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第一章 ダンジョンマスター・ユウタ

第一章5 〈ダンジョンリゾート『エンドレスサマー』〉

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 モヤの村で、換金と食料の調達を済ませ、すぐ様ダンジョンに戻ってきた。
 やはり元の大きさに戻ったタロに乗ればあっという間だ。
 タロに乗れば30km程離れている町にもすぐ着くだろう。


 マスターコアの元に戻り簡単に食事を済ませ、早速ダンジョンクリエイトを初める。


『大まかな構想は聞いて可能と言いましたが、あくまでもダンジョンの域を脱する事は出来ません。そこは注意してください』
「オーケーオーケー」
「楽しみだね~」
「早く初めましょ」



 マスターコアが映し出すコントロールパネルで操作するらしい。
 これは人間の俺に合わせた仕様だ。
 先ず初めに階層の設定から始める。
 殆どのマスターがより深く設定するらしい。
 だが俺は一階層のみだ。

『次に環境設定をお願いします』

 環境ね。
 他のダンジョンでは灼熱だの極寒だの極端なのが主流だそうだが、そんなのは気にせず気温を34度に設定。
 天候は快晴、お日様はギラギラ……風は南風っと。
 外の時間と同調させて朝、昼、夜が変わるように設定しておくことも忘れない。

『フィールド設定をお願いします』

 待ってました。
 他所のマスターがマグマ溜まりだの氷漬けの世界だの設定する項目で、キメの細かい白い砂地で決定する。
 あくまでもダンジョンなので侵入者が快適ではダメだと言われ、砂地の温度を熱く設定。
 これならばオーケーらしい。
 ここまで細かく設定できるのはありがたい。

「ちょっとずつ出来て来たわね」
「早く次やろ~」
「焦るんじゃない! お座り!」

 そう言われてタロが素早くお座りをした。
 フェンリルの威厳は最早感じられない。



『罠を設置しますか?』
「するする! ここが肝心」

 罠を設置と言っても落とし穴や毒矢を仕掛けるわけじゃない。
 このダンジョンではがメインだ。
 そのために砂地部分の殆どを水没するよう設定して、オマケに水を飲めないように海水に変更。
 水温は27度が良いだろう。
 砂地の端にはたまに硬い実を落とすヤシの木を等間隔に植える。
 あくまでも罠の設置だから、ヤシの実には気をつけてもらわないとね。

 それから綺麗な湧水が湧いてる水場を作って、最後に海水部分に危険じゃない程度に弱い波を設定して大枠は完成だ。

『モンスターの召喚はどうなさいますか?』

 モンスターは取り敢えず全て完成してからでも良いから保留にしておく。


「良い感じに設定できてるな」
「凄いね~、何だか走りたくなるね~」
「リゾートっぽくなってきたわね。あとはどうするの?」

 リリルが言うように、実はダンジョンを海水浴の出来るリゾートに改造していたのである。
 マスターコアに一番初めにダンジョンの経営者にならないかって言われた時から、朧げにノンビリしたダンジョンにしたいなとは思ってたんだよね。
 で、経営するならリゾートにして稼ごうかなと。
 学生時代にリゾーバイトはした事あるけど、経営の経験はないから手探りではあるのだけど……。
 冒険者なんかやって、ダンジョンに宝探しに行くなんてハイリスクハイリターンな事はやってられないからね。


「ねえ聞いてる? この後どうするの?」

 あとは俺の家と宿泊施設設置したりシャワールームや売店、食堂など色々とあるけど、まずは水場で試す事がある。

『こちらのサブコアをお持ちください。ダンジョン内からなら、何処からでもこの場所に転移可能になります』
「お、便利だな。サンキュー!」

 水場に移動する前に、ダンジョンの入り口から少し入った所で、通路を岩で塞いでおく。
 間違ってダンジョンリゾートがオープンする前に、冒険者が探索などに入ってきたらしないようにしておく。
 俺達はサブコアで中に転移出来るから問題ない。


 それからリリルとタロと湧き水が湧く水場に移動して、リリルに水を凍らせるよう頼む。

「アイス!」

 リリルの水魔法で湧水を凍らせてもらい、適当な大きさにタロの風魔法でその氷を切り出してもらう。

「クラッシュ!」

 その氷を俺の土魔法で細く砕く。
 いい感じだ。
 試しにタロに食べさせてみる。

「冷たくて美味しいけど、味がしないね」

 ガリガリと氷を食べながらタロから当然の感想が出る。

「この氷なんだけど何かの果汁を混ぜて作ったら、この常夏のダンジョンでなら売れそうじゃない?」
「なにそれ、美味しそう」
「オイラも食べてみたい!」
「あとで村に戻って果実を探してみよう。他にも用事あるし」

 それと、この氷を売るために入れる容器がいるな。
 それに浜辺のイスとベッド、ダンジョンの外に大看板も欲しいところだ。
 リゾートとしてやりたい事は沢山あるが初めから全てやるのは経済的にも人手的にも無理だろう。
 少しずつ稼いで増やしていくしかない。


「看板と言えば、このダンジョンの名前はどうすんの?」
「他所のダンジョンはどうなんだ?」
『マスターが名付ける場合と、後から名付けられる場合と、どちらもあります』
「なるほど……だがウチはリゾートとして名を売らないといけないからな。俺が決めるよ……名付けて"エンドレスサマー"だ!」
『ではエンドレスサマーで登録します』
「まあいいんじゃない?」
「オイラも良いと思う」

