのだろうかあの世界へと。
行けない。そう悟った彼は決意した。やった事ないことをしようと。
自分を信じている人がいる。もっと自分のプレイが見たいと彼は言ってくれた。だから、その期待に応えたいと。
次の瞬間、誰もが驚愕した。
175センチしかないバスケットボールのプレイヤーが、200センチと遥かに自分より大きい選手を飛び越えようとしたのだ。
そしてそれは叶った。
「On your f***ing head !!!」
剛は思いっきり雄叫びを上げて、相手選手へこう言葉を放った。
剛は自分よりおよそ30センチ高い相手へと、ポスタライズダンクをしたのだ。
その衝撃は、試合を見ていたものの言葉を失わせた。
それは可能性を見出すのに十分だと、少女は確信した。彼は自分達の悲願を成し遂げれると。
剛が人生で初めて、練習以外でダンクした日だった。
これが彼のターニングポイントの1つとなった。
この後の試合は剛のいるチームのワンサイドゲームになった。主な理由は、さっき起きた剛のポスタライズダンクのお陰だろうか。相手は完璧に萎縮してしまったのだ。攻撃でも、特に守備では。守備の成功が無ければ幾ら攻撃で成功しても点差と言うのは基本縮まらないから。
***
20××年9月12日
リポーターはマイクを持って訪ねた。
「あなたは彼がこの様な偉業を成し遂げると信じたんですか?!」
年老いたが、体格は異常なほどたくましい黒人が笑って答えた。
「ええ、なんせ彼は高校一年で入部したての今日この日付に、あのオリニク・アンダーソンの上からポスタライズダンクをかましましたからね。私はその時彼のポテンシャルは計り知れないと分かりましたよ。」
そしてどこか懐かしむ顔でいう。
「その直後が最高でしたよ。お前の頭上からダンクしてやったぜクソッタレ…だったっけな?あのオリニクの悔しがる顔なんてあれ以来見たことないから貴重な体験でした。」
その顔は笑っていた。
これはどこか遠い未来で語られる、史上初の外国人選手で圧倒的に背が低い選手がどうやってこの世界を目指して生きてきたのかを語る番組。
グレン・グリーンはそう言うと、チーム分けされた通りの場所へ向かう。
「じゃあよろしくなハリス。」
剛のチームだけ一人チームメイトが多い。名前はハリスだ。
ハリスは身長は結構低い方だった。剛よりちょっと高いくらいだろう。180は超えてなかった。ポジションは剛と同じガードしかやった事がないらしい。
「うん、よろしく。」
そして試合を始めるホイッスルを部長のグレンがかけた。各コートに並んだチームで一斉に始めるらしい。それぞれのコートの審判は選手の能力を見分ける役割を同時にこなすのだろうか。
今回のメンバーはポイントガードが剛(2)シューティングガードがダリア(7)、スモールフォワードがクリス(15)で、パワーフォワードがザイオン(1)のセンターがアレクサンダー(8)となった。
対戦相手は全員身長が高くて、フィジカルも強そうだ。
圧倒的に背の低い選手が二人もいる剛のチームはかなり不利になるのか?と思われた。
ジャンプボールで相手センターがボールティップに成功して相手のガード(4)に渡った。試合時間は4分。
各自所定の相手へのディフェンスに着いたところから相手のオフェンスが始まった。早速センター(12)が剛へとスクリーンをかけた。
そしてスクリーンでスイッチされたあと、左コーナに待機していたフォワード(0)がボールを受け取りに来た。ハンドオフかと思われたがボールは渡されず、そのフォワードはそのまま中へ切り込む。そこでまたスイッチが行われる大分ミスマッチが出来てしまった。
そのあと、切り込んだ相手の0番が右コーナーから左コーナへ走るもう一人のガード(13)のためにスクリーンをかけてボールを持っている4番の選手が13番にパスしてコーナースリーを打った。
しかし決まらない、ゴール下にいたもう一人のフォワード(10)はザイオンにボックスアウトをして、ミスマッチとなった剛と12番でのリバウンド勝負だが当然12番が勝って、そのままスタンディングダンクをかまされた。
「すまん、ボックスアウトされて身動きが取れんかった。」
ザイオンが剛にそう声を掛けると、剛はザイオンを励ました。
「ドンマイ、大丈夫。次頑張ろう。」
今度は剛達のオフェンスになった。
剛の圧倒的な1on1スキルは惜しみもなく発揮され、相手はそれに翻弄されていた。クロスオーバーやビハインドバックをしてからの、プルバックやスクリーンからのプルアップシュートがほぼ決まっている。
だがしかし、オフェンスは剛に全て託されたわけではない。いいように味方も動いてくれて、最終的に32-11と大勝利した。全員得点をしている。オフェンスがうまく機能出来たと言うことだろう。
