悪役令嬢ですが、ヒロインに助けを求められています!

しーしび

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最終話

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「ちょっ! ちょっと待ってよ! ラウラの魔石は僕が持ってるのに! 」

ミケール様が首にぶら下げていたラウラさんの魔石をとって上にかざしました。

「僕の魔石は受け取らないのに、なんで彼女のは受け取るんだよ! 」

どうやら、ラウラさんは決してミケーレ様に応えることはなかったようです。
すると、ラウラさんは優しげな目にキッと力を入れてミケール様に目を向けました。

「いくら言っても返してくれないくせに…」

私の魔石を握りしめて言っています。
どうやら、私の魔石がラウラさんに勇気を与えているようですが、相変わらず足は生まれたての小鹿並みにガクガクしてます。
目もじわじわと来ているので、完全に変わったわけではないようです。

「返すからっ! 返すから、それを彼女に…」
「ありがとうございます! 」

いきなり舞い込んで来たチャンスをラウラさんは逃しませんでした。
さっと魔石を取り戻しています。

ラウラさん、最初からそうやっていればいいのですよ。

「…次の昼寝の場所探そ」

寝たりないのかディノ様は興味なさげにそのまま立ち去ろうとしています。
彼は助けてくれたのでしょうか?
お礼を言うべきか悩んでいるとラウラさんがトタトタとヒロインらしくディノ様に駆け寄ります。

「あの! ディノさん! 」
「? 」
「これ…」

頬を紅潮させながらディノ様に先ほど取り返したばかりの魔石を渡します。

「え、ラウラ!? 」

ミケール様はラウラさんの行動に慌て始めます。
色男が余裕をなくすとちっぽけな男に見えますね。

「実験用の魔石が欲しいって言ってましたよね? よかったらこれ…」
「くれるの? 」
「はい! 私にはヴェロニカ様のがあるので! 」
「へー、君の加護珍しいやつだから気になってたんだよね」

戸惑いもなくディノ様は魔石を受け取ってしまいました。
ラウラさんは気恥ずかしいのか上目遣いでディノ様の様子を伺っています。
もしかして、ご自分の気持ちに気づいたのでしょうか?

ですが、忘れないで下さい。

彼にはあなたの膀胱のお話が聞こえていますよ!

「ちょっと! それは僕のだ! 」
「は? 俺がもらったものだけど? 」

ミケーネ様がディノ様に突進しますが、冷たくあしらわれてしまいます。

「ラウラさん、今日の『あんこ』は? 私の脳が求めているのですが」
「あっ…約束の時間…忘れてました…スッ、すみません!! 」

ラウラさんは恐さを感じながら慌て始めます。
あんこへの思いから苛立っているコンスタンテ様はやれやれと言った感じです。

「なんだ? 『あんこ』って? 」

バルド様がその会話にひょっこりと入ります。

「ちょっと! 僕のラウラにくっつきすぎだ! 」
「ひぃ! 」

いきなり近づいて来てラウラさんを抱きしめるミケール様にラウラさんは怯えています。

あぁ…大丈夫でしょうか…

「お前はその魔石を返せ! 」
「煩い」
「ディノ様…」

自分の魔石を抱きしめるディノ様にラウラさんがうっとりしています。
あ、震えが収まってますね。

「そうです。今はそこではありません。私には『あんこ』が必要なのです」
「ひぃい! 」

今度はコンスタンテ様があんこ──ではなく、ラウラさんをミケール様から奪い取ります。
またラウラさんは震え始めました。

「『あんこ』って間抜けな名前だな! ははっ」
「う゛っ…」

バルド様がコンスタンテ様に捕らえられているラウラさんに重なっていきます。
遊んでいると勘違いしてますね。
ラウラさん、震えが倍増してます。
わちゃわちゃと騒がしい攻略対象の皆様は、怯えているラウラさんなどお構いなしです。
確かにこの状況は不憫ですが、ラウラさんは適度にディノ様から乙女を提供されているのできっと大丈夫でしょう。

親友として助けるべきでしょうか?
でも、これは彼女に与えられた試練でもあると思います。
いよいよ危機に陥入りそうな時に手助けはするとします。
それにしても不憫ですが、側から見れば面白いと思ってしまうのは私が氷の人間だからでしょうか?
呆れてもいるのにおかしくて、ついつい笑ってしまいます。
私の親友は不思議な人です。

「ヴェロニカ嬢」

いきなり殿下が私の背後から現れました。

ん?

