催眠教室

紫音

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第一章

異端者は排除

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 瞬間。俺は全身から血の気が引いていくのを感じた。
 ここにいる全員のことを、俺は『おかしい』と表現した。
 確かにその通りだ。俺は今朝、猫屋敷の前でそう言ったのだから。
 今この状況で何を言い訳したところで、きっと俺が許されることはないだろう。周りの俺を見つめる鋭い眼差しが、それを物語っている。

「ふーん。だってさ、七嶋。それってどういうこと?」

 色紙はわざとそんな風に回りくどく、俺に質問する。

「いや、それは……っ」

 しどろもどろになる俺の脳内で、幻聴ノイズが追い討ちをかけてくる。

『げえ。最悪。こいつってそんな奴なのか』
『性格わるー。信じらんない』
『入学早々クラスメイトの陰口とか最低だな』

 それまで静かだった教室の中が、俺への非難の声で埋め尽くされる。
 違う。陰口とか、そんなつもりで言ったんじゃない。
 だって、どう考えたっておかしいじゃないか。都先生大好きとか、万歳とか。訳のわからないテンションに圧倒されて、困惑しているのは俺の方なのに。

「ねえ」

 と、今度は教室の端の方にいた女子生徒が声を上げた。

「『おかしい』って、都先生のこともそう言ったの……?」

 信じられない、とでも言いたげな顔で、彼女は俺に問いかける。

「私は何を言われてもいいけど……都先生のことまで、本当に『おかしい』って言ったの? あなたは、都先生のことが好きじゃないの?」

 まるで俺が禁忌でも破ったかのように、犯罪者でも見るような目をこちらに向ける彼女。
 その周りに立つ他のクラスメイトたちも、彼女に同調して俺を責め立てる。

「ありえない。都先生を悪く言うなんて」
「異端者だ。先生を貶めようとする奴は、このクラスに置いてはおけない」
「排除だ、排除!」
「そうだ、排除だ!」

 排除、排除、とコールが始まる。
 どうやら彼らにとって、天上先生の存在は絶対らしい。
 彼女を否定する人間は許さない、という強い意思を持った複数の目が、俺を恨めしそうに射抜く。
 排除、というのがどういう状態を指すのかはわからないが、彼らはゾンビのようにこちらへ両手を伸ばしながら、ゆっくりと俺の方へ近づいてきた。

「ちょ、待っ……」

 このままではやられる。
 本能的に身の危険を感じた俺は、目の前の色紙を押しのけるようにして、その場から逃走を図った。
 ゾンビさながらのクラスメイトたちの間を縫い、一目散に教室の外を目指す。

「捕まえろ!」

 誰かが言って、その場の全員が走り出す。
 もともとは全く覇気のない暗い連中だったはずなのに。俺の後を必死で追いかけてくる彼らは、まるで何かに取り憑かれているかのように血眼になっていた。
 
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