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「煩すぎ」
大木の上で休憩でもしてた様で、ディノ様はこちらに呆れた目を向けながら背伸びをしました。
ディノ様よりも下にいた私は、初めてフードの下にあるディノ様のお顔をしっかりと見ることができました。
大きく丸い黒い瞳と男性にしては小柄な体型には愛くるしさがあります。
顔もかなりの童顔の様で、子犬を連想させますが漆黒の髪とその瞳はどこか影を感じさせ、表情も幼い顔立ちには似合わない大人びたものなので彼が只者ではない事が感じ取れます。
黒いオーラを放つ殿下と通常のディノ様は同じぐらいの圧を感じます。
「ディノさん…」
先程まで嗚咽しながら終焉を迎えそうだったラウラさんはいつの間にか復活しています。
手も通常のポジションに戻っていたので一安心です。
問題は完全に恋する乙女の顔で熱のこのった視線でディノさんを見つめていることです。
先程まで乙女として終わりそうだったラウラさんは何処へ行ったのでしょう。
ディノ様はそんなラウラさんを気にも留めず、軽い身のこなしで大木から地面に降り立ちました。
「迷惑なんだけど」
ディノ様は冷たい目を私たち全員に向けて言いました。
自分よりもかなり幼く見える少年なのにその圧に押されます。
思わず一歩下がりそうになりました。
ラウラさん、恐いというのはこれです。
その蕩けそうな目はやめて下さい。
無自覚なのが寧ろ腹が立って来ます。
「なんなんだっ! いきなり出て来て! 僕は愛する人を守りにーー」
「そんなの他所でやってくれ」
ミケール様の勘違い発言をあっさりと弾き飛ばします。
ディノ様の元の声は知りませんが、不機嫌なのはよく伝わって来ます。
「これはこの学園の問題だ。生徒同士の喧嘩はあるべきではない」
「は? 喧嘩? 」
コンスタンテ様の発言にディノ様が何を言っているのだと顔を歪めます。
あれ、ディノ様はいつからここにいたのでしょうか?
私達が来た時から殿下が現れるまで誰も来ていませんでしたよね?
もしかして…最初からいた、という事ですか?
「この二人喧嘩してないけど? なんか、悩み相談? してただけだけ」
ディノ様はバカにした様な目でコンスタンテ様を挑発します。
あ、やっぱりですか?
最初から全部聞いていたのですね。
ラウラさん、乙女になっている場合ではありません。
貴方の尿意のお話から、泣き崩れた顔、さらにはディノ様の話の下りまで全部聞かれていますよ!
「悩み相談? 」
コンスタンテ様は信じ難いと首を捻ります。
「あれ? お前ら友達? 」
バルド様は単純な方のようで、あっけらかんと聞いて来ます。
ですが、私は貴方よりも身分が高いのを忘れないで下さいね。
「そうです。私たちは『お友達』です」
初めて自分のために口にする『お友達』という言葉はとても気分を爽快にします。
「ヴェロニカ様…」
ラウラさんも嬉しそうに頬を紅潮させます。
そんな反応されたら私も恥ずかしくなりじゃないですか。
「笑ってる…」
「あのオグリオゥス嬢が…」
ミケール様とコンスタンテ様が呟きました。
殿下も美しい目を丸くしてこちらを見ています。
今、ラウラさんに向かって笑っていたのでしょうか?
こんなに自然に笑えるだなんて──、私も知りませんでした。
ラウラさんは眩しい笑顔を私に向けました。
「そうですよ! ヴェロニカ様は私の大切な『親友』です! 」
攻略者の方がいて足が震えているのにラウラさんは必死に口を開きます。
どうしましょう。
とっても、ふあふあした気分です。
ふあふあだなんて、すごく安直な言葉なのですが、それが今の気持ちにぴったりすぎて、それ以上の言葉が見つかりません。
今日初めて話した方なのに、私はいつの間にかラウラさんが大好きになったようです。
「ね! 」
瞬い笑顔をラウラさんは本当に女神かと思いました。
「ラウラさん、これを…」
私は自分の魔石をラウラさんに差し出しました。
「え…」
ラウラさんは困惑します。
そうですよね。
人生を誓い合う方に渡す魔石を他の方、しかも同性の方に渡すなどおかしいですわよね。
でも、魔石を持たないラウラさんの為に私の魔石をあげたいのです。
「ヴェロニカ様の魔石がなくなっちゃう…」
危険生物に包囲されても私の心配をしてくださるとは…
「魔鉱石を持っていますからお気遣いなく」
魔鉱石は私たちがの加護が刻まれているものではなく、宝石の様に自然で取れる魔石です。
「ヴェロニカ様…」
親鳥でも見るかのような目でラウラさんは私を見つめます。
私は口をラウラさんの耳元に近づけてそっと呟きます。
「今度こそは、本当にお慕えしている方に渡して下さいね」
ラウラさんから離れて悪戯に笑うと、ラウラさんも嬉しそうに笑い返して下さいました。
笑顔を返されるっていいですわね。
私は湧き起こる思いをそっと声に出します。
「ラウラさんは私の『親友』ですもの…」
この言葉はまだ恥ずかしいです。
耳の熱がまた溜まり始めました。
ラウラさんも私の魔石を受け取るとみるみる乾いた目元を涙で溢れさせました。
「ふぇ…ヴェロニカ様…本当に素敵です…大好きです…」
ラウラさんはそう言って私に抱きつきました。
私も折れそうなその体を優しく抱きしめました。
ラウラさんってあたたかいのですね。
ラウラさんの心を直接触っているようです。
私達はお互いを抱きしめてその温もりを感じあっていました。
