『ダンジョンdeリゾート!!』ダンジョンマスターになった俺は、ダンジョンをリゾートに改造してのんびりする事にした。

竹山右之助

文字の大きさ
10 / 75
第一章 ダンジョンマスター・ユウタ

第一章9 〈それで? どこに付けるんだ?〉

しおりを挟む
「俺様のワラ買い忘れるなんて信じられない奴らだぜ」


 アルモンティアでワラを買い忘れたので、ジロにネチネチ怒られている。

「後で村行って買ってくるからさ。いい加減許してくれよ」

 今日はモヤのバルガスさんに頼んだ看板を受け取りに行く日だ。
 ワラを必ず買うと伝えて、何とか許してもらう。

 マスコは土人形の身体から、西洋人形の身体に乗り換えてマスコ・スペシャルとなり、かなりのご機嫌な様子だ。

『この身体ならば、エンドレスサマーがオープンしても上手くやっていけそうです』

 ……俺からしたら西洋人形が動いて喋るのは、かなりホラーなんだけど、胸にしまっておいた。


「そうそう言い忘れてたけど、マスコがこのダンジョンのマスターコアである事は、俺とリリルとタロ、ジロの間だけの秘密だからな。うっかり口外しないでくれよ」
「それもそうね。マスターコアが目の前にあったら悪さする奴がいてもおかしくないからね」
「オイラは大丈夫だぞ! マスコとは友達だからな!」
「俺様もわざわざリスクを冒さねーよ。それよりワラ忘れんなよ!」

『皆さん本当にありがとうございます。マスターコアの私を、本当の仲間のように扱ってくださり、本物の命を手に入れたように錯覚してしまいます』

 よく考えてみれば、マスコって何なんだろうな。
 ダンジョンのマスターコアに搭載されてるAIみたいな存在なんだろうけど、エンドレスサマーの経営に積極的に関わってくれているし。
 本来はダンジョンマスターをサポートするだけの存在だろうに。
 いや……ダンジョンマスターである俺の方向性がおかしいから必死にサポートしてくれてるのか?
 よく分からんくなってきたな……まあ、何はともあれマスコは俺たちの大事な仲間である事は間違いない。
 だからこそ早く、よりリアルな身体をプレゼントしてあげたいと思う。


 そうそう、マスコからの報告で知ったんだけど、このエンドレスサマーに冒険者と思われる人達がちょくちょく来ているらしいんだ。
 現在は入り口すぐのところで行き止まりにしてあるから、すぐ諦めて帰って行っているらしいけど、生まれたてのダンジョンを攻略しようと集まって来ているみたいだ。

 残念だけど、その生まれたのダンジョンは攻略済みの上に、常夏のリゾート・エンドレスサマーに改造されちゃってるんだけどね。
 ダンジョンとしての機能はほぼ無いから財宝を狙ったりは出来ないけど、日々の疲れを癒してもらう事は出来るはずだ。
 その為ますま看板を受け取りに行こう!

「じゃあ、マスコ、ジロ留守番よろしく」
「ワラ忘れるんじゃねーぞ!」
「しつこいわね~」
「しつこいネズミは嫌われるぞ!」
「お前ら撃たれて~のか? ああん!?」


 ジロに魔力弾を撃たれる前に出発しよう。
 タロに命じて元の身体に戻ってもらい背中にリリルとともに乗り込む。

『振り落とされるでないぞ』

 普段のミニサイズのタロとのギャップに笑いが込み上げる。
 今となってはミニサイズのまるんとしたモフモフのタロのが付き合いが長いから、フルサイズのタロの性格にどうしても違和感を感じちゃうんだけど。


 フェンリルとしての本来の姿になったタロは本当に速い。
 風を切り裂くように銀髪をなびかせ走るフェンリルは、さすが神話に謳われる存在なだけあると思うほど美しいはずだ。
 モヤの村くらいの距離なら本当にすぐに着いてしまう。

 到着したらタロをまたミニサイズに戻してから村に入る。
 いつ見てもグレイプニールで小さくなるタロは、何故デフォルメされて性格まで変わってしまうのか不思議でならない。

「ん? なんだ? オイラの顔になんかついてる?」

 笑えるからいいけど。



 先ず最初にサトゥルの店に行き、約束のアイテムと680万チッポを交換する。

「いつも素晴らしい取り引きをありがとうございます。今後ともよろしくお願いします」

 サトゥルは、アルモンティアのセルジオとは違いとても腰が低く好感が持てる男だ。
 自分の商売が、客がアイテムを持ち込んでくれて初めて成り立つ商売だと理解しているんだろうな。
 ほっといても客が来る町ように人が多い場所では、セルジオの殿様商売でも成り立つのだろうが。

 サトゥルに別れを告げ、バルガスの元へ急ぐ。
 日本にいた時のネット通販なんかもそうだったけど、注文した物が手元に届く日ってのは、何でこんなに気持ちが逸るのだろう。



