催眠教室

紫音

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第二章

魅惑の別室

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 他のクラスメイトたちの視線も集まる中、天上先生はおねだりするように小首を傾げて、とろけそうな甘い声で言う。

「大事なお話があるの。お願いだから一緒に来て。先生と良いことしましょ?」

「いっ……イイコトぉ!?」

 ガタッ! と激しくイスを揺らして、猫屋敷はその場に立ち上がる。心なしか、眼鏡のレンズが怪しく光ったような気がした。
 どうやら別室に連れて行かれるらしい。他の生徒たちが羨ましそうに猫屋敷を見つめる中、俺と水無瀬は息を呑みながらお互いの顔を見合わせた。
 別室で、一体何が行われるというのだろう。


 やがて猫屋敷が教室に戻ってきたのは、それから十五分後のことだった。
 静寂が満ちる教室の扉がガラリと開かれ、律儀に自習していたクラスメイトたちの視線は一瞬にして入口の猫屋敷へと注がれる。

「あっ。猫屋敷くんが帰ってきた!」
「どうだった?」
「都先生と何をしてたの?」

 それまで死んだように無口だったクラスメイトたちは、せきを切ったように猫屋敷へと質問を浴びせる。
 対する猫屋敷はいつになく落ち着いた様子で自分の席へと戻り、イスに腰を下ろすと、

「……良かった……」

 それだけ言って、恍惚の表情を浮かべた。
 そんな彼の様子に周りの面々は一体何を想像したのか、「うおおおぉ!!」と急にテンションを上げて叫び出す。
 いや。本当に何があったんだよ別室で。

「はーい、みんな! 自習は捗ってる? えーっと次はぁ……田中くん! 先生と一緒に来てくれる?」

「は……はいっ! よろこんでっ!!」

 入口の扉から顔を出した天上先生は、また一人新たな生徒を連れていく。一人ずつ呼ばれるということは、面談でもするのだろうか。
 あるいは、

(もしかして、一人ずつ催眠をかけ直しているのか……?)

 あの先生とわざわざ二人きりになるということは、そういうことなのかもしれない。
 まさか洗脳される? ——と、危機感を覚えたのは俺だけではないらしかった。
 おそらくは俺と同じ考えに至った水無瀬は、いきなりその場に立ち上がって挙手をした。

「先生! 気分が悪いので保健室にいってきます!」

 どう見ても体調不良とは思えない溌剌はつらつとした声で、彼女はそう言い放った。

「あら。そうなの? 大丈夫? 先生も一緒に保健室まで行きましょうか?」

 心配そうに言う先生の声を跳ね除ける勢いで、「いえ! 結構です!」と水無瀬。
 なるほど。保健室に逃げる手があったか。俺もすかさず便乗する。

「お、俺も! 朝からちょっと具合悪いんで、保健室に行きます」

「あ、じゃあオレも」

 と、まさかの俺に便乗してきたのは、隣の席の色紙だった。

(『じゃあ』って何だよ!)

 俺と水無瀬のことを見張るつもりだろうか。
 俺たちと同じくどう見ても健康的な色紙は、いつもの気怠げな顔でこちらを見て、ニッと怪しく微笑んだのだった。
 
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