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獲物にされた猟師ちゃん
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早苗がアルの経営する宿屋で同居(?)生活を始めてから、早いもので2ヶ月が経った。この世界に来て、もう4ヶ月だ。
「マスター! 今日は凄いよ! じゃーん! 牙狼でーす!!」
「……まぁ凄いけど…………フィート、潰れてない?」
見ると、大柄な男が巨大な黒い狼に押し潰されている。
フィートは190cmを超える身長の筋骨隆々な青年だが、体重200kg近い牙狼を森から一人で背負って来た彼は、宿に着くなり力尽きてしまったのだ。
「あれ?! だってフィートさん、これくらい任せとけ! って……」
この一月の間に、アルの部下らしいフィートと早苗は随分親しくなっていた。今日は早苗の狩りに付き合ってくれたのだが……
「……馬鹿だから、女の子に良いとこ見せたかったんでしょ」
「お、女の子……」
「あ、フィートに君が女だって教えたの、俺だから。こいつも漏れなく間違ってたから」
「ぐっ……」
何か変わったかに思えた早苗とアルとの関係は、特に変わりは無い。その後身体を結ぶ出来事が2回ほどあったが。
そして元の世界に帰る手立てについての情報も、露ほども得る事は出来ていなかった。
しかし、早苗はアルにイライラさせられたりドキドキさせられたり、たまにアンアンさせられたりしながらも、彼のお陰で得た定期的な収入と人間らしい衣食住により心身共に安定している。
ずっと止まっていた月の物が先日久しぶりに訪れたのもその証拠だ。
「んー、大きさとしては中くらいだから、100ギラだね」
「やった! 十分だよっ、マスターありがとう!」
早苗は意気揚々と部屋を出て行く。
その小さな背中を見送るアルはと言えば、早苗の狩ってくる獲物のお陰で様々な事業の経営が今まで以上に上向きになり、順風満帆と言える日々を送っていた。
目的にも順調に近付いている。
「ハァ……アル様……俺はあの子が不憫で、見てられませんよ……」
早苗が出て行ったのを確認して、フィートは溜め息をつく。そして自分の主人に苦言を呈した。
「じゃあ見なければ良いでしょ」
「あんなに素直で可愛い子を騙して利用して……心が痛みませんか?」
フィートは伝わらない事に頭を抱えて主人を諭す。
「何故? 前の取引相手と比べれば倍の金額で買い取ってるし、彼女も喜んでるじゃない」
「前の取引相手は極悪人だが、貴方も十分酷いですよ。さっきの牙狼だって、300ギラはするでしょう。よく獲ってくる角兎だって600ギラくらいするんじゃないですか? 知らないのを良い事に、あんまりです」
眉間に皺を寄せる従者に、アルは冷笑を向ける。
「……そんなに可哀想だって言うなら、君が寝室で優しく慰めてあげたら? 俺のお下がりだけどさ」
「リファイアル様…………あの子はあの方とは違います。幼い義理の息子に手を出すような……」
ヒュッ!と何か光る物がフィートの頬を掠めて扉に突き刺さる。刺さったのは金色の硬貨だ。
金貨の掠めたフィートの頬には細く赤い線が走っている。
「黙れ、お前も殺されたいか」
静かだが凄味のある声で言われ、フィートは黙り込む。フィートに比べれば20cm近く小さな身体なのに、その気になれば容易く捻り殺されそうな殺気を感じ、額から汗を流した。
「……出過ぎた、発言、でした……」
フィートは主人に跪く。
こくっ、音を立てないよう唾液を飲み込んだのは、早苗だ。扉の外で息を潜めていたのである。
彼女は身を翻し、足音に気を付けながらその場を立ち去った。
聞いてしまったのはたまたまだった。部屋を出て数歩離れた時、ふと思い出したのだ。獲物とは違うが鉱石らしき物を拾ったので、アルに見てもらおうと持って来ていた事を。
そして、引き返して扉をノックしようとした時聞こえてきた話し声に、つい足を止めてしまった。
宿屋を出た早苗は、青ざめた顔でフラフラと街を歩いた。
辿り着いたのは獲物なら何でも買い取ってくれた肉屋、以前の取り引き先だ。
「……こんにちは」
声を掛けると、振り返った店の店主が目を見開く。
「……あ、あんた……」
「おじさん、以前は私の獲物を買い取ってくれてありがとう」
「……あの、いやその……」
早苗の雰囲気から察したのだろう。店主はしどろもどろで目を泳がせている。
「通報しないであげるから、本当の一般買い取り価格教えてくれる?」
