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Ⅲ 美しくしき思い出

32話 力然り、金然りなぁ。

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 「ずびっ!ずびっ!ぐすんっ!」

 エレン・レーティは、号泣し、ハンカチでその涙を拭いながら、わんわんと泣いていた。

 「これがね、あーくんなの。あーくんね??それからずっと、そんな事を繰り返して来たんだよ?来ちゃったの。来れちゃったんだよ?・・・だからね?きっと、重なっちゃったんだと思うの!思うんだよ??あーくんが捨てたあーくんに。・・・でもね?でもね?あーくんは、本当は、とってもいい子なんだよ??本当なの!本当なんだよ??」

 ララは、独特のテンポで、自分の知る範囲の、アインの話を語った。

 「あ、・・・アイン様に、そ、そんな過去がっ!!ぐすんっ!ぐすんっ!」

 「あっ、そう言えば、これ、他の人に言いふらしたら駄目なんだよ?駄目なの!あーくん怒っちゃうからね??内緒だよ?内緒なの!」

 「・・・は、はいっ。存じ上げております!おりますとも。」



 しかし、この場には、もう一人。



 たまたま、盗み聞いてしまった、鮮やかな水色の綺麗な長い髪の女子生徒がいた。




~~ そして ~~



 放課後、食堂近くにある、有料の個室スペースにて。




 「約束通り、強力したんだから、お金を渡しなさいっ!!」

 ミーナは腕を組み、仁王立ちをして、堂々と金をせびる。

 「ほらよっ!」

 アインは、言いながら、金貨を親指で弾き、ミーナへと渡す。

 「あぁ、ついでになんだが、アンセムについて、お前の知る限りの情報をくれないか?」

 アインは、そう言いながら、更に大銀貨を1枚弾き、ミーナへと渡す。

 「あんた、英雄アンセムの童話は知ってる?」

 「そりゃまぁ。知ってるな。」

 「アンセムってのは、違法な薬物よ。赤い錠剤のね。この学園でも、かなり出回っているわ。でも、出回るには理由があって、この薬物を摂取すると、魔力が一時的に上昇するらしいわ。ただし、かなりの中毒性と、気性が荒くなりやすくなる副作用があるわ。」

 アインは、ポンポンと顎に手を当て、思考を回しながら、ミーナの話を聞いていた。

 「あぁ、それで、アンセムと名前が付けられた訳だ。・・・皮肉だな。」

 「そうね。全く、身に余る力を手にしたって、録な事にならないってのにね。」

 「力然り、金然りなぁ。」

 ミーナの眉がピクッと動く。

 「大体、身の丈以上の物を欲すれば、痛い目に遭うのは、世の必然みたいな物じゃない?」

 「力然り、金然りなぁ!」

 ミーナの眉がピクッ、ピクッと動く。

 「考え方が安直なのよ!全く、それでも欲するのは、さしずめ、人の業ってことなのかしらね?」

 「力然り、金然りなぁ~。」

 バン!とテーブルを叩いたミーナは、ジロッとアインを睨み言葉を発する。

 「・・・何よッ!?」

 「他意はないんだ。・・・他意は。しかし、なるほどな。」

 (バルザックとヤスの、裏にいたのがジーク1人なら、分かりやすかったんだが、どうにもそうでは無いらしい。今分かっているのは、他にサーチェとルダスが、そこに絡んでいると言う事位。さてさて・・・)

 物思いに耽り、思考を回すアインの姿を、ミーナは物珍しそうに見つめる。

 「ん?どうした??」

 その視線に気付いたアインが、不思議そうな表情を浮かべ、ミーナへ尋ねる。

 「あんたってさ、実は頭良いわよね?」

 「意外か??まぁ、世間一般常識は欠落してるがな。それよりも、ヤスがどうもその、アンセムの運びをやってたみたいでな。ヤスはこちらの協力者として保護しつつ、この件は、殿下に丸投げしてみようと思うのだが、どうだろう?不都合は有るか??」

 「別に無いわよ!何ッ!?私がアンセムに関わってるとか思ってるのッ!?」

 「金が絡む以上は必然かとな。まぁ、お前に不都合ないなら、それで進めてみるか。」

 そう言ってアインは席を立つ。

 「意外ね!てっきりあんたなら、全員締め上げてやるとか、言い出しそうなものだと、思ってたけど!」

 「あぁ、なに、俺も学習している。これでも、成長期なんでね。」

 そう言ったアインの瞳は、前より一層、黒味がかって、濁っているように、ミーナには、そう見えた。



~~ 翌日 朝 ~~



 「あら、アイン様!ご機嫌よう!」

 「・・・。」

 「ご機嫌よう!」

 「・・・。」

 「ご機嫌ようですー!」

 「・・・。」




 (何ッ!?何が起こってんのッ!?)



 何故が、廊下を歩いているだけで、すれ違う男女問わず、皆から挨拶をされて、戸惑うアイン。

 「やぁ!アイン!どうした??いつにもまして、目付きが悪いぞ??」

 「なぁ、殿下??今朝から、すれ違う皆から挨拶をされるのだが、何故かお前分かるか??」

 「ふむ。それは、私が君の野外実習での活躍を吹聴したのと、昨日のレーティ嬢を助けた君の行動が広くしれ渡った事と、そして、レーティ嬢が君に掛けられた言葉を、叱咤激励として、良い吹聴をしているのとが、合わさった結果だろうな。」

 「ふ、ふーん、ほーん!へ、へぇ~~。」

 「今、君の評価は、実は良い奴となりつつあるぞ?良かったな、アイン!!」

 (だから、何でそうなったッ!?)

 アインは、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、表情をヒクつかせる。



 (・・・・・・ひ、広めねばならない、悪評をッ!!)



 それは、本作の主人公が、やっとコンセプトに沿った心境へと至った瞬間である。

    
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