悪役令嬢ですが、ヒロインに助けを求められています!

しーしび

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そんなラウラさんはコンスタンテ様の圧にやられた様で、その恐怖心からか唇の色を失ってしまっています。
真っ白な唇からラウラさんは話を続けてくれました。

『これは何なのだぁああ! 』

狂った様にコンスタンテ様はラウラさんに迫った様です。
ラウラさんは恐怖からまた尿意を感じたらしく、その場にへたり込んだそうです。
腰が抜けたのでしょうね。

『あ、あんこ…です』

震えながら答えたラウラさんが目に浮かびます。

『あんことは何だ! この香ばしく甘いのに、甘すぎず上品な味わいはっ! 口当たりが滑らかで、時々舌先に触れる粒々がアクセントになっているぞ! 脳がこの糖分を求めている! この甘さだっ! これぞ私の追い求めた甘さだっ! これはどこに売っているのだっ! 』

相当美味しかった様で、コンスタンテ様は気に入られたのでしょうね。
確かに頭を使うと甘さを求めてしまうのは分かります。
特にコンスタンテ様は何かをずっと考えている様な方なので、あんこが糖分補給としてコンスタンテ様の舌にあったのでしょうね。
私もその『あんこ』とやらを食べてみたくなりました。

『わ、私が作ったものなので…どこにも売っていませんが…』

恐怖に怯えながらもラウラさんが答えると、コンスタンテ様は獲物を見つけた様な目つきでラウラさんを睨みつけたそうです。

『あなたがこれを!? 作れるのですか!? 』

先程の横暴な話方とは打って代わり、キラキラした目を向けてきた様で、ラウラさんの手を握ってきたとか。
ですが、ラウラさんは完全に捕まってしまったと危機感しか抱いてなかった様です。
またしても逃れない、そして魔石はミケール様の元にあるのに加え手を使用できない状況に終わったと感じたそうです。
ここでまたしても魔石を投げても、ラウラさんの望む展開にはなりそうにありませんがね。

『どうか…これを私に作っていただけませんか!? どうしてもそれが欲しいのです!! 』

その目は『あんこ』への欲望に染まり切っており、人間の目ではなかったとラウラさんは語っていました。
そして気づけば、定期的にラウラさんがコンスタンテ様に『あんこ』を献上することとなっていたのだそうです。
ラウラさんが断り切れない優しい方なのとコンスタンテ様の迫力に押されたのはよく分かっていますが、なぜその様に事態に陥ってしまったのか悔やむ気持ちが生まれてきます。

「あんなあんこへの執着心を見せるだなんて…甘党だなんて…そんな裏設定知らない…」

項垂れながらラウラさんは呟きます。
あなたが忘れていた可能性もありますよ?

「最初のラウラさんの説明では知性溢れるコンスタンテ様は勉強以外の世界を見せてくれるヒロインに恋するのですよね? ある意味、新たな世界を見せて差し上げた状況になっているのでは? 」

私が尋ねるとラウラさんはブンブンと勢いよく首を振ります。
ラウラさんの美しい髪から花に似た香りが鼻腔をくすぐります。
魅力的な人は匂いでも人を虜にする様です。

「あれは…あんこしか見ていません…。あの、あんこに支配された目を見れば分かります。私なんてあんこを届ける宅配人ぐらいですよ。いや、人としてみられていないかも………、ただの製造機…」
「もうレシピを教えて差し上げればいいのでは? 」

もしかしてラウラさんにしか作れないコツでもあるのでしょうか?
と、思っていたら、鳩が豆鉄砲でも喰らったような顔でラウラさんがこちらをみています。

「もしかして……、ですが、今まで気づかなかったのですか? 」

私が訪ねますと、真顔でコクコクとラウラさんは頷き始めました。
臆病なお人好しで運が悪いだけだと思っていましたが、お間抜けさんも入っていたようです。
この方は一人にしておけないです。
つまりラウラさんはあっさりとコンスタンテ様の下僕になって逃げることが出来なくなったのですね。
『あんこ』をあげることで『好感度』も高くなって、イベントらしきものが発生してはいるようです。
とはいえ、これも友人関係以下らしいので、ラウラさんにとって最悪の事態は免れているのでしょう。
それにしてもコンスタンテ様とラウラさんがよく密会していると聞きいた事があります。
そういった事情だったのですね。

「それでディノ様とは? 」

ささっとラウラさんの状況を把握しようと私は最後に残った期待の若き天才魔導士ディノ様について訪ねました。
ディノ様の容姿はいつもフードをかぶっているのであまり存じ上げませんが、背格好は他の殿方よりも低めで、可愛らしい顔つきだったと思います。
ですが、ラウラさんはキョトンとしています。
愛らしい目をまん丸にさせて、「恋ってなーに? 」とでも聞いてきそうな純粋な瞳で私を見つめるのです。

「ディノ様の『好感度』とやらはどうやってあげたのですか? 」
「え? 」

もう一度聞き返しても、同じ反応が返ってきました。
遂におつむが行方不明になったのかと思いましたわ。

「あ…え? ディノ様…ディノ様とは特に? 」

特にということは、ある程度は関わっているはずです。

「他の攻略者の方に追いかけ回されて逃げているときに何度か匿って貰いました」

ディノ様はかなり無口で変わった方だと聞いたことがあります。
魔法のことにしか興味がないのだとか。
ですからいつも研究室にこもっていると聞きますが──

「ディノ様の研究室に、ですか? 」

私はラウラさんに確認しました。
これは重要なことなのです。
ディノ様は人との触れ合いを極端に嫌っていらっしゃいますので、人が近づくことさえも耐えられない方なのです。
1年の頃は自分に執拗に話しかけてきたという理由で、同級生を魔法で亡き者にしようとしたとか。
容姿に似合わずなかなか横暴な方という印象があります。
そんなディノ様が見ず知らずの方を匿うだなんておかしいのです。
ですが、ラウラさんはそれに気付いていないのか、キョトンとしたまま頷きました。

「はい」

さも当然かの様に言うので、私は衝撃で何と答えるべきか迷いました。
ラウラさんの言う乙女ゲームでもディノ様は謎多き少年の設定の様ですが、危険人物には認定されないのでしょうか?
それに殿下を始めとして他の攻略者の方にはあった時点で震えるほど恐がっているのに、ディノ様は平気なのも気になります。
それを尋ねると、ラウラさんはまたしても今更気付いた様です。

「え…だってディノさんって特に何かしてくるわけじゃないし…一緒の部屋にいてもずっと沈黙で…」

この方、危機意識が高いのか低いのか分かりません。
ディノ様が受け入れている時点で好感度はそれなりな気はしますが…

「あ、でも時々、長い間匿ってもらった時に寝ちゃって…」

ラウラさんは思い出した様で話を続けます、
自ら関わりに行ってますね。
関わりたくないと言ったのはどのお口ですか?

「その時…毛布をかけてくれました…」

ポッと頬を紅潮させて、とろんとした瞳でラウラさんは物語でも語っているかの様にぼんやりと語ります。
完全にオーラはピンク色をしていました。



あれ?


乙女ゲーム恐いって…


え?


私も突如の急展開にまた戸惑ってしましました。



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