沖田氏縁者異聞

春羅

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第四章

第七話

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 言うと思ったぜ、この腐れ狸。

「そりゃあ、無理だ。可哀想だがな」

 土方は、戦なしで江戸城を開城しようと、薩摩の西郷吉之助に命懸けで交渉したりと大忙しだという勝安房守を訪ねていた。

「俺は、この江戸を守りてぇんだよ。誰にも血を流させるわけにいかねぇんだ」

 その一世一代の謀の前に佐幕派の斬り込み隊急先鋒……いや、殿でもある新撰組局長を助けたとあっては、通る話も通らないと言うわけだろう。

 志は立派だとさえ思うが……かっちゃんに、犠牲になれってのか。

「それによ、薩摩の有馬藤太だっけか? あいつがやけに近藤の肩持ってるって聞いたぜ。いきなり切腹とかにゃならねぇよ」

 近藤の乗る籠に縄を掛けた部下に

「近藤殿は咎人ではない! 尊敬すべき武士だ。礼を尽くせ!」

というようなことを薩摩弁で叱り付け、激怒した男だ。

 しかし板橋にいる大半は逆恨みの土佐……切腹ならまだマシ、という状態だ。

 寝返りが余程後ろめたいのか、薩摩は京で正式な審議を行い、決定を委ねるべきだとしているらしいが、土佐が徹底して公開斬首を望んでいる。

「近藤を……お見捨てになるのですか」

 自分で言っても寒くなるようなお涙頂戴の三文芝居だが、俺だってカッコつけてらんねぇんだよ。

「……近藤は、何百何千の犠牲を出してまで、助かりたいと思うかねぇ」

 思わねぇだろう? それはお前が一番知っているだろう? とでも言うように、溜め息を吐いた。

「この話は“これでおしまい”だ」

 いつ誰に斬られてもおかしくない男だということだろうが、十数度も暗殺され掛けた窮地を脱してきただけに、大刀を右側に置こうが、何人もの護衛が終始、襖の向こうから土方に睨みを利かせている。

「しかしよく来たな。……俺は、新撰組は嫌ぇだぜ?」

 なので土方は、俺を斬らせる気かよ、と思った。

「私もあなたが大嫌いですよ、勝先生」

 あーあ、言っちまったもんはしょうがねぇだろ。

「でも近藤は好き“だった”よ」

 襖一枚に隔たれていても十分感じる殺気と、いざとなったら鞘ごとでも使ってやると刀を意識した土方を、勝はふっと笑い飛ばした。

「俺らみてぇな薄汚ねぇのから見ると、なんだかもの哀しくなっちまうぐれぇキレイだよな、あの男は」

 ……一緒にするなと反発したくなるが、不意に過る近藤の笑顔で言葉を止めた。

 この後、幕臣の大久保一翁の元にも助命嘆願書を出したが、聞き入れられなかった。

 手紙すら囚われの身には届けられず、何もできないまま、土方は宇都宮の戦場に立つ。


 何時如何なる時も、武士であれ。

 誰にそう諭されたわけでもなく、自らに科してきた。

 理由など、わからない。いや、そんなもの、ありはしないのだ。

 美しく高い、青い空だ。

 板橋の馬捨て場には、旗本が斬首されると聞き見物に来た人が土手や屋根にまで上る始末……気に入りでよく着ていた亀綾の袷はいいが、顎髭が少しばかり伸びていたのを思い出した。

 籠の中で、髭を剃った。

 近藤勇は、今日四月二十五日、処刑される。

 彼の前には江戸のスリが引き出されたらしい。

 籠を降りると更にすごい数の見物人で、まるで池田屋から京の屯所へ、みんなで意気揚々と凱旋した朝のようだ。

 人山の中に、甥の勇五郎の姿を見付けた。今にも泣き出しそうな顔満面で、こちらを仰いでいる。

 泣くんじゃない……ツネと、娘のタマは、お前に任せたいのだから。

 家柄に心映え……どこを取っても俺には勿体無いような妻を貰い、子まで授かったのに、何もしてやれなかった夫を恨んでいるかもしれないが。

 首を落とすのは、丈の高い、横倉喜三次という男だ。優しい男で、近藤を気遣い度々面会に来ていた。勿論腕も確かで、なんの心配もない。深々と掘られた首穴の前に座ってからも、ポツポツと言葉を掛けている。

