悪役令嬢ですが、ヒロインに助けを求められています!

しーしび

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なんとか煩い心臓を押さえ込んだ私は話を続けます。

「ですが、バルド様は別にいいではありませんか。殿下の様に神々しすぎるわけでもありませんし、ミケール様の様に甘い言葉をいうわけでもない。婚約者もいませんし、純粋で真っ直ぐな方です」

そこまで恐れる必要はないかと思うのです。

「だからですよぉおおお! 」

ラウラさんはまた叫びました。

「全部、善意だから恐いのです! 断るだなんて申し訳なくてできないし…。でも、あの人、全部が自分基準だから…」

あ、分かりました。
バルド様はいい方なのですが、手加減というものを知りません。
先程の馬の全力疾走の件もそうですが、自分の楽しい速度でラウラさんも楽しめると思ったのでしょう。
そしてラウラさんの反応にも勘違いされているのですね。

「『お前弱そうだから体鍛えろ! 』『もっと食え! 』とか、訓練に付き合わされたり、食べ物を食べきれないくらい盛られたり…」

それをこなさないとバルド様は恋仲になれないのでしょうか?
ヒロインというものは忍耐力や体力も兼ね備えなければならない様です。
食堂で昼食の時間外になっても帰ろうとしないラウラさんを思い出します。
授業をさぼっても殿方と触れ合っていたいのかと思っていましたが、どうやら律儀に全部食べようとしていた様です。
貴方はもっと要領よくやってもいいと思います。

「『いい奴』認定された様で、めちゃくちゃ気にかけてくれるのですが……。気遣いが迷惑レベル…」

あーあ、バルド様も残念な方なのですね。
ラウラさんはバルドさんのレベルは無理な様なので、相性の良い方といつか出会う事を心よりお祈りいたします。
それにしても、ラウラさは不運ばかりですね。

「一先ず、バルドさんからは恋愛云々の匂いはしないだけましなんで、今のところ、迷惑で元気な親戚のおいちゃん枠です」

それはとても若々しいおじ様ですわね。
でも、ラウラさんの少し元気になった顔から察するに、バルド様は友達程度という事でしょうか?
これ以上何もなければ安心という事かもしれませんが、既に被害が直接的な様です。
それでも発展性を考えれば未知数の殿下や心を奪われてしまっているミケール様の方が危険なのかもしれませんね。

「殿下との具体的なお話がありませんでしたけど、他に『フラグ』とやらを立てる見込みはあったのですか? 」
「そこが分かりません…。でも、近づいて笑ってくるのです。『いい天気だね? 』とか一言話す程度です。イベントの場所は同じなのですが、イベントをクリアしてるわけじゃないので…。でも次のイベントには必ず現れて…、少し話して逃げるだけの繰り返しです…」

ラウラさんが気付かぬうちに色々とやらかしている気配はあるのですが、彼女が震えているので追求する事はできませんでした。
自然とラウラさんがご自分の股に両手を置いて握りしめています。
思い出すだけでそこまで恐怖を感じるのですね。

「でも次のイベントが行われるのは『好感度』とやらが上がっているからですよね? 」
「そのはずですが…、分からなくて…」

縮こまって震えるラウラさんを見ていると不憫に思えてきます。
彼女に抱いていた嫉妬心は過去の事の様で、ただラウラさんがもっと安心して暮らしさせてあげたい気分です。

「コンスタンテさんに至っては、甘いものへの執着心が恐ろしいです」

ラウラさんは呆然として言いました。

コンスタンテ様はこの国随一の商家のご子息で、とても真面目な方です。
頭脳は殿下に並ぶほどで、常に本を読んでいらっしゃる印象があります。
平民出身の資産家ですので、貴族に馬鹿にされない様にと思っている所があるのかもしれません。
一人でいる事も多いので、勝手に同族意識がありましたが、知的で美しい容姿は女性の視線を集めているので、私と違って人気のある方です。

そんなコンスタンテ様と今度は何があったのでしょうか?
結局気に入られるのは見えてきましたよ。

「私が図書館にいる時にミケールさんが声をかけて来て、悲鳴を上げてしまったことがあります」

ミケール様はあまりよろしくない男性になっていませんか?
よくゴシップで耳にするストーカー男とやらではないでしょうか。
ラウラさんが悲鳴を上げるのもわかる気がします。

「コンスタンテさんもそこにいた様で、偶然お会いした時にそのことを叱責されました」

あら?叱責ですか?
確かに自分に厳しい分、他人にも厳しい方ですから、それはおかしくないのですが。
そこからだと、反省してコンスタンテさんに謝っているラウラさんの姿しか想像できませんね。
『好感度』やらをあげる事に発展しますか?

「その時、たまたま前世の記憶を頼りに作った『あんこ』を持っていまして…」
「あんこ?」

また聴き慣れない言葉です。

「豆を蒸して甘くした、一種のジャムみたいなもので…」

ラウラさんは丁寧に教えて下いますが、私の乏しい想像力では見えてきません。
ですが、嬉しそうに話すラウラさんから推測するに、とても素敵な食べ物のはずです。
それにしても貴族の令嬢が料理ですが…褒められた事ではありませんが、ラウラさんが楽しそうなので、私も興味が湧いてきました。

「美味しくできたので休憩時間に食べようと思って持ってきていたのです。大声を上げたのは私ですし、マナーを守らずご迷惑をおかけしたのは確かなので…お詫びとしてそれを渡したのです」

そこまでラウラさんが引目を感じる必要はないかと思います。
事情がありますもの。
もっとラウラさんは図々しくていいのではありませんか?
そんなだと面倒事に巻き込まれますわよ?

あ、巻き込まれていましたね。

「そうしたら、匂いを嗅いだだけで、コンスタンテさんの目がカッと開き切って…まるで飢えた獣の様にあんこを挟んだパンをむさぼり始めたのです…」

悍しいものを見たかの様に、ラウラさんは顔を段々と青くさせます。

「一瞬にして私のあんこパンは彼に飲み込まれました…」

その表現だと殿下よりもコンスタンテ様の方が魔王の様です。
ラウラさんはまるで我が子でも連れ去られたかの様な顔で話を続けます。

「それに満足しないコンスタンテさんは『まだないのか…? 』と私を脅すかの様に眼鏡を光らせて言いました」

それは眼鏡が光に反射しているだけです。
彼が意図的にしているわけではありませんよ?
ラウラさんは被害者意識が強すぎになってませんか?
ですが、魔王の殿下、ストーカーのミケール様、善意のトラブルメーカーのバルド様に追われていたらそうなるのも無理はないのかもしれません。
つくづく不憫な方です。
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