20 / 90
第一章
異端者は排除
しおりを挟む瞬間。俺は全身から血の気が引いていくのを感じた。
ここにいる全員のことを、俺は『おかしい』と表現した。
確かにその通りだ。俺は今朝、猫屋敷の前でそう言ったのだから。
今この状況で何を言い訳したところで、きっと俺が許されることはないだろう。周りの俺を見つめる鋭い眼差しが、それを物語っている。
「ふーん。だってさ、七嶋。それってどういうこと?」
色紙はわざとそんな風に回りくどく、俺に質問する。
「いや、それは……っ」
しどろもどろになる俺の脳内で、幻聴が追い討ちをかけてくる。
『げえ。最悪。こいつってそんな奴なのか』
『性格わるー。信じらんない』
『入学早々クラスメイトの陰口とか最低だな』
それまで静かだった教室の中が、俺への非難の声で埋め尽くされる。
違う。陰口とか、そんなつもりで言ったんじゃない。
だって、どう考えたっておかしいじゃないか。都先生大好きとか、万歳とか。訳のわからないテンションに圧倒されて、困惑しているのは俺の方なのに。
「ねえ」
と、今度は教室の端の方にいた女子生徒が声を上げた。
「『おかしい』って、都先生のこともそう言ったの……?」
信じられない、とでも言いたげな顔で、彼女は俺に問いかける。
「私は何を言われてもいいけど……都先生のことまで、本当に『おかしい』って言ったの? あなたは、都先生のことが好きじゃないの?」
まるで俺が禁忌でも破ったかのように、犯罪者でも見るような目をこちらに向ける彼女。
その周りに立つ他のクラスメイトたちも、彼女に同調して俺を責め立てる。
「ありえない。都先生を悪く言うなんて」
「異端者だ。先生を貶めようとする奴は、このクラスに置いてはおけない」
「排除だ、排除!」
「そうだ、排除だ!」
排除、排除、とコールが始まる。
どうやら彼らにとって、天上先生の存在は絶対らしい。
彼女を否定する人間は許さない、という強い意思を持った複数の目が、俺を恨めしそうに射抜く。
排除、というのがどういう状態を指すのかはわからないが、彼らはゾンビのようにこちらへ両手を伸ばしながら、ゆっくりと俺の方へ近づいてきた。
「ちょ、待っ……」
このままではやられる。
本能的に身の危険を感じた俺は、目の前の色紙を押しのけるようにして、その場から逃走を図った。
ゾンビさながらのクラスメイトたちの間を縫い、一目散に教室の外を目指す。
「捕まえろ!」
誰かが言って、その場の全員が走り出す。
もともとは全く覇気のない暗い連中だったはずなのに。俺の後を必死で追いかけてくる彼らは、まるで何かに取り憑かれているかのように血眼になっていた。
5
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
I want a reason to live 〜生きる理由が欲しい〜 人生最悪の日に、人生最大の愛をもらった 被害者から加害者への転落人生
某有名強盗殺人事件遺児【JIN】
エッセイ・ノンフィクション
1998年6月28日に実際に起きた強盗殺人事件。
僕は、その殺された両親の次男で、母が殺害される所を目の前で見ていた…
そんな、僕が歩んできた人生は
とある某テレビ局のプロデューサーさんに言わせると『映画の中を生きている様な人生であり、こんな平和と言われる日本では数少ない本物の生還者である』。
僕のずっと抱いている言葉がある。
※I want a reason to live 〜生きる理由が欲しい〜
※人生最悪の日に、人生最大の愛をもらった
図書準備室のシキガミさま
山岸マロニィ
青春
港町の丘の上の女子高の、図書準備室の本棚の奥。
隠された秘密の小部屋に、シキガミさまはいる――
転入生の石見雪乃は、図書館通学を選んだ。
宇宙飛行士の母に振り回されて疲れ果て、誰にも関わりたくないから。
けれど、図書準備室でシキガミさまと出会ってしまい……
──呼び出した人に「おかえりください」と言われなければ、シキガミさまは消えてしまう──
シキガミさまの儀式が行われた三十三年前に何があったのか。
そのヒントは、コピー本のリレー小説にあった。
探る雪乃の先にあったのは、忘れられない出会いと、彼女を見守る温かい眼差し。
礼拝堂の鐘が街に響く時、ほんとうの心を思い出す。
【不定期更新】
【完結】おれたちはサクラ色の青春
藤香いつき
青春
国内一のエリート高校、桜統学園。その中でもトップクラスと呼ばれる『Bクラス』に、この春から転入した『ヒナ』。見た目も心も高2男子?
