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Chapter #3
I’m scared.①
しおりを挟むあっという間に正午を過ぎ、園内のレストランで昼食をとっていると、向かいの席に座るカヒンがおもむろに何やら小さな箱を取り出した。
「This is for you.」
君に、と手渡されたその長方形の箱を、私は恐る恐る開けてみる。
すると中から現れたのは、小さなハートの装飾がついたピンクゴールドのネックレスだった。
「For me……?」
私に? と、つい聞いてしまってから、先程カヒンからそう言われたことを思い出す。
彼はくすりと笑って頷いた。
カヒンからのプレゼント。
いつ買ったんだろう?
私のために、彼が選んでくれたなんて。
「Thanks, Kahin……. I’m so happy.」
ありがとう、嬉しい。
本当に嬉しい。
「But……」
けれど。
「I haven't given you anything yet.」
私はまだ、あなたに何もしてあげられてない。
いつもカヒンから与えられてばかりで、私からはまだ、何も。
「Haha. You always give me a lot of things.」
君はいつもたくさんのものを俺にくれるよ、とカヒンは笑う。
たくさんのもの。
気持ちとか、そういうものだろうか?
でも、いつも優しくしてくれるのは彼の方なのに。
午後からはまた絶叫系に再挑戦し、今度は吐き気をもよおすこともなく普通に楽しむことができた。
やはりあのフリーフォールの高さが尋常ではなかったのだろう。
楽しい時間はすぐに過ぎ去って、次第に陽は傾き、やがて閉園の時刻が近づいてくる。
最後は何に乗ろうかという話になって、私はまだ乗っていないジェットコースターが一つだけあることに気づいた。
最初にバスでここへ来るとき、敷地の外から見えたあの白いレールのコースターだ。
カヒンと相談した結果それにしようということになって、私たちはさっそく乗り場の方へと向かった。
そうして改めてレールを足元から見上げてみると、思っていたよりも高さがある。
「Are you scared?」
怖い? とカヒンが意地悪っぽく聞く。
「A little bit……」
ちょっとだけ、と私が答えると、
「I’m also scared.」
俺も怖い、と言ってカヒンは笑った。
本当かなぁ?
順番待ちの列に並ぶ間、私とカヒンは他愛のないことを話した。
そうして一度話題が途切れ、次は何を話そうかと考えたとき、私はふと先日のオリバーの言葉を思い出した。
——Hongkongese want Japanese girlfriend because that’s their status.
香港人が日本人のガールフレンドを欲しがるのは、それが彼らのステータスだからだ。
あれから結局、カヒンには何も聞いていない。
別に彼には関係のないことなのだから気にする必要もない——そう結論づけたはずなのに、なぜか未だ、心のどこかで何かが引っかかっている。
「Misaki?」
カヒンに呼ばれて、私ははっと我に返った。
「What’s wrong?」
どうしたの、と彼に聞かれて、私はついそのことを口にしそうになった。
けれど寸でのところで思いとどまる。
「い……It’s nothing! Never mind.」
何でもないから気にしないで、と答える私の顔を、彼はじっと見つめる。
そして、
「You have a passive personality.」
君は消極的だね、と言う。
彼からこの言葉を聞くのはこれで二度目だ。
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