 希望した通り、帯刀は近藤の愛刀・仁王三郎清綱。

 思えば、幸せな生涯だった。

 華々しい栄光輝く京での毎日ではなく、泥に塗れ、這い蹲った江戸での日々ばかりが思い起こされる。

 ――……

 近藤と土方、二人がまだ勝太と歳三の頃、彼は今にも増して不機嫌顔ばかりの青年だった。

 あの野郎のせいで薬は売れねぇし、こんな重てぇ箱担いだまんま帰んのは癪だ。

「気に食わねぇなぁ……鬼瓦みてぇな面しやがって」

 あんなでっけぇ拳でぶん殴られた血の滲む傷が痛もうが、自分に使う気はしねぇっつか真っ平ゴメンだ。

 川原に腰を降ろし、足を投げ出した。身体中が痛いらしい。
 
 ふと横を見ると、真っ暗闇の中で生白い肌と潤んだ目がこちらを向いているのに気が付いた。
 
 人間が居たのかよ……って子どもじゃねぇか。
 
 思いっきり、独り言を言っているのを聞かれた。


「なに見てんだよ。俺の顔になんか付いてっか?」

 その子どもはおとなしげで病弱そうな、よく言えば品がいいような顔立ちの割に襤褸のような麻衣を着ていた。大きな目をもっと丸くして、膝を抱えたままオロオロたじろく。

 ガキは嫌ぇなんだよ。

「……ッえ? あ……あのっ」

 こう、ハッキリと物も言えねぇガキは特にな。

 怯えきった表情が余計にイラつかせる。

「だいたいガキがこんな時間にウロつくんじゃねぇや」

 そうだよ、親は何してんだ。

 人買いにでも出くわしたら吉原に売り飛ばされるぞ。それに、ガキじゃなきゃ勃たねぇって変態もいるんだ。獰猛な野犬だって徘徊している。

 それどころかお飾り二本を差した肩書き武士の、酔いに任せた試し斬り名目の辻斬りも流行ってる。

 不覚にも本気で心配しかけるのを止める為かのような、姉に悪い癖だとどやされる舌打ちをした瞬間、子どもは突然の機敏さで立ち上がった。

「おい、待て! 一人じゃ危ねぇだろ!」

 引き寄せた腕は、貧しさを表して痩せ細っていた。

「……やあ……ッ!」

 甲高い声が耳をツン裂く。

 まるで俺がヘンタイじゃねぇか。

「っ妙な声出すんじゃねえ! 送ってやるからおとなしくしやがれ!」

「いいい、いいですッ! 僕、帰れます!」

 腕をブンブンと振り回して抵抗するのに構わず、眼を見張った。

「お前……男か!」

 どうやら当たりである。

 途端に顔中を真っ赤にして眉を吊り上げ、さっきまでの気弱さから一変、物凄く怒っているのだろうなという形相になった。

 別人みたいになるな……所詮、ガキの面だが。

 それきり口もきかないまま渾身の力らしい大振りで肩を押され、痛くもないが腕を放した。男児だろうが危険さは変わらないのに、異様なまでのすばしっこさで逃げられてしまった。

 この時は、また会うとか、ましてや掛け替えのない仲間になるとか土方は思いもしなかったが、これが近藤も知らぬ、宗次郎だった沖田総司との出会いだった。

 数日後、彼はさらに目を見張ることになる。

「ガキができた?」

「あたし産むから。責任取ってくれるよねぇ?」

  ヤッベェー! ……って待てよ。

「それ、俺の子かよ」

  当然、ビンタして出て行く、の流れである。

「最低!」

  言い切れるような女じゃねぇだろ。どうせ俺以外にも男がいることぐれぇ知ってる。

  身を固める気なんざはさらさらねぇ。俺はここ・日野に留まるつもりだってねぇんだ。また、あの川原をうろつきながら、言い訳を巡らせる。 

「石田村の歳三ってのはテメェか」

 見ると手に手に竹刀やら木刀やらを持った集団……十数人はいる。

 土方は丸腰で一人だ。

 “土方喧嘩流”皆伝、というか流祖である流石の彼でも悪寒が走る。

「誰だ」

 道場を廻って門弟から師範代に塾頭までを打ちのめし、冷やかしながら薬を売り歩いてきた。恨まれる原因なら山程に思い当たる。

 死ぬかもな。

 いや、死ぬのは武士になってからだ。主君を守ってから死ぬ。

 後方に控えていた男が柄に手を掛ける。真剣だ。二本差しだ。

「キサマが孕ませて捨てたのは俺の女だ。これだけ言えば十分だろう」

 やっぱり男がいやがったか。それも武士……って、そっちのガキじゃねぇ? なんだって俺の子だとか言いやがったんだあの女。

「女を誑かしたそのツラ、地に擦り付けて命乞いしろ」

 多勢に無勢の喧嘩を買ってまで執着する程、ましてや惚れてもいないのに。

「生憎だが」

 薬箱を置く音が重い。また売れていない。買わせるしかない。

「オトしたのは中身でな。折れてやる気はねぇよ」

 まず一番近くにいた奴の鳩尾を力尽くに蹴って、悶絶したところで木刀を取り上げた。とりあえず、これが無ければ勝負にもならない。

 声高に演説吹いた首謀者はまた後ろに紛れていった。

 なんだよ……腰のご立派な大小、お飾りなら捨てちまえ。

 目潰しに金蹴り、なりふり構ってる暇は無ぇ。卑怯とか汚ぇとか、言いたきゃ言いやがれ。

 相手が一人だろうが、戦力を惜しまず万全を期して、大勢で取り囲んで一斉にかかる、徹底した集団戦法。どうせ金で釣り上げたチンピラの集まりだろう。それでも息を合わせれば使い物になるのだ。
 
