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獲物は反撃を開始する
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「サナエ、待たせたね」
アルが戻って来る。
「……お疲れ様、いっぱい注文入って良かったねっ」
不機嫌な声になってしまった。普通にしなければと思っていたのに、やはり駄目だったようだ。
「……おい、俺も待ってたぜ?」
「どうしたの? サナエ、疲れちゃった?」
アウインは完全にスルーされている。
「……あの女の人がっ、寝室に誘うとか言ってたけど、そういう事ってこれまでもあったの?」
「……あの人のは冗談みたいなものだよ」
恋愛経験の乏しい早苗は嫉妬による苛立ちを真っ直ぐぶつけてしまう。
アルが質問に対する明確な返答をしないのにも、益々イライラを増長させた。
追い討ちをかけるようにアウインが加わって来る。
「いくら王子でも何の後ろ楯もねぇんだ、真っ当な方法だけで、ああまで成り上がれる訳ねーだろ? きったねー事は山ほどやってるぜ? 俺も巻き込まれた事があるが、こいつは……っ」
アウインの言葉が早苗の胸に突き刺さる。十六歳から八年間、きっと相当な苦労があっただろう。
「…………サナエ、こっち向いて」
アルに呼ばれ、彼女は顔を上げた。アウインが何故か首を押さえて後を向いているのが多少気になるが、真剣な表情のアルから目を逸らす事は憚られる。
「俺は確かに犯罪者だし、汚ない事もたくさんやって来たよ。誇れる事では無い。でも、何の犠牲も無しに得られるものや救われるものは、そう多く無いんだ…………君に言える事じゃ無いし、言い訳に聞こえるかもしれないけど……」
ガバッ!と早苗はアルの胸に抱き着いた。額を押し付けながら、ふるふると首を振る。
「私は別に犠牲になったなんて思って無いよ! むしろ頼ってよ! ドンと来いだから!」
アルはクスクス笑った。
「いやいや、それこそ俺の台詞じゃないけど、女の子がそんな事言うもんじゃないよ。俺の方こそ、これから君にお返ししなきゃね…………どんなお返しが良い?」
早苗の髪を撫でながら、最後の台詞は耳元に唇を寄せて囁いた。早苗背中がぞくぞくと震える。
その時、地を這うような声が響いて来た。
「…………お前ら、そう言うのは宿屋でやれや……」
「この後残りニ人の家に行こうと思ってたけど、一軒に集まってくれて手間が省けたな」
早苗とアルのニ人は、空いた時間を使って病院に来ていた。早苗の妊娠検査をする為だ。アウインは置いて来た。
病院は想像より明るい雰囲気で、アンティーク調の花柄の壁紙が院内全体を華やかにしている。
「サナエ・イーダさーん」
「はいっ!」
長い長い待ち時間の末、漸く名前を呼ばれた。早苗は、緊張から逆に元気良く返事をしてしまう。
「診察室へどうぞ」
診察室に入ると、そこには白衣を着た眼鏡の男性が座っていた。白衣は異世界でも共通なのか。
「妊娠検査だね? えーと……二十一歳? 本当に??」
問診票を見た医師が驚いた声を上げる。疑っているようだ。
「本当ですけどっ」
「歳を誤魔化す必要は無いんじゃないかい? 愛し合っている者同士ならおかしくない事だし。現に彼は若いのに病院まで付いて来るくらい愛情深い子なんだから」
「……彼女は成人してますよ。因みに俺は二十四です。子と言われる年齢ではありません」
外見が若い事がコンプレックスなアルが、冷やかな笑顔で訂正する。
「またまた。まあ、検査すれば分かるけどね」
だが、医師には通じていないようだ。鈍い人らしい。
「じゃあ、そこの診察台に仰向けで寝転んで」
意志に言われた通り、早苗は診察台に上がり横になる。
「はいじゃあちょっとお腹出すよ~」
そう言うと、医師は早苗のズボンを引き下げた。
「わっ?!」
「っ!?」
更に医師は下穿きの紐に手を掛ける。その時、アルが動いた。
「ひっ?!」
「……それは必要? 服の上からじゃ見えない訳?」
「マスター!」
アルは、医師の背後から首のすぐ側に細くした炎を当てている。
「ひ、ひ、必要だよっ! 直接触れる方が鮮明に見えるんだ! ほほ本当だよ、おかしな目で見る事は絶対に無いから!! それを離してくれぇっ!!!!」
「ま、マスター止めてよ!」
「ど、どうしました?! きゃあ!!」
医師の絶叫を聞き付けた看護師が駆け付けて来て悲鳴を上げた。
「な、何をしているんですか!」
「この子の下着を脱がそうとしたら急に! 透視検査の為に必要な事なんだと、君からも言ってやってくれ!!」
