上 下
38 / 124
第三章 京都府京都市

第五話 伏見稲荷大社

しおりを挟む
 
          ◯


「あなたが右京さまのことを特別に思っていたという話は、親類縁者の情報網から取得しました。右京さまが亡くなられた当時も、あなたの心の荒れ様と、呪いを生み出した回数もそれはそれは凄まじかったらしいですね」

 スピーカーの向こうから、あきらかに疲弊した璃子の声が届く。彼女は一時間ほど情報収集に奔走した後、改めて天満のスマホに電話をかけてきた。
 その間に、呪いを連れた天満は擬似的なデートを楽しみ、今は南へ下って伏見稲荷大社ふしみいなりたいしゃの境内をぶらついていた。等間隔に並んだ何百基もの鳥居が、赤いトンネルのように二人を囲んでいる。伏見稲荷名物・千本鳥居せんぼんとりいだ。

「なるほどねえ。ずいぶんと口の軽い親類縁者がいたもんだ。それで、謎は解けたのか? 俺がなぜ、今になってまた呪いを生み出してしまったのか」

 まるで挑発でもするかのような天満の態度に、璃子は「遊びじゃないんですよ」と恨めしげな声で返す。

「右京さまが亡くなったことで、あなたが彼女の後を追おうとした心理はわかります。でも実際にそれで呪いを生み出してしまったのは、あなたがまだ幼かった頃の話でしょう。ここ十数年は、あなたの精神は安定していたはずです。ですから、わからないんです。あなたがなぜ、今になって右京さまの幻影に取り憑かれているのか」

「そんじゃ、まだ何も手掛かりは掴めていないってことだねぇ」

「他人事みたいに言わないでくださいよ。というか、あなたはすでに気づいているんじゃないんですか? 呪いを生み出す決定打となった出来事が何なのか」

「さあねぇ。そっちこそ、本当に何も目星はついていないのか? そっちは俺と違って複数人で推理してるんだろ。分家の人間の寄せ集めで」

「寄せ集めって言わないでください。これでも結構真剣にやっているんですよ。さすがに、あなたにいま死なれたら血縁者は皆困りますから……」

 そこまで言うと、彼女は急に静かになった。どうやらスピーカーの向こうで誰かと話しているらしい。やがて数十秒ほどしてから、彼女は戻ってきた。

「ええと。今日は八月十六日なので、お盆の最終日ですよね」

 その指摘に、天満は「ああ」と答えながら期待値を上げた。日付に目をつけるとは、彼女たちもなかなか良い線をいっている。

「そうだな。お盆の最終日といえば、現世に帰ってきたご先祖様の霊を再びあの世へと見送る日だ。死者を悼むという点で、右京さんとの関連性もある。でも、それだけだとまだ不十分だな。お盆の時期に俺が呪いを生み出すというのなら、この十数年はなぜ平気だったのかという問題が残る」

「何かきっかけがあったんですよね。今年に入ってから……というか、今朝何かあったんですか?」

「だからそれを推理しろと言っている」

「うーん……八月十六日……。もしかして、今日は右京さまの命日だったりします?」

「当てずっぽうはダメだぞ。彼女が亡くなったのは年の暮れだ」

「ぐぬぬ……」
 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

通詞侍

不来方久遠
ミステリー
 明治28(1895)年の文明開化が提唱されていた頃だった。  食うために詞は単身、語学留学を目的にイギリスに渡った。  英語を学ぶには現地で生活するのが早道を考え、家財道具を全て売り払っての捨て身の覚悟での渡英であった。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ダークランナー

不来方久遠
ミステリー
それは、バブル崩壊後による超不況下の頃だった。  元マラソン・ランナーで日本新記録を持つ主人公の瀬山利彦が傷害と飲酒運転により刑務所に入れられてしまった。  坂本というヤクザの囚人長の手引きで単身脱走して、東京国際マラソンに出場した。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...