 イマイチ反応は薄いが、名前が決まったから看板を発注するため翌日にモヤの村に向かうことにした。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「いらっしゃいませ。昨日はありがとうございました」
「こんにちはサトゥルさん」

 俺たちは果実の調達や看板の発注の為にモヤの村に来ていた。
 ただ何のツテもないので、換金所の店主サトゥルに紹介してもらおうという算段だ。


「看板の発注ですか…町に行くのもアリですが、村になかなかの腕の大工が居ますよ。入口の看板なんかもその男の仕事です」

 なるほど、近くで発注出来るならそれに越した事はない。
 あとは氷用の器と氷保存用の保冷箱だが、保冷箱は当面の間は俺の【四次元的なアレアイテムポケット】を上手く使えば良いと思う。


「食器や容器を扱う店ですか? 陶器ですと町まで行かないと……木の皿などで良いのでしたら村にも木彫り細工の店がありますよ」

 木製で十分なので、これも村で発注する事にしよう。
 最寄りの村といい関係を築いて共に発展出来るのが理想の形だと思うからね。

 サトゥルに紹介状を書いてもらい、先ずは大工のバルガスに会いに行く。
 今の時間だと村外れの資材置き場にいるらしい。
 前回モヤに来た時も思ったけど、あまり裕福な村ではないようだ。
 "エンドレスサマー"の経営を成功させて、仕事を任せたり出来るようになるといいが……。


「ユウタあそこじゃない?」

 リリルの指差す方向に確かに資材置き場らしき場所が見えた。
 近づくと30代くらいの逞ましい男が作業している。

「お忙しいところすみません」

 笑顔で話しかけ、サトゥルの紹介状を渡した。

「サトゥルの紹介たぁ珍しい。で、兄ちゃんは俺に何の用だ?」
「ダンジョンの入り口につける大きい看板が欲しいんです」
「は? ダンジョンだぁ? ボケてんのかオメー!?」

 確かに急にダンジョンの看板が欲しいって言っても信じてもらえるハズはなかったな。
 何だか警戒されてしまったようだし……どうするか……。

 〈スキル【交渉術】をAUTOに設定します〉

 あ、これはAUTOじゃなくてもいいなぁ。

 〈スキル【交渉術】をマニュアル設定に変更します〉

 ……やはり便利だ。
 だけどスキルもダンジョンクリエイトのコントロールパネルみたいに操作できると、ありがたいんだけどなぁ……。

 〈スキル【操作盤コンソール】を自動生成しました〉
 〈スキル【操作盤コンソール】を使用してスキルのマニュアル設定が可能です〉

 ……痒い所に手が届き過ぎて怖くなってきた。
 これについては時間のある時に試してみるとして、今は看板の交渉だ。


「村の入り口にある看板より大きい看板が欲しいんです。大体3倍くらい」
「お?兄ちゃん、あの看板に気付いてくれたのか?ありゃなかなかの仕事だったよ」

 少し警戒が薄れたかな?

「あの看板を作った人を紹介してくれと、サトゥルさんに無理を言ってお願いしたものですから……」
「何だいそうだったのか。俺はデカい看板作るのは構わねーけど、金も掛かるし運送はどうするんだ?」
「運送はアイテムボックスがあるので……」
「いいスキル持ってやがんなオメー。ヨシ! 150万でやってやるよ」

 150万チッポ! 高いのか安いのかはワカランが、手持ちの現金がほぼ無くなってしまう。
 流石にもう少し安くやってもらわないと……。

「あ、屋台的な建物一つとビーチチェアーとビーチベッドも数セットお願いしたかったんだった」
「オメー注文すんのはタダだけど、そんなに金あんのか!? タダ働きはゴメンだぜ!?」
「手付けで100万払います。残りは品物と交換という事で……」
「わかったよ。そう言う事なら引き受けてやるよ。3日くれるか?」

 交渉が成立して、今後も色々頼みたいと話していたら、全部で150万チッポで引き受けてくれる事になった。
 継続利用を見越して安くしてくれたのか、【交渉術】の力なのかは俺には分からないけど。

 バルガスさんと別れ次は木彫り細工職人のパントの店に向かう。


 パントの店に着いて、サトゥルの紹介状を渡してから商品を見させてもらう。
 木皿や木製のフォークやスプーンなど様々や商品が陳列してある。
 俺はその中から、木製の背の高めのコップを買う事にしてパントに話しかけた。

「これって50個程用意できますか?」
「ご、50!?」
「ええ、商売を始めたくてですね」
「もちろんご用意出来ますよ。2日程掛かりますがよろしいですか?」
「オーケーです。バルガスさんにも発注したので3日後に取りにきます」

 パントに礼を言って店を出た。
 特に交渉したとかじゃないのに、一つ500チッポのコップを50個買って2万チッポにオマケしてもらえた。
 これがスキル【交渉術】の力なのか? 恐ろしいぜ。


 そして最後に青果店で、レモンのような酸味とリンゴのような甘みを兼ね備えたレモンゴの実を大量に購入してダンジョンに帰る事にした。
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