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第一章 フーバスタン帝国編
第31話 〈お店の苦労!!〉
しおりを挟む俺の名前はノーラン・スミス。
自分で言うのもアレなんだが、自由国家アンセムで店を出す双子の兄、ライアン・スミスと共に名工として名を轟かせる鍛冶職人だ。
俺も兄貴も武器や防具を作るだけでなく、自分の店で販売もしている。
なぜ製作の時間を削ってまでも、販売も自分で行っているのかというと、自分の作った武具がどんな奴に買われ使われるのかを見届けたいからだ。
職人仲間には、武具を作ったら販売は武具屋に丸投げしている奴も多いが、俺はそれを無責任だと考えている。
武具の一つ一つには向き不向きがあり、それをキチンと客に説明してから売るのが筋だと俺は思っているからだ。
俺が兄貴と別々の場所で店を出す決意をし、ここフーバスタン帝国の帝都メストで、必死の思いで自分の店を出してからもう十年になるか……俺も歳をとったもんだ。
初めはなかなか客に来てもらえず、その日のパンを買う金にも困ったもんだ。
いろんな客が来て、色々な事があったな。
中にはぶん殴って追い出してやった客もいる。
鍛冶職人ってのは腕っぷしが強い奴が多いんだぜ?
なんせ日がな一日金属を叩いているんだからよ。
そうそう、俺の店に来た客の中には、なんとあの『勇者』がいる。
俺のちょっとした自慢だ。
何回か来てダンジョンなんかで手に入れた武器や防具を売ってくれたっけ。
初めて来店した時なんかは、緊張で手が震えて、買取の査定に時間が掛かってしまったのをよく覚えている。
当時の俺ときたら舞い上がっちまって、表の看板に〈勇者御用達の店!〉〈勇者がお忍びで通う店はココ!〉〈勇者立ち寄り店〉なんて書いたっけな~。
まあ、それから暫くして勇者は来なくなったんだけどよ。
勇者の身に何かあったのかと心配したもんだ。
まぁ、今はそんな話はどうでもいい……いや、どうでも良くはないが、今は関係ないからコッチに置いといてと。
本題はここからだ。
最近俺の店によく来てくれるようになった客に、変な奴らがいるんだ。
人のことを初対面で『オヤッサンその2』なんて呼んでくる、頭のおかしい奴らだ。
まあアンセムで兄貴の店の客だったらしいから、俺の事が他人に見えないのかもしれないが……。
なんせ同じ顔してるからよ。
そいつらの何が変って、やたらと金を持っていやがる。
まあ、悪い事をやって稼いでるって感じじゃあねえが、あの若さで下級貴族なら躊躇うほどの高価な武具を、即金で買っていきやがる。
もしかしたら、とんでもない大物貴族の息子とかじゃね~だろうな?
もしそうだとしたら、早めに教えてくれないと困るぜ?
粗相があったからでは遅いからよ。
……いや、自分で言っておいてあれだが、それはないな。
アイツらから、そんな品性は微塵も感じない。
どちらかと言うと、庶民臭がプンプンする。
特に、いつも偉そうにしている馴れ馴れしいあの男だ。
アイツは間違いなく何の変哲もない平民の子だな、俺には分かる。
あの青い髪の巨乳のねーちゃんは、教会かなんかで慈善事業に携わってそうな雰囲気を持ってる巨乳だな……とぼけた顔して、その裏に隠しきれない神々しさがある巨乳だ。
とにかくアレだ、徳の高そうな巨乳のねーちゃんだな。
そして一番謎なのは桃色の髪のチャンネーだ。
コイツは他の二人と違って、たまに品性を感じさせる瞬間があるんだが、いかんせん頭が悪い。
それに一度だけ食堂で食事をしているところを見かけた事があるが、アレはいかん。
品性とは対極の頭の悪すぎる食べ方だ。
とにかく礼儀作法を重んじる貴族出身とはとてもじゃないが思えない。
しかもコイツらと来たら、俺がバックヤードに何かないか探しに行く動きを、"激アツ演出"だとか抜かしやがる。
今までは偶然仕舞い込んであった武具に掘り出し物があったから良かったようなものの、毎回期待されても困るってもんだ。
だがな?