「……マスター! 今すぐ炎を消しなさい!!」
アルが戻って来る。
「……お疲れ様、いっぱい注文入って良かったねっ」
不機嫌な声になってしまった。普通にしなければと思っていたのに、やはり駄目だったようだ。
「……おい、俺も待ってたぜ?」
「どうしたの? サナエ、疲れちゃった?」
アウインは完全にスルーされている。
「……あの女の人がっ、寝室に誘うとか言ってたけど、そういう事ってこれまでもあったの?」
「……あの人のは冗談みたいなものだよ」
恋愛経験の乏しい早苗は嫉妬による苛立ちを真っ直ぐぶつけてしまう。
アルが質問に対する明確な返答をしないのにも、益々イライラを増長させた。
追い討ちをかけるようにアウインが加わって来る。
「いくら王子でも何の後ろ楯もねぇんだ、真っ当な方法だけで、ああまで成り上がれる訳ねーだろ? きったねー事は山ほどやってるぜ? 俺も巻き込まれた事があるが、こいつは……っ」
アウインの言葉が早苗の胸に突き刺さる。十六歳から八年間、きっと相当な苦労があっただろう。
「…………サナエ、こっち向いて」
アルに呼ばれ、彼女は顔を上げた。アウインが何故か首を押さえて後を向いているのが多少気になるが、真剣な表情のアルから目を逸らす事は憚られる。
「俺は確かに犯罪者だし、汚ない事もたくさんやって来たよ。誇れる事では無い。でも、何の犠牲も無しに得られるものや救われるものは、そう多く無いんだ…………君に言える事じゃ無いし、言い訳に聞こえるかもしれないけど……」
ガバッ!と早苗はアルの胸に抱き着いた。額を押し付けながら、ふるふると首を振る。
「私は別に犠牲になったなんて思って無いよ! むしろ頼ってよ! ドンと来いだから!」
アルはクスクス笑った。
「いやいや、それこそ俺の台詞じゃないけど、女の子がそんな事言うもんじゃないよ。俺の方こそ、これから君にお返ししなきゃね…………どんなお返しが良い?」
早苗の髪を撫でながら、最後の台詞は耳元に唇を寄せて囁いた。早苗背中がぞくぞくと震える。
その時、地を這うような声が響いて来た。
「…………お前ら、そう言うのは宿屋でやれや……」
「この後残りニ人の家に行こうと思ってたけど、一軒に集まってくれて手間が省けたな」
早苗とアルのニ人は、空いた時間を使って病院に来ていた。早苗の妊娠検査をする為だ。アウインは置いて来た。
病院は想像より明るい雰囲気で、アンティーク調の花柄の壁紙が院内全体を華やかにしている。
「サナエ・イーダさーん」
「はいっ!」
長い長い待ち時間の末、漸く名前を呼ばれた。早苗は、緊張から逆に元気良く返事をしてしまう。
「診察室へどうぞ」
診察室に入ると、そこには白衣を着た眼鏡の男性が座っていた。白衣は異世界でも共通なのか。
「妊娠検査だね? えーと……二十一歳? 本当に??」
問診票を見た医師が驚いた声を上げる。疑っているようだ。
「本当ですけどっ」
「歳を誤魔化す必要は無いんじゃないかい? 愛し合っている者同士ならおかしくない事だし。現に彼は若いのに病院まで付いて来るくらい愛情深い子なんだから」
「……彼女は成人してますよ。因みに俺は二十四です。子と言われる年齢ではありません」
外見が若い事がコンプレックスなアルが、冷やかな笑顔で訂正する。
「またまた。まあ、検査すれば分かるけどね」
だが、医師には通じていないようだ。鈍い人らしい。
「じゃあ、そこの診察台に仰向けで寝転んで」
意志に言われた通り、早苗は診察台に上がり横になる。
「はいじゃあちょっとお腹出すよ~」
そう言うと、医師は早苗のズボンを引き下げた。
「わっ?!」
「っ!?」
更に医師は下穿きの紐に手を掛ける。その時、アルが動いた。
「ひっ?!」
「……それは必要? 服の上からじゃ見えない訳?」
「マスター!」
アルは、医師の背後から首のすぐ側に細くした炎を当てている。
「ひ、ひ、必要だよっ! 直接触れる方が鮮明に見えるんだ! ほほ本当だよ、おかしな目で見る事は絶対に無いから!! それを離してくれぇっ!!!!」
「ま、マスター止めてよ!」
「ど、どうしました?! きゃあ!!」
医師の絶叫を聞き付けた看護師が駆け付けて来て悲鳴を上げた。
「な、何をしているんですか!」
「この子の下着を脱がそうとしたら急に! 透視検査の為に必要な事なんだと、君からも言ってやってくれ!!」
「……マスター! 今すぐ炎を消しなさい!!」
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