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Chapter #3

サーファーズパラダイス②

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 カヒンとゴルフは舞恋の隣で見守りながら、なかなかバスに乗ってこない。

 運転手の男性は見るからに苛立っている様子で、今にもアクセルを踏みそうな雰囲気だった。

 私もやっぱりバスを降りた方がいいかな——と足を一歩踏み出そうとした瞬間。

 目の前で、ぴしゃりと扉が閉められてしまった。

「えっ……ええーーー!?」

 思わず舞恋ばりに叫んでしまう私。

 扉の向こうで三人の驚く顔が一瞬だけ見えたけれど、すぐにバスが動き出して見えなくなってしまった。

「す……ストップ、ストップ! ぷりーず!!」

 慌てて降ろしてくれと懇願する私を、運転手の男性は「No.」と一蹴する。

 結局、私たちが再会したのはそれから一時間後のことだった。





「ごめーん! ごめんってみさきち! あと一口でアイスも食べ終わるところだったんだって!」

 怒ってるのはそこじゃない、とツンとする私に、舞恋はひたすら許しを請う。

 ブリスベン行きの列車の中。
 横長のシートに座った私たち二人を、カヒンとゴルフが向かいのシートから面白そうに眺めている。

「また今度ランチとか奢るからさ~。ほんと許してってば。私の方もみさきちが居ない間は地獄だったんだって。ゴルフはずーっといじってくるし、カヒンもそれに便乗してさあ。しまいには二人とも私のこと『マイコ』じゃなくて『マイケル』って呼ぶし」

「……マイケル?」

 何それ、と気になって私もつい反応してしまう。

「マイケルって名前。英語の発音だと『マイコー』って感じで、私の名前と似てるんだよね。ゴルフがたまにふざけて呼んでくるんだけど、今回はカヒンまで悪ノリしてさあ」

 言われてみれば確かに、ゴルフの舞恋を呼ぶ発音はちょっと変だったような気もする。
 てっきりタイ人特有の訛りだと思ったけれど、あれはわざとだったのか。

「マイコー…………ふふっ」

 改めて口にしてみると、なんだか面白くなってくる。

「ちょっと、みさきち笑いすぎ!」

「だ、だって。おかしいでしょ、マイケルって……あはは!」

 一度笑い出してしまうと、もうだめだった。
 完全に毒気を抜かれて、先程のアイスの件ももうどうでもよくなってくる。

 さらに舞恋はそこへ追い討ちをかけるように、クラスメイトの日本人が『ともひろ』という名前で『トゥモロー』と呼ばれていることまで暴露してきた。

 私は完全にツボにはまってしまい、しばらく笑い殺される羽目になった。

「……にしてもさあ、カヒンってほんと、みさきちのこと好きだよねえ」

 ひとしきり笑った後、やっと呼吸を落ち着かせた私に、舞恋はぽつりと呟くように言った。

 唐突な話題に「えっ?」と私が聞き返すと、

「みさきちと離れてる間、めちゃくちゃ心配してたよ。今までに見たことないくらい真剣な顔してたし」

 カヒンの真剣な顔。
 想像しただけでかっこいいな——なんてつい考えてしまったけれど、彼に心配をかけてしまったことは申し訳ないと思う。

 でも、それ以上に。

(私のこと、心配してくれてたんだ)

 思わず、胸が高鳴る。

 彼の優しい性格を考えると別に不思議でも何でもないのだけれど、私のことを思ってくれていた、ということは素直に嬉しかった。

「あーあ、私もカヒンみたいな彼氏が欲しかったなあー。カヒンってば、なんだってみさきちの方に惚れちゃったんだろうね。隣にこーんな魅力的な女性がいたのにさあ」

 唇を尖らせながらぼやく舞恋に、私は「何それ」と笑い飛ばしながらも、内心ではその意見に賛同していた。

 本当に、カヒンはどうして私を選んでくれたのだろう。

 ——You’re kind, and pure. Those are your good points.

 優しくて純粋なところが、私の良いところだと彼は言ってくれた。

 けれど私は、自分がそんなにも褒められるような人間だとはどうしても思えない。
 
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