『ダンジョンdeリゾート!!』ダンジョンマスターになった俺は、ダンジョンをリゾートに改造してのんびりする事にした。

竹山右之助

文字の大きさ
上 下
49 / 75
第三章

第三章7 〈急襲〉

しおりを挟む
 
「ヨシ! タロの出番だ……行ってこい!」

 俺の言葉にタロがキョトンとする。

「行く? オコノヤキ買いにか?」

「バカね! 伯爵の調査に決まってんでしょ!?」

「え……オイラ一人で?」

「アンタ一人でよ!」

「いや……リリルもついて行って。タロ一人でイチから調べるより効率いいっしょ。タロいればよっぽど安全だろうしさ」

「「行きたくな~い」」

「頼むよ。こればっかりは俺やギルでは出来ないし……」

 タロもリリルも心底行きたくなさそうだ。
 まあ、リリルは危ない目にも遭ってるんだから、二度も行きたくない気持ちはわかるが、タロは何であんなに行きたくなさそうなんだ?
 ただ面倒だからか?

「……オコノヤキ……」

「あ?」

「領都名物オコノヤキで手を打つぞ」

 どんだけ食べたいんだよオコノヤキ。

「わかったわかった。ちゃんと調べて来てくれたら、好きなだけ食べさせてやるから」

「本当か!? なら行くぞ!」
「アンタねぇ……」
「リリルも行くぞ。レッツラゴーだぞ」

 そう言ってリリルを連れてタロは走って行った。

 さて、俺達は宿で待つとしますか。


 ◇  ◇  ◇


「ちょっとアンタ、正面から乗り込む気?」

 タロは相変わらず何も考えていないのか、レイモンド伯爵邸の正門から堂々と入ろうとする。

「? ダメなのか?」

「門番に捕まってお終いよ。少しは頭使いなさいよ」

「ならリリルにはいい案があるのか?」

「……人気のないところから、塀を飛び越えて入れば良いじゃない?」

「ハッ」

 なんかタロに鼻で笑われたんですけど?

「オイラの正面から乗り込むのと、大して変わんないからな」

「私一人なら空から簡単に入れるのよ! そもそもユウタがこんな明るい時間から潜入させようとするのが間違ってるのよ」

「仕方ないぞ。ユウタは頭イイ振りしたバカだからな。一番タチが悪いんだぞ」

「そうね。忘れてたけどユウタだもんね……過度の期待は禁物だわ」

 私とタロは散々ユウタの愚痴をこぼしながら、伯爵邸の塀に沿って歩いていた。
 侵入しやすい場所を探すためよ。
 そして、ここからなら大丈夫かなって場所から侵入しようとした時だったわ。


「───!?」

 タロが急に身構える。

「どうしたの?」

「殺気をぶつけられたぞ! 気をつけるんだぞ!」

「え!?」

 タロが急に辺りをキョロキョロ見回す。
 私もタロの頭の上から飛んで、上空から警戒する。

 すると、伯爵邸の中庭に一人の女が立っていて、空に浮かぶ私を見ていた。
 色とりどりの花が咲く伯爵邸の中庭に、何とも似つかわしくない黒い装束に身を包む女だった。

「タロ! 中庭に女が一人いてこっち見てる! 多分アイツが殺気放ったのよ!」

 そう言うとタロがすぐさま塀の上に飛び乗った。
 そしてその中庭から殺気を放つ女を見て、すぐさま私に言った。

「リリル……引くぞ」

 そう言って塀から飛び降り、私を乗せて伯爵邸から離れる。


「タロどうした? あの女知ってるの?」

「知らないぞ」

「ならなんで逃げるのよ?」

「気付かれてる時点で潜入は失敗だぞ。それに多分……」

「多分?」

「この姿のままじゃ、あの女に勝てないぞ」

「……嘘……タロが!?」

「嘘なんかじゃないぞ。あの女はとんでもない使い手だぞ。この姿でも負けはしないかもしれないけど、勝つのは無理だぞ」

 私は今更、あの女がどれだけの脅威だったかに気付く。

「アイツが見逃してくれて助かったぞ。正直あの女がいたら潜入はもう無理じゃないかな?」

「……なら帰って作戦会議ね」

 私はユウタに、【思念通信テレパス】で作戦の失敗を告げ宿に戻った。


 ◇  ◇  ◇


「黒装束の女か……」

 俺はタロとリリルの報告を受け、黒装束の女について考える。

「普通に考えたら、昨日の潜入騒ぎを受けての護衛だよな」

「そう考えるのが自然だぞ」

「伯爵かセバス、どっちの護衛かは分からないけどね」

 今までの情報をまとめると、セバスの護衛の確率が高いだろうけどな。
 セバスが何者だとしても、自分の腕に自信があるなら書状なんて搦手を使っては来ないはずだ。
 そういう回りくどいやり方をしてくるのは、自分では大して戦えない頭脳タイプなんだろう。