 なるほどな……ってマジで感心してる場合じゃねぇよ。

  避けきれなかった一撃が、よりによって米噛みに当たりふらつく。

 なんとかなると見縊ってたが、これじゃ持たねぇ。

 逃げちまうか。

 周りを取り囲まれて次々木刀が繰り出される中、一人を睨み付ける。

 大勢で安心してる連中だ、一騎打ちの格好になればこっちのもんだ。

 その一人を渾身の拳で殴り飛ばし、逃げ道……ここでは活路と言えるものが見えた。

「待たれぇい!」

 地面を揺らすような、腹に響く大音声だった。

 見ると、遠目でも驚く程に太い木刀を提げた男が、遥か向こうで仁王立ちしている。

「一人を相手に卑怯であろう! 天然理心流試衛館・島崎勝太、助太刀致ぁす!」

 ゲッ鬼瓦!

 なんであの野郎が……って強!

 戦国武将もどきの名乗りを上げたかと思えば、怒声と共に“斬り”進んでくる。大喝で怯ませたとはいえ、並外れた豪腕だ。

 バカ野郎! 俺は逃げるところだったってのに……クソッ!

  アイツ、俺だって気が付いてねぇんじゃねぇか?

「おおい、歳三! 大丈夫かぁ?」

  気付いてんのかよ! こっちは答える余裕なんざねぇよ!

  あっと言う間に鬼瓦・後の近藤勇は土方の傍、互いに背中合わせになった。

  なんで俺を助けんだよ。ついこの前ぶちのめしたばっかりの癖に。

  喧嘩した理由なんざ、思い出すのもバカらしいぐれぇに些細だったが。

「危ねぇ!」

 近藤の背後から振り翳される木刀を咄嗟に払う。その間に土方の後ろの奴を殴る。

 妙に呼吸が合う。まだ、仲間でもないのに。むしろそれぞれ地元のガキ大将あがり同士、何かにつけ対立してきた。

「ありがとう!」

 無論、このお礼は近藤の声だ。

 小半刻もしない内に勝負はついた。

 勝ってしまった。あの“武士”に至っては鯉口を切ることもなくトンズラだ。

 土方だっていっそ傷でも負ってればドサクサに紛れてこの場を去りたいが、残念なことに二人ともほぼ無傷。米噛みの痣など、痛いだけで傷のうちにも入らない。

「お前、なに考えてんだよ」

 どうせ逃げられねぇんだ、むしろ正面から訊いてやる。

 近藤は達成感丸出しに満足げに長く溜め息しながら、木刀を手にした肩を回してゴキゴキ鳴らしていた。

「ん?」

 いつも余裕ぶって笑ってばっかいやがって、ムカつくんだよ。

「だから! なんで俺の味方なんかしたんだよ! あんな大勢相手に……」

「勝ったんだからいいじゃないか」

 終わったから言えることだろうが! もうヤメだ。疲れる。コイツと話してると。

 ……道場の、大事な跡取りじゃねぇか。怪我でもしたらどうすんだ。

 そうだ……いっつもぶつかり合って、同じバラガキだった癖に、さっさと養子になんかもらわれやがって。

 もう、住む場所が違う。

「なぁ歳三、前から思っていたんだが」

 厳つい顔なのに、笑うと途端に人懐こい童顔だ。

 だから、誰もが憎みきれない。

「お前、試衛館に来ないか? 勿体ないじゃないか、その腕でちゃんと稽古をしないのは。楽しいぞう! おもしろいヤツがいっぱいいるしな! 最近は九歳の子どもも入ったんだ。かっわいいぞう!」

「……やなこった」

 群れるのはゴメンだ。性に合わねぇんだよ。

「はっはっは! 俺はあきらめんぞ、トシィ!」

「バッ……縮めんな!」

 しばらく、近藤から遠ざかるように薬の行商に専念した。

 子どもの件は女の嘘だったらしい。

 あの男、大刀の拵えは相当の物だったんだ。曲がりなりにも武士の妾にでもなっときゃ食うにも暮らすにも困ることなく、家庭を持つよりは遥かにいい思いができるだろうが。女の考えってのは、いくら経験を積んでも理解できねぇな……などと、土方は人でなしめいたことを思っていた。

