14 / 49
第二章
夢
しおりを挟む時々、こんな夢を見る。
暗い森の中。
月の光さえ届かない闇夜の底で、一人の男がうつ伏せに倒れている。
体付きからして成人はしているだろうが、顔が見えないため、詳しい年齢はわからない。
全身を血塗れにして、冷たい土の上に横たわるその姿は、明らかに死んでいた。
そんな男の姿を、霧島御琴は隣から静かに見下ろしていた。
物言わぬ死体の傍らで、呆然と立ち尽くしている。
男の正体はわからない。
けれど、悲しいという感情だけが、彼女の胸を覆っていた。
やがて、どこからか音が聞こえてきた。
笛や太鼓などによる、和風の音楽を奏でる音だった。
つられて霧島がそちらの方を見ると、視線の先には鳥居が一つ、ぽつんと立っていた。
音はその向こう側から聞こえてくる。
縁日でもやっているのだろうか。
音は段々とこちらへ近づいてくるようだった。
少しずつ大きくなっていくその音色に合わせて、霧島の悲しい感情もどんどん膨らんでいく。
なぜ、こんなにも悲しいのか。
その理由もわからないまま、霧島はただひとり、人知れず涙を流すだけだった。
◯
そこでやっと、霧島は目を覚ました。
薄らぼんやりとした意識の中、またあの変な夢だったな、と振り返る。
初めて見たときはさすがに怖かったけれど、すでに何度も見た今となっては慣れたものだった。
ベッドに横たわったまま視線だけを辺りに巡らせると、カーテンから漏れる朝の光とともに、部屋の壁に掛けられたカレンダーが目に入った。
二〇一九年、五月。
ゴールデンウィーク明けの今日は、久方ぶりの登校日だ。
(学校、行きたくないなぁ……)
重い身体を無理やり起こし、大きく伸びをしてみると、まだ新しい家の匂いが鼻孔をくすぐった。
その香りに当てられた瞬間、それまで夢見心地だった頭が急速に現実の世界を思い出していく。
先月の初め、霧島は小学五年生になるのと同時に、親の仕事の都合でこの街へと引っ越してきた。
以前住んでいた都心部から、車で約三十分。
程よく緑で彩られたその場所は、都会に比べると人混みが少なく、空気も澄んでいる。
長閑で良い所だな、というのが、霧島にとって最初の印象だった。
けれど今となっては、この場所から逃げ出したくてたまらない。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
白雪姫症候群~スノーホワイト・シンドローム~
紫音
恋愛
幼馴染に失恋した傷心の男子高校生・旭(あさひ)の前に、謎の美少女が現れる。内気なその少女は恥ずかしがりながらも、いきなり「キスをしてほしい」などと言って旭に迫る。彼女は『白雪姫症候群(スノーホワイト・シンドローム)』という都市伝説的な病に侵されており、数時間ごとに異性とキスをしなければ高熱を出して倒れてしまうのだった。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
この『異世界転移』は実行できません
霜條
ライト文芸
どこにでもいるサラリーマン、各務堂一司《かがみどうかずあき》。
仕事ばかりの日々から離れる瞬間だけは、元の自分を取り戻すようであった。
半年ぶりに会った友人と飲みに行くと、そいつは怪我をしていた。
話しを聞けば、最近流行りの『異世界転移』に興味があるらしい。
ニュースにもなっている行方不明事件の名だが、そんなことに興味を持つなんて――。
酔って言う話ならよかったのに、本気にしているから俺は友人を止めようとした。
それだけだったはずなんだ。
※転移しない人の話です。
※ファンタジー要素ほぼなし。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あやかし警察おとり捜査課
紫音
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。
しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。
反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。
黒地蔵
紫音
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。
※表紙イラスト=ミカスケ様
僕《わたし》は誰でしょう
紫音
青春
※第7回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
交通事故の後遺症で記憶喪失になってしまった女子高生・比良坂すずは、自分が女であることに違和感を抱く。
「自分はもともと男ではなかったか?」
事故後から男性寄りの思考になり、周囲とのギャップに悩む彼女は、次第に身に覚えのないはずの記憶を思い出し始める。まるで別人のものとしか思えないその記憶は、一体どこから来たのだろうか。
見知らぬ思い出をめぐる青春SF。
※表紙イラスト=ミカスケ様
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる