『ダンジョンdeリゾート!!』ダンジョンマスターになった俺は、ダンジョンをリゾートに改造してのんびりする事にした。

竹山右之助

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第三章

第三章10 〈暗殺者カナ〉

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 リリルに連れられ、屋敷内の長い廊下を進む。
 伯爵の部屋の前で一旦止まり、ノックをして返事を待つが、一向に返事がないので部屋に入る事にした。

 すると、俺達の目に飛び込んで来たのは、セバスの暗示に必死で抗うレイモンド伯爵と、伯爵が倒れないよう支える、騎士団銀の翼団長ティルトンの姿だった。

「ぐ……ぐおぉぉぉぉ」

「伯爵! しっかりしてください」

「ティルトンさん! セバスはもういません! これ以上暗示をかけられることはありません。あとは暗示に打ち勝つだけです」

 俺の言葉にティルトンがうなずく。

「ユウタくん、伯爵は大丈夫なんだよな!?」

「もう大丈夫なはずです。その薬だけ絶対に飲ませないようにしてください」

「わかった」


 暫くすると苦しんでいた伯爵も、だいぶ楽になって来たのだろう。
 十分落ち着きを取り戻したようだったけど、かなり疲労が溜まっているようだし、時間も時間だということで俺たちは出直す事にした。


 屋敷から中庭に出ると、黒装束に身を包んだ暗殺者・カナが俺を待っていた。

「……短刀を返してもらえるか?」

 俺はカナに短刀を投げて返す。
 クルクルと回りながら放物線を描く短刀を、カナは迷わずキャッチして鞘に収める。

「もうセバスは死んだよ」

 その一言に、カナは小さく「そうか……」と呟いた。

「もう俺を狙う理由が無くなったな」

「そうだな」

「本当は暗殺稼業なんて、やりたくないんじゃないのか?」

「……何故そう思う?」

「何となくだけど、悲しそうに見えたから」


 カナは目を閉じて、少し間何かを思い出していたのかもしれない。

「お前に分かるか? 暗殺を生業とする家に生まれる事の業が」

 何も俺には言えない。
 何故なら、俺は平和な日本の、平凡だけど暖かい家族のもとに生を受けたのだから。
 俺には聞くことしかできなかった。

「物心つく頃から暗殺術を体に叩き込まれ、暗殺を生業として生きていく事を刷り込まれる。15歳になる頃には、もう立派な暗殺者の出来上がりだ」

 15歳……俺達日本人が高校受験で頭を悩ましてる頃か……。

「それなのに、私にそんな生き方しか教えてくれなかった両親は、アッサリと暗殺を失敗して死んでいった。私に残されたのは、体に叩き込まれた暗殺術と、暗殺を立て続けに失敗した暗殺一家と言うレッテルだけだった」

 カナの瞳にうっすらと涙が浮かぶ。

「それからの人生は地獄だったよ。暗殺を失敗し続けたレッテルは剥がれる事はなく、家を守るために泥水をすすりながら生きてきた。そして私も、暗殺を失敗した……もう私には価値がない……これ以上どうしろと言うのだ? もう……殺してくれ……」

「なっ……」

 泣き崩れるカナに俺は掛ける言葉が見つからなかった。
 意外な事に口を開いたのはタロだ。

「価値がないなんてそんな事は決してないぞ。オイラとユウタの二人がかりを凌げる人間なんて中々いないと思うぞ? たとえ修めた技が暗殺術だとしても、それを誰かを守る力に変えればいい」

「簡単に言うな!」

「何言ってんだ!? とても簡単な事だぞ? そう変わりたいと願うなら変わればいいんだ! 先ず自分が変わらなきゃダメだぞ! 自分で可能性にフタをするな! 死ぬ覚悟が出来てるのなら、絶対もっと自由に生きられるはずだぞ!」