 かっちゃんが来てくれなけりゃ、俺は逃げていた。

 武士を志して初っ端から汚点を作っちまうところだったぜ。

「それにしても、なんであんな奴らに狙われていたんだ?」

「……ちっと女絡みでな」

「なにィ! 助けて損した!」

「頼んでねぇよ!」


 近藤は、四角い顔を心底悩ませた真剣な顔で呼んだ。

「なぁ歳ぃ、どうしよう?」

「ったく煮え切らねぇなぁ。なんで俺に訊くんだよ」

 普段は皆を引っ張る強い意志と行動力を持つ大将気質の癖に、女のことになるとからっきしである。

 江戸三多摩……天領であるこの地域には、どこに出しても恥ずかしくない忠誠心が根付いている。

 知名度は三大道場に比べることもできないが、ここ・来るもの拒まずの試衛館はたくさんの門弟を抱え、元は道場破りに来たような荒くれも食客として居着いていた。

 一見ボロ屋だがよく掃除の行き届いた小奇麗な道場で、しかしどの部屋を覗いても暑苦しい程の男達がいるのだが、今は二人きりで密談の真っ最中だ。

「そりゃあ……こんなことお前にしか言えないだろう? 源さんは若先生のお好きに、の一点張りだし、宗次郎は最近めっきり元気がなくて話し掛けても上の空だし……。俺、なんかしたかな?」

 誰があの女ギライに相談しろって言ったよ。

「さぁな。言わなきゃわかんねぇか?」

 あいつはそれこそ言わなきゃわかんない奴で、自分の行動への相手の反応や心情を読み取ろうとする割に、妻子ができてもソージは変わらず俺の家族だと、かっちゃん本人から説いてやらなきゃ不安でしょうがねぇんだ。

 近藤は、道場の跡目を継ぐ者として妻を娶ることになった。それで立て続けに三人の女と見合いをし、さてどの女にしようかというわけだ。

 まだ眉間を寄せっぱなしの近藤を肘で小突いた。

「三人に言い寄られるなんていいご身分じゃねぇか。楽しめよ。俺だってそんな経験……」 

 ……あったな。

「不謹慎だなぁ。女一人の一生を左右する問題なんだぞ」

 とことん真面目な男だ、彼以上に“良き夫であり父”が似合うのも居まい。

「俺は、今日会ったツネさんがいいなぁ、と思ったんだが」

 武家の娘で、幕府の祐筆を務めていたという女だがしかし。

「はぁ? どこがいいんだよ」

 なんだってあんな醜女を? と、土方は心中で暴言を吐く。

「物静かで頭がよくて……優しそうなひとじゃないか」

 思い出すようにボンヤリとした顔をする。

「……かっちゃん、女のそんなとこ見てんのか」

 珍しい男だな……変態か?

「歳はどこを見るんだよ」

「目と腰」

 正確に言えば、目付き腰付きの色気、とでも加えたいらしい。

「……お前に相談したのが間違いだったよ」

 呆れ顔で肩を落とす。土方は簡単にむっとする。

「じゃあもう知らねぇ。……俺は二番目に来た女がいいと思うぜ」

 匂い立つような美貌で、ツンと取り澄ました気の強そうな女だった。

「絶対やめておく」

「テメッ! なんでだよっ!」

「言わなきゃわからないか? 歳と女を巡って争うなんて御免だよ」

「……かっちゃん、三流芝居の観過ぎだ」



 私以外にも二人の女性とお見合いをされた、と聞いていましたけれど。

 それも、すごい美人と。

 自分の顔が嫌い。

 理由は、見てもらえればわかる筈ですけれどこの低い鼻、小さくて離れがちな目。お世辞にも、両親にさえ美しいと言われたことはありませんでした。いいえ、言われたとしても残酷な厭味としか聞こえません。

 ツネは祐筆という仕事に誇りとやりがいを感じていたので、このままどこに嫁ぐこともないのでしょうと諦めていた。

 もらってくださる殿方なんて、生涯現れないでしょうと。

 生きる人全てが美男美女ではないのだから、醜女ゆえだけで結婚できないと思い詰めているわけではなく、人付き合いが苦手で引っ込み思案の彼女はいつも俯きながらボソボソと呟き落とすようにしか話せず、よく陰気な女だと疎まれていたからだ。