***
また別のチームと試合になった、全部のチームをそれぞれ戦わせて新入部員達のポテンシャルかスタミナを知りたいのだろうか。剛はさっき思った事とは違う可能性を考えたが、考えたところで意味はないと思いそれをやめた。
もう幾つかのチームでは疲れてヘナヘナな選手が多くいてもう試合にならない戦いも休憩中に見えた。まずはスタミナのあるない選手の見分けなのか?それとも。
剛はこのミニゲームをさせる意味が分からなかった。チームメイトを見ると見事な事にみんな疲れてはいない。みんな凄いと思っていた。
もちろんその剛も疲れてはいない。
試合は一つのクォーターのみで、剛達はもう10試合くらいはした。これまでの試合で1番ハイスコアなのはザイオンだ。
オフェンスになると彼は止まらなかった。ディフェンスでもブロックショットをよく見る。だが1番目立っているのは速攻でのダンクや、結構要求したアリウープだ。
アリウープの精度はまだそんなに高くない。結構ミスをしたりしていた。だが身体能力が高いのは確かだとわかる。
平均得点が18点くらいだろうか。4分しかない試合でそれほど得点を出来るのは凄い。まぁ彼がパスを要求したりしてみんな彼に回しているからオフェンスがザイオン中心になっていた。
今回の試合の中で1on1を剛はいまだに最初の一試合目でしかしてない。
思った以上にザイオンが強引にバスケットへボールをねじ込むため、剛はこれはとても楽だ、自分が動くまでもないと思ったからだ。
しかしこの試合が終わった後ザイオンは剛に声をかけた。
「なぁ、なんで今回はあんまり1対1をしないんだ?」
剛は目を見開いた。気づかれてないと思ったのをザイオンは見ていた。ザイオンは続けて言う。
「俺はお前の1対1のスキルをとても評価している。何しろ朝お前にコテンパにされたからな。俺がボールを要求してるからと言って遠慮はするな。自分で行けると思ったら自分で行け。俺はあくまで相手を引き付けているためにボール要求とかしている。」
そして最後に頬をかきながらこう言った。
「それに、お前は俺に出来ないムーブが出来る。俺はお前のその器用さによって生み出されるドライブからのフィニッシュやシュートが好きだ。俺はお前と一緒にもっと戦いたいから、一緒に主力メンバーに入ってプレイがしたい。俺にボールを回してその分みんなに評価されなくてベンチに引っこまれたりすんなよ。」
彼がそんな真っ直ぐな瞳でコッチを見た。
剛はフッと笑った。
「ああ、次からは遠慮しない。」
剛は靴紐を結び直して試合に出た。
***
「お前とバスケをしても楽しくない。」
ある少年がそれまで友達だった“もの”に言われた言葉だ。
その少年は同じ中学バスケの部員も、最初はみんな彼のドリブルやシュートセレクトなどの能力の高さに彼から何かを習えると仲良くしていた。
しかし練習しても上手くならず、いつしかそれは嫉妬という感情に変わり、彼が活躍する度、その感情は強くなった。
そして遂に試合中にみんなが意図的に彼にパスをしなくなり、そのせいで試合が負けた。
彼はみんなを責めたが、その時言われた言葉がこれだ。
そしてそれから部活内の雰囲気は悪くなっていき、監督までも剛が孤立していたので、全員へ責任を押し付けるより個人に責任を押し付ければいいと思い彼にプレイスタイルを変えろとまで要求した。
剛からすると今までの努力を否定された気分だ。それで彼は日本で誰ともバスケをしなくなった。
アメリカに来たら、誰かが認めてくれるかもしれないと思って来たが、トラウマがあり彼はすぐに自分から目立つのを無意識にしていたかもしれない。
たった今ここで、心の枷を彼は外してもらったのだ。
***
「次の相手は****か。」
差別用語を吐かれた剛だが、聞いているかどうか怪しむほど無反応だった。
相手は最初にチームを組むのを剛がアジア人だからと言うことを理由に断った2人組だ。
「口の利き方に気を付けろよ」
ザイオンは相手を睨んだ。
クリスも相手を睨んでこう言った。
「彼に負けるのが怖いから、口で勝負しようとしてるのかな?」
そう言うと相手が青筋を浮かべた。
「ああ?!テメェらあいつと仲良くやってて気持ち悪りぃんだよ。纏めてぶっ飛ばすぞ?」
ピピーッと笛が吹かれた。グレン・グリーン先輩だ。
「君たち辞めないかね、先程の言葉は気に入らないな。人種差別をするようならこちらも手は打たせてもらう。」
部が悪いと思ったのか、二人は引き下がった。
「そこのちっこいの!泣かしてやるよ。」
なんであいつらはこれほど自分を目の敵にするのか剛は理解が出来ないという顔をしていた。
***
試合開始のホイッスルがなる。多分これが最終戦だろう。他のチームとはもう既に戦っている。まだ戦ってないチームは彼らしかいない。
