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序章

第1話 〈英雄誕生!!〉

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「魔王ランブローザ! お前の運命もここまでのようだな!」


 崩れた瓦礫の上で聖剣を構えた女の剣士が叫ぶ。

 ここは普段は荘厳な雰囲気を漂わせる魔王の居城、その玉座の間だ。
 だがその玉座の間は、激しい戦闘により見る影もなく壊されていた。


『何をたわけた事を……我がお前たち如きに、このままやられると思うてか!!』

 魔王ランブローザと呼ばれた男が両手に凄まじい魔力を集めながら魔法の詠唱を始める。
 それは徐々に形を成し、やがて漆黒の雷を纏った太陽となる。


「やらせない! 〈詠唱阻害魔法バベル〉!」

 聖なるロープに身を包み光る錫杖を持つ女神官が、魔法の詠唱を無効にする〈詠唱阻害魔法バベル〉を唱え、錫杖から光の鎖が魔王の生み出していた魔法に巻きつき、魔法の発動を妨害する。


『なに!?』

「今だ! 行くぜオラぁ!」

 そう言って魔王の懐に一瞬で潜り込んだのは拳闘士の男だ。


「俺の拳が唸って叫ぶ! お前を殺せと轟き叫ぶぶ!! 必殺!〈星光カルヴァドス波動拳グローリー〉!!」

 拳闘士の男が繰り出した右拳が、魔法を妨害された事により動揺していた魔王の脇腹に直撃する。
 バキボキバキッと骨が砕ける音がして、男の拳が激しい光を放ちながら魔王の体にめり込み内臓にダメージを届ける。


『ぐはぁっ!』

 余りの威力にさすがの魔王も血を吐きながら後ずさった。


『なんの……これしき……これしきでは……やられはせん! やられはせんぞぉぉぉ!!』

「そう言うセリフはコレを食らってから言いなさい!」

 そう言い放ったのは聖剣を構えていた女剣士だ。


「〈聖炎煌覇斬クリューサーオール〉!!」

 凄まじいスピードで駆け抜ける女剣士と共に、その手に持つ聖剣が、金色とも銀色とも言えぬ眩い光を放ち一筋の閃光となりながら魔王を切り裂いた。


『バ……バカな……この我が負ける……だと!?』

 魔王は噴き出る血を手で押さえながら回復魔法を唱える。
 だが聖剣で斬られた傷は、魔王が如何なる回復魔法を唱えようとも回復する事はない。
 いや、そもそも聖女の〈詠唱阻害魔法バベル〉によって、魔王は満足に魔法が唱えられないでいた。


「何か勘違いしてねーか? 魔王さんよ!」

 そう言ったのは後方で戦闘の最初から魔法の詠唱を続けていた魔導士の男だ。


「オマエは負けるんじゃねーよ。死ぬんだよ」

『死ぬ? この我が……!?』

「今まで世界中で好き勝手してくれやがって……死の恐怖に怯えながら果てろや」

 魔王は、己の身に刻一刻と迫る死の足音を確かに感じていた。

 その魔導士の魔法詠唱は既に完了している。
 魔王を取り囲むように幾重にも魔法陣が空間に出現し、さながら魔法陣の檻に魔王が捕らえられているようだ。


「俺の魔法は世界の祈り、さあ……お前に滅びを授けよう」

 魔導士の男が掲げた杖から黒い光が十字に輝いた。
 それが幾重にも張り巡らされた魔法陣の起動の合図だった。

 その瞬間、魔導士の声以外の全ての音が戦場から消えた。



「〈究極魔法魔原子崩壊ランシド〉」



 プツン……と何かが切れるような音と同時に戦場に音が戻ってくる。


『ぬ、ぬおぉぉぉ……我は滅びぬ、滅びぬぞぉぉぉ! 何度も……何度でも蘇り貴様達を必ず葬ってやるぞぉぉぉ!!』

 魔王を取り囲んだ魔法陣の一つ一つが魔導士の唱えた〈究極魔法魔原子崩壊ランシド〉だ。
 魔王の体が、ボロボロと音を立てて崩れ、風に飛ばされる砂のように消えて行った。


 戦いは終わった。
 魔王は滅んだのだ。

 世界から最大最悪の脅威が取り払われた瞬間だった。
 そして、ここに歴史上初めて魔王を倒した、四人の英雄が生まれた瞬間でもあった。


 始まりはよくある話だった。
 この四人は魔王を倒すためだけに、四大大陸から集められたS級冒険者の寄せ集めパーティーだった。

 各々がその道を極め、遥か高みに辿り着いた冒険者達だ。
 だがさすがの彼らも一人で出来る事には限界があった。
 一人では出来ない事も二人なら、二人でも出来ないなら三人でなら……と、各大陸から最強の冒険者が集められて出来たパーティーであった。


