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第三章
第三章5 〈潜入〉
しおりを挟む「レイモンド様の身に何が起きているのか調査してもらいたい」
「まあ俺としても、何かしら動かなきゃってとこだったんで、やってみます」
「おお! 引き受けてくれるか!」
俺が引き受けるとは思っていなかったのか、ティルトンが過剰な反応を見せる。
そんなに大きい声出したら、誰かに騎士団団長だってバレちゃいますよ。
「一つ聞いてもいいですか?」
「ん? なんだ?」
ティルトンは調査を引き受けてもらえた事に安心したのか、ジョッキに入った酒をあおっている。
「俺達が領都にいる事や、あの宿屋に部屋とってることが何でわかったんですか?」
俺はリリルも気にしていた事を質問する。
ティルトンは酒を一口含んで、手に持っていたジョッキでテーブルに座るもう一人のほうを差した。
「コイツだよ。コイツは俺が個人的に抱えている斥候なんだけどな? コイツが君達がグライシングに居るのを発見したってわけさ」
ティルトンお抱えの斥候か……なかなか優秀な人なんだな。
「でも俺の顔知らないはずじゃ?」
「そう思うよな!?」
ティルトンはフードを目深にかぶったまま、ワハハと豪快に笑う。
これではティルトンが何者かバレるのは時間の問題だ。
「コイツはな……あの書状を持って行った時、あの場に居たんだよ」
え? 顔はフードでよく見えないけど、こんな人いたかな……?
「分からないだろ? コイツはあの時、馬車の御者をやってたんだよ、変装してな」
「なるほど……全く気づきませんでした。でも何故変装を?」
俺の質問に答えたのは、ティルトンではなく御者に変装していた斥候のほうだ。
「そりゃセバスを疑ってるからな。俺の斥候スキルでアイツを警戒してたってわけだ」
「なるほど」
「挨拶が遅れたな、俺はネスタ。よろしくな」
「どうも。ユウタです。で、こっちがリリル」
ティルトン達と言葉は通じないが、リリルがよろしくと仕草で合図する。
「はは、可愛いお嬢さんだ」
「俺との情報交換や連絡はネスタを通してくれ。俺達は出来るだけ直接会わない方がいいからな」
「あの執事に見つかったら事ですからね」
「ネスタには定期的に君達の前に姿を現せさせるから上手に使ってくれ」
「了解です。宿には尾行してたんですか?」
「もちろんそうだぜ。 犬がいるから慎重に慎重を重ねたけどな」
タロの野郎……何が尾行されてたらオイラが一発で気付くだ。
しっかり尾行されてるじゃねーか。
リリルにやっぱり尾行されてた事を伝えると、溜め息をついて呆れ顔だ。
「じゃあ俺達は先に出るが、伯爵の調査を頼む。セバスには充分気をつけてくれ」
そう言ってティルトンとネスタは店を出て行った。
「集合」
別テーブルで食事を終えて待っていたタロとギルを同じテーブルに集める。
ティルトンからのレイモンド伯爵の調査の依頼を引き受けた事を説明する。
「それからタロ」
「ん?」
「ん? じゃないわよ! アンタやっぱり尾行されてたじゃない!?」
「確か尾行されてたらオイラが一発で気付くとか言ってなかったか!?」
「そんな事言ったっけ?」
その言葉にリリルが錐揉みしながらドロップキックをタロの眉間に喰らわせた。
それを見てギルが大笑いしている。
「ユウタ! タロは当てにならないから、ユウタ自身で警戒した方がいいよ」
まあ確かに、タロの耳や鼻に頼りっぱなしなのもなぁ。
自分で警戒して尾行とかに気付けるのなら、それに越した事はないわな。
「だからって急には……」
そう言いながら、都合よくスキル覚えないかな? と考える。
〈スキル【警戒】をAUTOに設定します〉
頭の中で例の声が響きログが流れる。
……思ってみるもんだ。
【警戒】のスキルがどれくらいの性能かは分からないけど、欲しいと願ったスキルを覚えることが出来た。
いつも俺の状況に合わせて、最適のスキルを覚えさせてくれるから、今回の【警戒】も問題はないだろう。
「覚えました」
「え~……本当に覚えたの? 冗談半分で言ったのに……流石に引くわ~」
「え!? 覚えたって、スキルを!? 今の今!? さすが親分! 少し引きますけど、勝てないわけですわ」