最近では、奴らのそんな期待に応えてやろうと思っている自分がいるのも否定出来ない。
こんな素材で作ったらどうだ?
こんな感じの防具が喜ぶんじゃないのか?
こんな感じの武器を欲しがるかもしれない……最近はそんな事ばっかり考えるようになっちまった。
だけど、それも悪い事ばかりじゃないんだぜ?
奴らの喜ぶ顔を想像しながら武具を製作していると、今までの俺では考えもしなかった様なアイデアが次々と湧いてくる。
そのアイデアを形に変えてゆくんだが、これが実に難しい。
難しいんだが、完成した時の達成感って言ったらお前、それだけでビールが三杯はイケる。
そして良いものが出来たら、完成した武具を陳列せずに、敢えてバックヤードに仕舞って置く。
こうする事で、奴らの言う"激アツ演出"ってのを演じてやる事が出来るって寸法だ。
何? それじゃヤラセじゃないかって?
バカ言うんじゃねーよ。
これは客のニーズに合わせた販売戦略ってやつだ。
決してヤラセなんかじゃねえ!
二度とヤラセなんて言うんじゃねーぞ。
次言ったらボコボコにしてやるからな。
オホン……話を戻すが、最近じゃあ、バックヤードにばかり商品を置いておくもんだから、店内に陳列されている商品が少なくなって来た。
商品がなくて、スカスカの商品棚もある。
これでは他のお客に迷惑が掛かってしまうのだが、経営的には、奴らにたまに高額な商品を買ってもらった方がよほど儲かるから困る。
と言うわけで、今日も仕上がったばかりの鎧をバックヤードに置きにいく。
「へへ……お前も奴らから声が掛かるといいな」
バックヤードに置いておく鎧に、そう声を掛ける。
さあ、次はどんな武具を作ってやろうか。
───カランカラン。
おっといけねぇ。
ドアベルの音だ、誰か客が来たようだ。
「ういーす」
「オヤッサンその2~?」
「ちょっと居ないのー?」
フフ……噂をすればなんとやらってやつだ。
奴さんらのお出ましだ。
うるせえ奴らだが、仕方ねえ……いっちょ相手してやるか?
「何だお前らか……今日は何が欲しいんだ?」
そう言いながらも、俺の胸は弾んでいる。
「いや、近くまで来たから寄っただけ」
「冷やかしはお断りだぜ?」
「なによ!? 私は新しい冒険者の服見にきたのよ」
「あ、なら私が選んであげます~」
チッ。
冒険者の服か……冒険者の服は流石にバックヤードに配置はしていない。
「しっかし、アレだな~。この店商品が少なすぎないか? 経営は大丈夫なのか? オヤッサンその2」
「ほっとけ。大丈夫だよ」
オマエらのおかげで経営は順風満帆だが、オマエらのせいで商品が陳列されてないんだよ!
俺は"激アツ演出"をいつしてやろうかとソワソワして待っていたが、どうやら今日は必要ないようだ……残念。
こっちが仕込んでおいてやったらコレだ。
ったく勝手な奴らだ。
ま、そこが癖になる奴らなんだけどよ。
結局奴らはこの日は何も買わずに帰って行った。
そして別れ際のセリフがこれだ。
「なんか商品少なくて見る物ないな」
「私、可愛い冒険者の服欲しかったのに……」
「違う店見に行きましょうよ~。この間、裏路地に良い店見つけたんですよ~」
オイオイ……そういう話は、店から離れてからするのがマナーってもんだぜ?
……次来たらぶん殴ってやる!!
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