今、私の名前を呼びました?
そういえばさっきからあの輪に殿下は入っていませんね。

「殿下は参戦しなくてよろしいのですか? 」

私は殿下に尋ねます。
少しチクリとしますが、嫉妬心なんてもうありません。
ラウラさんの魅力は私がよく知っているのです。

「別にいいかな」
「そんな事では他の方にラウラさんをとられますよ? 」

なんだか以前よりもリラックスして話せる気がします。

「ん? 」
「え? 」

殿下があまりにもキョトンとした顔をされるので、私もついそのまま返してしまいました。

「あー、別に、僕は彼女に対して恋心は持ち合わせていないよ? 」

どういうことでしょうか?
話を聞く限り殿下はラウラさんを追いかけ回しています。

「ラウラさんを気に入られているのでは? 」
「まぁ、珍しいタイプだから気に入ってはいるけどね」

なんともあやふやな答えです。
でも、確かに先ほどから殿下からミケーネ様やラウラさん、そしてあんこに対するコンスタンテ様のような恋の面影が全く見えません。
あの黒いオーラが恋だとは思いたくありませんし──

「怯えて逃げる様が面白くてついね」

あ、あの黒いオーラが沸き起こって来ました。
まるで獲物を追いかける肉食獣です。
全身の毛が逆立つように感じました。
まさか殿下がこのような方だったなんて──、予想外です。

「でも、今は君の方が気になるかな? 」

殿下はそう言って私に振り向くと、私の髪を1束持ち上げます。

「! 」

その持ち上げる瞬間、殿下の指が私の頬に触れたか触れなかったかの距離で掠めていきました。
殿方に触れられたことも近づかれた事もない私は驚きで心臓が飛び出しそうでした。
それに相手が殿下ですので、なんとも言えない気恥ずかしさがこみ上げて、身体中の血液が顔に登ってくるかのようです。

「ふふっ、そんな顔もするんだ」

殿下は私の髪の毛をご自身の手の中で遊ばせながら不敵に笑います。
そんな顔ってどんな顔でしょう──

「今日は君の色んな顔が見れてよかった」

殿下は嬉しそうに顔を綻ばせます。
綺麗なお顔がより一層輝きを放つのです。
視力が奪われそうだと言ったラウラさんの感情がよく分かる気がします。
私はなんとか煩い心臓を落ち着かせようとして殿下のお顔から視線を外しましたが、今度は殿下に弄ばれている私の髪が視界に入り、余計に落ち着かなくなります。
このまま目を瞑ってどこかへ隠れたい気分です。

「でも一番は笑っている顔かな? もう一度見てみたいな」

殿下はそういうと弄んでいた私の髪にそっとご自身の唇を押し当てました。

「っ~~~…! 」

ボンッ

もうわけが分からなくなって、頭が弾け飛んだようでした。
どうなっているのでしょう。
何故、ずっと私など眼中になかった殿下が私を見て目をきらめかせているのでしょう。
こんな殿下は初めてです。

「僕さ、とっても気に入ったら、絶対に手放さないタイプなんだよね」

殿下はにこやかに言います。
あれ?
殿下の攻略方って?
えっとラウラさんは溺愛タイプとか言ってましたっけ?
え?
この状況はなんでしょうか?

「見つけちゃったから、もう逃さないよ? 」

殿下はまたしても黒い笑みを浮かべ、私の腰に手を回しました。
何故でしょう、甘い笑みなのにこんなにも恐ろしく感じるのでしょう?
今はときめきよりも、緊張感の方が勝ります。



ラウラさん、もっと前世の記憶を蘇らせてください!


なんだか殿下から危ない香りがします!



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