表情を変えずに淡々と話す早苗の様子に恐怖を覚えた店主は、震え上がり素直に従う。
「あ、ああ、分かった、分かったよ」
「マスター! 今日は凄いよ! じゃーん! 牙狼でーす!!」
「……まぁ凄いけど…………フィート、潰れてない?」
見ると、大柄な男が巨大な黒い狼に押し潰されている。
フィートは190cmを超える身長の筋骨隆々な青年だが、体重200kg近い牙狼を森から一人で背負って来た彼は、宿に着くなり力尽きてしまったのだ。
「あれ?! だってフィートさん、これくらい任せとけ! って……」
この一月の間に、アルの部下らしいフィートと早苗は随分親しくなっていた。今日は早苗の狩りに付き合ってくれたのだが……
「……馬鹿だから、女の子に良いとこ見せたかったんでしょ」
「お、女の子……」
「あ、フィートに君が女だって教えたの、俺だから。こいつも漏れなく間違ってたから」
「ぐっ……」
何か変わったかに思えた早苗とアルとの関係は、特に変わりは無い。その後身体を結ぶ出来事が2回ほどあったが。
そして元の世界に帰る手立てについての情報も、露ほども得る事は出来ていなかった。
しかし、早苗はアルにイライラさせられたりドキドキさせられたり、たまにアンアンさせられたりしながらも、彼のお陰で得た定期的な収入と人間らしい衣食住により心身共に安定している。
ずっと止まっていた月の物が先日久しぶりに訪れたのもその証拠だ。
「んー、大きさとしては中くらいだから、100ギラだね」
「やった! 十分だよっ、マスターありがとう!」
早苗は意気揚々と部屋を出て行く。
その小さな背中を見送るアルはと言えば、早苗の狩ってくる獲物のお陰で様々な事業の経営が今まで以上に上向きになり、順風満帆と言える日々を送っていた。
目的にも順調に近付いている。
「ハァ……アル様……俺はあの子が不憫で、見てられませんよ……」
早苗が出て行ったのを確認して、フィートは溜め息をつく。そして自分の主人に苦言を呈した。
「じゃあ見なければ良いでしょ」
「あんなに素直で可愛い子を騙して利用して……心が痛みませんか?」
フィートは伝わらない事に頭を抱えて主人を諭す。
「何故? 前の取引相手と比べれば倍の金額で買い取ってるし、彼女も喜んでるじゃない」
「前の取引相手は極悪人だが、貴方も十分酷いですよ。さっきの牙狼だって、300ギラはするでしょう。よく獲ってくる角兎だって600ギラくらいするんじゃないですか? 知らないのを良い事に、あんまりです」
眉間に皺を寄せる従者に、アルは冷笑を向ける。
「……そんなに可哀想だって言うなら、君が寝室で優しく慰めてあげたら? 俺のお下がりだけどさ」
「リファイアル様…………あの子はあの方とは違います。幼い義理の息子に手を出すような……」
ヒュッ!と何か光る物がフィートの頬を掠めて扉に突き刺さる。刺さったのは金色の硬貨だ。
金貨の掠めたフィートの頬には細く赤い線が走っている。
「黙れ、お前も殺されたいか」
静かだが凄味のある声で言われ、フィートは黙り込む。フィートに比べれば20cm近く小さな身体なのに、その気になれば容易く捻り殺されそうな殺気を感じ、額から汗を流した。
「……出過ぎた、発言、でした……」
フィートは主人に跪く。
こくっ、音を立てないよう唾液を飲み込んだのは、早苗だ。扉の外で息を潜めていたのである。
彼女は身を翻し、足音に気を付けながらその場を立ち去った。
聞いてしまったのはたまたまだった。部屋を出て数歩離れた時、ふと思い出したのだ。獲物とは違うが鉱石らしき物を拾ったので、アルに見てもらおうと持って来ていた事を。
そして、引き返して扉をノックしようとした時聞こえてきた話し声に、つい足を止めてしまった。
宿屋を出た早苗は、青ざめた顔でフラフラと街を歩いた。
辿り着いたのは獲物なら何でも買い取ってくれた肉屋、以前の取り引き先だ。
「……こんにちは」
声を掛けると、振り返った店の店主が目を見開く。
「……あ、あんた……」
「おじさん、以前は私の獲物を買い取ってくれてありがとう」
「……あの、いやその……」
早苗の雰囲気から察したのだろう。店主はしどろもどろで目を泳がせている。
「通報しないであげるから、本当の一般買い取り価格教えてくれる?」
表情を変えずに淡々と話す早苗の様子に恐怖を覚えた店主は、震え上がり素直に従う。
「あ、ああ、分かった、分かったよ」
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