「おう! 兄ちゃん! 出来てるぜ!」

 バルガスさんの作業場を訪ねると、バカでかい看板が横たわっていた。
その脇にはビーチチェアーとビーチベッドが数セット並べてある。

 横たわるその看板には『ダンジョンリゾート・エンドレスサマー』とデカデカと書かれ、ヤシの木や波まで南国風味タップリに書かれていて、ビーチチェアーやベッドは真っ白に塗られ、コチラも雰囲気バッチリだ。

「スッゲェーーーー! 想像以上です!!」
「常夏のリゾートにピッタリね」
「デッケーー!」
「連れのピクシーと狼も気に入ってくれてるみたいだな」
「ええ。凄く気に入ったみたいです」

 バルガスさんは俺と違って、リリルやタロと会話できないから雰囲気で察してくれているみたいだ。
 それにしても、バルガスさんに発注して大正解だったよ。
 こんなに良い看板に仕上がるとは思っていなかった。

「さすがの俺も、こんなにデカい看板作ったの初めてだったから楽しめたぜ」
「あとはこれを取り付ければ完成です」
「それだよそれ! お前この看板どこにどうやって付けるつもりなんだ?」


 ……やば。
 取り付ける事一つも考えてなかった。
 持ち帰るのは【四次元的なアレアイテムポケット】でいいとして、これ俺に取り付けられるか?

「か~、どうせそんな事だろうと思ったよ。取り付けの事は考えてなかったんだろ?」
「……はい」
「仕方ね~から、サービスでおれが付けてやるよ。どこ行きゃいいんだ!?」
「え!? マジすか!?」
「こんなデカイ看板付ける場所ってのを見てみたいしな!」

 ニカッと白い歯を見せて笑うバルガスさん……アンタ男前だよ!

「じゃあ、サッと残りの用事を済ませてくるので準備して待っててくれますか? 一緒に行きましょう!」

 そう言ってバルガスさんに残金の50万チッポを払ってから看板とビーチチェアーとベッドを【四次元的なアレアイテムポケット】に仕舞い、急いで木彫り細工職人のパントの店に向かう。


「お待ちしておりました。50個完成してますよ。物見本一つ付けておきますね」
「ありがとうございます」
「……ワラとかって、ないですよね?」

 物は試しとパントにワラがないか聞いてみた。

「ワラですか? ロバの小屋に敷くワラでしたらありますけど……」
「少し譲っていただけませんか? もちろんお金は払いますので」
「構いませんよ。私も貰ったワラなんでお金は結構ですよ」

 そう言って裏にワラを取りに行ってくれた。
 ジロよ……約束は守ったぞ。
 パントには支払いが済んでいるから、商品が入った木箱とワラを【四次元的なアレアイテムポケット】に仕舞う。

「また何かありましたらお気軽にご相談ください」
「はい! そうさせてもらいます! ワラも助かりました!」

 笑顔で手を振るパントに別れを告げて、バルガスさんの元へ急いで戻ると、バルガスさんの準備は出来ているようで、道具箱を足下に置き材木に腰掛けタバコをふかしていた。


 村の外まで一緒に歩いて行き、驚かないように念を押してから、タロに元の大きさに戻ってもらう。
 さすがのバルガスさんも、目を見開き口を大きく開けたまま固まっている。

「実はフェンリルなんです」
「フェ……フェンリルだと~!?」
「驚きますよね」
「驚くに決まってんだろ!? フェンリルをテイムするなんてお前何者なんだよ!?」

『バカ者……我はテイムなどされてはおらん……コヤツが面白そうな事をしておるので付き合ってやっておるだけだ』

「しゃ……しゃべっ……」

『我ほどになれば人間の言葉を操るなど造作も無い。人間の言葉を話すモンスターは他にもそこそこおるぞ? まあ、敢えて使わない奴がほとんどであろうがな』

「へ~、そうなんだ」
「はあぁぁ……とんでもね~奴からの仕事受けちまった……こりゃ看板付ける場所もとんでもね~場所なんだろうな……」

『さあ……乗れ。我に乗れる事を光栄に思うが良い。振り落とされぬ様しっかりと掴まっておけよ』

 バルガスとリリルとタロの背に乗り銀色に輝く毛を掴む。
 タロが走りだし徐々にスピードを上げる。
 タロに乗るのが初めてなバルガスさんは必死になって掴まっている。
 フェンリルの背に乗っているという有り得ない事実も、必死になってしまう原因の一つなんだろうな。
 想像した事もないだろうからね。



「し……死ぬかと思ったわ」

 エンドレスサマーの外に着いたバルガスさんの一言目だ。

「オイラに乗れた幸運を末代まで語っていいんだぞ」
「……オメエ、本当にさっきのフェンリルか!? どんいう仕組みしてんだよ」

 言葉は通じていないが、見た目がまるんと小さくなったタロにバルガスさんが洩らした。
 ご尤もだよバルガスさん……俺だって未だに笑えるんだからね。

「それで? どこに付けるんだ?」
「あそこなんですけど……」

 そう言って俺はエンドレスサマーの入り口の上を指差した。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

処理中です...