悪役令嬢ですが、ヒロインに助けを求められています!

しーしび

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「やっ、やだぁ…見捨てないでぇ~…」

プリンシパさんは私の乾いた笑いに反応し、抱きついて来ました。
私よりも小柄なプリンシパさんはすっぽりと体の中に収まってしまいます。
なんでしょうか、この感情。
自分よりも弱い──というか、残念な子が無性に可愛いくて、私が守らなければとふつふつと──

いやいや、母性を持つにはまだ早すぎます。
私は16歳にも満たないのですよ。

「うぅ、お馬さんを傷つけるだなんて…そんな酷いことできない『好きです』しか言えない…」

そこが貴方の魅力なのは分かっていますよ。
でもね、自分で自分の首を絞めてるとしか見えないのです。

「そう言ったら、お馬さん嬉しそうに私に擦り寄って来て…可愛くてついなでなでしちゃいました…」

半べそをかきながら私の胸に顔を埋めるプリンシパさんは可哀想で、可愛くて──、いや、おバカさがなんとも、おもしろ…じゃなくて、興味をそそって来ます。

「バルドさんも『そいつがそれだけ懐くってお前っていい奴だな! 』とか言い始めて…最後にはお馬さんに乗せられて全力疾走…乗馬自体が初めてだったので少し…ちびりました…」

貴方は感情が膀胱にくるタイプなのですね。
爽快な笑顔で馬に乗っているバルドさんに抱かれて、プリンシパさんが泣きながら揺れている姿が目に浮かびます。

「ぶっ! 」

私は思わず吹き出してしまいました。

「ははっ」

声を上げて笑ってしまいます。
ヒロインと言うからもっと御伽噺のお姫様を思い浮かべていましたが、プリンシパさんはアワアワしながら遥か上空、いや別次元で戦っていらっしゃるので、もう面白すぎです。
そんな馬鹿なお話ありますか?
こんなにおかしくていけなかったの生まれて初めてです。
面白い話を持って来て来ださるお友達もいなかったので、もう、おかしくて笑いが止まりませんでした。

私がひとしきり笑った後、プリンシパさんはほっぺをぷっくりと膨らましてスカートを握り締めて俯いていらっしゃいました。
拗ねていらっしゃるのでしょうか?
確かに少し調子に乗って笑いすぎたかもしれません。
今でも思い出し笑いをできるぐらいですが、なんとか堪えます。

「プリンシパさん、ごめんなさい。馬鹿にしているわけでは…」

言いかけて、馬鹿にしたなと思い出して言葉を詰まらせてしまいました。
私の表情からそれを察したのか、プリンシパさんは余計に頬を膨らませ、プルプルと震え始めます。
違うのですよ?
ただ馬鹿にしたのではなく、そのお馬鹿さが可愛くて──

あっ、遂にそっぽを向かれてしまいました。
いつもは余計な事は言わないのに今日はどうしたのでしょうか?
ついつい言ってしまいます。
プリンシパさんが余計に拗ねるのも想像できているのに、なぜか言いたくなって──

「ラウラと呼んでください…」

頬を膨らましたプリンシパさんは呟きました。
完全に小動物にしか見えません。
と言うか、今なんて言いました?

「みんなプリンシパ、プリンシパって…いきなりできた名前ばっか呼んで…私はラウラです」

拗ねたままプリンシパさんは呟き続けます。

ラウラさんのお母様はプリンシパ伯爵家でメイドをしていた様ですが、伯爵と恋仲になったことがバレてご両親の反対で追い出されたとか。
その時には既にプリンシパさんを身籠っていた様で、そのまま庶民として生きてきたそうです。
それからお母様を亡くされてから周りの方に支えられて生活していたそうなのですが、やっと爵位を継いだ伯爵がプリンシパさんのお母様を探し始めた様で、お父様とも再会を果たしたとか…

皆様の噂をつなぎ合わせるとこんなお話でした。
つまり、プリンシパさんはついこの前まで庶民の普通の少女だったのです。
本当のお父様と再会したものの、知らない環境に放り出されて心細いのは仕方ないのかもしれません。
プリンシパという名前も彼女にまだ馴染んでいない様です。

「私はもうヴェロニカ様しか頼れないから…だからこうやって話してるのです…だから…プリンシパじゃなくて、ラウラって呼んでください…」

むくれながら言うプリンシパさん──、いえ、ラウラさんに胸が高鳴りました。
ラウラさんを抱きしめたくなります。
何故頼られているかは謎のままですが、このお馬鹿で残念な生き物が愛おしくなってきました。
私は愛でたい気持ちをグッと抑え込んで、ひとまず冷静になります。

「分かりました。ラウラさん」

意外とラウラという名前が口に馴染んでいて、胸の奥が暖かかくなります。
ラウラさんもパッと顔を上げ、頬を赤く染めて嬉しそうにはにかみました。
本当にコロコロと表情の変わる方です。
私と正反対の方ですが、不思議と不快ではありません。

「この学園で初めてお友達ができました…」

水色の目を綻ばせながら、ぷっくりと愛らしい唇の間からラウラさんは白い歯を見せます。
私も『お友達』という言葉に、気恥ずかしさを感じ、耳に熱が溜まるのを感じました。

「ラ…ラウラさんはお友達は多いでしょうに…」

ドギマギしながら、私は投げやりに言葉を投げかけました。
ですが、あの純粋な水色の目は一瞬キョトンとした後、嬉しそうに煌くのです。

「こんなに本気でお話したのはヴェロニカ様だけです」
「!! 」

どうしましょう…胸の高鳴りが止まりません。
緊張でもなく、恐怖でもなく、ただ熱い様であったかくて──、嬉しいのに震えます。
私はこの感情を見せるのはあまりにも恥ずかしくて、相変わらず微笑んでくるラウラさんから目を逸らしました。
それでも、まだ心臓は激しく鼓動し、心地よい熱が体内に広がります。


どうしましょう。


私、この方、嫌いではありません。



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