とても優しくてあたたかくて幸せの香りがしましたわ。
大木の上で休憩でもしてた様で、ディノ様はこちらに呆れた目を向けながら背伸びをしました。
ディノ様よりも下にいた私は、初めてフードの下にあるディノ様のお顔をしっかりと見ることができました。
大きく丸い黒い瞳と男性にしては小柄な体型には愛くるしさがあります。
顔もかなりの童顔の様で、子犬を連想させますが漆黒の髪とその瞳はどこか影を感じさせ、表情も幼い顔立ちには似合わない大人びたものなので彼が只者ではない事が感じ取れます。
黒いオーラを放つ殿下と通常のディノ様は同じぐらいの圧を感じます。
「ディノさん…」
先程まで嗚咽しながら終焉を迎えそうだったラウラさんはいつの間にか復活しています。
手も通常のポジションに戻っていたので一安心です。
問題は完全に恋する乙女の顔で熱のこのった視線でディノさんを見つめていることです。
先程まで乙女として終わりそうだったラウラさんは何処へ行ったのでしょう。
ディノ様はそんなラウラさんを気にも留めず、軽い身のこなしで大木から地面に降り立ちました。
「迷惑なんだけど」
ディノ様は冷たい目を私たち全員に向けて言いました。
自分よりもかなり幼く見える少年なのにその圧に押されます。
思わず一歩下がりそうになりました。
ラウラさん、恐いというのはこれです。
その蕩けそうな目はやめて下さい。
無自覚なのが寧ろ腹が立って来ます。
「なんなんだっ! いきなり出て来て! 僕は愛する人を守りにーー」
「そんなの他所でやってくれ」
ミケール様の勘違い発言をあっさりと弾き飛ばします。
ディノ様の元の声は知りませんが、不機嫌なのはよく伝わって来ます。
「これはこの学園の問題だ。生徒同士の喧嘩はあるべきではない」
「は? 喧嘩? 」
コンスタンテ様の発言にディノ様が何を言っているのだと顔を歪めます。
あれ、ディノ様はいつからここにいたのでしょうか?
私達が来た時から殿下が現れるまで誰も来ていませんでしたよね?
もしかして…最初からいた、という事ですか?
「この二人喧嘩してないけど? なんか、悩み相談? してただけだけ」
ディノ様はバカにした様な目でコンスタンテ様を挑発します。
あ、やっぱりですか?
最初から全部聞いていたのですね。
ラウラさん、乙女になっている場合ではありません。
貴方の尿意のお話から、泣き崩れた顔、さらにはディノ様の話の下りまで全部聞かれていますよ!
「悩み相談? 」
コンスタンテ様は信じ難いと首を捻ります。
「あれ? お前ら友達? 」
バルド様は単純な方のようで、あっけらかんと聞いて来ます。
ですが、私は貴方よりも身分が高いのを忘れないで下さいね。
「そうです。私たちは『お友達』です」
初めて自分のために口にする『お友達』という言葉はとても気分を爽快にします。
「ヴェロニカ様…」
ラウラさんも嬉しそうに頬を紅潮させます。
そんな反応されたら私も恥ずかしくなりじゃないですか。
「笑ってる…」
「あのオグリオゥス嬢が…」
ミケール様とコンスタンテ様が呟きました。
殿下も美しい目を丸くしてこちらを見ています。
今、ラウラさんに向かって笑っていたのでしょうか?
こんなに自然に笑えるだなんて──、私も知りませんでした。
ラウラさんは眩しい笑顔を私に向けました。
「そうですよ! ヴェロニカ様は私の大切な『親友』です! 」
攻略者の方がいて足が震えているのにラウラさんは必死に口を開きます。
どうしましょう。
とっても、ふあふあした気分です。
ふあふあだなんて、すごく安直な言葉なのですが、それが今の気持ちにぴったりすぎて、それ以上の言葉が見つかりません。
今日初めて話した方なのに、私はいつの間にかラウラさんが大好きになったようです。
「ね! 」
瞬い笑顔をラウラさんは本当に女神かと思いました。
「ラウラさん、これを…」
私は自分の魔石をラウラさんに差し出しました。
「え…」
ラウラさんは困惑します。
そうですよね。
人生を誓い合う方に渡す魔石を他の方、しかも同性の方に渡すなどおかしいですわよね。
でも、魔石を持たないラウラさんの為に私の魔石をあげたいのです。
「ヴェロニカ様の魔石がなくなっちゃう…」
危険生物に包囲されても私の心配をしてくださるとは…
「魔鉱石を持っていますからお気遣いなく」
魔鉱石は私たちがの加護が刻まれているものではなく、宝石の様に自然で取れる魔石です。
「ヴェロニカ様…」
親鳥でも見るかのような目でラウラさんは私を見つめます。
私は口をラウラさんの耳元に近づけてそっと呟きます。
「今度こそは、本当にお慕えしている方に渡して下さいね」
ラウラさんから離れて悪戯に笑うと、ラウラさんも嬉しそうに笑い返して下さいました。
笑顔を返されるっていいですわね。
私は湧き起こる思いをそっと声に出します。
「ラウラさんは私の『親友』ですもの…」
この言葉はまだ恥ずかしいです。
耳の熱がまた溜まり始めました。
ラウラさんも私の魔石を受け取るとみるみる乾いた目元を涙で溢れさせました。
「ふぇ…ヴェロニカ様…本当に素敵です…大好きです…」
ラウラさんはそう言って私に抱きつきました。
私も折れそうなその体を優しく抱きしめました。
ラウラさんってあたたかいのですね。
ラウラさんの心を直接触っているようです。
私達はお互いを抱きしめてその温もりを感じあっていました。
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