『おれは、この学園で青春する!』
新しい環境に飛び込んだヒナを待ち受けていたのは、天才教師と問題だらけのクラスメイトたち。
騒いだり、涙したり。それぞれの弱さや小さな秘密も抱えて。
桜統学園で繰り広げられる、青い高校生たちのお話。
《青春ボカロカップ参加》🌸
各チャプタータイトルはボカロ(※)曲をオマージュしております。
ボカロワードも詰め込みつつ、のちにバンドやアカペラなど、音楽のある作品にしていきます。
青い彼らと一緒に、青春をうたっていただけたら幸いです。
※『VOCALOID』および『ボカロ』はヤマハ株式会社の登録商標ですが、本作では「合成音声を用いた楽曲群」との広義で遣わせていただきます。
落ちこぼれ魔女・火花の魔法改革!〜孤独なマーメイドと海の秘宝〜
朱宮あめ
児童書・童話
火花は天真爛漫な魔女の女の子。
幼なじみでしっかり者のノアや、臆病だけど心優しい親友のドロシー、高飛車なダリアンたちと魔法学校で立派な魔女を目指していた。
あるとき、授業の一環で魔女にとって魔法を使うための大切な燃料『星の原石』を探しに行くことに。
火花とドロシーが選んだのは、海の中にある星の原石。
早速マーメイドになって海の中を探検しながら星の原石を探していると、火花は不思議な声を聴く。
美しくも悲しい歌声に、火花は吸い寄せられるように沈没船へ向かう。
かくして声の主は、海の王国アトランティカのマーメイドプリンセス・シュナであった。
しかし、シュナの声をドロシーは聴くことができず、火花だけにしか届かないことが発覚。
わけを聞くと、シュナは幼い頃、海の魔女・グラアナに声を奪われてしまったのだという。
それを聞いた火花は、グラアナからシュナの声を取り戻そうとする。
海の中を探して、ようやくグラアナと対峙する火花。
しかし話を聞くと、グラアナにも悲しい過去があって……。
果たして、火花はシュナの声を取り戻すことができるのか!?
家族、学校、友達、恋!
どんな問題も、みんなで力を合わせて乗り越えてみせます!
魔女っ子火花の奇想天外な冒険譚、ここに誕生!!
神楽囃子の夜
紫音
ライト文芸
地元の夏祭りを訪れていた少年・狭野笙悟(さのしょうご)は、そこで見かけた幽霊の少女に一目惚れしてしまう。彼女が現れるのは年に一度、祭りの夜だけであり、その姿を見ることができるのは狭野ただ一人だけだった。年を重ねるごとに想いを募らせていく狭野は、やがて彼女に秘められた意外な真実にたどり着く……。四人の男女の半生を描く、時を越えた現代ファンタジー。
※第6回ライト文芸大賞奨励賞受賞作です。
【完結】君が消えた仮想世界と僕が願った並行世界
ユキノ
青春
ローファンタジーアニメの設計図。30分尺のシナリオが1クール分。
理系アニメオタクがろくに読んだこともないのに小説を書いたらこうなった。
◆魂の入れ替わり
◆心の声を聞く力
◆予知能力!?
◆記憶の干渉における時間の非連続性
◆タイムリープ
◆過去改変の観測
◆異能力バトらない!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる