34 / 75
第二章 エンドレスサマー
第二章18 〈同胞召喚〉
しおりを挟む「オラぁ、キリキリ働け! キリキリと!!」
現場責任者ジロの声がエンドレスサマーに響く。
「トミー!! 誰が休んで良いって言ったぁぁ!」
「少し……少し休ませてくれよジロの兄貴」
「トミー、もう少しで休憩だからよ……歯ぁ食いしばれや」
そのギルの言葉にジロがニヤリと笑う。
エンドレスサマーに着いて、二人のお目付役としてジロをつけたのだが、これがなかなかウマが合ったというか、根っからの親分気質と子分気質と言うか、俺様なジロにギルとトミーの二人がバッチリハマったというわけだ。
で、兄貴と慕われるジロが二人がサボらないように監督をしている。
「トミー! 水分だけはしっかり摂れよ」
「あ、あざすジロの兄貴!」
「ギル。お前はもう少し休み休みやれ。この暑さじゃ保たねえぞ」
「兄貴、心配には及びません。敵だった俺達を、行くあてもなく野垂れ死に寸前だった俺達の、傷を治して拾ってくれたユウタ親分の為に俺は出来る事は全部やりてーんだ」
だが、親分と呼ぶのだけは勘弁してもらいたい。
そんなギルとトミーがエンドレスサマーに来て、早くも二ヶ月が経とうとしていた。
その間エンドレスサマーも次々と景色を変えていっていた。
アイラさんとマルチナさんが引っ越してきて、『海の家カモメ』と、更衣室兼水着販売店『マリンブルー』が完成してオープンしていた。
もちろんアイラさん達の住居も完成している。
今はと言うと、バルおじに来てもらい、宿泊施設『ロッジ・メルビン』の建設に向けて基礎を作っているところだ。
そのバルおじの手足となって働いているのが、ギルとトミーというわけだ。
そして、この『ロッジ・メルビン』の亭主にバンチの就任が決定していた。
レナの強い推薦があったのだ。
料理良し気配り良しと、彼の高レベルなお母さん力なら、上手に対応してくれると思う。
バンチが就任するイコール、バンチはジョルジュのパーティーを抜ける事になる。
ジョルジュは新メンバーを募集せずパーティーを解散して、レナと共にジョルジュを手伝うと申し出たのだ。
俺もバンチもすぐさま賛成したが、ジョルジュはアイラさんの近くに居たかっただけかもしれない。
まあ動機はどうあれ、エンドレスサマーが賑わう事はいい事だ。
ロッジが完成するまで、ジュルジュ達は宣伝班を続けてくれる事になり、最近ではその噂を聞いて初めて訪れる冒険者も増えたが、半信半疑で来ていた冒険者も人間が多くいることもあって割とすぐに警戒を解いて海で遊んで行くことも増えた。
サトゥルさんやパントさんも宣伝に貢献してくれていて、最寄りのモヤの村からの客も少なくはない。
帰り際に「冒険者以外にも宣伝しとくよ」「また来るね」こう言ってもらえるのが何よりも嬉しい。
少しずつ……少しずつではあるけど、リゾートとしてエンドレスサマーが回り始めていた。
「ユウターー!!」
上半身水着で下は短パンとサンダルの完全リゾート仕様のアイラさんだ。
ジョルジュが見たら鼻血を出して倒れてしまいかねない格好だ。
「仕入れお願い出来る?」
アイラさんから必要な物をメモしたら紙を貰う。
「だけどアレだね、やっぱり早いとこ商人雇うか何かしないと不便だね」
確かに俺が仕入れに走れる時はいいが、エンドレスサマーに居ないこともある俺が仕入れ担当では、不自由な時が生じてしまうだろう。
「う~ん……モヤでサトゥルさんに相談してみます」
波打ち際でヤドカリをつついて遊んでいたタロとリリルを呼び、モヤを目指す。
モヤでは仕入れを手早く済ませ、サトゥルさんの店に向かう。
「こんにちは~」
店に入るとサトゥルさんが笑顔で出迎えてくれ、リリルがサトゥルさんの頭の上に乗りに行く。
エンドレスサマーでサトゥルさんを匿って以来、サトゥルさんは俺の仲間達ととても仲良くしてくれている。
サトゥルさんと言えば、エンドレスサマーにギルとトミーを置く事にも嫌な顔一つせず同意してくれた。
本当に出来た人だ。
ゆくゆくはサトゥルさんにも、ぜひエンドレスサマーに居を構えて欲しいものである。
「換金ですか?」
笑顔で訊ねるサトゥルさんに、申し訳ないといった顔で返す。
「すみません。換金じゃなくて、仕入れを定期的に担当してくれる商人を紹介してもらえないかな……と、思いまして……」
「定期的に……ですか……」
腕を組み、右手で顎を触りながら考えている様子だ。
「申し訳ありません。心当たりがないです」
「そう……ですか」
「ユウタさんが望む商人とは、発注した品を青果店などで購入して運搬してくれる者を指して言っていますよね?」
俺が同意するとサトゥルさんは続ける。
「普通お店を持つ者ならば、自分で商品を仕入れるか
、自分で作った物を売るかの二択です。店と店の間に入って手間賃だけを取る商人は聞いた事が有りません。ノーリスクで儲けが得られる新しい商売かもしれませんが、物価の上昇を招くでしょうし、何より商人ギルドが許可しないでしょう」
どうやらサトゥルさんの話では、この世界には中間業者が居ないみたいだ。
それはそれで確かに物価の上昇は抑えらているのだろう。
「チャンスがあるとすれば、商人ギルドに新しい商売として認めさせ運営を商人ギルドにさせることですが……それはそれで現実的だとは思えません」
じゃあ暫くは不便だけど、俺が仕入れに走り回るしかないか……アイラさんにもそういう約束で来てもらったわけだし。
俺とサトゥルの会話を聞いていたタロが、徐に口を開いた。
「みんなが好き好きに仕入れに行けばいいんじゃないのか?」
「あのなぁタロ。みんながみんな自分の身を守れるわけじゃないの。いちいち護衛を雇ってられないだろ? それに歩いてたら時間がかかって仕方ないじゃん」
そんな俺にタロは、不思議そうな顔を崩さない。
「だから、アシがあればいいんだぞ。しかも戦えるアシがな」
「そんな都合のいいアシないから困ってんの!」
「ユウタは相変わらずバカだな。オイラを誰だと思ってんだ?」
「……まるんとして二足歩行する謎の狼タロ」
「噛むぞ! オイラは天狼族最上位種フェンリルだぞ! 狼族なら大抵が言う事を聞くんだぞ!」
「……という事は?」
「オイラの仲間に馬代わりをさせれば問題ナッシン! 走れて戦える最強のアシだぞ」
お、おお……普段は忘れがちだけど、たしかにエンドレスサマーのダンジョンでも、タロが守護者だったから狼系のモンスターは多く出て来てたな。
「確かにそれが叶うなら願ってもないけど……どうすればいいんだ?」
「なぁに、オイラが来いと言えば一発だぞ」
「違うアプローチで問題が解決しそうですね」
「相談に来ておいて、勝手に解決しちゃってすみません……」
「いえいえ」
サトゥルさんに別れを告げて、エンドレスサマーに急いで戻る。
みんなに相談して、了承を得られたら早速タロに仲間を呼んでもらうとしよう。
話し合いの結果、皆が仕入れなどで自由に往来出来た方が良いと決まりタロに数頭の仲間を呼んで貰う事になった。
「犬ころの仲間が増えるのか……考えただけで蕁麻疹が出そうだぜ」
「そんな事言ったらダメなんだぞ! ジロちゃんには私がいるんだぞ!」
「ええい! ベタベタ触るんじゃねえ、マルチナ!」
「兄貴! 兄貴には俺とギルの兄貴がついてますぜ!」
「そうだぜジロの兄貴」
ジロを兄貴と慕うギルとトミーに、ジロは大きくため息を漏らす。
「むさ苦しいったらないぜ」
そんな悪態をつきながらも、まんざらでもなさそうだ。
『ダンジョンのモンスター召喚が使えれば簡単に解決するのですが……生憎、モンスター召喚で喚び出したモンスターはダンジョンを出られないので……』
マスコが言うには、ダンジョンマスターの権限で行う、モンスター召喚で召喚したモンスターは、あくまでもマスターとダンジョン自体が持つ魔力で喚び出しているので、ダンジョンの外に出てしまうと強制帰還が働いてしまうらしい。
「ここはタロに任せてみましょ」
リリルは楽しそうだ。
あの顔は絶対何かあると確信している顔だ。
まあ、でもリリルの言う通りだ。
タロに任せてみるしかないからね。
「オッシ! じゃあそろそろ始めるぞ!」
タロの前に召喚の魔法陣が浮かぶ。
魔力の粒子が淡い光を放ち、重力に逆らい空へと向かう。
「オイラのお仲間出ておいで~!」
魔法陣が強い光を放ったが、その魔法陣から何かが召喚される事はなかった。
「…………アレ?」
0
お気に入りに追加
644
あなたにおすすめの小説
転移先は勇者と呼ばれた男のもとだった。
桜花龍炎舞
ファンタジー
人魔戦争。
それは魔人と人族の戦争。
その規模は計り知れず、2年の時を経て終戦。
勝敗は人族に旗が上がったものの、人族にも魔人にも深い心の傷を残した。
それを良しとせず立ち上がったのは魔王を打ち果たした勇者である。
勇者は終戦後、すぐに国を建国。
そして見事、平和協定条約を結びつけ、法をつくる事で世界を平和へと導いた。
それから25年後。
1人の子供が異世界に降り立つ。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
底辺召喚士の俺が召喚するのは何故かSSSランクばかりなんだが〜トンビが鷹を生みまくる物語〜
ああああ
ファンタジー
召喚士学校の卒業式を歴代最低点で迎えたウィルは、卒業記念召喚の際にSSSランクの魔王を召喚してしまう。
同級生との差を一気に広げたウィルは、様々なパーティーから誘われる事になった。
そこでウィルが悩みに悩んだ結果――
自分の召喚したモンスターだけでパーティーを作ることにしました。
この物語は、底辺召喚士がSSSランクの従僕と冒険したりスローライフを送ったりするものです。
【一話1000文字ほどで読めるようにしています】
召喚する話には、タイトルに☆が入っています。
愛しのお姉様(悪役令嬢)を守る為、ぽっちゃり双子は暗躍する
清澄 セイ
ファンタジー
エトワナ公爵家に生を受けたぽっちゃり双子のケイティベルとルシフォードは、八つ歳の離れた姉・リリアンナのことが大嫌い、というよりも怖くて仕方がなかった。悪役令嬢と言われ、両親からも周囲からも愛情をもらえず、彼女は常にひとりぼっち。溢れんばかりの愛情に包まれて育った双子とは、天と地の差があった。
たった十歳でその生を終えることとなった二人は、死の直前リリアンナが自分達を助けようと命を投げ出した瞬間を目にする。
神の気まぐれにより時を逆行した二人は、今度は姉を好きになり協力して三人で生き残ろうと決意する。
悪役令嬢で嫌われ者のリリアンナを人気者にすべく、愛らしいぽっちゃりボディを武器に、二人で力を合わせて暗躍するのだった。
転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる