3 / 124
第一章 愛媛県松山市
第三話 問題児
しおりを挟む「私こういう者でして」
天満が恭しく名刺を差し出すと、受け取った少女——速水弥生は、小首を傾げながらそれを読み上げる。
「東雲探偵事務所……。東雲悠人?」
無論、偽名である。『問題児』と接触する際には、けしてこちらの正体を悟られてはならない。
「探偵さんなんですか? なんで私のこと」
「実は、あなたのお身内の方からご依頼がありまして。最近のあなたの行動には不審な点があり、調査をしてほしいと」
「な、なんです、それ。身内って誰です? 私、不審な行動なんて何もしとらんですけど」
つい今しがた奇行を繰り広げたばかりの人間の言葉とは思えなかった。が、天満はあえて言及しない。
そわそわと落ち着きを無くした彼女の様子が、全てを物語っている。精神的に不安定で、先ほどの自分の行動も覚えていないらしいが、そういったことは今回が初めてではないのだろう。
「きゅ、急にやって来て、いきなりそんな訳のわからんこと言うあなたの方こそ不審者じゃないですか? この名刺も本物って証拠あります? 実は探偵でも何でもなくて、別の目的があって私に近づいて……」
そこまで言ったとき、ハッと彼女はこちらの顔を見て固まった。何かに思い当たった様子で、驚愕に揺れる瞳を向けてくる。
(……あれ。さっそくバレたか?)
内心ひやりとしたものの、しかし弥生の反応は予想とは全く異なるものだった。
「あなたが犯人やったんですね。私をここへ連れて来たのも。今まで何度も、私を殺そうとしとったのも」
「はい?」
見当違いの濡れ衣を着せられて、天満は呆気に取られる。
「わ、私が何をしたって言うんですか。そりゃ、今まで生きてきて一度も悪いことしとらんなんて言いませんよ。でも、殺すほどですか? 私、あなたと会った覚えもないのに」
言いながら、彼女はその綺麗な形の両目からぼろぼろと大粒の涙を零す。
「え、ちょっと。弥生さん落ち着いて」
ぐすぐすと鼻を鳴らしながら、華奢な両手で涙を拭う。
「いやいや、誤解ですよ。私はあなたの味方ですから。殺したりなんかしません。むしろあなたを助けたいと思っています」
「本当ですか?」
縋るような声は今にも事切れてしまいそうで、彼女の心がいかに追い詰められているのかが伝わってくる。
(これは重症だな)
人を信用できないくせに、誰かに助けを求めたがっている。何者かに殺意を向けられているらしいが、相手の正体や理由はわからず、ただ逃げ惑うしかない。
呪いだ、と思った。
彼女は確実に、呪いをつくりだしている。
「とにかく一度、あなたの身に起こっていることを整理したいです。どこかゆっくりできる場所で話しましょう。私を信じてくれるなら」
すでに疲弊している彼女は、こくんと力なく頷く。きっと思考もうまく働いていないのだろう。こんな状態の女子高生を連れ回すのは気が引けるが、『責務』を全うするためには仕方がない。
さてどこへ向かおうか、と頭を悩ませていると、そこへ弥生が助け舟を出す。
「あの……それなら道後公園に行きませんか? ここから歩いてすぐなんで。広い公園ですし、ベンチもありますから」
4
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あやかし警察おとり捜査課
紫音
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。
しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。
反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
神楽囃子の夜
紫音
ライト文芸
※第6回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
地元の夏祭りを訪れていた少年・狭野笙悟(さのしょうご)は、そこで見かけた幽霊の少女に一目惚れしてしまう。彼女が現れるのは年に一度、祭りの夜だけであり、その姿を見ることができるのは狭野ただ一人だけだった。
年を重ねるごとに想いを募らせていく狭野は、やがて彼女に秘められた意外な真実にたどり着く……。
四人の男女の半生を描く、時を越えた現代ファンタジー。



実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる