悪役令嬢ですが、ヒロインに助けを求められています!

しーしび

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「あっ…うっ…うぅ…」

ありえないぐらいラウラさんは震え始めました。
ラウラさんの肩を掴んでいる私まで震えそうです。
殿下が一歩一歩近づいてくる度にラウラさんの膀胱が限界を迎えないか心配でなりません。

お願い、お願いですから持ち堪えて下さい。

「何をしているのかな? 」

殿下は笑顔のまま聞いてきます。
いつもは普通の愛想笑いに見えていたのに、今日は黒いオーラが明確に見えるのです。
本当に楽しんでいる様にも見えるので余計に恐ろしいのです。

あら?

よく見ますと、私の事を見ていません。
殿下の視線は怯え切っているラウラさんにだけ集中してます。
ここまでくると、殿下に抱いていた想いがバカらしく思えてきました。

「う…うわぁ…う…うわぁ…」

先程の取り乱した状態で殿下に遭遇した為か、ラウラさんは何も殿下に答えれていません。
不敬罪にはならない様に心がけていたと言ってましたが、今回は完全アウトです。
ですが、ラウラさんの心情を知っている私はこのまま放っておくわけにはいきません。
だって、私たちはお友達ですもの!

「殿下、ご機嫌ようっ」

私は立ち上がって挨拶を始めました。

「久しぶりだね。オグリオゥス嬢」

殿下は優しげに私に微笑みかけました。
あら?
これは普通です。
ですが、殿下がすぐに顔をラウラさんの方に向けるとまたしても黒いオーラが現れます。
子供の様ですが、一回だけ目を擦って見直しましたが、黒いオーラはやっぱりあります。
そんな事をしているとまたしても声が聞こえました。

「大丈夫か!? プリンシパ!? 」

訓練着のバルド様が慌てた様子でやって来ました。
何故か両手には木棒が一本ずつあります。

「プリンシパ嬢! 」

今度はコンスタンテ様です。
ラウラさんフィルターがかかったのか、眼鏡のレンズが光っている様に見えます。

「ラウラ! 僕が来たからには大丈夫さ!! 」

白馬の王子様にでもなって酔っているかの様なミケール様がやって来ました。
どうしましょう、現物を見ると痛いですね。

「あっ、うわっ! …あ…っ」

ラウラさんは次々と現れる攻略対象に泡でも吹きそうなほど混乱し始めました。
私とラウラさんは完全に四方を攻略対象者に包囲されてしまっているのです。
ラウラさんの膀胱が爆発するのも時間の問題です。
彼らなんかにラウラさんの乙女としての人生は終わらせません。
ここをどうにか逃げ切って、お手洗いへ向かうのみです!
私は目を光らせて周りを牽制しました。
そして彼らと少しでもラウラさんとの距離を取らせようとラウラさんを背後に隠しながら私は足を踏ん張って立ちます。

「っ…オグリオゥス嬢、まさか君までもが嫉妬に狂うとはね」

ミケール様は色っぽい目で私を睨みます。
ちゃっかり、ラウラさんの魔石らしきものが首にぶら下がっていました。

「もう少し冷静な方かと思いましたが残念です。私には彼女あんこが必要なのです。大人しく諦めて下さい」

眼鏡を押し上げながらコンスタンテ様が凛として言いました。
今、完全にラウラさんの事をあんこ呼ばわりしましたよね?

「ねっちこい事なんてすんじゃねぇぞ! 勝負をするなら正々堂々とするべきだぜ! 」

清々しい笑顔で私とラウラさんそれぞれに向けて木棒を差し出して来ました。
まさか、その為に持って来たのですか?

「ヴェ…ヴェロニカ…ざまぁ…」

少し背後を振り返ると、ラウラさんの顔はすがって来たときと同じ様にヒロインと思えないぐらい崩れていました。
また様々な液体が愛らしかったはずのお顔から流れ落ちています。
しかもラウラさんは私のスカートに縋り付いているので、スカートの後ろ側までもベタベタになっています。
我が家のメイドの仕事を増やさないで下さい。
そう思いながら、私は攻略者の皆様に顔を向けなおします。
ミケールさんをはじめとして私を警戒している様です。
殿下は私の正面で余裕そうな表情をしています。
何故でしょう?
何かが引っかかりますが、今は敵です。

つまり、皆さんは殿下と同じ様に誰かしらにラウラさんと私が一緒にいる事を聞きつけたのでしょう。
そして、私がラウラさんを虐げていると思って駆けつけた、というところでしょうか?
確かに終始ラウラさんは泣き崩れていますからね。
側から見れば無表情の私がラウラさんを傷つけたと思われても仕方ありません。
その誤解も解きたいですが、今はラウラさんが優先です。
このままこの危険な殿方達といてはラウラさんが大惨事を迎えるだけです。

「ヴェロ…ウ゛ッ…が…」

危ないです。
ラウラさんが尿意に加え吐き気まで催しています。
上からの方がまだマシですが、でもダメです!
せっかく私たちは出会えたのです!
貴方の幸せを必ず守って見せますわ!!
私が意気込んで声を上げようとした瞬間、新たな声が降りかかって来ました。

「は? これ何? 」

呆れた様な声でした。
それは刺のある様な、でも可愛らしい声で私が聞いた事のない声です。
私も含め危険生物達も声のする方へ顔を上げました。
皆の視線の先は側にある大木の上部です。
そしてそこにいたのはーー

「ディノさん…? 」

ラウラさんの呟きと共に私たちの目に入ったのは、若き天才魔導士のディノ様でした。
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