 別に構わないと半ばいじけて、見合いなどするだけ無駄と思い始めていたがしかし。

 近藤さま、という方は。何故か私を選んでくださいました。

 初対面は、つい最近。

 三多摩で大人気の、異色な程の実戦剣法を扱う天然理心流試衛館道場の一角で合いは行われた。

 実は若い男自体が苦手なツネは、行かず後家が何を贅沢なと両親に叱られながら、正直気が進まないまま父の後を付いて、重い足取りで門を潜った。

「あっ……」

 背中の、かなり上の方から声がした。

 振り返ると背の高い男が、普通よりもかなり太い木刀を肩に担いで、そこに防具袋を下げて立っていた。

 父は一瞬慌てたが、ツネはこの男が近藤だとは思わなかった。

 近藤は三十歳くらいと聞いていたが、多く数えて二十歳にも満たないように見えるからだ。

「あの、先生の……すぐにご案内しますねっ」

 父が挨拶を始めようというより先に二人が何故ここに来たか察して、深く頭を下げた。

「ソージ、お前はいいから荷物置いてこい」

 道場の中からはもう一人、門弟らしき男が迎えに出てきた。

 外から見ると、聞いたところによるその剣筋通りに、明け透けに言えば荒々しい道場だが、中に入るととても男所帯と思えないくらいに綺麗に整頓され、掃除されていている。隙がない、といった感じだ。

 その印象とはまた違い、近藤は穏やかな雰囲気の、優しさが滲み出るような男である。四角い顔で頬骨が張っていて、しかしいつも笑顔なので全く恐怖を与えない。

「ツネさん!」

 見合いの日を思い出しながらふらりと試衛館の前まで来てしまい、中に入ることも出来ずにこのまま帰ってしまおうかと振り返ると、大きな声で呼ばれた。

 近藤の、元気でよく通る声。

 婚約が決まってから、会うのは初めてだった。

「こんにちは! どうぞ、寄っていってください」

「は、はい……あの、すみません突然……」

 道場から、例のすごい太さの木刀を担いで出てきた。

「寄っていって……というのはおかしいな。ここはもう、あなたの家なのですから」

 大きな口を開けて、屈託なく笑う。

 好きになれそう、と思います……私は。
 
 でも近藤さまの方は、私でいいのでしょうか。

 ううん、嫌われてしまうかもしれない。

 嫌われるくらいなら、傍にいたくない。

「あ、あの……」

「おい、かっちゃん! まだ終わってねぇぞ! 勝ち逃げすんな!」

「歳三さんばっかズルいですよ! 先生、次は僕と……あっ」

 稽古中に、抜け出してきたのだ。

 二人の門弟……土方と沖田も気付き、お辞儀をする。

「ごめんなさい、お話し中に」

 沖田は謝るが、土方はニコリともしない。しかし二人とも、近藤を慕っているのが伝わってくる。

「紹介します! こっちの優男、うちの道場に入ったのは最近なのですが、昔っから喧嘩仲間の歳三です」

「やさっ……! おい!」

 訊きたいことがあって、ここまで来てしまったのだけれど……やっぱりダメみたいです。なぜ、私を……?