「タロ……」

 初めてタロを凄いやつだと思った。
 俺は言葉が出てこなかったのに、タロは普段口にしない様な真面目な事を言っている。

「私にも変われるだろうか……? まだ、間に合うだろうか……?」

「間に合うに決まってるぞ! 何故ならオイラとユウタでビシバシ鍛えてやるからな。その代わり、その暗殺術は仲間を守る為に使うんだぞ!」

「そうだな、君も俺達の所に来るといい。バカばっかりだけど、きっと経験した事ない楽しいことがあるはず。とにかく海は綺麗だぞ?」

 俺は暗殺者・カナをエンドレスサマーの仲間にする事にした。
 俺と大して歳の変わらない女の子が、暗殺だなんだって心を傷だらけにしているのが見ていられなかった。

 これからの人生も決して楽しいばかりじゃないだろうけど、エンドレスサマーに来てくれたら少しは笑顔を増やしてあげられるはずと思ったんだ。

 俺とタロが手を差し伸べると、カナは震えた手で俺たちの手を掴んだ。

「出来ることは少ないが……世話になる」

 そう言ってカナが少しだけ笑った気がした。


 カナは一度家に戻り、色々整理してからエンドレスサマーに行くと言い一旦別れる事になった。
 エンドレスサマーの場所は分かっているらしく、すぐに行くからとのことだ。

 俺はモヤかアルモンティアに居てくれたら、ナイトウルフが来るだろうから、それに乗って来てくれたらいいと説明しておく。

「じゃあ待ってるぞ」

「いろいろありがとう」


 そして俺たちはカナと別れギルと合流する為に、再度タロに乗り塀を越えて領都の外に出た。

「親分! よくぞご無事で!」

 つい先日同じセリフを聞いた気がするぜ。

 焚き火を囲み、明るくなってから伯爵邸に行く事をギルに伝え、全員仮眠をとる事にした。


「つっかれた~」

 しかしセバスは哀れな最期だったな。
 それにセバスが言っていた上位魔族のゲリョルドか……前に戦って逃げられたジグマはどれ位の身分の魔族なんだろうか?
 強さだけで言えばセバスの比じゃなかったけど。

 でも、ナイトウルフの時に続いて、またしても魔族が絡んだ事件が起きている。
 セバスが言っていたように、魔族による世界侵略が本当に始まっているのだろうか?

 目を閉じながら、そんな事を思考しているうちにいつしか眠りについていた。



「ユウタ、ユウタ起きろ」
「ユウタ起きなさい」
「親分、起きてください。ネスタさんがお見えですぜ」

 みんなに起こされ、やっと眠りから目を覚ます。

「はは、余程疲れていたんだね」

 目を擦りながらネスタに頭を下げる。

「ふぁ、どこまで聞いてます?」

「一通りは聞いてると思うけど……女暗殺者はどうなったの?」

「そっちはもう問題ないです」

 ネスタにカナの事を説明する。

「なるほど……。コッチも伯爵様が意識をハッキリ取り戻されたよ。ティルトン様が昼にでも屋敷に来て欲しいと伝えてくれって」

「分かりました」

 ネスタと情報を共有してから別れる。
 そして俺達は昼頃、レイモンド伯爵の屋敷に向かった。


 夜とは違い、侍女に案内され広い部屋に通される。

「ユウタ、このソファにすわってみろ。フッカフカだぞ」
「あのなぁ……」
「本当に座り心地いいわね。さすが伯爵様の調度品だわ」

 ガチャ──。

 ソファで飛び跳ねるタロとリリルに呆れていると、レイモンド伯爵がティルトンを従えて部屋に入ってきた。

 夜に見た時とはずいぶんと違って、背筋も伸び顔にも覇気のようなものを感じる。

 適当に掛けてくれと言われ、俺もソファに腰をかける。

「君がユウタ君か。ティルトンから聞いているが、ずいぶんと世話を掛けたようだな。礼を言う」

 セバスの暗示から解放された伯爵は、どこか凄味を感じさせる声で話し始めた。

「まさかセバスが魔族で、まんまと暗示を掛けられるとは……私も歳を取ったな」

 貴族と言えば、戦争なんかが起きたら自分の騎士団を引き連れて戦争に参加するだけあって、伯爵も修羅場を潜っているのだろう。

「セバスは伯爵が連れてきたと聞いたんですけど、どこでお知り合いに?」

 俺の質問に伯爵は少し考え込んでから答える。

「それがな……わからんのだ。どれだけ考えても、いつ奴と知り合ったのかが思い出せぬ」

「そうですか……」

「そうそう、君に送った書状はもちろん無効だからな。暗示にかけられていたとは言え、無茶苦茶な内容であったわ。流石にダンジョンから税を取ろうなどとは思わんよ」

「あ、ありがとうございます!」

「その代わりと言っては何だが、人間の身でダンジョンマスターになってしまう程の君に、頼み事をする事はあるかもしれん」

 こりゃ税の代わりに、とんでもない約束させられちゃったのかもしれないな。

「今回の件について改めて礼を言う。後日遣いの者に礼の品を届けさせるゆえ受け取ってくれ」

 俺たちも伯爵に礼を言い屋敷を出た。
 結局セバスが死んだ事によって、ゲリョルドという魔族が裏で糸を引いていた事しか分からなかった。
 今後関わることもある相手かもしれないだけに、スッキリしない。

「何はともあれ書状の件は解決したし、エンドレスサマーに帰りますか!」

 こうして俺達はエンドレスサマーへと帰る事になった。



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