催眠教室

紫音

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第三章

水無瀬澪の現実

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「あらあら。嫌われちゃったかしら? 猫屋敷くんにも、また暗示をかけ直さないといけませんね」

 ふう、と溜息を吐きながら、先生はタブレットを操作する。

「えーっと次はぁ……水無瀬さんね」

 名前を呼ばれて、水無瀬はびくりと体を強張らせる。

「あ、あの、先生。私やっぱり……」

 ひどく狼狽えている彼女には構わず、天上先生は無慈悲にも手元のプロフィールを読み上げる。

「水無瀬澪さん。現在十八歳。大学一年生。芸能事務所への所属をきっかけに、中学時代はいじめを受けていますね。精神的ストレスによって過呼吸が頻発。……あら? これは」

 彼女はタブレットから一度目を離し、正面に座る水無瀬の顔をじっと覗き込む。

「な、なんですか?」

 怯える水無瀬とは対照的に、天上先生はいつものにっこり笑顔を浮かべて言う。

「あなた、今年に入ってから自殺未遂をしていますね」

「え……?」

 自殺未遂。
 思いもよらぬワードに、水無瀬の顔から表情が消える。
 俺も俺で、全身から血の気が引いていくのを感じていた。

「自殺……未遂……?」

「中学卒業後は芸能系の高校に進学したことで、精神的にもある程度は安定していたようですね。けれど、去年あたりから女優としての人気が急上昇。それに伴ってネット上での名指しの批判も増加。エゴサーチを必要以上に繰り返したあなたは再び過呼吸を頻発。仕事の急増もあって心の余裕がなくなり、疲弊したあなたはついに自殺を図る……」

 先生がそれを読み上げている間に、水無瀬の呼吸が乱れ始める。
 まずいと思い、俺はベッドから降りて彼女の隣に座った。

「落ち着け、水無瀬。ゆっくり息を吐くんだ」

 声を掛けながら背中を摩るが、彼女の呼吸はどんどん不規則になっていく。
 部屋の端でデスクワークをしていた保険医の女性も、こちらの様子に気づいて駆け寄ってきた。
 そんな状況でさえ、天上先生の表情は何一つ変わらない。

「自殺を図るほど、となると、並大抵の治療では太刀打ちできないでしょうね。現実でのあなたもそれがわかっていたからこそ、私の実験に参加したのではありませんか?」

 この期に及んでそんな発言をする天上先生に、俺は今度こそ我慢ができなかった。

「今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ! こんな状態なのに、水無瀬のことをますます追い詰めてどうするんだよ!?」

「あらあら。怒らせちゃったみたいでごめんなさいね。でも事実でしょう? それに、ここは現実の世界ではありませんから。本物の水無瀬さんの体なら心配いりませんよ」

 どこまでも挑発的に聞こえるセリフだったが、きっと先生はただ正論を言っているだけのつもりなのだろう。彼女は俺たちの気持ちなどお構いなしで、再び手元のタブレットを操作する。

「さて。最後は七嶋くんのプロフィールですね」
 
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