 本当は、知ってしまうのが怖かったです。

 他の二人の女の人に私が勝るのは、家柄だけ。

「こっちのヒョロッとしたのは若いですが塾頭を任せてまして、宗次郎といいます。俺の子どもみたいなもんです」

「せっ……先生!」

 誰もが会ったばかりの人達なのに、なんとなく居心地がいい。

 この輪の中に入っていけたらどんなにか楽しいでしょう。

 そう望むのも、離れようとするのも、バカみたい。

「すみません、僕っ失礼します!」

 沖田が顔を真っ赤にして行ってしまった後、心配そうに黙って見送る近藤に、恐る恐る声を掛けた。

「あの……近藤さま、どうして、私を……」

 もう手遅れで、好きになってしまったのでしょうか。

 涙で詰まって、言葉が繋げられません。

「俺も外すわ」

「いや、歳も聞いてくれ」

 両肩に、力強くて、でも優しい手が置かれる。温かさに、涙も驚くよう。

「俺はあなたの、優しさが好きです。子ども好きで面倒見がいいところが、家事が得意なところが好きです」

 好き……私を……。

 確かに、得意というかどれも好きだけれど、どうしてわかるのでしょう……まるで前から見ていてくれたように。

「いろいろと周りが言うでしょうが、気にしないでください。俺を信じて、ツネさん」

 ご存知だったのですね、何もかも。

 ツネを選ぶなんて、金と地位に目が眩んだのだ。

 そんな噂が聞こえてきていた。

 そして近藤の義母であるふでは、ツネが嫁に来るなら自分は出ていくとまで言っていることも。

「俺が腑甲斐ないばかりに、辛い思いをさせましたね」

「いいえ! 私がブスだから……」

「いや! 俺はどうも、ツンツンと我儘そうな美人の方が苦手で……」

「馬鹿! かっちゃん!」

「……だあっ! や、違うんです!」

 小突かれてからあたふたと謝られ、言われた通り、全て忘れてしまえるかもしれない、そう思いながら笑った。

「でもツネさん、あなたの文字の美しさは心の美しさだ。俺も書道が好きでして、教えてくれたら嬉しいです」

 今は興味と同じ気軽な“好き”だとしても、いつか妻として愛してもらえるように、私もっと明るく、そして優しくなれるように頑張りますね。

 この日私は誓ったのです。

 未来にどんな辛く苦しいことがあっても、生涯このひとに添い遂げると。


「二人は……将来の夢、あるか?」

「ええっと僕はですね、このまま先生のお手伝いがしたいです」

 この年齢のわりに突っ張ったところがまるで無い、まだ宗次郎の沖田は子どものような素直な笑顔で言った。

「残念だなソージ。かっちゃんは俺と京へ行くんだぜ。俺が補佐について、かっちゃんを“大大名”にのし上げるんだ」

 いくつになっても相変わらず二人でじゃれ合うのが大好きらしく、土方が

「ソージはイイコで留守番してな」

と付け加えると沖田も負けじと

「そんな遠い所、歳三さん一人で行けばいいでしょっ」

と応戦する。

 本当に仲が良いなぁと、三人兄弟の一番上のような近藤は間違いなく嬉しいながらも少し困って、苦笑いをした。

「なんだ、俺のことばかりじゃないか」

 宗次郎本人が厭がるので俺は言ったことが無いが、この欲の薄い青年は正しく剣の天武で、三十路を越えた頃には達人の域だろう。

 自分の流派を立ち上げることすら可能だ。

 そして歳三は、畑仕事でも家業でも無論喧嘩でも、何十人もの上に立って作業と戦略の先導をするのが得意で、歳三の指揮下では必ずと言っていい程上手くいく。

 俺の女房役などには勿体無い男だ。

「いいんだよっ! 俺は本気だからな!」

 二人がいてくれて良かった。

 人生において、どんな権力を手にするより、どんな地位に就くより、どんな財産を残すよりも。

 かけがえの無い友を得ることがどれだけ難しく、幸せか。

 走っても、挫けても、羽目を外しても、立ち止まっても。

 隣に二人が居てくれるのならば、なんでもできる。

 ――……

 この戦乱を喜ぶなどそれこそ徳川家への無礼だが、しかし太平の世に生まれていればこんな大出世を叶えるどころが、望むことすらできなかっただろう。

 農家の倅だった俺を、養父は剣道道場の跡取りにしてくれた。

 実父の語って聞かせた『三国志』の関羽殿に憧れるだけの、餓鬼大将というよりただの腕白だった俺を見い出してくれたのだ。

 俺としては田舎剣法だろうが貧乏道場だろうがどうでもいいくらいだったが、八王子千人同心の志を受け継ぐ努力家の井上源三郎、まだ小さかったが天武の片鱗を見せる沖田総司に慕われ、会っては喧嘩ばかりしていた土方歳三も顔を出すようになった。

 俺なんかは夢見るような大流派を修めた永倉新八、山南敬介、藤堂平助に、集団生活など柄でもない筈の原田左之助、斎藤一も加わり、次第に増える稽古後の“日本の行く末談義”と何より粒揃いの面々を前に、このままではいられないと、欲ばかりが高くなっていった。

 しかし講武所の剣術師範にとの話が流れ、ここまでかと諦めかけた。

 降って湧いたような話だが、浪士隊募集の参加には躊躇すらしなかった。

 京へ行こうと僅かにも保証のないこと、その隊さえ名ばかりだということは十分知っていた。

 それでもよかったんだ。

 仲間と自分の腕と……取るに足りないと見られているとしても、幕府と大樹公を信じ“その為に”と頭に付けて働けることが喜びだった。

 井の中の蛙は大海を知らなかった。

 けれどこうして、空の青さを知ることができた。

 かつて碁盤の目を染めた浅葱の青さと同じように、愛おしい。

 もう今は……。

「言い遺すことは、御座いませんか」

「……はい」


 倒れ伏す今日、最早言うまでもない。

 義を重んじ、その為に我が命果てようと構わない……望むところだ。

 いざ受けよう、電光三尺の剣。

 ただ一死をもって、我が君主の恩に報いる。

 だからどうか、これ以上、仲間が死ぬことの無いよう。

 この美しい青が、変わることの無いよう。





 一番に速く駆けて、先生の進む道を、どこよりも安全に斬り開かなければ。

 本気でこう言えたなら、どんなにいいだろう。

「こんな病気早く治して、先生達をお助けしなくっちゃ」

 これから回復するなんて、気楽に信じていられる状態じゃなかった。

 毎夜一人になると、確実に病んで、躰が衰えていくのがわかった。

 肺腑が、朽ちていくのがわかった。

 沖田は、匿ってくれている植木屋の離れで蒲団の中、身だけを起こしていた。すると月野が、薬の準備をしながら笑う。

「そうですよ! 皆さんお待ちです!」

 どういうつもりで言ったのか。

 あなたが笑顔になってくれるから?