「ユウタ~! オイラの見せ場を奪わないで下さい! 狼から鼻の良さを取ったら何が残るって言うんですか~!」
リリルとギルがドン引きして、タロは何故か涙ながらに訴えてくる。
「いやいや、俺のスキルなんてタロの鼻には勝てませんよ」
「……そうか? そうだよな」
タロの機嫌はなんとか持ち直した。
俺達は支払いを済ませて、一旦宿屋に戻って今後の作戦を立てる事にした。
「…で、引き受けたはいいけど、どうやって調査するの?」
そうなんだよな。
ネスタという斥候がいながら、ティルトンはセバスやレイモンド伯爵の事を調べ上げられなかった。
そんな状況で俺がコソコソ動き回っても、何か掴めるとは到底思えない。
「うーん……まずは正面から行ってみるか」
「レイモンド伯爵に会いに行くってこと?」
「そう」
「オイラの鼻で真実なんて一発で嗅ぎ分けてやるよ」
「はいはい」
「でもその前に、リリルちょっと潜入してきてくれない?」
「え?」
「危険がない範囲でいいからさ。怪しいのは誰か見てきてくれない?」
「……なんかあったらどうすんのよ? 私ほとんど戦えないわよ」
「もちろんすぐ助けにいくよ。危ないと思ったら【思念通信】ですぐ教えてくれ」
「ユウタのバカー!」
リリルは怒りながらも引き受けてくれたのか、宿の窓から飛び立って行った。
◇ ◇ ◇
「ユウタのバカー」
本当に信じられない!
こんなか弱い女の子を一人で敵の本拠地に乗り込ませるなんて。
でもまあ? 頼られるのは悪い気はしないわね。
なんか最近エンドレスサマーで留守番してる事も多かった気がするし。
あれがレイモンド伯爵邸ね。
遠くで見ても大きかったけど、近くで見ると本当に大きいお屋敷ね。
どこか入れる所探さないと……て、アレ?
アレはさっき居た斥候のネスタね。
アイツも何か調べてるのかしら。
(ユウタ、ネスタって奴も何か調べてるわ)
(……何調べてるかわかるか?)
(ちょっと待って)
そう言って私はネスタが何を調べているか見るために、静かにネスタの背後に回り込んだ。
どうやらネスタが張り込んでいるのはレイモンド伯爵の部屋のようね。
明らかに偉そうな人だもの。
(多分だけど、レイモンド伯爵の部屋を見張ってるわ)
(そうか。最悪のパターンはティルトンの部屋を見張ってる場合だったけど、それなら大丈夫だな。続けて調査を頼む)
私はそーっとネスタの目の前に降りてみた。
「ヒッ……!」
ネスタは突然目の前に私が現れてビックリしてるみたい。
笑える。
きっと斥候スキルを部屋の中を調べる事に集中して使って、周りの警戒が薄くなってたのね。
「君は、ユウタくんと一緒にいたピクシー。確かリリルちゃんだね。こんな所で……あ、君も調査かい? 動きが早いね~」
何か私に向けて話してるけど、ユウタが居ないから全く分からないわ。
また食堂の時みたいに、可愛いねとでも言ってくれてるのかしら?
私はジェスチャーで、屋敷の中に潜入する事をネスタに伝える。
「なるほど、君なら目立たないからね。でも十分に気をつけるんだよ」
多分伝わったわね。
私はバイバイと手を振りネスタから離れる。
さて、何処か屋敷の中に入れる所を探さなきゃ。
程なくして、使用人の部屋の窓が空いていたから、そこから屋敷の中に潜入する事に成功した。
さて、まずはレイモンド伯爵か。
屋敷の通路の一番高い所を飛んで気付かれない様、細心の注意を払って動くわ。
さっきネスタが外に居たのは、丁度この部屋の辺りなんだけど、どうしよう……ドアが閉まってて中に入れないわね。
どうしようかと少し様子を窺っていると、
「失礼します」
使用人らしき女が部屋から出てきた。
私はそのタイミングを逃さずレイモンド伯爵の部屋に滑り込む。
私はサッと部屋の高い位置に移動して、レイモンド伯爵を見張る。
「ぐ……ぐおぉぉぉ……」
私の目に飛び込んできたのは、何かに苦しむレイモンド伯爵の姿だった。
伯爵は、おそらくさっきの使用人が持って来たであろう水差しから乱暴に水をコップに注ぐと、机の引き出しから取り出した薬らしき物を口に放り込み水で流し込んだ。
「はぁっ、はあっ、はあっ」
レイモンド伯爵は病気なのかしら?
そこに居たのは、脂汗を流し、酷く顔色の悪いレイモンド伯爵だった。
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