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Ⅵ 連休の過ごし方

87話 溺れる魚

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 鮮血が飛び散った瞬間から、オルビスは、エリーゼの視界を手で覆っていた。

 見せるべきではないと、直感し、ついでに駆け出してしまわないよう、反対の腕で、エリーゼの体を捕まえる。

 「・・・あーくんはね、ずっと、ずぅっと、ずぅぅぅっと、こうしてね、泣いてるの。誰も傷付けたくなくてね、自分を傷付けるの。」

 ちょこちょこと、オルビスとエリーゼの方へとやって来たララは、手を口に当て、小声で囁く。

 「ねぇねぇ、オーちゃん??なんでエリーちゃんに見せたげないの??これがね?本当のあーくんなんだよ??そうなの!そうなんだよ??」

 冷や汗を流すオルビスの瞳を伺う様に、ララは、小刻みに姿勢を変え、角度を変えながら、じーっとした視線を向ける。

 「こ、これが、本当の、アイ、ン??・・・です、か??」

 「うん!そうだよ??そうなの!昔からずっと、あーくんは、こうしてね、泣いてるの。必死でね、抑えてるんだよ??こうね、黒いのがぐわぁぁあっ!・・・てなるのを、抑えてるんだよ??エリーちゃんは、あーくんが好きなんでしょ??なら、本当のあーくんも見ないと駄目でしょ??駄目だよね?駄目だと思うなぁ~!」

 「・・・オルビスよ、この手を退けるだ。」

 ララの言葉が切れるよりも早く、エリーゼは、そう言った。

 「し、しかーーッ!?」

 「退けよ。・・・頼む、オルビス。この手を、退けてくれ。」

 オルビスは、自身の手の隙間から溢れる、エリーゼの涙を、無視出来なかった。

 「・・・。」

 緩んだオルビスの腕を振り払い、エリーゼは、アインへと近寄っていく。

 「・・・妾はな、寂しがり屋なのだ。」

 そして、地へ両膝を着き、怯えた小動物のように震えるアインへと、そっと両腕を伸ばす。

 「・・・だからの?惚れた殿方とは、最後を共にすると、心に決めておったのだ。」

 未だにダラダラと、血の流れるアインの両肩へ、ゆっくりと触れる。



 「・・・共に壊れるまで、あいしあおうぞ。」

 

 エリーゼは、アインの凄惨な過去を、シルビア経由で知っていた。

 だから、その全てを受け止める。



 ギュッと、震えるアインを、自ら持てる全ての力で、思いっきり、抱き締めた。



 「共にでないと・・・許さんからの??覚悟するのだぞ??何せ、まだ妾は、大人の女性レディではないからの!我が儘なのだ!ふふっ!」



 アインへ、ニカッと、幼くも太陽の様に目映い笑みを見せる。

 そして、スッと目蓋を閉じ、唇をゆっくりと重ねる。

 周囲等一切気にもせず、少しでも奥深くまで、アインを求めて、エリーゼは、自らを絡め、隅々まで、調べ尽くす。

 だから、アインは、エリーゼの求めに応じて、少しでも多くの自分を晒し、同時に、彼女を求めた。



 2人はそのまま、溺れた。



 水の中で、溺れる魚の様に、



 呼吸すら忘れて、意識が飛んでしまう程、互いに、溺れて眠った。



 その光景を目の当たりにしていたララは、涙を垂れ流しにして、ポツリと言葉を残す。

 「・・・良かったね、あーくん。」

 幸せそうな顔で眠りにつく、アインをじっと見つめ、その場を後にする。

 オルビスは、ただただ、立ち尽くした。

 眠りに就いて尚、絡み合う2人へ、触れて良いのか分からなくて。
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