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第五章 オーストラリア QLD ブリスベン
第五話 怪異
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再び休み時間に突入したものの、天満は問題児の様子を遠くから窺うことしかできなかった。
坂上青年は例のソフトモヒカンの青年と連れ立ってトイレに向かう。その後ろをこっそり尾けながら会話の内容に聞き耳を立ててみたが、さっきの授業はどうだったとか、週末の予定はどうするかとか、特に問題行動に繋がりそうな話題はなかった。
この分だと、件のホストファミリーに直接話を聞いた方が早いような気もする。が、それは璃子たちの役目なのでここは続報を待つことにする。
(せめて怪異の片鱗だけでも見せてくれれば助かるんだけどなぁ)
坂上青年には悪いが、さっさと怪異に出くわしてほしい——と、そんな天満の願いが通じたのか、その瞬間は唐突に訪れた。
「ひっ……うわああぁぁ!!」
坂上青年の悲鳴が上がった。
声の出所はトイレの内部。目の前の廊下で待機していた天満は、悲鳴を聞くなり血相を変えて入口に駆け込んだ。
「どうした! 何があった……って、うわっ」
天満がトイレに足を踏み入れた瞬間、ちょうど入れ替わりで飛び出してきた坂上青年と肩がぶつかった。衝撃で後ろに弾き飛ばされ、天満は背中を壁に打ちつけたが、坂上青年はそれを意にも介さず、切羽詰まった様子でそのまま走り去ってしまった。
「痛って……。くそ、何なんだ一体」
天満は背中を摩りながら、改めてトイレの内部を見る。すると、その場には例のソフトモヒカンの青年と、他にも三人の学生が不思議そうな顔をして佇んでいた。
「What happened?(何が起こったんだ?)」
天満が聞くと、それまで呆けたように固まっていた青年がこちらを見て答える。
「Well……I have no idea. We were just washing our hands.(わからない。僕らはただ手を洗ってただけで)」
彼の言う通り、水道の水は未だ出しっぱなしになっていた。おそらくはこの場所で坂上青年が手を洗っていたのだろう。センサー式のそれは感知する対象を失ったことで、やがてひとりでに止まった。
この場所で、坂上青年は何かを見た。怯えて逃げ出すほどの何かを。
けれどそれは、他の人間には見えなかった。なぜ彼が突然トイレを飛び出していったのか、その理由は誰にもわからない。
本人だけが認知し、恐怖を覚えた。ということは、これはやはり呪いで間違いない。
あの青年は確実に、呪いをつくりだしている。
何か他に気になったことはないかと、その場に居合わせた学生たちに天満は尋ねてみたが、残念ながらこれといった情報は得られなかった。
坂上青年は水道で手を洗っている途中で、急に悲鳴を上げて走り去っていったのだという。
(さすがにこれだけだと情報が足りないな。次に怪異が起こるときは、しっかり観察しておかないと)
貴重な怪異の出現の瞬間を見逃してしまい、天満は悔しさに唇を噛んだ。
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