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Chapter #2
オリバーの気まぐれ
しおりを挟むその日の夕食は見たことのない料理だった。
粟(?)のような小さい粒状のものと野菜などの具を混ぜ合わせ、強烈なスパイスを効かせた謎の食べ物。
レベッカの手作りだけれど、郷土料理か何かだろうか。
辛みが強すぎるため、口に含む度に舌がビリビリと痺れて顔中から汗が噴き出る。
普段から和食の味に慣れ親しんでいる私にはちょっと刺激が強すぎるかも——なんて考えながら顔を上げると、正面に座っていたスコットが全身から滝のような汗を流しているのに気づいて思わず吹き出しそうになった。
スキンヘッドの頭頂部から首の辺りまでを真っ赤に染めて、しきりにティッシュで鼻をかんでいる。
やっぱりこれ、現地人でも辛すぎるんだ。
「Misaki, what are you up to this weekend?」
なぜか平然と料理をたいらげるレベッカから、週末はどうするの? と質問が飛んできた。
まるで予定を入れているのが当たり前のように聞いてくるのを見ると、やはり彼らオーストラリア人が金曜の夜には必ずどこかへ出掛ける、というカヒンの話は本当らしい。
私が週末は友達と一緒に出掛けるのだと答えると、それまで隣で静かにしていたオリバーが突然、
「I’m going, too.」
僕も行く、などと言い出した。
「…………へっ?」
予想外の展開に、思わず素の声が出てしまう。
「Oh, you together?」
あら一緒に行くの? とレベッカが言って、私は慌てて否定しようとしたが、
「Yeah!」
と、どこか勝ち誇ったような笑みを浮かべてオリバーがガッツポーズをした。
いやいやいや。
私はそんな話一ミリもしてないんですけど?
「お、Oliver, I…… I……」
急にそんなこと言われても困るよ、と言いたいのだけれど、上手く言葉にできない。
『困る』って、英語では何て言うんだっけ?
そうこうしているうちに、オリバーはさっさと食事をたいらげて、一人でリビングの方へと移ってしまった。
ソファを占領し、スマホを弄り始める。
数分遅れて、私もなんとか激辛の食事を済ませると、すかさず彼の隣へと腰を下ろした。
そして、
「What do you mean?」
どういうつもり? と彼に詰め寄る。
オリバーは悪びれもせず、
「I wanna go, too!」
ボクも一緒に行きたい! と、無邪気な笑みを浮かべて言う。
見た目は大人びているのに、こういう時だけ年相応な顔をするのはずるい。
キラキラとした瞳を瞬かせ、上目遣いにこちらに訴えてくる。
「Noooo~~~」
その手に乗るか! と、私は頭を抱えてぶんぶんと横に振った。
「I promised my friend……I would go……ええと……」
カヒンと二人きりで行く約束をしてるから、と言いたかったのだけれど、『二人きりで』という英語表現がわからない。
私がうんうんと唸っていると、その隙にオリバーが、
「Do you hate me?」
ボクのこと嫌い? なんて、捨てられた仔犬のような目で訴えてくる。
この時点で確信したけれど、彼は自分の顔の良さを熟知している。
そしてそれを完全に武器にしているのだ。
「……I don’t hate you, but……」
オリバーの作戦だとはわかっているものの、嫌いじゃないよ、と私が素直に答えると、
「OK! I’m so excited for this weekend!!」
週末は楽しみにしてるね! とだけ言い残すと、彼は勝ち逃げするようにさっさと家を出ていってしまった。
ソファにひとり取り残された私は再び頭を抱える。
これはまずい。
まだ週末までは時間があるけれど、それまでに何とかオリバーを説得しなければ……。
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