 身勝手な自分が、笑った顔を見たいから。

 甘えじゃないか、ただの。

 今日こそ言わなければならない。

 ここにいてほしいだなんて、望んではいけないことだったこと。

 でも喉まで上りかかっても、息を吸うことができないんだ。

 あなたはきっと、僕の気持ちなんて知らない。

 知られてしまっても、余計に辛いだけだ。

 苦しみが、増すだけだ。

「ふぅ……みんな僕がいないと負けてばっかりなんだから」

 溜め息して、庭の方に顔を向けた。

 夕焼けに染まる庭を眺めながら、きれいだなぁ、静かだなぁ、などとのんびり思っていた。

 だからこんな風に弱気を吐露してしまうとは、思いもしなかった。

 黒猫はあの日以来、現れなかった。

「……月野さん……僕、みんなに置いて行かれるのが、厭で……怖くて仕方がなかったんです」

 急な言葉に、月野が手を止めたのがわかった。振り向く衣擦れの音が聞こえても、顔を逸らし続けた。

「でも僕……なぜか、死ぬのは全然怖くなかった。毎日のように人を斬って、断末魔の叫びを聞いてもちっとも恐怖が無かった。この病気になっても、死病だという実感が湧かなかったくらいなんです」

 この先は、口にしてはいけない。

 わかっているのに。

「でも今は……死が、とても怖いんです……僕は……」

 堪えられない、軽い咳をした。

 これが言葉を止める為の抑制だったのに、僕は無視をしてしまった。

「総司さん……」

 僕の名前を呼んで、僕の手に触れてくれたから。

 微熱があるくせにカサカサに乾いて冷たいから、頭でいけないと叱っても、この温もりだけで心が安らいで、また僕は、あなたに甘えてしまう。

 あなたは僕のことを見てくれる。

 雁字絡めに閉ざしていた僕の心を解いて癒してくれたあなただから……できるなら、止めてください。

 また嘘つきだ。

 本心は、ひたすらに邪魔をする。

「……僕……僕、もっと生きたい……! ……たと……一緒にいたいのに……!」

 あなたと、一緒にいたい。

 もっと、生きていたい。

 声が震える……息が詰まる。

 月野は頬にそっと小さな手を添えて、心配そうに眉を寄せて首を傾ぐ。

 その指と腕を、涙が伝った。

 いつでも不安でいっぱいだった。

 苦しくても周りに見せられなくて、冗談ばかり言って本当の気持ちを誤魔化していた。

 父を亡くしても姉と暮らせなくなっても、大切な仲間を失っても、誰かの前で泣いたことなんて無かった。

 僕の泣ける場所は、ここだったんだ。

 ようやく辿り着いた今は、黄昏どきだったけれど。

「……ッ!」

 離してくださいと、言わなければならない。

 子どもみたいに涙を流していて、あまりに驚いて、また嘘をつく言葉を息だけで遮った。

 月野に、抱き寄せられたから。

 と、いうより頭を抱えられた。まるで母に慈しまれるみたいに。

 無言のまま、泣いてもいいと言うように沖田の髪と、背を撫でた。

 肩の辺りに、月野の落とした涙が零れてくるのがわかった。

 ギュッと目を瞑り、力任せに唇を噛んだ。

 迷いの手は、触れることさえできなかった。

 ただ本当に子どものように、されるがまま、その胸の中に涙を流した。

 抑まらない震える躰を、ただ抱き締められた。

 もしも病気じゃなかったなら。

 もしも……生まれ変わったなら。

 そんなこと、考えるだけで虚しいことだ。

「月野さん……っ僕……死にたくない……!」


 
 今日もあなたの眠る場所に、桜は舞いますか。

 風はそよいでいますか。

 月は、あなたを照らしていますか。

 でも許されるなら、その上に屋根を作ってしまえればいいのに。

 色は、わたしの好きな紅色がいいな。

 あなたを打つ雨、積もる雪から守る為?

 いいえ。

 そう言えたなら素敵だけれど。

 縁側から高い塀の向こう、陽を浴びて、空を見上げていたあなた。

 わたし、悔しかったんです。

 あなたと太陽を、いつもあなたを連れていく空を遮る、小さな屋根。

 ねぇ、このからっぽの空が。

 ……桜の花びら一つひとつが。

 さざめく小川の、わずかに飛び散る雫水と。

 頬を擽る涼しめの風が。

 全部、全部。

 あなたの周りすべて、わたしが代わってしまえればいいのに。

 そうしたら、ずっとそばにいられるでしょう?