 もしくは、体調の悪い伯爵が雇った護衛かもしれないが、伯爵にはお抱え騎士団銀の翼があるわけだから、ティルトンなりに護衛させれば済む話だ。


「ありゃ相当な手練れだと思うぞ」

「タロが勝てないと思って引き返して来るくらいだから、よっぽどなんだな」

「私には強いとか分からないけど、空から見てたのに完全に目が合ってたからね」

「どうすっかな~?」


 コンコン────。

 俺たちが頭を悩ませていると、ドアをノックする音が聞こえる。

 流石にさっきの今なので、タロが身構え俺もエクスカリバルに手を添えて警戒をする。

「俺です。ネスタです」

 ──ホッ。

 なんだネスタか。
 タロも警戒を解くが、タロの鼻に引っかからないとは流石斥候と言ったところか。
 俺の【警戒】スキルも何の反応も示さなかった。
 スキルが反応しなかった時点で敵ではないのかもしれないけど。

 俺はドアを開けネスタを部屋に入れる。

「団長からの伝言です。屋敷にセバスが雇った護衛の女が居るので注意してくれとのことです」

「遅いよティルトン」

「え?」

 俺はネスタにタロ達にあった事を話す。


「なるほど、一足遅かったですか。申し訳ない」

「いやいや、セバスが雇ったと分かっただけで収穫ですよ」

 ネスタはその情報だけを伝えて帰って行った。


 ふむ……女の護衛を雇ったのは、やっぱりセバスで間違ってなかったな。
 さて、この後はどう動くべきか……もういっそ正面から乗り込んでやろうか。

 コンコン────。

 ん? ネスタの奴、何か言い忘れたのか?

 俺がドアを開けようとした時だった。

「ユウタ! ドアから離れろ!」

 タロが叫ぶのと同時に【警戒】スキルが反応して頭の中を警報音が鳴り響く。
 警報音と同時に後ろに飛んだ俺の腹を、ドアを貫通して現れた鋭利な刃がギリギリを掠めて止まる。

「ユウタ!」
「あっぶね! もう少し長かったら刺さってたわ」
「なんでだ!? 全くニオイしなかったのに! 急に現れたぞ!?」


 ドアに突き刺さったままの、おそらく刀であろう刃物がスーッと音も立てずに戻っていく。

 まさか俺の【警戒】スキルとタロの鼻を掻い潜って襲って来るとは。
 それともネスタにも反応しなかったし、斥候スキル持ちには役に立たないのか?
 もしくは両方を掻い潜れるほどの腕の持ち主なのか。


 そんな事よりどうする?
 こんな狭い宿の一室じゃまともに戦えない。
 かと言って外に出ても、昼間の人通りじゃ無関係の人まで巻き込んでしまう。

(リリル! 窓から出てギルの無事を確認してくれ!)
(わかった!)

 リリルが窓からギルの部屋に飛んで行くのを確認してから、エクスカリバルを鞘から抜く。

「タロ、さっき言ってた奴だよな?」

「間違い無いぞ。いきなりニオイがしたからな」

 ドアが音もなく開き、そこに黒い装束に身を包んだ一人の女性が立っていた。
 手には短めの日本刀のような武器を持っている。

 黒い髪に黒い瞳。
 背も高いし、タイプ的に言えばアイラさんと同じだが、眼の冷たさが違う。
 なんの温度も感じない瞳だ。
 その目を見ていると、身体の芯が冷えるような気さえしてくる。

(ギルは無事よ!)
(ギル! 敵襲だ! リリルと一緒に昨日晩飯食べた店に行っててくれ! )
(了解です親分! 親分もお気をつけて!)


 さて、どうやって切り抜けるかだけど……。

「この人、護衛ってより暗殺者かね……」
「そんな雰囲気だぞ」
「俺にも判る強者の気配……」
「ここじゃ変身出来ないぞ」

 姿見せてから、全然動かないのが余計に怖い。

 俺もタロも、そしてその女性も誰一人として動かないでいた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。 しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。 リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。 現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

処理中です...