審判がボールを投げた。最高点に到達した時センターの2人が飛び上がる。
そしてジャンプボールを制したのは、アレクサンダーだった。
アレクサンダーが味方がいる方にボールをティップする。そして後ろに立っていたザイオンがそれを受け取った。そして剛にボールを渡す。
剛はボールを持つと一呼吸をしてドリブルを始めた。まずはハーフコートを超えて敵ゴール陣地に進入。そしてプレイをコールする。
まず剛が右ウィングへ行く、そしてトップに立つダリアにアレクサンダーがスクリーンを掛ける。
相手はスイッチせずに追いかけた。
ダリアはそのままゴール下へ切り込むがまだディフェンダーは引き剥がせていない。
そこで左コーナーで待機していたクリスが右コーナーへと走っていくのをダリアがスクリーンする。
だがクリスのディフェンダーは辛うじてついてきている。そこで右コーナーにいたザイオンが左コーナーへと走って行き、走り出す前にクリスがザイオンにスクリーンをかけて左コーナーへ精一杯走る。それを待ち構えている様にダリアがスクリーンをしてディフェンダーはもうどうすればいいのか分からない状態になっていた。
そこで今度はダリアが急にトップへ走り出した。剛はそこでトップにいたアレクサンダーにボールを渡し、アレクサンダーがダリアへとハンドオフをした。
するとそこで急に剛が右コーナーへ走り出して、いつの間にかザイオンがスクリーンをかけていた。
剛はそのままザイオンがいた右コーナーでボールを貰うがディフェンダーがついてきていた。
顔をよく見ると人種差別をしていた2人組の1人だ。剛はシュートを打つフリをしてポンプフェイクしたらまんまとそれに引っかかり、剛はゴールへドライブインした。するとアレクサンダーのディフェンダーがヘルプに来た。
身長は200より凄い高いくらいだろうか。彼も剛を馬鹿にしていた人の1人だった。
いつもならレイアップのフリをしてもし相手が飛んだらその近くにいる人へパスするが、その時はそう思わなかった。
目の前に大きな壁があるのが見えた。普通になら避ける。普通なら飛んで勝負しようとしない。だが、その時彼はいける自信がした。
自分が目指している世界はこれより理不尽な存在がいる。トラッシュトークは当たり前だが、何よりみんな一試合一試合を大切にして本気で戦っている。
彼はその世界に憧れていた。このままで行けるのだろうかあの世界へと。
行けない。そう悟った彼は決意した。やった事ないことをしようと。
自分を信じている人がいる。もっと自分のプレイが見たいと彼は言ってくれた。だから、その期待に応えたいと。
次の瞬間、誰もが驚愕した。
175センチしかないバスケットボールのプレイヤーが、200センチと遥かに自分より大きい選手を飛び越えようとしたのだ。
そしてそれは叶った。
「On your f***ing head !!!」
剛は思いっきり雄叫びを上げて、相手選手へこう言葉を放った。
剛は自分よりおよそ30センチ高い相手へと、ポスタライズダンクをしたのだ。
その衝撃は、試合を見ていたものの言葉を失わせた。
それは可能性を見出すのに十分だと、少女は確信した。彼は自分達の悲願を成し遂げれると。
剛が人生で初めて、練習以外でダンクした日だった。
これが彼のターニングポイントの1つとなった。
この後の試合は剛のいるチームのワンサイドゲームになった。主な理由は、さっき起きた剛のポスタライズダンクのお陰だろうか。相手は完璧に萎縮してしまったのだ。攻撃でも、特に守備では。守備の成功が無ければ幾ら攻撃で成功しても点差と言うのは基本縮まらないから。
***
20××年9月12日
リポーターはマイクを持って訪ねた。
「あなたは彼がこの様な偉業を成し遂げると信じたんですか?!」
年老いたが、体格は異常なほどたくましい黒人が笑って答えた。
「ええ、なんせ彼は高校一年で入部したての今日この日付に、あのオリニク・アンダーソンの上からポスタライズダンクをかましましたからね。私はその時彼のポテンシャルは計り知れないと分かりましたよ。」
そしてどこか懐かしむ顔でいう。
「その直後が最高でしたよ。お前の頭上からダンクしてやったぜクソッタレ…だったっけな?あのオリニクの悔しがる顔なんてあれ以来見たことないから貴重な体験でした。」
その顔は笑っていた。
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第三部表紙絵制作者様→NYAZU様《https://skima.jp/profile?id=156412》
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