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第三章

第三章31 〈試行錯誤〉

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 私はエンドレスサマーの、マスターコアの化身マスコ。
 ダンジョンマスターであるユウタ様に仮初の身体を与えてもらい、ダンジョン内であれば自由に動けるようになりました。


 タロ様とジロ様が旅に出て、もうすぐ一カ月が過ぎようとしています。
 外は本格的に冬が訪れ、このエンドレスサマーも客足がかなり減りつつあります。

 いくらエンドレスサマーが常夏とは言え、寒い冬にわざわざ馬車に乗ってここまでやって来るもの好きな人間は少ないようです。
 モヤに転移ゲートがあると言っても、そのモヤまでの移動が大変では意味がありません。


 で、暇になったダンジョンマスターのユウタ様は何をしているのかというと、新名物『らうめん』なる物の開発に勤しんでおります。



「麺云々を抜きにしてもスープ作りもこんなに難しいとは……」

「麺はバンチが打ってみるって言ってたけど、スープがアンタの理想とはかけ離れてるんだろ?」

 今は海の家カモメ店主のアイラ様と試行錯誤を繰り返して『らうめん』の命であるらしいスープを試作しているようです。


「やっぱり魚介ダシだけじゃなくて、動物系のWスープのがいいのかなぁ……」

「ユウタの言ってる事はあんまり分かんないけど、色々試してみるしかないね」

「魚も乾物が無いから、どうしてもスープが生臭くなりがちだしなぁ……」

「一度身とアラや骨は分けて調理してみるかい?」

「そうだね。一度分けて焼いてからダシをとってみよう。ダメなら煮干し作りも視野に入れなきゃなんだよな」

 何やらブツブツ言いながら、魚を下ろしています。
 なかなかの手際のようです。


「それから味はどうするか……味噌や醤油があると良いんだけどなあ……やっはシンプルに塩か。この前は刺身も塩で食べたけど、結構美味かったしな」

「魚醤なら手に入らない事もないけどね。ここで作れない事もないだろうし」

「うーん……魚醤かぁ。独特な臭いがあるんだよなぁ……それか思い切って豚骨的なスープにするかだな」

 どうやら何か思いついたようです。
 ナイトウルフのステアーとピニャに狩りのお願いをしたみたいですね。


「それはそれとして、魚介スープも諦めないぞ」

 次々と下ろした魚を網の上に乗せて焼き色を付けていきます。

「ここで余分な脂も落としてっと……」

 焼き色がしっかりとついた物から水を張った鍋に入れていきます。
 鍋の中には乾燥させた海藻も入っているようですね。


 魔法で火を起こし、水からゆっくりと煮出していくようです。


「そうだユウタ。香味油なんかもあったほうが良いんじゃないか?」

「香味油?」

「ヤキメンにも使ってるんだけどさ。ネギやニンニクなんかを油で素揚げしたり漬け込んだりして、香りをうつした油のことだよ」

「いいね! 最後に回しかけたら風味が増しそうだ」

「香味脂は私に任せな。どっちみちヤキメンで使うからさ」

「わかった。アイラさんにお任せするよ」

 そう言ってまた鍋の火加減を調節しています。


 タロ様とジロ様が居なくなってしまい、最初はどうなることかと思いましたが、ユウタ様は釣りをしたり新名物の開発に取り組んだりと、なにかと忙しくしておられます。

 もしかしたら寂しさを紛らわすためなのかもしれません。
 タロ様、ジロ様、外の世界を思う存分駆けられたのなら、一刻も早くお戻りなさいますよう……。



 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「ハーハッハッ! 美味かったな! 次だ! 次の名物を目指すぞ!!」

『そんな事は言われんでも分かっておる! ビシエイドの全ての名物を制覇してくれるわ!!』

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