 あなたが、そこで遠くを見つめていても。

 花びらに微笑んでも。

 せせらぎの音を聞き、そよそよと風を感じても。

 あなたと、ずっと。


 縁側に座り庭を眺める沖田の隣に、月野は腰を下ろした。

 慶応四年五月三十日、晴天が奪う。

「近頃は雨ばかりだったのに……今日はいい天気ですね」

 コテンと開いた障子に頭を寄り掛からせている沖田は、ぼんやりと呟いた。

「あの猫は……来ていますか?」

 庭を見ていたはずなのにと不思議に思って覗き込むと、目は紡錘っていた。

 起きているのが、辛いのかな。

「いいえ……。そんなに気になりますか?」

 わたしが隣にいても?

 すごく嫉妬深いことが伝わってしまうから、言わなければよかったのに。

 沖田はくすりと笑って、障子から躰を離した。

「今日は、現れる気がしたんですよ」

 やっぱり元気なのかな。最近は調子がよかったみたいだから。

「先生からの手紙は、来ませんか?」

 わたしのしていることは間違っているのかもしれない。

 近藤は、板橋で斬首されたこと……松本良順に聞いたが、沖田には言えずに隠していた。

 島原にいた頃の宴席で近藤と少し会っただけだが、たくさんの隊士を統率しているのだから厳しい方かと思っていたら、笑った顔がとても優しそうだったのを月野は覚えている。

 総司さんが悲しむのが嫌で、その姿を見るのを、わたしが嫌で、切なくて……でもお便りを書いてくれないと寂しい気持ちにさせてしまうのなら、打ち明けた方がいいのかもしれない。

 でも、まだ心の準備ができていない。

 それにどちらを選んでも、自己満足になってしまう気がする。

「平五郎さんに、訊いてきますね」

 もう一度手紙が来ていないか確かめに出る振りで、立ち上がった。

「待って……!」

 手を伸ばした沖田は、立ち上げた片膝から力が抜けて、崩れるように倒れた。

「総司さんっ!」

 こんなに必死で止めてくれるなんて、今に思えばあなたは、無意識に予感をしていたのかもしれないですね。

 明日の朝陽は、見られないことを。

 急いで躰を起こすのを手伝うと、自分の異変にビックリしたような顔で額を押さえる。

「ッあれ……? ご、ごめんなさい」

「わたしに寄り掛かってください」

 イヤだ。

 連れていかないで。

「ありがとうございます」

 微笑みながらも少しも躰の重さを掛けてこないまま、苦しそうに呼吸をしている。

 覚悟がまるで無かったと言えば、嘘になるけれど。

 こんなに、突然に……?

「横になりますか? わたし、良順先生を呼んできます」

 それでもしっかりと、首を振るった。

「このままで……。月野さん、行かないで」

 神さま。

 わたしの右眼もあげます。

 腕も脚も、動かなくなっても構いません。

 だから、このひとだけは取り上げないで。

「は、はい!」

 返事をするしかできない声すら、涙で震える。

 泣いてはいけない。

 泣いてしまったら、これでお別れみたいになってしまう。

「……豊玉宗匠には、負けちゃいますけど」

 カサリと懐から紙を取り出して、

「辞世の句です」

と、イタズラっぽく歯を見せた。

 動かねば

 闇にへだつや

 花と水

「……なら……、あなたが動けないなら……わたしも動きません。だから……ずぅっと、一緒でしょう?」

 沖田はまた、しっかりと首を振った。

 この後に、途切れながらゆっくり、軽く咳をしながらの言葉は、いつでもさっき聞いたように鮮やかに憶えている。

 月野さん……お名前の通りですね。

 あなたは、僕の生きたときを明るく照らしてくれる月でした。

 ……でも、月はこの世に、ただひとつだから。

 あなたの光は、僕には眩しすぎるから。

 だから僕は、あなたが光を注いだたくさんの月見の花を、一輪だけもらいます。

 誰隔てなく与えられた花の中の、一輪でいいんです。

 ……花畑の中の端っこでも、僕は水をあげて、大切にします。

 唯一の月は、あの人にこそ、ふさわしい。

 こんな所に引き留めて……嬉しいなんて思っていたのを許して下さい。

 僕は結局、いつまでも幼稚な宗次郎のままでした。

 ……実は、まだ我が儘があるんです。

 すぐに涙を拭いて。

 できるだけ早く、京都の光縁寺に行って下さい。

 必ずですよ?

 お願いします。


「……はい」

 どうしてですか?

 そう訊ねたくなったのは時が経ってから。

 また、返事をするしかできなかった。

 なんとか繋ぎ留めたくて、手に触れた。

「もう……泣き虫ですね、月野さん」

 少しだけ、躰を寄せてくれたのを感じた。

「だって、あなたを好きですから」

 闇で隔たれるなんて、いわないで。

 黎明に別けられても、あなたはずっと、わたしの大切なひとです。

「……総司さん……?」

 あんなに晴れていたのに、静かな雨が降ってきた。

 涙みたい。

 花を急いで散らせる、涙の雨。


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