 だが、このパーティーにはいない。
 勇者が自分のパーティーと共に、古代竜を攻略しに行っている間に、寄せ集めのパーティーが魔王を倒してしまったのだ。


 これには大陸同盟ジャスティスの盟主達も驚いた。
 まさか本当に魔王を倒すとは、大陸同盟ジャスティスの誰も思っていなかったのである。
 万が一勇者パーティーが失敗した時のための、勇者パーティーの保険として作られたパーティーだったのだ。

 だが保険の寄せ集めのパーティーといっても、一人一人がその職業最強の呼び声高い冒険者達であったために、魔王を討伐するに至ったのであろう。
 保険として捨て駒にされたS級冒険者達の、ささやかな反抗心が魔王討伐まで成し遂げさせたのかもしれない。



 そして現在、見事魔王討伐を果たした英雄達の凱旋セレモニーが、ここハウンドッグ王国の王都フォルテッシモで行われていた。


 フォルテッシモは、大陸同盟ジャスティスでも中心的な役割を果たしたハウンドッグ王国の王都であり、大陸同盟ジャスティスの本部がある場所だ。

 王城前の広場からメインストリートにかけて、魔王討伐の英雄達を一目見ようと大観衆が詰め掛けていた。


 そこへハウンドッグ王国国王オートゥモが壇上に現れ、拡声の魔導具で話し始めた。
 ざわついていた観衆が一斉に静まり返る。


『民よ……よくぞフォルテッシモに集まってくれた。知っての通り魔王ランブローザは討たれた。魔王が討たれたからと言って世界から魔物が居なくなったわけではない……居なくなったわけではないが、我ら大陸同盟ジャスティスの勝利は最早揺るぎないだろう!』

「「「う、うおおぉぉおお!!」」」

 観衆が口々に歓喜の雄叫びを上げる。


『もう明日を憂い涙する事はない。世界に振り続けた涙の雨を、見事魔王を討って晴らしてくれた四人の英雄をここに紹介しよう!』

「「「おおぉぉぉー!!」」」

『我ら大陸同盟ジャスティスは、四人の英雄に世界共通の名誉男爵の爵位と、一人一人に騎士の称号を超える称号を創り授ける事とする。』

 名誉男爵とは、一代貴族と言われる継承される事のない、あくまでもその本人だけに与えられる爵位だ。


『それでは一人目……その剣の腕は勇者にも勝るとも劣らず、輝く聖剣を持って数多の魔物を切り裂いた女剣士……【剣聖】ミレーヌ・モロー!!』

 今や勇者を押し除け世界最強の呼び声高い、女剣士ミレーヌが壇上に上がり、光り輝く聖剣を掲げる。
 その姿に観衆は一層大きな歓声でミレーヌを迎えた。


『二人目は、その両の拳、両の足だけで魔物を薙ぎ倒す世界最強の拳闘士……【拳帝】カイ・バンスロー!!』

 拳闘士カイ・バンスローが両手を天に突き上げながら壇上に飛び乗ると、驚きの声と共に凄まじい拍手喝采が王都フォルテッシモに鳴り響く。


『三人目は、この者の誰も分け隔てる事のない優しさに触れた事のある者も多いだろう。傷つき倒れた者を、その慈愛の奇跡で癒す我が国の女神官……【聖女】アンナ・フランシェスカ!!』

 控え目に手を振りながら壇上に上がる女神官アンナ・フランシェスカを見て、多くの者が涙を流して拍手をしている。


『そして四人目、最後になったが、魔法の深淵を覗き、世界の理を読み解き数多の魔法を紡ぎ、世界でも彼にだけ許された数々の固有魔法で、星の数ほどの魔物を屠り常世へと送り続けた大魔導士……【星屑の魔導士】アシュリー・クロウリー!!

 魔導士の男が静かに壇上に上がると、この日一番の歓声が観衆から巻き起こる。
 その男が魔王にトドメを刺した事が、周知の事実となっているから当然の事だろう。


 壇上に並んだ四人の英雄に、王都フォルテッシモに集まった観衆は、いつまでも惜しみない歓声を上げ続けた。
 その歓声は、四人の英雄が壇上から姿を消しても鳴り止むことはなかった。
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